ぼくの街乗りMTBのブレーキは油圧ディスクブレーキです。モデルは定番のシマノやMaguraやHayesやAVIDでなく、イギリスの金属加工屋のHOPEのTech3 E4です。

HOPE TECH3 E4レバー
質感は見てのとおりです。CNC加工の精巧さが光ります。ざつな部分がありません。英国のTHOMSONてところです。
かんじんのブレーキ性能は街乗りMTBにはスーパーオーバースペックです。指先一つ、「ちょい」で29erの車体をかるがるブレーキできます。E4の4ピストンのパワーは絶大です。

上・2ピストン 下・4ピストン
また、レバーの二つのボルトで引き代やタッチのフィーリングを細かく調整できます。100%の急停車からせんさいな減速までが可能です。本来の活躍の場面はオフロードレースです。
フロントブレーキに異変
このHOPEのブレーキが不調を起こします。左レバー=フロントブレーキにいやな甘さが出ます。で、ディスクローターとブレーキパッドを最初に疑って、おなべでことこと煮沸脱脂をしました。

3分間ことことボイル
粉洗剤でしっかり磨いて、かぴかぴに乾燥させますが、ブレーキの甘さを改善できません。違和感を抱えながら、数日を過ごしまして、首を傾げつつ、レバーをしゅこしゅこします。日増しにスカスカ感が増します。
あげくにレバーのホースの固定ボルトに奇妙なものを発見します。なにがしかの汁的なものが付け根のところからじわじわにじみます。レバーの動きと連動して、じわ~、じわ~て。

じわじわしたてかり
おまけにホースのビニルカバーに茶色のくすみが目に留まります。いや、これは前々から気がかりでしたが、不都合な真実としてながらくスルーされました。
で、この期にようやく四方からしげしげ観察します。

オイル漏れ
なんかねちょっとしたシズクがボルトの下方にへばりつきます。ぜんぜん揮発しません。帰宅後、チャリの保管場所の左ブレーキの直下の床面にぽたぽたと垂れた数滴の痕跡を発見しました。これもぜんぜん蒸発しません。
ためしにホースのねじをレンチで回すと・・・ゆっるゆる! オイル漏れだあ!!
そんなこんなで油圧ディスクブレーキのオイル交換が火急のところとなりました。
はじめての油圧ディスクブレーキのオイル交換
DIY派の自転車メンテナンスのたよりはネットです。ディレイラー調整からBB圧入まで詳細なログやレポートをネット上でチェックできます。今のところ、ぼくは全部の問題を自前で解決できます。ネットさまさまです。
ディスクブレーキはMTBやオールロードではとうにおなじみのスタンダードです。しかし、日本の現在の自転車ブームはフォーマルなオンロードです。ロードのDB化は最近のところです。
結果、ネット上の日本語の自転車ブレーキのログやレポートはキャリパーキャリパー、VV、キャリパーキャリパー・・・みたいなことになります。油圧ディスクの日本語の情報が慢性的に不足です。
しかも、希少なDBメンテのレポートの大部分 from 中級者以上、そこそこのベテラン、販売店や業界関係者です。『駆け出しのチャリ初心者がやってみました!』的な個人の発信がほんとにありません。
で、スポーツチャリ歴3年未満のザ・駆け出しのこのぼくはDBのメンテに二の足を踏んで、見て見ぬふりを半永久的に決め込もうとします。相当な英断をして、ブレーキホースのカットに留まります。

ホースカット
あ、もしや、このときのてきとうなホースカットがオイル漏れの遠因だあ?
油圧システムとフルードのあれこれ
自転車の油圧ディスクブレーキのオイル交換は自動車やオートバイのオイル交換と共通します。いや、オイルでなくて、『フルード』です。フルード交換は『ブリーディング』です。こっちのが通ぽく聞こえます。
自動車、オートバイのフルードの交換の時期の目安は数年に一回です。たいていの人は車検のときに一緒に頼みます。おおざっぱなO型さんはネバーメンテで処分・買い替えまで行っちゃいます。うちの友人はそうです。
で、このHOPEのディスクブレーキの使用期間はせいぜい半年です。フルードはそんなに早く傷みません。しかし、ブレーキ内のオイルの容量が足りなければ、油圧ピストンがさっぱり出てきません。
ホースやタンクに空隙=空気があると、ブレーキレバーが動いても、空気に圧がかかって、ピストンに圧がかかりません。結果、ローターを十分に挟めず、ホイールを止められず、バイクを停められません。
おそらくこうゆうイメージです。
正味のはなし、ストッピングパワーは右レバーのみで十分にまにあいます。このTec3 E4にはママチャリのバンドブレーキ、実用車のロッドブレーキの4個分くらいの制動力はあります。年代物のロッドの引きは超ヘビーです。

