自転車にはさまざまな楽しみ方があります。また、近年の機材の細分化、トレンドの多様化でシーンやジャンルごとに専用バイク、特化型バイクがぞくぞく生まれます。
そんな数多の自転車ジャンルのなかでもっともポピュラーなものがサイクリングです。チャリでぷらっとどこかへ行く、じつにシンプルです。
マイペースのロングライドが人気
サイクリングの傾向はおおむね二つに分かれます。速く走るか、長く走るか。多数派は後者です。
マイペースでうまいものを食べに行く、絶景を見に行く、聖地を巡礼する、チャリ友とたわむれるetcetc…こういうのが人気です。
このご時世にガツガツの競技はついぞはやりません。争いごとはノーセンキューです。ノーモアスポーツ! みんなが一等賞だ!
このコロナ時代ではレースやイベントが下火です。
そんなわけでマイペースで長く走る、長チャリ、遠チャリ、ロングライドがスポーツバイクの入門的な楽しみ方となります。
峠に登らずとも、時速30kmで走らずとも、崖からジャンプせずとも、技を磨かずとも、自転車で長く走ること、遠くへ行くこと自体が非日常的な体験になります。
このロングライドの目安が100kmです。チャリ経験者には朝飯前ですが、ライトユーザーや一見さんには未知のアドベンチャーです。
いまや毎週のようにMTBで山に入ってしまうこのぼくが初心に帰って、100kmサイクリングのコツを特集しましょう。
目指せ、100kmサイクリング!
「この前、自転車で100kmを走った」
この不用意な一言への世間の反応はさまざまです。素直に感心するのはサイクリストないし体育会系ばかりです。一般人はドン引きします。
世間の常識では自転車は日頃の移動手段にすぎません。そもそも自転車=ママチャリ、シティサイクル、電動アシストです。活動エリアはせいぜい1-10kmです。
100kmチャリ≒15kmジョグ
しかしながら、自転車は圧倒的に効率的な乗り物です。おなじ消費カロリーで徒歩の数倍の距離を移動できます。関節や筋肉の負担もマイルドでらくちんです。
個人的な感覚では100kmサイクリングのしんどさは20kmジョギングに及びません。20kmウォーキングには勝ります。15kmランとどっこいどっこいです。
「昨日、15kmのランニングをした」
これは一般人の常識を大きくかき乱しません。部活や学校のマラソン大会で10kmランはふつうにあります。潜在的な経緯値が各人の記憶にある。
チャリ100kmはこれとどっこいですが、こちらはちまたの一般人の記憶に内在しません。圧倒的多数の人々には未知の領域です。
でも、これに実際に挑戦するスポーツバイク初心者さん、新人ロングライダーさんはしつこく唱えましょう、「100kmチャリは15kmジョグとどっこいだ」と。
時間単位のしんどさはランニングよりぜんぜんマイルドです。ロングライドは文字通りに長丁場です。15kmジョギングの負荷を数時間から半日に分散できます。
さらに要所要所で休憩を挟めます。昼飯の時間、おやつの時間はやってくる。トイレタイムも必要でしょう。べんりなコンビニが津々浦々にあります。
こんなふうに好都合な解釈で自己暗示すれば、未知の100kmサイクリングの不安を緩和できます。数値のマジックに怯まない。
イージーなコースを走る
サイクリングは長丁場のアウトドアです。チャリの遠足だ。ルートの土地勘、遠足の旅のしおり的なものは途上の心身の不安を緩和します。
仮に不慣れな土地で迷って、ふらふら走って、3kmの無駄足を食うとしましょう。片道15分、往復30分のロスです。これは後で効きます。
マリオカートで最初からレインボーロードを選ぶ人はいません。かんたんなマリオサーキットで腕を磨いて、上級コースにチャレンジします。
テクニックやスタミナは一日二日で急激に成長しませんが、コース設定は30分の下調べでイージーにもハードにもなります。
