「雨が降ると、チャリダーが詰む」
この諺は長雨の英国や梅雨のジャパーンの自転車乗りにはひとしおです。最悪、数週間の予定が潰れてします。そして、梅雨明け=30度の猛暑の追撃です。いやだー!
で、2023年6月初旬の晴れマークの少なさに屋外ネタが早々に放棄され、大急ぎで室内ネタが仕込まれました。
訳あり、ジャンク、返品不可、現状渡し、3Nの素敵なロードバイクのカーボンフレームです。例のごとく送料を浮かすためにぼくがチャリ自走で宝塚の山奥の集落まで引き取りに行きました。
お値段はヤフオクで4200円です。梅雨の暇潰しのおもしろアイテムには適当な値段でしょう。ちなみに現行の街乗り鉄ロードのフレームは3000円ぽっきりでした。
個人的に仕入れ値の安さと状態の悪さはメリットです。気兼ねが絶無だ。そして、YouTubeの動画とブログの記事で原価はいともたやすく償却されます。
カーボンフレームの再塗装
自転車フレームの塗装の感想を先に申しましょう
- 大変さ:予想の2倍
- 出来栄え:予想の1/2
- アドバイス:作業場所の確保と下準備が命
楽しさより苦しさ、感動より失望が勝ちます。まー、しろうとのDIYで及第点のものは一発で出来ませんわー。色塗りとかペイントは昔から苦手だしー。
剥離と研磨は修羅道
行程の最難関は古い塗装の剥離と研磨です。ザ・粉塵地獄。セルフ大気汚染。ここはニューデリー? いや、北京ですか?
カーボン製品の塗装の剥離はアルミやスチール等の金属製品より大変です。なぜなら剥離液や剥離剤がカーボンファイバーにはNGだから。
- 作業スペース
- 工具
- 時間
- 体力
この4つが揃わないと、満足な再塗装は不可能です。ぼくは2の工具以外の条件を整えましたが、それを踏まえても、非常な苦難を味わいました。
くれぐれ剥離と研磨を舐めない。逆に塗装のみに専念するなら、そこまでくたくたになりません。再塗装=剥離+研磨+塗装です。
塗装用のカーボンフレーム
改めて今回の主役の4200円の超激安廃棄寸前カーボンフレームを紹介しましょう。
VERITEのTEAM-S、2013年頃のモデルのようです。今やレトロなキャリパーブレーキ用のロードバイクフレームです。
国内の一般的な小売店ではこのフレームは出回りません。これはチェーンステーのロゴの通りに”CYCLINGEXPRESS.COM”のオリジナル企画商品です。
サイエクと再会
CYCLINGEXPRESS、通称「サイエク」は数年前に流行した台湾の自転車専門の通販サイトです。
デローザ、コルナゴ、ピナレロ、ビアンキ、キャノンデール等の人気自転車ブランドフレームや完成車、シマノコンポやカンパホイールがものすごくお買い得でした。
あと、海外モデルの珍しい車種がときどき出ました。無限変速ハブ付きのダホンとかWillierのMTBがあったなあ・・・
実際、うちの紹介リンクから高額商品がぽんぽん売れて、けっこうキャッシュバックが捗りました。そのせいかサイクルモードでサイエクの中の人から名刺を貰いましたし。
ぼくの記憶から2016-2018年頃のセール商品の価格です。
- シマノ105コンポセット:4万くらい
- カンパゾンダ:4万くらい
- フルクラムレーシングゼロ:7万円くらい
- デローザ完成車:国内正規品のフレームセットの半額くらい
この頃が自転車海外通販の直近の全盛期でしょう。今や円安・インフレ・資源高で完成車、パーツ、ウェアは貴族価格です。
2023年6月現在の英国ストアWiggleのカンパニョーロゾンダキャリパーブレーキ用ホイールの価格は55400円です。自転車関連はここ数年で軒並み30~40%アップですねえ。
で、このサイクリングエクスプレスをひさびさに覗いてみると・・・ページを開けません。Twitterの告知の日付から2022年内で通販ストアは閉鎖したようです、ちーん。
そこのフレームが何かの縁でうちに来ました。
フレーム塗装の剥離と研磨
極論、塗装はぬるゲーです。スプレーの匂いにげほげほしても、筋肉痛や腱鞘炎にはなりません。
一方、塗装の剥離や素材の研磨はむりゲーです。とくに電動工具なし、人力、手近な道具でやろうとすると、100kmライドや1000mクライム並みに体力を削られます。
カーボンパーツの塗装剥離
先述のようにカーボン製品には剥離剤がNGです。剥離剤の溶液は表層のクリアコートや塗料を化学的に分解し、さらに素材のカーボンシートまで侵食します。
市販や通販の剥離剤や剥がし液はほぼ100%で金属用です。カーボン用の塗装剥離剤というのは見当たりません。すなわち化学的処理がカーボンパーツには不可です。
結果、カーボン製品の塗装の剥離は物理処理です。がりがり削る、かりかり剥がす。
上記のつるっとしたところが塗料、曇ったところがクリアです。クリア=塗料の保護剤=バリアです。手応えは木と変わりません。
しかも、おそらくメーカーものの製品のクリアは個人向けの補修用のアクリルタイプでなく、業務用の丈夫なウレタンタイプです。かっちかち!