パースセキネ
道路交通法では自転車には前後の二系統のブレーキが必要です。前だけ、後ろだけはNGです。
「前輪ロックはハンドル不能、後輪ロックはスキッドを招くからだ!」
てことを単車乗りからえんえん力説されますが、いまいち理解できません。街乗りの速度域には大げさな理屈でしょう。が、決まりは決まりです。
HOPEのフルードは恐怖のD.O.T!!
ディスクブレーキのフルードの種類はブレーキの製造販売元やモデルでちがいます。自転車用の純正品はとくに『ミネラルオイル』てエコロジカルなネーミングで総称されます。
シマノロゼ、マグラブルー
シマノの指定はピンク色の純正ミネラルオイルです。オフロードの入門用DEOREからオンロードの最新ULTEGRA R8030までこれでいけます。
マグラはROYAL BLOODてブルーのミネラルオイルを指定します。ピンクにブルー・・・超サイヤ人か! 青い血=貴族の出身、いいとこの出を表すヨーロッパのことわざみたいなものです。文学か!
この純正のミネラルオイルは超高級品です。シマノのは1000円/50ml、マグラのは2000円/250mlです。自転車の純正のケミカル製品の価格はことごとくファンタジープライスです。
1mlが20円ですよ! 高級酒のようなプレミアムなオイルです。が、同商品の1リッタータイプは1700円です。な、なんで? 容器代け? はぴー???!!!
実際、販売店はこんな50mlのふっかけ価格を整備に使えません。大赤字です。業務用と家庭用の差です。が、1000円はちょっとぼったくりです。
HOPEの指定フルードはこのファンタスティックなミネラル☆オイルじゃありません。D.O.T、DOTです。ドキュン、オニヅカ、ティーチャーの略称でなく、アメリカ規格のイニシャルDです。一般的には自動車、オートバイ用です。
このDOTは強いケミカルです。塗装やゴムを痛めます。友だちに聞いても、ビワイチのときに隣り合わせになったハーレーのお兄さんに聞いても、おなじ助言をいただけました、「DOTは塗装を痛めるで」と。
これが気重の原因です。しかし、しょげずに自転車用のDOTブレーキフルードを探します。ルブやオイルで名をはせるFinish LineのDOTフルードが出てきました。が、1000円/120mlです。よ、容器代?!
こんなときにはなにわのグリス屋がたよりです。安心安全AZです。ぼくはグリスからルブまでAZを愛用します。AZはパーツクリーナー1本から送料無料で全国配送します。ビバ、AZ!!
で、AZのリストを探して、DOTフルードを見つけました。
1000円/500mlです。はて、オートバイ用が自転車用に劣りましょうか? ぼくはそう思えません。これを買います。ついでに198円のパツクリを合わせ買いします。

ブレーキフルードDOT
自転車用の純正のフルードの異常なばかだかさも油圧ディスクブレーキ交換の足かせのひとつでしょう。
ブレーキホースを外す
しょっぱなからリザーバータンクに着手せず、既知のブレーキホースの点検を行いましょう。ゆるゆるのボルトをレンチで外します。なんてマイルドなトルクだあ!

ブレーキホースのボルトゆるめ
オリーブとコネクターインサートです。オリーブが留め金、インサートがフルードタンクへの接続部分です。これらの使いまわしは非推奨です。

オリーブとインサート
念のためにホースの先端を切り直します。スチールメッシュのホースです。ふつうのラバータイプよりこっちのが割安でした。でも、ネバーおすすめです。切り口がじゃぎじゃぎになります。

ブレーキホースカット
で、ブレーキに付け直して、しかとトルクをかけます。ちなみにオリーブとインサートはそのままです。予備がない! 国内にない!

めいっぱいトルク
ブレーキのホースカットの工程ではオイル漏れはほぼありません。ホース内のオイルは表面張力でインナーケーブル内に保たれます。切れ端はフルードをまき散らしますが。
ここからが本番です。
ニップルのキャップを外す
最初にキャリパー側のニップルのキャップを外します。小さな黒いふたです。

ブレーキキャリパー
マイナスドライバーなどでこじ開けます。きれいな銀色のニップルがお目見えしました。こうゆう突起物はだいたいニップルて呼ばれます。

キャップ外し
で、海外のメンテページをブラウザの機能で機械翻訳すると、「この乳首を~」とか「この乳首に~」とかのアダルティーな表現に見舞われます。きゃあ!
ホイールなしで作業するなら、ついでにパッドにかませをします。丈夫な厚紙で代用しましょう。牛乳パックが最適です。
で、このニップルにフルード受けをセットします。専用キットは3000円、ヤクルト容器は0円です。

