自転車フレームの素材は金属系と非金属系に分かれます。”BIKE”の草創期の車体は木製で、現在のスポーツバイクの素材はカーボンファイバーです。ともに非金属系。
まれに竹や段ボールのフレーム。
金属系は鉄系と非鉄系に大別されます。
- 鉄
- アルミ
- チタン
この3つはよく使われます。正確にはピュアメタルでなく、なにがしかの合金です。合言葉は”ALLOY”や”Ti”ですね。たまにマグネシウム。
最も一般的な鉄系合金はさらに細かく分化します。
- スチール
- ステンレス
- クロモリ
安いママチャリや通販自転車のフレームは安スチールのハイテン製です。理由は価格です。1万円の自転車に特別なパーツは採用されません。
ステンレスは軽量で強靭、そして、”stain less”の名の通りに錆びない。フレームに理想的な素材です。
が、加工の難しさから大量生産やハンドメイドには向きません。結果、自転車のステンレスフレームはカーボンやチタンフレーム以上のレアアイテムです。
最後がクロモリです。これはクロムモリブデン鋼の愛称です。値頃な価格、適度な重量、加工のしやすさ、乗り心地などの利点から少数生産やハンドメイドに重宝されます。
よりポピュラーで軽量で安価で強靭なアルミは少数生産では割高になります。アルミフレームの普及は台湾のGIANT社やMERIDA社の大量生産のたまものです。
現在、2台のクロモリ自転車を愛好するぼくがこのフレームのメリットとデメリットを紹介します。
後日に3台目のクロモリ号が来ました。B4C的には珍しいロードバイクです。
こいつで大阪から東京までキャノンボールしました。
クロモリフレームとは?
クロモリの基本情報です。
- クロムモリブデン鋼の略称
- アルファベットは”CHROME-MOLY”など
- 自転車フレームの素材の中では重め
- 金属のなかでは柔らかめ(しなる)
- 溶接、加工が容易(ハンドメイド向き)
- 錆びる
錆びるクロモリ
ステンレスは錆びませんが、クロモリは錆びます。これは単純にクロムの含有量のためです。
- ステンレスのクロム含有量10.5%以上
- クロモリのクロム含有量1%前後
常温でほぼ錆びないクロムは重要なメッキの媒体です。単純計算でステンレスの錆びにくさはクロモリの10倍となります。実際、台所のシンクは全く錆びません。
同様の単純計算でクロモリの錆びやすさはステンレスの10倍となります。スチールとどっこいです。雨で普通に錆びます。
もっとも、安いスチールフレームもマニアックなクロモリフレームも塗装というバリアで保護されますが。
これはフランス系のMacMahoneの2010年頃のクロモリフレームです。
クラフト系の小規模メーカーのペイントは華やかですね。しかし、ねじ切りの部分に若干の茶色いアレが出ます。This is Stain!
これは未使用のデッドストックです。この錆は空気と湿気の経年劣化です。クロモリの地金は雨に打たれなくても錆びます。
こちらは別の悪い実例です。チェーンがステーに当たって、塗装が剥がれて、剝き出しの地金が雨で見事に錆びました。
まあ、表層の錆は美観を損ねますが、大した問題ではありません。フレームの内部の錆が深刻です。
とくに通り雨や雑な水洗いなどでBBハンガーやダウンチューブに水気が残ると、水面下でダメージが進行します。最悪、底が抜けて、穴が開く。
反対にアルミ、チタン、カーボンのフレームは錆びません。いずれも常温で強い耐食性を有します。そもそもカーボンは金属でないし。
雨、水、湿気への対策がクロモリ取り扱いの第一項です。
クロモリフレームのメリット
特大のデメリットと要注意事項を示しまして、クロモリの良いところを紹介します。
- 安価
- 溶接、加工、塗装が容易
- 種類が豊富
- しなやか
安いクロモリ
クロモリは世間的にはおなじみの金属ではありません。ステンレスやアルミよりマイナーです。初見、初耳には物珍しく思えます。
しかし、結局、鉄は鉄です。そして、自転車のフレームの重量はせいぜい2~3kg前後です。原価は高くありません。
町工場で修理できます
