脱実用車、卒ママチャリ、スポーツバイク入門編、チャリダーへの登竜門、実用的かつスポーティな自転車、それがクロスバイクです。
10万以上のホンカクチャリンコはスポーツ用機材になりまして、おのずと先鋭化しまして、汎用性とコストパフォーマンスを失います。
5万、10kg、フルアルミ、一般人の用途には十二分な性能です。価格と性能のバランスが高得点です。じつにおいしいバイクだ。
しかしながら、人の底なし沼のような無限の欲望と自尊心はネットの海の情報をスポンジのように吸収して、ぶくぶくのじゅぶじゅぶに膨れ上がります。
で、車体の本来の用途や利点や持ち味を度外視して、有象無象のカスタマイズ、装備のむやみな増強、過剰な整備に手を染めてしまいます。
結果、高確率でイタいものが出来上がります。
チャリダー初心者、DIY覚醒者が無邪気に全力で良かれと思ってやってしまう五大あるあるを紹介しましょう、自戒の意味を込めて。
クロスバイクのイタいカスタム大特集
クロスバイクはオンロード系自転車とオフロード系自転車の折衷的なおいしい自転車です。反面、機能や性能は本格的なロードやMTBにおとります。
さらにニュージャンルのオールロード系の自転車が猛威をふるいます。こちらは一概にホビー用途ではありません。
そして、この5年でスポーツバイクの入門機~ミドルグレード、ホビー用途のバイクが全体的に底上げされました。カーボンがめっきり安くなって、陳腐化した。
一方の乗り手はそんなに一気に進化しません。ライトユーザーや初心者の体力や技量は機材に追いつかない。そもそもギスギスの競技志向はこのご時世には敬遠されます。
そんなあわただしいチャリ事情のなかでクロスバイクの変化のなさは一服の清涼剤です。毎年毎年、カラーと価格以外はほぼ同じです。
直近の自転車ブームがロードバイクでしたから、ネット上の日本語のスポーツバイクの情報や志向はそちらに偏ります。
必然的にクロスバイクの仕様やカスタムの傾向、乗り手の意識と知識はオンロード系へ引きずられます。つまり、軽量化、高速化、レーサー化へ。
「オフロード系に寄せた」
こういうレポートはレアです。たしかに小手先の改造で未舗装路に突撃するのはちと不安ですし。
ハンドルを切りすぎる
クロスバイクのハンドルはフラットバーやライザーバーです。70-80cmのMTBのものよりマイルドな50-60cmの長さがよく使われます。
得意分野は街乗り、ちょい乗りです。市中の走行は低速-中速域になります。直進安定性や空力よりハンドリング、コントロールが重要です。雑多な駅前や通りの走りはわりにテクニカルだ。
しかし、ネットでしこたまに情報を仕入れたクロスバイク乗りにはデフォルトのハンドルは長すぎ、重すぎ、ふつうすぎになります。
で、なにかに駆り立てられるようにバーエンドをばっつんばっつんて切り刻みます。
これはほんとに通過儀礼のようなものです。げんにうちのブログのダイソーパイプカッターの記事は開設当初からベストヒットのロングセラーネタです。
適度な長さにカットするのはけっこうです。しかし、そこは手のひら返しを常とする世間一般ミーハーピーポーの性です。ドロハン並みの40-50cm台までカツカツに切り詰めちゃいます。
「おれのハンドルがロードなみの軽さと空力を手に入れたぜ! ヒャッハー!」
て、無邪気にはしゃぎます。しかし、その実態はコントールしにくくなった使い勝手の悪いフラットバーハンドルが出来上がったにすぎません。
ケーブル類を詰めすぎる
ブレーキのケーブル、シフターのワイヤー、もろもろの線や筋は自転車の印象を大きく左右します。だるだるルーティングのチャリはぴしってしません。
そして、アウターケーブルの外殻の下地は鉄線です。これがじみに重量を稼ぎます。シフトアウター5g/10cm、ブレーキアウター10g/10cmてところです。
襟を正す、スマートにするて意味でケーブルをカットし、整頓するのはけっこうなものです。が、しかし、またしても、軽量化熱に浮かされたチャリダーは一線を軽く跳び越えます。
「ギリギリまで切り詰めて、おれのクロスをロードへ近づけるぜ! ストイックイズジャスティス!!」
て、バツバツやっちゃいます。重症者はケーブルの切り口のきれいさにこだわって、追加でパツパツパツとやっちゃいます。
で、インドアで完璧な理想のすっきりケーブルルーティングを成し遂げて、さっそうと走り出して、ひとつめのカーブでがくぜんとします。
「ハンドル曲がらん! ケーブル足りん!」
ケーブル類には多少のアソビが不可欠です。過度のスマートさ、過剰な痩身への盲信から生まれる悲劇的な結末です。
空気を入れすぎる
オンロードバイクの足元は20-30mmのほそい軽量タイヤです。チューブラーの28x19mmなどは親指一本分の横幅しか持ちません。
このほそいタイヤを高い空気圧でパンパンのカチカチにして、路面を滑るように転がすと、レーサーらしい走りをたのしめます。まさに滑走です。
ママチャリやシティサイクルのタイヤがだいたい3-4気圧です。ロードバイクのタイヤは倍の6-8気圧です。
クロスバイクのタイヤはこの中間の5-6気圧あたりです。実用系と競技系のいいとこどりです。クロスバイクの本来の持ち味はここにあります。
ところがどっこい、そんなことは町内最強のクロスバイク乗りには馬の耳に念仏です。
- ほそいタイヤ=速い
- かたいタイヤ=速い
- 超ほそいタイヤx超かたいタイヤ=鬼超速い!!
