国内のMTB乗りは少数派です。ロードバイクやクロスバイクのようにはもてはやされません。1990年前後のブームの再燃は見えない。
でも、本来のスポーツバイクの実態はこんなものでしょう。自転車は圧倒的にマイナーなあそびです。機材スポーツはおさいふにやさしくない。
そんなマイノリティな全国のMTBerにオフロードあるあるを特集します。
自転車屋がオープン→MTBがない!
かつてMTBがとぶように売れた時代がありました。199X年のことです。ねこもしゃくしもMTBでした。ドロハンバイクなどはかげもかたちも見えません。
ジョジョの奇妙な冒険第4部『ダイヤモンドは砕けない』で主人公の友人の広瀬康一が通学用の新しい自転車でウキウキに登校する場面があります。
で、この康一くんが乗るチャリはフラットバーのマウンテンバイクです。端的に当時の劇中の1999年の杜王町の自転車のトレンドが現れます。
直後、このMTBが小林玉美のおもちゃの猫を「ボムギ!」してしまい、4部らしい日常の中のふしぎなスタンドバトルの火ぶたが開きます。
「『ボムギ!』て、なんやねん!?」
連載当時にはそう思いましたが、これ以来わが国では猫を踏んだときの擬音として「ボムギ!」は定着しました。
ジョジョの人気はおとろえず雑誌連載から20年後にアニメ化されるてゆう特異な状況になりますが、MTBの人気はすっかりしもびになりました。
おそらく現代コミックスではロードバイク、クロスバイク、電動アシストが劇中の小物になりましょう。オフロードは国内の自転車ブームのけん引役ではありません。
自転車店は客商売です。客商売にはトレンドがかんじんです。で、国内のスポーツバイクのトレンドはロードバイク、ドロハンバイクです。
そんなわけでおしゃれな自転車店が近所にオープンしても、店頭のメイン商材はまちがいなくロードバイクやクロスバイクです。MTBがない!
試乗会だ→MTBがない!
スポーツバイクは基本的には競技用機材です。ママチャリやシティチャリのようにざっくばらんではない。サイズ、フィット感、微調整はパフォーマンス向上には不可欠です。
ために試乗、テストライド、試しのりが購入の前提となります。いじれない人、いじらない人はお買い上げに時にサイズをまちがうと、のちのちに苦労します。
で、サイクルモードやスポーツバイクデモみたいな試乗会が初心者にはありがたいものです。店舗の小規模試乗会は完全な門外漢にはちょっと不安ですし。
が、国内ブームはロードですから、試乗会のMTBは希少種です。国内最大の自転車試乗会のサイクルモードにさえオフロード機はほとんど出ません。
総合店の試乗会もそうです。リンゴロードみたいなMTB専門店、TREKストアみたいなコンセプトストア、地元の個人のショップが心の支えです。でも、そんな店がそもそもレアです。
機材トレンドと進化がはやすぎる
ロードバイクのトレンドは微温的です。コンポーネントはシマノのイニシアチブでゆったりと変化します。統括団体のUCIは保守的です。
オンロードのディスクブレーキ、スルーアクスル、チューブレスがぼちぼち普及し始めますけど、旧来のリムブレーキ、クイックリリース、クリンチャーは根強い支持をもちます。
2010年ごろまでオフロードのトレンドはおとなしいものでした。26インチの時代です。しかし、29erが登場して、ホイールとタイヤがめまぐるしく変わります。
ざっくりと最近のトレンドは26、29、27.5、27.5+、29+です。エンド幅は135、142、148です。そして、Super Boost 157のきざしが未来にかいまみえます。
さらにオフロードの本場の欧米と日本では商品展開にギャップが出ます。「取り寄せ在庫待ちにあいだにトレンドが変わってしまった!」みたいなはなしはありえます。
低圧最強説
ロードバイクのあるあるの定番は「タイヤをより高圧に、よりかちかちに、よりぱんぱんに」です。硬い高圧タイヤ=速いタイヤ、て意味不明な方程式が盲目的に成立します。
でも、タイヤには適正の空気圧があります。すぎたるはなおおよばざるがごとしで推奨外の高圧はパフォーマンスをそこねます。
チューブラーの空気圧は高めになります。でも、上限の12barにする人はいません。逆効果です。
結局、7-8bar前後が高パフォーマンスです。10bar以上ではグリップがめっきりぽんこつになります。
これとおなじ発想でMTBerはやたらと低圧にしたがります。1bar以下はあたりまえです。0.3とか0.5とかです。
一部のチューブレスタイヤには下限の指定がありません。そして、チューブレスタイヤは極端な低圧でふつうに走れてしまいます。
しかし、0.1barみたいな超低圧ではタイヤがブロックのパターンのながれに負けて、ハンドルがとられます。直進安定性がない。
そして、岩の角や階段の段差でリムが底打ちします。スネークバイトの可能性はゼロではありません。
それでも、シーラントでたいていのキズはふさがりますけど。
ぎゃくに推奨以上の高圧はつるぺたのフックレスリムにはNGです。タイヤのビードがぱっかーんします。
3barが上限です。推奨空気圧の記載はだてやすいきょうではありません。Keep bar!
