国内の自転車ブームはロードバイクです。日本のスポーツバイクブームの黎明期以来のなが~い暗黒時代を経て、数十年ぶりに開花します。
ぼくの記憶にこの以前のロードブーム、レーサーブームの思い出はありません。古い記憶のなかの自転車ブームの一番手は『マウンテンバイクブーム』です。つぎが小径車ブーム、そのつぎがピストです。
現在の国内のオフロードバイク事情はかんばしいものでありません。バブル期の大ブーム以来のなが~い暗黒時代に深く埋もれます。
なぜか日本ではオンロードとオフロードは同時に両立しません。コインの裏表のように一面だけが日の目を見ます。陰と陽、メジャーとマイナーです。
しかし、世界全体ではオフロードとオンロードは半々です。大方の有名企業はロードとMTBを作ります。
そして、MTBの機材の進化や変化はオンロード系よりアグレッシブで流動的です。パーツのトレンドの追うのもたのしみのひとつです。そんなマウンテンバイクの種類をさらっと特集します。
MTBの種類
MTBは昔のように一様じゃありません。シーン、ジャンル、カテゴリは細分化します。
- XC
- DH
- FR
- AM
- ENDURO
- Trail
- 4X
XC、クロスカントリーは夏季オリンピックの唯一のオフロードバイクの正式種目です。レース内容はアップダウンを含む障害物周回競争です。バイク的には軽量、高速型です。10kg以下。
DH、ダウンヒルはその名の通りの崖下りです。MTBの花形です。岩場を直滑降で下って、木々を超高速ですり抜け、ジャンプ台から時速60kmで跳びます。バイク的には重量級、頑丈型です。15kgオーバー。
FR、フリーライドはアクロバティックなジャンプやトリックを含むジャンルです。Red Bull Rampageがとみに有名です。DHバイクで宙返りとか3回転とかします。
AM、ENDUROはともにオールマウンテン系です。オフロードバイクのメインストリームです。国内のオフロードマラソンレースのSDA王滝がこれです。中・長距離の耐久型です。
あと、最近までENDUROはふわっとしたジャンルの俗称でしたが、自転車競技の統括団体のUCIの公式種目に認定されました。
公式種目のENDUROは上りと下りを含むタイムレースです。登り区間を制限時間内にざっとクリアして、下り区間のタイムをシビアに競います。
基本的にオフロードの競技種目の下りは不可逆変化です。前年よりマイルドにはならない。年々、タフにタフに、ハードにハードになります。
ちょい乗りオフロード、ハイキングの自転車版がTrailないしTrekkingです。こういうイメージです。
4Xはレース競技です。4人で同時にパークやコースを走って、着順を競います。オリンピックのBMX種目はこの類似系です。小ぶりなハードテイルが主役です。
また、東京オリンピックからフリースタイルパークのBMXが正式種目に加わりました。これは採点競技です。トリックのハデさや難しさを競います。厳密にはオフロードじゃないけど。
ハードテイルかフルサスか
この史上空前に細分化、多様化を続けるオフロードジャンルのなかでは旧来の二択は非常におおらかなものになります。
「ハードテイルか? フルサスか?」
です。
ハードテイル、硬い尾です。ノンサスペンションフレームの自転車の総称です。広義にはクロスバイク、ロードバイク、BMX、ミニベロ、ママチャリさえがハードテイルです。
が、一般的にはサスペンションフォーク + ノンサスフレームのオフロードチャリンコがハードテイルです。こういう自転車です。
こちらはごりごりのDHのフルサスです。サスペンションフォークのストローク(伸縮量)がぜんぜんべつものです。フレームのサスには補強のバネバネコイルが付きます。
細かいところではフォークのヘッド角度、リアのギアの少なさ、リアとフロントのホイールの間隔の広さ、ハンドルの幅が上述のFOCUSのAMやKONAのTrailバイクとは別物です。
チェーン落ち、チェーン外れをがっちり予防するチェーンデバイスはDHやFRにはつきものです。大ジャンプの着地の際にはチェーンは縄跳びみたいにビヨビヨしますから。