このなぞの三段論法が一瞬で成立し、脳内科学で即座に証明されます。で、クリンチャーの23cタイヤをゲットして、空気をパツパツのパンパンに入れて、カッチカチにします。
推奨空気圧の下限は下限ではありません。上限が下限です。オーバー空気圧こそがジャスティスです。8bar、9bar、10barまで入れたれ! 入れたれ! もってけ、ドロボー!
結果、ぜんぜんグリップしない&ノイズを拾いまくる&小段差で跳ね散らかすクロスバイクが野に放たれます。
広いきれいな直線の舗装路ではこのほそほそカチカチタイヤは走行性能をぞんぶんに発揮しましょう。ふつうの一般道路、街中、カーブ、雨天、下りではぽんこつです。
実用グッズを外しすぎる
クロスバイクは実用性と走行性をかねそなえます。使えて走れるチャリンコ、それがクロスバイクです。
そもそも自転車は徒歩やそのほかの乗り物より圧倒的に効率的な移動手段です。ママチャリやシティサイクルで100kmサイクリングはよゆうです。
で、クロスバイクは常人には必要十分な高性能機器ですが、期待の大型新人サイクリストには走行性能以外の部分は蛇足でしかありません。
カゴ、泥除け、スタンドの実用3点セットが軽さと見た目のために問答無用で取っ払われます。
実際、この三つの実用系グッズの総重量は1-2kgになります。カゴないしキャリアはことさらにヘビー級です。バッグやリュックが代用になる。このオフはイーブンパーです。
でも、泥除けとスタンドの撤廃はハイリスク・ローリターンです。得意なエリアと天候での使い勝手はかくじつに落ちます。
クロスバイクは75点の自転車です。スタンド・泥除け外しはスポーツ性+5点、実用性-20点です。で、チャリの総合ポイントは60点までダウンします。
実用グッズ3点セットオフで誕生するのは非実用的なちょっと軽いクロスバイクです。ロードバイクのコスプレですらない。家の前や駐輪場にさっと止められない5万の本末転倒なチャリです。
ルック車をあなどりすぎる
世間一般ミーハーピーポーの思慮は深くありません。形から入って、前のめりになって、頭でっかちになります。それが大衆です。
前述の60点のクロスバイクを駆るライダーの意識はすでにいっぱしのローディ、本格自転車乗りです。通りすがりのチャリにいちいち反応し、本屋でサイスポを立ち読みします。
で、非本格のチャリンコ、多ジャンルのスポーツバイクへの目線がやたらめったらビターになります。つぎのような自転車がやり玉にあがります。
- 1万のママチャリ
- 電動アシスト自転車
- ぼろぼろの機体
- MTB
- ルック車
急進派は『ドロハン以外は全部ゴミ』て極論を唱えます。でも、ミニベロや折り畳み自転車に趣味性の高さから多少の庇護を与えます。
うらはらにまったくボロクソに叩かれるのがルック車の一群です。典型がハマーやHUMMERやドンキの自転車コーナーの売れ筋の黄色いやつです。
ほかに海外自動車ブランドの自転車全般、小売店のPB自転車、ドッペルギャンガー、ルイガノなどなどが安定的にヘイトを稼ぎます。
チャリ界の期待を一身に担う超新星チャリダーはこれらをあざけりながら、狭すぎハンドル、硬すぎタイヤ、短すぎケーブル、ノースタンドのクロスバイクでチャリ通やポタリングにいそしみます。
「いや、その60点の不便なクロスバイクは65点のふつうのルック車よりぽんこつでっせ?」
そんなことを率直に告げようなら、かくじつに友人の縁を絶たれます。彼はほんとに真剣ですから!
かように無邪気さは罪です。人間はおのれの思想や主観や独善に呑まれると、しばしばそうゆうみじめな存在に堕します。
すぎたるはなおおよばざるがごとし。これらのビョーキをひとしきりに発症したぼくが後世のクロスバイクマイスターに一言だけ忠告しましょう。
KEEP STAND!
おすすめ自転車工具二つ
しかしながら、軽量化熱やカスタマイズ熱は一種の発作です。最大の特効薬は実際にパーツを弄ることです。理屈ではこれは治らん!
処方箋はこの二つです、コッタレス工具とパイプカッター。容量、用法を守って、正しくお使い下さい。