世間一般のサイクリングのイメージは遠出、長乗りのツーリングスタイルです。ベストシーズンはツール系レースに準じます。夏。ただし、さらっとしたヨーロッパの夏です。
夏のスポーツのウェアは夏用です。『軽い、薄い』はサイクリストの大好物です。競技系のビブショーツなどはほぼ肌着、下着のたぐいです。ぴたぴたのぱっつぱつ。
自転車用シューズも夏向けです。このスニーカータイプのシューズのアッパーは涼しいメッシュタイプです。ソールにはクリート用の台座と穴があります。自転車シューズのソールは穴あきです。
結果的に上から下から空気がすうすう入ります。通気性はばつぐんですが、防寒性は皆無です。ちょっとやそっとでつま先が芯から冷えます。
一応、冬用のゴアテックスのサイクリングシューズはあります。でも、『ごつい、重い』はサイクリストに敬遠されます。
そして、日本の冬にはやや大げさです。これらはヨーロッパや北米のゴリゴリの氷点下の冬用の装備です。
そんなわけでオンロード系の自転車のあれこれはベストシーズンの夏をベースに発展します。冬のサイクリングはなにかと鬼門です。気楽ではありません。工夫と根性が必須です。
個人的な経験から冬場のサイクリングの要注意ポイントベスト5をピックアップしました、不動の一位の『防寒がだいじ』以外で。
道路の凍結
日本は島国の山国です。海岸沿い、河口付近以外は山山山です。平たい広い道をずうっと走れるのは北海道ぐらいでしょう。
市街地から出発して、すこし走ると、とたんに峠にぶちあたります。都道府県境=川か山です。これを越えなければ、チャリで地元から抜けられません。
外気の気温は標高で変わります。1000mで-6.5度です。1000m級はそんなにありませんが、400-500m級はそこかしこにあります。
手近な500mの山にぜいぜい登れば、もれなく-3度ちょいのクールダウンに見舞われます。
朝夜に気温が氷点下に近づけば、凍結や霜が発生します。オンロードバイクの細いタイヤには致命的な自然現象です。
ふもとの3度は山頂の0度です。12-2月の明け方はそのくらいまで冷えます。セミ亜熱帯の阪神間、北大阪さえがそうです。
で、日が出て、気温が上がって、車が通れば、氷が水になります。ロード乗り泣かせのウェットなアスファルトの完成です。しかも、路面のみぞれは通行車両のタイヤで路肩に路肩に追いやられます。アウチ。
お天気予報に雨マークがなくても、冬場のとうげの路面はそんなふうにカチカチorしっとりします。むしろ、よく晴れた日には放射冷却が起こって、路面の温度がさらに下がります。
恐怖のアイスバーンです。
対策はごついブロックタイヤやピン付きのスパイクタイヤです。か、はじめからとうげに上らない。ルート選択がカギになります。
越境の最短はだいたい峠越えになります。凍結回避、山回避=遠回り不可避の方程式がここで確定します。後述の日の短さが加わって、直線距離が伸びず、行き先が限られます。
日の短さ
サイクリングの活動時間=日中です。ナイトライドはストレスフルです。市街地や幹線道路はそんなですが、田舎の山道は一瞬でまっくらです。
ライトを点ければ走れますが、足元と数メートル先を照らせても、十メートル先の路面状況を把握できません。
時速30km=秒速8.3mです。30km/hのバイクは一秒で8m先、15km/hのバイクさえが4m先に達してしまいます。異常を見てから止まり切れません。
冬場の日中は短くなります。おのずとサイクリングのタイムリミットが短くなります。最大が午前7時-午後5時の10時間です。夏場にはこれが午前5時-午後7時の14時間まで広がります。
4時間、240分のギャップはがんばりや気合で埋まりません。出力を40%も上げられない。休憩時間を削るのは逆にパフォーマンスを損ねます。すなおに走行距離を減らしましょう。
夏場に200km/1dayを走れたなら、3割ダウンの140km/1dayを目標にする。ピークを早めに持ってくる。
自転車乗りがさっぱりいない
冬場のサイクリングはたいへんです。走行前、走行中、走行後に余分な手間がかかって、わずらわしさがx3に倍増します。きっちりやる人こそがこの手間の多さに泣かされます。
おまけに高機能な室内トレーナーやオンラインサービスのZwiftなんかの登場でインドアのバイク環境が飛躍的に進化します。
その結果、夏場にはあんなに盛況だったサイクルロードやヒルクライムコースがかんさんとします。ライド中に追い越さない、追い越されない、すれちがわない。みんな何処へ行った~。
例外なくライトユーザーがまっさきに脱落します。山に女子はほとんどいません。たまにすれちがうのはソロの猛者やチーム隊列の本気勢ばかりです。サイクリングでなく、トレーニングです。
逆の発想で人気ルートやサイクリングロードが貸し切りコースになります。
暑くて寒い
ランニングやウォーキングの負荷は一定です。インターバル走やスパートをしなければ、最初から最後まで同じペースで走ります。
サッカーやラグビーみたいなタフなスポーツはランとダッシュを繰り返します。負荷の強弱はありますが、極端なクールダウンはありません。
実際、真冬に遊びで小一時間のフットサルをやっても、だらだらの汗びちゃになります。
サイクリングの負荷はコース設定に左右されます。ヒルクライムは陸上の中距離走クラスのハードさですが、ダウンヒルはらくちんです。アスファルトをのぺーと下っても、MTBの下りみたいに激しく消耗しません。
体感的には上りがサウナで、下りが水ぶろです。3分で熱が完全に逃げます。メッシュのシューズで上って下ると、オートバイ乗りの友人の「冬場の単車は地獄だ~」て嘆きをよく理解できました。
平地だけをマイペースで走るなら、厚手のパーカーやダウンジャケットで行けますけど、ひとたびに登りに入れば、速攻で汗だくになります。
そして、遠出には越境が付き物です。TPOがベリーハードです。
冬場の自転車練習やトレーニングよりホビー的なサイクリングの方がむずかしく思えます。快適さとモチベの上積みがエクストラハードです。
運動した感が希薄
夏場に汗をだらだらかけば、内容を度外視して、ばくぜんとした充実度に満たされます、「はー、よう運動したわ~、走った走った」て。
実際、遠乗りに出れば、かんたんに1-2kgの軽量化を果たせます。大半は水分ですが。
冬場の平地のサイクリングでは体温上昇と体温低下がちょうど差し引きゼロになります。大汗を掻かないし、息を荒げず、ぽかぽかあったまる負荷です。
カロリー消費、エネルギーの発散、体脂肪の燃焼の観点からこれは非常に理想的なフィットネスです。汗の役目を外気が果たします。体がべちゃっとしません。衛生的です。
でも、スポ根的な単細胞の脳みそにはこれがゆるく思えてしまいます。運動した感、手ごたえのなさです。
「汗だっらだら! 2リットルの水を一気飲みしちゃったよ~!」
身体から余分な水気が抜けませんから、体重計の数値の変動は夏場より圧倒的に鈍くなります。しかし、体脂肪の燃焼、エネルギー消費は寒い時期にこそ高効率です。基礎代謝が上がりますしね。
サイクリングは長丁場です。基礎代謝のアップはライドの消費カロリーの総量の底上げにすごく貢献します。純粋な運動の消費カロリーは別ですけど。
夏の体重減は過大に出ます。冬場のシェイプアップがほんとのシェイプアップです・・・て、理屈は分かりますが、長年の思い込みはなかなか覆りません。