自転車のフレームは複数のパイプないしチューブから成ります、ヘッドチューブ、トップチューブ、ダウンチューブ、シートチューブなどなど。
鉄管の繋ぎ方は標準的なアーク溶接です。町工場でおっさんがバチバチやるあれです。道具はホームセンターにあります。
他方、アルミやチタンの繋ぎ方はTIG溶接です。こちらはバチバチしません。真空チャンバー、アルゴンガスみたいな特殊設備が必要です。
おっさんの腕前を問わなければ、ジャンクなフレームを町工場に持ち込んで、溶接モリモリをお願いできます。
アルミ、チタン、カーボンはこのようにざっくばらんには行きません。現に友人の溶接工は「アルミ溶接はうちではむりゲー」と仰います。
塗装のしやすさもクロモリの利点です。クラフト系メーカーはコーティングを兼ねて、ペイントにはかなり拘ります。
逆にチタンフレームの99%は無塗装のポリッシュです。塗料がなかなか定着しない。大手自転車メーカーでチタンにペイント(厚化粧)をするのはコルナゴぐらいですね。
鉄鋼チューブいろいろ
- タンゲ
- カイセイ
- コロンバス
- デダチャイ
- レイノルズ
これらは有名な鉄鋼チューブのメーカーです。とくにレイノルズはクロモリ界では業界標準的な存在です。
この520番台のチューブは本家の英国製でなく、安価な台湾製です。上位チューブは一種のブランドです。
タンゲ、カイセイなどは日本系および日本メーカーです。お家芸の競輪のフレームに使用されます。
メーカー物以外の汎用のクロモリパイプは『クロモリ4130』で表記されます。4130はアメリカ工業規格の番数です。
自転車一機分のクロモリチューブはせいぜい1~3万円です。つまり、ハンドビルドフレームの価格の大半は技術料や手間賃です。
しなやか
鉄はしなやかな金属です。スプーン曲げの手品はこの金属の特性のたまものです。
この特性から細い管を使用しながら、強度を出せます。結果、スマートなシルエットを実現できる。
一方、固いアルミは太い形状でしか強度を保てません。細いアルミ管はぐにゃっと曲がらずにぱきっと割れます。
逆にエアロフレームのようなマッシブな構造にはアルミは有利です。
これをクロモリで作ると、大幅な増量に見舞われます。
個人的にフレームのしなやかさはシューズのグリップのようなものです。
やわらかいグリップのランニングシューズは快適です。散歩やゆったりペースのジョギングに向きます。しかし、ハイスピードのレースには向かない。
固いグリップのシューズは足にはタイトですが、反発性能と軽さを生かして、ハイスピードで走れます。試合や競技には有利ですが、普段使いにはミスマッチです。
チタンフレームはクロモリの完全上位互換です。より軽量で頑丈でしなやかで錆びない。価格は跳ね上がりますが。
カーボンもしなりますが、過剰な力を受けると、ばきっと割れます。そして、クロモリやチタンより見た目はスマートになりません。
通っぽい
伝統的な競輪やビルダー、国内外の小規模メーカーの存在からクロモリフレームは伝統性とニッチさを兼ね備えます。アルミやカーボンより通っぽく見える。
「おれの自転車はスペシャライズドだ!」
「わたしの自転車はレイノルズ520のハードテイルです」
趣味の世界では下の人が上手です。通っぽく見えること、意地を通すこと、自己陶酔に浸ることは趣味の楽しみ方の一つですし。
所詮、メーカーやグレードや価格を大声でわーわー喚くのは青二才のすることです。愛車のクロモリの番手くらい即答できないと、この修羅の国では人間扱いされません。
クロモリフレームまとめ
クロモリは鉄系合金クロムモリブデン鋼の略称です。
クロモリの地金は雨や湿気で普通に錆びます。これが最大の短所です。
重さはフレーム素材の中では最重量級です。カーボンの2倍、アルミの1.5倍が目安です。
クロモリの鉄管は安価です。自転車1台分で1~3万円。クロモリフレームの価格の大半は加工費や手間賃です。凄腕のビルダーは月間数本で生計を立てられます。
クロモリフレームは細身でしなやかです。趣味で自転車にまったり乗る人には格好の機体です。
アルミの固さ、カーボンの陳腐さに飽きたなら、クロモリを検討してみましょう。
細身がイカすね!