イキる、イキりは嫌われものナンバーワンの称号です。関西圏ではポピュラーな表現です。意味は『やたらと調子に乗ること』です。俗説では『意気がる』の略称です。
- 自慢しい
- 鼻にかける
- 見せびらかす
- イバりをきかす
- ドヤる
- スタバでマックブックプロ
- 部分的にデュラエース化
とかも同じ意味合いを持ちます。
生きることはイキること
他人のイキりは愉快なものではありません。
しかし、自分が他人にイキること、ドヤること、自慢を語ることの痛快さは無上です。相手の渋い顔や白い視線さえが優越感の薬味になります。
自転車のような機材趣味、機材スポーツではこの傾向はあからさまです。今日もどこかの峠やサイクルロードででだれかのイキりが炸裂します。
そして、我々もまた密かにイキり、イキられ、顔で笑って、心で泣いて、劣等感や懐具合の乏しさをペダルに乗せて、野へ山へ繰り出します。
イキることは生きること、優越感も劣等感も明日への糧です。この胸のざわつきこそは生のあかし、ニンゲンの証明だ。
ビバ・イキリッシモ!
機材イキり
自転車は無数の機材から成ります。パーツのアップデート、交換、カスタマイズは自転車趣味の楽しみの一つです。
うん万円の高いパーツは必ずしも良いパーツではありませんが、良いパーツは安くありません。
ロードバイクやMTBの下限は10万円ですし、まともなアルミの競技用ホイールは5万円です。
詳しい人やパーツオタクはブランドやロゴやグレードからパーツの見積もりをぱぱっと出せます。
が、良い大人はあからさまにイキりません。品性を欠きますし、めっきり嫌われますから。
でも、せっかくの高級パーツ、こだわりアイテム、新商品を自慢したい! という気分はあります。
え、ない? 聖人か高僧ですか? 胸に手を当てて、心の声を聞きましょう。俗人にはマグマのような承認欲求の本能があります。
これを全面的に押し出して、「これはデュラエースですよ!」とか「見て見て! カーボンミニベロでっせ」とか言うと、品性を疑われて、仲間から干されます。
良い大人はひそかにイキります。実践的なイキりテクを紹介しましょう。
ハブのラチェット音イキり
自転車の足回りはホイールです。骨組みのフレームに勝るとも劣らぬ重要パーツです。
フレームが服であれば、ホイールは靴、シューズ、はきものに相当します。おしゃれもおチャリも足元からだ!
ロードバイクのホイールは4大メーカーの独壇場です。カンパニョーロ、フルクラム、マビック、シマノです。
この4社のホイールのラインナップはチャリダーの一般常識です。下から上まで暗唱できない人はもぐりです。
いちばん人気のカンパニョーロゾンダはたまごかビッグマックのような安定価格です。海外通販の実売が4~5万です。
このゾンダ価格を目安にすると、ほかの3社のホイールを相対的に見積もりできます。1ゾンダ=50000 JPYです。
シャマルは2ゾンダ、RS101は0.25ゾンダ、コスカボアルチメTUは6ゾンダ…
このカンパニョーロのホイールの特徴はMEGA G3とハブのラチェット音です。
リアホイールの3×7のスポークレイアウトがアイコンです。ヴィトンのモノグラムのようなものだ。
で、G3はイキリッシモなポイントですが、あいにくとホイールはくるくる回転します。回転中のホイールのロゴやレイアウトはPRになりません。
そこで視覚効果以外のエフェクトが浮上します。音です、音。ハブのラチェット音だ!
カンパニョーロやフルクラムはぞくに爆音系のハブです。ジィィィィィィィイイッッ! て空転中にそれと知れる鳴き声をあげます。周辺のローディは間違いなく振り返る。
カンパのオーナーはこのイタリアの風の音でイキりまくりながら、その場をさっそうと過ぎ去れます。
あとに残るのは「カンパニョーロか・・・ いや、フルクラム?」と呟くチャリダーのみです。
シマノ、マビックなどの静かハブのホイールの使い手はこの方式を使えません。あと、カンパフリーのカンパハブは静かです。
ビンディングイキり
自転車乗りの自負心をくすぐる専用装備の代表がビンディングです。シューズとペダルを金具でがっちゃん! して、足回りを疑似的に人機一体にします。
ペダルのビンディングとシューズのクリートがはまると、独特の甲高い音が鳴ります。カン! パン! カタン! パッツン! てドライな小気味のサウンドです。
これは他者へのアピールにもなりますし、おのれへのスターターにもなります。
逆にうまくビンディングを着脱できず、ガッチャガチャしてしまうと、嘲笑の的となります。
前段の爆音フリーのラチェット音と合わせれば、周囲100mのスポーツバイクユーザーにドヤドヤイキイキしまくれます。
この交差点の人々の目と耳はこのおれに釘付けだぜェ! カカン!
