ロングライドの基本装備、そして、自転車別の傾向と対策を記事にしました。第三弾は長距離向けの機材、パーツ、カスタマイズ編です。
チャリンコの快適性を大きく左右する部分は三つです。サドル、タイヤ、ハンドル周りがそれです。これらを個別に詳しく見ていきましょう。
二種に分かれる快適サドル
半日から丸一日を自転車の上で過ごすロングライドは最終的には尻の痛みとの戦いになります。気力と体力があっても、ケツのライフが0になると、ライドが一気にきつくなります。
尻のトラブルは皮膚系、骨盤系、複合型に分かれます。いずれが辛い症状です。トップのマラソンランナーさえが靴擦れを起こすとリタイアせずにいられません。まともに走れない。
軽量化のためにカーボンサドルや薄型サドルでロングライドに出かけると、最終盤でえらい目に合います。
小刻みに振動する固いベンチにながなが腰掛けるようなものです。そもそも柔いクッションに座り続けるのも楽ではありません。座りっぱなしは体に毒です。
一旦、ケツが限界を迎えると、ライド中には回復しません。こういうふうにバスタオルを巻いても、皮膚系のストレスを防げない。
結果、バイクパッキングの帰路は立ちこぎになります。常時スタンディングはちょっとかったるい乗り方ですが、擦り切れたケツをサドルに置くよりましです。
やわらかいサドル
サドル=椅子、の発想で考えると、快適さ=やわらかさ、みたいな構図がおのずと思い浮かびます。そして、安易にふかふかサドルをアマゾンでポチってしまいます。
でも、椅子、クッション、布団、パッドは柔らかければいいってもんでもない。まず、この手のふかふかサドルはでかすぎます。クッションが腿の動きを妨げる。
そして、腰を下ろしたときのある程度の安定度を感じられないと、シッティングのペダリングに頼りなさを覚えます。力が逃げる。
進まない→しんどい→ロングライドおもんないの公式が誕生します。
ためにふかふかサドルはサブ組に降格して、靴箱の片隅に押しやられました。見た目のやぼっさたと1kgの重さもネックです。
しなやかなサドル
うちの現役選手はこれです、ノーブランドのゲル入りサドル。重量は235gです。
クッションの厚みや柔らかさは上のふかふかサドルに及びません。しかし、土台の樹脂の台座がぐいぐいしなって、上々のフィット感を演出します。しなやかさが光ります。
メジャーブランドではTIOGAのスパイダーシリーズや天然皮サドルがしなやかタイプの代表です。
クッションは無です。メッシュの樹脂の台座がむき出しです。でも、これはしなります。フルカーボンサドルみたいなソリッドな板感はしません。ハンモックだ。
一方、これはサブ機のCYCLEPROのゲル入りコンフォートサドルです。クッションの厚み、柔らかさはメインのやつより上です。ゆえに重さが460gです。
が、こいつの台座はしなりません。サドルに腰を下ろすと、クッションの下のプレートの硬さを感じられます。で、総合的な快適さは上のものに負けます。
ぼくは球蹴りとジョギングをしますから、まあまあガッチリ系の足腰を持ちます。下半身の比重が大です。固重系の安産型?てところです。
で、この固重なケツがサドルにどかっと下りると、クッションがかんたんに圧縮されて、尾てい骨が台座まで届いちゃいます。
重め、固太り、アップライトポジションの人はサドルのクッションの柔らかさと共に台座のしなやかさをチェックしましょう。
ワンモアワイドタイヤ
タイヤは自転車の性格や特性をがらっと変えます。変化の度数は圧倒的です。ほかのパーツのカスタマイズがかすみます。
1インチ=2.54cm未満の細いかっちかちのタイヤはロードバイクのアイコンです。
きれいなピカピカの舗装路を速く走るには最高のものです。サーキットやトラックではほんとにストレスなく走れます。
新しいサイクルロードもなかなかのものです。
でも、天下の公道にはイレギュラーな要素がたくさんです。路面の状態はまちまちです。
都会にはタイヤキラーなグレーチングが頻出します。
ゲキサカの果てに古風な街道に出くわすとか。
長丁場のアウトドアは天気と時間との戦いです。
じゃあ、普段のタイヤより少し太いタイヤを使いましょう。快適ロングライドには700x28c以上がおすすめです。
もちろん、クリアランスの問題はあります。ついでにタイヤのカタログのサイズ値がわりとあてにならない。