ベタに大きな川沿いのサイクリングロードがおすすめです。「土地名&サイクリングロード」で検索をかけましょう。たいていのエリアで2、3個は見つかります。
コース設定の延長で決行当日の天気天候を気遣いましょう。熱すぎ、寒すぎ、雨、強風を避けます。
歩道と車道を使い分ける
自転車は軽車両です。軽車両の走行エリアは車道の左側です。KEEP LEFT!は呪文のようにしつこくたびたび繰り返されます。
そんな啓蒙やアナウンスが実ったか、一昔前より自転車レーンが増えて、自動車ドライバーの認識が改善しました。
が、自転車の車道走行は依然としてマイナールールの域を出ませんし、ほかの乗り物の運転手からいい顔をされません。
レーンの侵犯、停駐車、タイトな左寄せ、爆速キワキワ追い越しは日常茶飯事です。たいていのドライバーに特別な悪意や意図はありません。
「ちょっとだけならいいっしょ~」
「おれは事故らない。おれの運転はパーフェクト。事故るやつがアホ」
こういう無根拠な自信や驕りはだれしもの心の中にあります。が、今やニンゲンの手動運転はAIの自動運転より不安定です。
てことで、初心者サイクリストは臨機応変に車道と歩道を使い分けましょう。現実は原則に勝ります。
もちろん、歩道では歩行者を優先します。で、歩道の車道側を徐行=ゆっくり走ります。
それでも、文句を言われたら? 無敵の歩行者モードを発動して、降りて押して歩きましょう。自転車は圧倒的に臨機応変な乗り物です。
広い意味ではこういう細かい道の使い分け、ライン読みもコース設定の一環です。とにかく簡単なところ、安全なところ、走りやすいところを走りましょう。
荷物少なめ、現金多め
100kmのサイクリングは長丁場です。
速い人は時速20kmで朝から昼、昼過ぎから晩飯前とかに軽くこなしますが、初心者はだらだらと朝から晩までかかります。
前半はしゃかりきになって、後半はだれます。昼休憩がなかなかの関門です。ごはんでスイッチがオフになる。
ゆえに初心者サイクリングの午後は基本的に押します。前倒しはめったにありません。切り上げショートカットはたまにあります。
で、デイキャンプやピクニックやBBQみたいなアウトドア気分で荷物をなんやかんやと携行すると、背、肩、腰をじわじわむしばまれます。
カゴなしのスポーツバイクに乗るなら、携行品を極力に減らしましょう。で、荷物を少なめにして、現金を多めにします。
ぼくは独自の方式で1000円/10kmの所持金システムを採用します。50kmサイクリングには5000円、100kmチャリには10000円です。
反対に荷物をあえて多くするなら、距離を短くします。こちらの換算システムは5km/1kgてとこです。
ほんとにリュックやバックのストラップの圧力はしゃれになりません。『しめつける』みたいな継続ダメージで心と体をじわじわいたぶります。
初心者は予備チューブ、パンク修理セット、空気入れ、のみもの、ハンカチ、スマホ、現金の最小構成でロングライドに臨みましょう。
「出先で自転車屋に駆け込もう」
これはおすすめじゃありません。土日の大きな自転車屋の修理はけっこう混みます。
地方の田舎には自転車及び商店がありません。
急がない、焦らない
サイクリングはスポーツではありません。速く走っても、1着になれませんし、賞金をもらえません。
また、サイクリングロードや一般道路の実質的な平均速度は信号や迂回や車両や人や犬や猫やのおかげで20km前後に落ち着きます。
半分の時速10kmで走っても、10時間で完走できてしまいます。午前8時に出て、午後6時に帰れます。
はじめてのロングライドには時速10-13kmのゆったり走行がおすすめです。15kmはややタイト、20kmはむりゲーです。