簡易オイル受け
高確率のオイルだだもれを予測して、したにぼろ布をしきます。そして、レンチを六角ボルトにプットします。メガネレンチのがおすすめです。

レンチセット ぬのプット
リザーバータンクを平行にして、カバーを開ける
いよいよ未知の領域のリザーバータンクを開けます。タンクの構造はメーカー、モデルでばらばらです。が、共通のポイントはレバーのリザーバータンクを地面と平行にすることです。
ステムを緩めてハンドルで調整するか、ブレーキのマウントを緩めて水平にしましょう。ノースタンドではこのセッティングがわずらわしくなります。リアが上がらない。メンテスタンドが恋しくなります。
で、タンクを水平にしたら、タンクのボルトを外します。星形ネジです。このサイズのトルクスドライバーはありません。手持ちのアーレンキーを手当たり次第にぶつけたら、ふつうに開けられました。

アーレンで星形ねじ
トルクの弱さがすくいでした。強トルクのやつにこれをやると、一発でねじ穴をなめます。注意しましょう。
待望のマスターシリンダーのフルードタンクです。DOTフルードは透明の黄ばんだ液体です。匂いはしません。

マスターシリンダーのプール
にごりや汚れはありません。やはり、容量不足、エア噛みが原因のようです。ふつうにここへ新しいオイルを足せば、ブレーキを復活できましょう。でも、ここまで来たら、オイル交換まで行っちゃいますね~。
ところで、ブレーキフルードの交換には二通りの方法があります。キャリパー側からとレバー側からです。シマノのオンロードの油圧ディスクブレーキは下から派です。HOPEのTECH3の公式動画は上から派です。
AZのDOTを追加します。付属のノズルで慎重に注ぎます。これはオートバイ用ですから、口ががばがばです、ははは。

フルードを入れる
ここからの手順は
- キャリパーのニップルボルト緩め
- ブレーキレバー引く
- キャリパーのニップルボルト締め
- ブレーキレバー放す
- フルード追加
のループです。4-5回で古いオイルが抜けます。30ml前後でしょう。
ここからはHOPE特有の作業です。マイナスドライバーで4つのピストンを押し戻します、こじこじこじ、て。オイルのしずくが見えます。ヤクルト容器さん、ファイト!!

マイナスドライバーでピストンを戻す
で、タンクにフルードをひたひたに満たして、カバーを付けなおします。エアを噛まないように端からびちゃっとあふれさしながらはめます。下はびちゃびちゃです。

満タンにしてべちょっと溢れさす
そして、ふたをボルト止めしたら、一旦タンクを垂直にして、レバーをしゅこしゅこ引いて、タッチの手ごたえを出します。で、ピストンをマイナスドライバーでこじります。
それから、もう一度、タンクを水平に戻して、ブレーキフルードを追加して、びちゃっと溢れさしながらカバーを閉じます。
まあ、必然的にこうなります。

オイルだだもれ
どの動画もこの流れです。こまかいエア抜きの場面はついぞ出てきません。HOPEのフルード交換の工程はわりとおおざっぱで独特です。DOTだからか? ていねいにやっても、ざつにやっても、オイルまみれを回避できません。
DOTは塗装を溶かします。仕上げにパーツクリーナーをまんべんなくふっかけて、余分なオイルを除去しましょう。フルードは常温で蒸発しませんからね。
でも、ぼくは素手でやって、別に手荒れをしません。溶かす溶かすて聞かされたから、硫酸みたいなやつをイメージしたのに!
むしろ、ワイヤー引きのブレーキ交換の方が手にはハードな作業です。テンションを出すときにぐいって引っ張ると、親指の根元を高確率でがさがさにしちゃいます。Vブレーキでたびたびやらかしました。
ブレーキ復活
交換後にテストライドに出かけました。

油圧ディスクブレーキ復活
ENDURO、オールマウンテン用のすばらしいストッピングパワーが復活しました。油圧ディスクブレーキのブリーディング、意外とちょろいもんですわ~!
ぺーぺーのどしろうとの初挑戦の作業時間が約35分です。メンテ的にはかんたんな部類です。肩透かしです。ミネラルオイルはもっと気楽でしょう。
ワイヤー引きのブレーキ交換できる人はよゆうでメンテできますよ~。最大の壁は純正自転車用ミネラルオイルやDOTフルードの価格です。
一生分です、ははは。