2010-2015年ごろまでロードバイクのタイヤのスタンダードは700x23cでした。それ以前には22mmとか21mmとか。
フォークやフレームのクリアランスはこれに準じます。~25Cくらいが一般的でした。ブレーキのアーチも同様です。
最近のロードタイヤの主流は25cです。フォークやフレームのクリアランスは~28cになります。23cタイヤや25cフレームはもうスタンダードでなく、細いタイプになります。
エアロタイプやエンデュランスはさらにワイドです。
エアロでは28cがトレンドです。このワイド化は下りのスピードアップに対応するためです。タイヤを太くして、グリップと安定性を出して、ダウンヒルのカーブを速く走り抜ける。
きちんと曲がれて止まれればこそ、安心して加速できます。カーブでいちいちふらつくような車体ではぞんぶんに突っ込めません。精神的なストッパー、心のブレーキがかかります。
で、どんな理由があれど、タイヤが太くなれば、快適性は上がります。結果的に最近のエアロロードはコンフォートでオールラウンダーです。
空気圧を下げる
太めのタイヤをセットしたら、空気圧をすこし下げましょう。減圧の目安は0.5bar刻みです。
カチカチ高圧タイヤは跳ねます。サーキット、クリテリウム、ヒルクライムにはOKですが、ロングライドにはNGです。指と手がやられます。
推奨空気圧の下限かちょいアンダーにすると、乗り味をがらっとマイルドにできます。これがライドの終盤で効きます。
同じ発想でふつうの細タイヤの空気圧を臨時に下げるのはありです。帰路、通り雨、負傷とかが減圧のチャンスです。
かちかち高圧タイヤ至上主義は自転車乗りの通過儀礼のようなものです。「ぬるい風呂は銭湯じゃない!」 的な発想がどこかにあります。
でも、この刷り込みから卒業できれば、より楽ちんに柔軟にロングライドできます。
アップライトポジション
繰り返しましょう。同じ姿勢を長く続けるのは体に毒です。座る、横になるみたいな楽なポジションさえがそうです。寝返りできないごろ寝は苦痛です。
スポーツバイクの前傾はなおさらです。乗車のポジションが根本的に人体の構造とマッチしません。
首がむりゲー
ドロップハンドルのライディングのイメージです。
前掲しつつ前方を見ると、もれなくこういう姿勢になります。右は背骨を垂直にした上半身のイメージ図です。首が上向きになります。これは人体にはめちゃくちゃ不自然な姿勢です。
実際、ドロップハンドルの首の負担はパソコンやテレビ視聴の数倍に及びます。単純計算で10時間のロングライドは50時間のデスクワークに匹敵します。
見上げるのがむり
あごを引いて視線だけを上目遣いにしても、根本的な疲れを改善できません。人間の構造は見上げる動作には圧倒的に向かない。
これは進化の過程でニンゲンの祖先の脅威が足元や水平方向からやってきたからです。毒蛇と野獣。鳥は脅威じゃない。見上げるより見下げるほうが楽です。
体幹を鍛えようが、正しい乗車姿勢を保とうが、上級者らしく取り澄まそうが、自転車乗りはこの人類の悠久の弱点を根本的には解決できません。
てことで、過度の前傾姿勢は目、首、肩にハードワークです。長丁場のロングライドではスポ根は裏目に出ます。
ステムとハンドルを近く高く
楽ちんのカギはステムとハンドルです。短いステムを使う、ステムの角度を上げる、スペーサーを上から下に…ハンドルポジションを遠低から近高に変えましょう。
ぼくは左肩に爆弾を抱えますから、遠出にはライザーバーを使います。フラットバーは△、ドロハンは×です。
首的にはママチャリのどっしりポジションが天使です。ただし、向かい風がもろに来ますし、尻の負担が大きくなります。
むちうちやヘルニアはいやですけど、坐骨神経痛や痔もいやです。美容と健康のためのサイクリングで片意地を張って身体を壊すのはむなしいものです。
結局、らくちんさを阻む最大の敵は乗り手の見栄や意地や固定観念です。とかく、日本人はまじめにストイックに形式主義になりすぎます。しんどさを美化してしまう。
でも、そのときに無理をしても、あとに繋がりません。次がなくなるor遠ざかる。長続きしないものは良い趣味ではない。
サドルを下げて、ハンドルを上げて、タイヤの空気圧をちょろっと下げましょう。サドル下げと減圧はライドの帰りとか疲労時に可能です。
極論、ロングライドにパフォーマンスや効率性を求めるのはアホの極みです。ゆるりと急げ、ぼちぼち行こか。