もっとも、このクリアがぼろぼろになるくらいの保管状況ですが。
おまけにフォークのコラムやBBカップの隙間から砂埃や土埃がぼろぼろ出ます。廃屋の解体作業から出土したんかいな?! まあ、出品者さんは解体業者風でしたが。
さすがにこのボッコボコのコートの上からざっくり上塗りはよろしくありません。下のクリアが割れると、上がごっそり持っていかれます。
また、カーボンの下地のコンディションが不安です。ということで、クリア全剥離+塗料研磨+表面慣らしが確定です。
包丁と紙やすりで10時間
ぼくは梅雨の長雨を見越して、これを入手しました。多少の長時間作業は想定内です。電動工具代が無駄ですし。
しかし、クリア剥がしが想像以上にハードです。劣化の状況がまちまちでして、健在な個所はやたら頑丈です。
で、これを紙やすりでがりがり削ると、部屋中を粉まみれにできます。ぼくは鼻水の黒さに戦慄して、包丁研ぎに変更しました。
粉末がそこまで細かくなりません。おかげでマスクが不要ですし、部屋が粉まみれになりません。ただし、表面はざらつきますし、手が異常に疲れます。
手応えはまんま硬い木です。当社比でごぼうの皮むきの二倍の労力です。これが5時間です。
残りの5時間は風呂場でパンイチで紙やすりです。とにかく細かい粉が出て、服も髪もどろどろになります。
慣らしには主に80番の番手の紙やすりを10枚ほど使いました。サンダーやポリッシャーなどの電動工具を使うなら、削りすぎないように200番前後をおすすめします。
ぼくが手動と人力にこだわるのはネタの要素が多分にあります。暗黒の修羅道に踏み入ることを望まぬならば、一般の方は電動サンダーや電動リューターを用意してください。
はたまた、未塗装の中華カーボンフレームをAliExxpressとかで入手して、塗装だけを試すか。
これはクリアは塗装済みだったかな? まあ、オーダーの時に「未塗装のやつを下さいプリーズ」と頼めば行けます、たぶん。
このようにカーボンフレームの塗装剥離と下地研磨は大変な作業です。手動の人力では満足な仕上がりは至難です。及第点にはこの倍、20時間は掛かります。
このフレームの微妙なくぼみのクリアがマジで取れん・・・
自己採点で剥離と研磨は60点です。気力と体力と紙やすりが先に尽きました。
下処理と脱脂
塗装前の下準備の肝は掃除と脱脂です。機械オイル、洗剤の残り、水分、手の脂は塗料の乗りを悪くします。
理想は中性洗剤丸洗い→パーツクリーナーで乾拭きです。
直前にフォークの塗装を室内でやって大後悔しました。どっかのロボットアニメの主題歌並みに咽る。フレームの塗装にはおとなりの謎の空き地を拝借します。
あと、塗装に最適なコンディションは30度前後の晴れの日です。真夏は湿度高すぎ、冬場は温度低すぎで向きません。梅雨前の初夏のシーズンや秋口が最高です。
フレームの塗装
ここまでの作業はスタート前のウォームアップのようなものです。しかし、ぼくの心身はすでに限界を迎えました。
「一気に仕上げまでやるぞー」
これがよろしくなかった。カーボンのところはカスカスですが、ディレイラーハンガーの金属部分がうるうるでした。水気がスプレーを弾きます。
プレサフが垂れたわ。
塗装に焦りは禁物です。正味、せっかちな人はペイントには向きません。塗料の乾燥を待てずに指でぺたぺた触っちゃうずぼらなO型さんなどは典型です。わしやないか!