100km/13km=8時間、+休憩2時間=計10時間です。たいていのシーズンに朝飯後に出発して、夕飯前に帰宅できます。
アホみたいな早起きや不安なナイトライドは不要です。
一人で走らない
しつこく繰り返しします。サイクリングは長丁場のアウトドアです。乗り手の思考や意識はときに鋭くなり、ときに鈍くなります。後半戦は退屈との戦いです。
虎の子のスマホは走行中には禁物です。景色は気休めになりません。行程の7-8分のところでダレが始まります。これはマラソンとかハイキングに通じます。
このダレダレゾーンを乗り切る最良の方法がマイフレンドです。「つかれた~、しんどい~」で気がまぎれます。
この魔の区間をのらりくらりと乗り切れば、ゴールまで10kmに迫ります。そこはもう地元、わが町です。目をつぶっても、うちまで帰れます。
多人数で走らない
旅の友はたのもしいものです。しかし、チームの人数が多くなりすぎると、ほかの問題が発生します。
グループライドはわりとテクニカルです。暗黙の了解がたくさんありますし、レベルがまとまりません。
そして、意図を汲まない部活ノリの脳筋がしばしば紛れ込みます。
『知り合いの知り合いの自転車乗り』などは要注意人物です。十中八九、その人の『ゆるい』は女子の『かわいい』並みにあてになりません。
経験上、初100kmのベスト構成は2人です。気安いフレンドやパートナーを誘いましょう。
- ベテランチャリダー×
- ぐちの相手〇
です。変な部活のノリ、スポ根は現代ではハラスメントです。
乗りなれた自転車で走る
100kmサイクリングをスポーツ的に解釈しなければ、アプローチの仕方を無限に広げられます。
「ドロップハンドルのロードバイクとピチピチウェアで走る!」
これは選択肢の一つにすぎません。たしかに高級スポーツバイクは乗り手を助けますが、魔法のアイテムではありません。1を100にはできない。
このようなドロップハンドルの自転車は基本的に競技用機材です。ロードバイクは長距離高速型のスポーツバイクです。機能はそのように先鋭化します。
で、未経験者や初心者が専用機材を使っても、はじめから100%の性能を引き出せません。むしろ、先鋭化の負の部分を影響を大きく受けます。
ロードバイクの率直な感想はこんなところです。
「前傾きつい」
「振動きつい」
「ハンドル狭い」
「ハンドル遠い」
「サドル高い」
「サドル固い」
「レバーの使い方が分からん」
空力や転がり抵抗はよく分かりませんが、これらのシンプルな特徴は一瞬で分かります。とくに固いサドルは人を選びます。スポーツバイクの第一関門です。
ゆえに乗り慣れない特化型の専用機材は乗り慣れたふつうの実用品におよびません。競技用の専門性があだとなります。
長年の愛チャリがあれば、それがロングライドに最高の車体です。
クロスバイクであれ、MTBであれ、ロードバイクであれ、ママチャリであれ、自転車の圧倒的な移動効率の前では日帰り100kmサイクリングはイージーオペレーションです。
実際、完走重視の長期戦ではスポーツバイクの競技系機能よりママチャリの実用系機能の方が役立ちます。カゴ、スタンド、ドロヨケ、ふかふかサドルなどなど。
前かごを使えるなら、ノーストレスで荷物をごそって詰めます。食料、おやつ、快適アイテムを携行できて、瞬時にアクセスできます。
ほんとにショートカットキーの回復アイテムです。ガソリン切れの心配はがくって減ります。なにか口に入れて、もぐもぐすれば、気を紛らわせますしね。好物を入れましょう。
そして、エネルギーの効率的な補給はアウトドアのルーチンのひとつ、れっきとしたテクニックです。『自転車を漕ぐ』ばかりがサイクリングではない。
総括
天気のいい日にかんたんなコースを乗りなれた自転車で気安い友と朝から晩までだらだら走る、これが100kmサイクリングのいちばんのコツです。