カーボンリムイキり
自転車ホイールのリムは鉄 < アルミ < カーボンの順にお高くお軽くなります。それぞれの下位の上級クラスがそれぞれの上位の廉価クラスです。
数年前よりカーボンパーツがホビーユーザーに普及して一般化しますが、ふつうの人はホイール交換に10万円を出せません。果報者か道楽者です。
で、このカーボンリムのブレーキフェイスはブレーキ時に独特の鳴き声を発します。ヒュルヒュルヒュルヒュル、シュルシュルシュルシュル、という特徴的な音です。
金属のリムはこんな奇妙な音を立てません。鳴り響くのはおなじみのキキキ系の金属音です。高級アルミホールも安いママチャリの鉄下駄もキキキ系です。
ディスクブレーキは金属製のディスクローターを掴みます。必然的に音はキキキ系です。
ヒュルヒュル音はリムブレーキ用のカーボンホイールだけの特権的なイキりです。
練習量イキり
マラソンやロードバイクのような耐久系競技のパフォーマンスは月間走行量や練習量で決まります。
その他の細かなテクニックは練習量の前に掻き消えます。走り込みがジャスティスだ!
そのおかげで昭和風のスポーツ根性路線、部活ノリ、ホモソーシャルが幅を利かせます。きつい、しんどい、かっこいいです。
月間走行量イキり
スポーツアプリ、サイクルコンピューター、スマホで月間の走行量、練習量が一目でわかりますし、おおやけの場に残ります。
で、これはかんたんにランキング化しますから、走行量はたんなる数値のわくを超えて、その人のステータスへと昇華します。STRAVAの流行はぐうぜんではない。現在の走行量にはゲーム性がある。コンテンツ。
一回の走行距離、月間走行距離、年間走行距離、いずれがイキりのエッセンスです。
平均的な自転車乗りの月間走行距離が500km、一回のライドが100kmです。倍の月間1000km、一回200kmあたりから常人相手にはドヤドヤできましょう。
獲得標高イキり
平地のサイクリングはそんなにきつい運動ではありません。大方の都会の公道シーンでは体力が尽きる前に信号やなんやで強制的なインターバルが入ります。
で、短期間で低い速度でフルパワーを出し切れるヒルクライムが国内のストイック系サイクリストには重宝されます。
Elevation Gain、獲得標高は走行量のつぎにイキりフレンドリーな項目です。
1000m級の山は全国各地にありますが、2000m級の山は日本アルプスに集中します。あと、一部の山では頂上まで行けない。
で、一回のライドの獲得標高が2000mを越えると、一般的なホビーライダーには十分にどやれます。
パワーイキり
近年、昭和ド根性スポーツの自転車競技が出力測定器のパワーメーターやデジタル練習機のスマートトレーナーの一般化でイマドキ・データスポーツに変容します。
で、やっぱり、測定が可能であれば、記録が可能であって、データ化が可能であれば、ウェブ連動が可能になりますから、出力、パワーは対外的なステータス、ドヤドヤイキりのネタになります。
ロードバイクのパワーはFTP、LT、パワーウェイトレシオ、心拍数とかです。そして、これらをきっちり測るための個人的な装備がなかなかのお値段です。
体重イキり、体脂肪イキり
「何kgまで絞りましたよ~」
「体脂肪10パー以下ですよ~」
このような体重イキり、体脂肪イキりはスポーツ界全般でメジャーなイキり方です。
とくにネットではボクサー並みの体脂肪率のすーぱーあすりーとさんがごろごろします。
この体重イキりの延長線上に、
「ササミしか食いません」
「ご飯なしで一か月ですわ~」
「主食はとうふとキュウリです」
みたいな食事制限イキり、糖質制限イキりもメジャーなイキりです。ぞくに「眠ってない」イキりのお食事版ですね。
日本人の成人の平均体重が172cmの68kgです。-10kgの60kgアンダー、50kgに到達すれば、十分にイキりまくれます。
でも、体重が過度に減ると、スタミナと免疫力が落ちて、冬の寒さ、夏の暑さ、春の花粉がきつくなります。すぎたるはなおおよばざるがごとしです。
過剰な痩身は健康を害します。無意味です。
初心者は走行距離と獲得標高から自転車イキり道を始めましょう。