プラサフ、塗料、クリアはホルツ
塗装の基本は3段階です。
- 下地=プライマー、サーフェイサー
- 塗料=カラー、ラメ、ステッカー(クリア下に入れるならここ)
- 保護=クリア
自動車やオートバイ、メーカー物の自転車フレームなどはこの順序で塗装されます。
シンプルなスプレー上塗りでは屋外常時使用の乗り物やガジェットの塗装にはやや貧弱です。最悪、ワンコンタクトで削れる剥がれる。
アクリル塗料の上塗りペイントは手軽ですけどね。これはアメリカーナという手芸用のアクリル塗料の定番です。
ほぼ塗り絵感覚でかんたんです。スプレー臭くないのもグッド。しかし、これは二番煎じです。よりフォーマルな塗装が今回のテーマだ。
ということで、自動車やオートバイ、自転車の自家塗装に定番のペイントセットがアマゾンでぽちぽちされました。
はい、Holtsのスプレー缶です。300mlサイズのプラサフ、カラー、クリアの三本セットです。それぞれ800~1000円です。
ちまたの評判、使用者の多さ、カラバリ、入手のしやすさからこのホルツとイザムが自家塗装の2トップです。
本来の用途は自動車やオートバイの補修用です。ホームセンターでは見かけませんが、オートバックスとかにはたまにあります。でも、結局、最安はアマゾンかモノタロウです。
スプレー缶のユニオンジャックが目立ちますが、販売元は武蔵ホルトという東京都千代田区の塗料屋さんです。ここのアイテムはDIYペインターの一番人気です。
これはフレームより少しましなフォークの塗装です。
プラサフ等の下地は素材と塗料の密着を助けます。プラサフ=プライマーとサーフェイサーの混合剤です。つまり、『ちゃん、リン、シャン』です、薬師丸ひろ子です。
ホルツのプラサフと肩を並べるのが染めQのミッチャクロンで、こちらは単体のプライマーです。染めQはより家庭用の塗料メーカーのイメージです。ホムセンにあります。
メーカーのお達しでは下地、塗料、保護のブランドを統一するのが推奨です。とくに発色にかかわるクリアとペイントを揃えるのは大事です。
補修塗装の場合にはこれは必須です。古い塗装の色と新しい塗装が部分的に微妙に違うのはダメでしょう。
上記の3点セットです。
- Holtsアクリルクリア300ml
- Holtsプラサフグレー300ml
- Holtsカーペイント300ml
カーペイントのカラーは『トヨタ車用ボルドーマイカM MH12130』です。濃い目の紫、えんじ色系のカラーです。
赤、青、緑、白、黒とかの定番はリーズナブルですが、特殊なカラーはカスタム版のMINMIXシリーズになって、3000円弱とスタンダード色よりかなり高くなります。
プラサフを水研ぎした方がきれいにつやつやになりますが、あいにく水研ぎ用の細かい紙やすりがありません(サボりの口実)。これはプラサフ直スプレーです。ややマット。
塗りのきれいさ=慣らしの完成度
このDIYではスプレーの容量の関係で重ね塗り、厚塗りは省略されました。300mlではフォークとフレームの全体1~2回塗りが限界です。
そして、プラサフや塗料のスプレーでは段差や傷は埋まりません。実物です。
目で見える段差、手で分かる傷は少々の厚塗りでは埋まりません。クリアの取り残しはこんなふうにバレます。
結果的に研磨の慣らしの丁寧さで塗りの仕上がりは決まります。で、及第点の削りには人力で20時間は掛かります。はい、むりゲーです。
フォークの肩の部分です。多少のぷつぷつが見えます。これは塗装前に分かりました。
カーボンはしっかりした磨きでつやつやになります。下地がここまで光れば、塗りもきれいに仕上がります。
エンドのテープはマスキングです。このときにはこんな小細工の余裕がありました。
しかし、まあ、スプレー塗り塗りはおもろい作業です。剥離と研磨が地獄すぎた・・・
フレームの塗装ではあまりに疲れて、ペイントで満足して、クリアをサボりました。てか、ステーの塗り忘れでショックを受けて、完全に力尽きました。
ちなみにこのホルツのプラサフや塗料の乾燥時間は初夏の25度の晴れの日で30分前後です。フォークのクリアだけ一晩置きました。
より本格的なウレタンクリアの乾燥は最低一日、推奨一週間です。せっかちな関西人にはムリな話です。そもそも安全に乾かす場所がありません。
完成です。
クロモリロードの全パーツを剥ぎとって、まるまる乗せ換えました。とくに支障なく走れます。そして、上記の状態で重さが7.2kgです。アメイジング!
カーボンフレームの再塗装のまとめ
- クリアの剥離と下地の研磨が地獄
- 人力研磨は地獄、電動工具使おう
- 作業10時間越え余裕
- 塗りは慣らしでほぼ決まる
- 塗料はホルツ
- 塗りはおもろい