駐輪難民
スポーツバイクのタイヤ幅はワイド化の一途をたどります。保守的なロードレーサーさえが23cから25cへ、25cから28cへにわかに変転します。
オフロードではプラス系タイヤが隆盛です。2.0-2.5インチだったタイヤ幅が2.8-3.2インチくらいまでボリュームアップします。
結果、世間一般の駐輪場の車止めのクリアランスがトレンドに追いつきません。
プラス系への対応がまちどおしいものです。
ビードが上がった! 今日はまつりだ!
オフロードバイクのタイヤはチューブレスです。この取り付け作業の山場がビード上げです。
これが「パンパン!」ゆわないと、チューブレス化がとんざします。一昔前のチューブレスシステムはおおらかでして、多大なる根気と上腕二頭筋のパワーが求められました。
このことからチューブレスのビード上げにはさまざまな小ネタがつきまといます。
「ビードが上がった! 今日はまつりだ!」
「ビードが上がった! 明日はあらしだ!」
「ビードが上がった! 夜が明けた!」
「ビードが上がった! わが人生にいっぺんのくいなし!」
「ビードが上がった! シーラント入れ忘れた!」
「ビードが上がった! タイヤの回転方向指定まちがえた!」
「ビードが上がった! もう一本あった!」
そんなところです。しかし、最近のチューブレスレディ、ピュアチューブレスのタイヤとホイールの整備性は劇的に向上しました。
ちっこいミニポンプで野外でらくらくビード上げできちゃいます。
しつこいやつには圧縮タンク付きフロアポンプをおみまいします。
非チューブレスのピュアクリンチャーの太いタイヤさえがかんたんに「パンパン!」ゆっちゃいます。
「ビードが上がった・・・それだけで喜べた日は過去のものになった」
自転車のログより登山のログ
日本の都市の近郊のオフロードはもれなく山か川です。平地の路面はことごとくアスファルトコーティングです。
外国みたいな平地の未舗装路がありません。グラベル、トレイル、ダート、この手のマイルドなオフロードがレアです。
で、オフロードを走ろうと思えば、おのずと山へ行くことになります。王道は登山コースやハイキングコースです。
で、山間部ではサイクリストの強い味方であるGoogleマップがやくにたちません。Googleの撮影カーが入れないので。Google Earthの方がやくだちます。
ほんの部分的にスポットスポットの写真はありますが、道のりの詳細はわかりませんし、ナビは出ません。
同様によそさまのサイクリングのログもそんなにあてになりません。出てくるのはロードのヒルクライムのレポートばっかりです。
それから、MTBerは人目をしのびます。ハイカーやトレイルランナーとの山摩擦をさけるためにこそこそって活動します。
ロードバイクみたいに爆発的に新規参入者がふえれば、現場の事故、トラブル、モラル低下は火を見るよりあきらかです。場があれる。
ためにMTB乗りは具体的なコースをぼやかします。自分で探せよ、て愛の鞭です。
で、サイクリストのレポートは参考になりません。たよりは場を同じくするハイカーや登山家、トレイルランナーです。
ヤマレコみたいなオンラインサービスやアウトドアブログがルート探しの強い味方になります。そして、紙の地図です。
こんな登山口はよそものには分かりませんわ。
登山能力がめっきり向上
うちの近郊の北摂の山々、阪神間の六甲山系は高い山ではありません。300-900mの初歩的なマウンテンです。
しかし、山中のコースはわりにタフネスです。ふもとから15分、入り口から5分でおうおうにこうなります。
街から崖までの距離が身近です。変化の度合いが急変です。六甲山系はとくにそうです。駅前~、コンビニ~、自販機~、山道~、あら、もう断崖だわ。
中間にマイルドな悪路がありません。日本の都市の近郊の山道の特徴です。駅前から徒歩5分の崖が現実味をおびます。
ある程度の登山能力なしではかんたんなハイキングコースを走破できません。初歩のMTB遊びにさえ徒歩で行ける能力、チャリで走れる能力、自転車を押して担いで動ける能力が必要です。
オンロードでは超安全運転
MTBにはヒャッハーなイメージがつきまといます。「エクストリームな危険走行をたのしむクレイジーなやつらだ!」てなものです。
が、ちまたのMTB乗りは人前、街中、舗装路では超絶安全運転です。本番はオフロードです。オンロードは本番じゃありません。事前と事後です。スイッチがOFFだ。
行きには体力温存でのろのろしか行きません。帰りにはへとへとでのろのろしか走れません。ママチャリによゆうで負けます。
結果、MTBのりは必然的に超安全運転になります。かりにきれいなアスファルト上でざつな運転でしょうもない事故をするようなら、でこぼこの山道ではふつうに大怪我します。
階段は坂のうち
MTBには階段は身近なセクションです。こんなゆるいスロープ付きの階段はかたならしにもってこいだ。下のような場面では高確率で右にすいこまれます。
この延長で舗装路のくだりは苦手です。ブレーキパッドがむだに減る。
MTBはサイコー!
国内のブームから日本のシーンからCONSなネタがおおくなります。それでも、MTBはサイコーです。
フラットバーのハードテイルの1xバイクはタフで実用的でオールラウンドですし、本格の競技用フルサスはスポーツバイクの最先端です。
ふだんの山装備にアウトドアグッズを足せばバイクパッキングに出られます。キャンプ場の周辺の散策もおもしろいものです。
VIVA MTB!