フォークが寝ないと、下りがやばくなります。
これが直角90度を超えると、前転でんぐり返りの危険性が跳ね上がります。そんな過酷な45度の断崖絶壁を直滑降しないトレイルやAMバイクのフォークはDHのフォークみたいに寝ません。
フルサスの時代
で、現代のオフロードの主流は完全にフルサスです。下りのゾーンでノンサスフレームのハードテイルは力不足です。ハードテイルでそこそこ下れるなら、フルサスでより速く安全に下れます。
フレームとホイールのカーボン化のおかげで高速オフロードのXCバイクさえがフルサスです。ハイエンドモデルはすでに8kg台へ到達します。一昔前のクロモリ、ツーリングバイク、アルミロードよりぜんぜん軽量です。
ハードテイルの利点は軽さ、価格の安さ、メンテ性です。フルカーボンの最新フレームが15万です。そこそこのリアサスは3万~、サスフォークは5万~です、単品で。DHの最上位モデルは20万です。
うちのメイン機のようなハードテイルのリジッドフォークのバイクはトレイル、ゆるい階段、グラベルしか行けません。階段を下ると、もれなく手首をがたがたゆわされます。ジャンプの着地はやや不安です。
ロックアウトで疑似ハードテイルに
また、サスやショックスのロックアウト機構が優秀になりました。レバーをひねるorリモートをクリックすれば、サスペンション機能をかちっとロックできます。
じゃあ、あら、ふしぎ、フルサスフレームが一時的にハードテイルになります。ペダリングのパワーがサスペンションに吸収されません。これは上りや平地で活きます。
純粋にオフロードのためにMTBを買うなら、フルサスにしましょう。良い機材はライダーを助けます。初心者はより安全に直感的に、上級者はよりテクニカルにスピーディに走れます。
エンデュランスロードで復活、ソフトテール
オフロードで忘れさられたもののひとつにソフトテールがあります。これは簡易な振動吸収機構を持つフレームのことです。KHSの折り畳み自転車がこのソフトテールを専売特許にします。
このソフトテール、激しさの一途をたどるオフロードではすっかり廃れますが、タフさを増すロードバイクのクラシックレース用のエンデュランスモデルにちょくちょく出てきます。
最近ではピナレロのDOGMA K10Sの電動サスペンション、ラピエールパルシウム、Wilier Cento10 NDRの最新型エラストマーソフトテールがにわかに注目です。
ドロッパーシートポスト
前世紀の自転車界の最大の発明はクイックリリース、今世紀のそれはドロッパーシートポストです。
リモートやレバーでポストの長さが可変します。安物はコイル式の有限トラベル、高物は油圧・空気式の無限トラベルです。このTHOMSONのドロッパーは4万です。ぱひー!
でも、安価なドロッパーが登場しました。Brand-XのAscendは15000円です。そこそこの軽量ポスト+5000円で無限トラベル、リモート付き、ステルスタイプのドロッパーを買えます。
台湾のサス屋のKINDSHOCKの社長がレンタルサイクルのサドル高をいちいち調整する手間をはぶくために事務椅子の可変機構から着想しました・・・てのがドロッパーの開発秘話のひとつです。
なぜかそのキワモノアイテムが街乗り自転車で一般化せず、オフロードで一般的になります。ふしぎなものです。
自由自在のサドル高
ドロッパーの登場でサドル調整は過去のものになりました。レバー一押しでその日、その時のベストフィーリングのサドル高を自由に決められます。
サドル高を走行中に変えられる利点は特大です。オールマウンテンやトレイルではもちろんですし、街乗りや遠乗りにすらバツグンの効果を発揮します。てか、オリジンが街乗り用途ですし。
ぼくはきつい下り上り、繁華街、向かい風、疲れたとき、トリック練習や! みたいなときにはサドル高を落とします。とくに街乗りののろのろ徐行では足付きの良さがかんじんです。
ハンドルのグリップポジション、ペダルの足の置き方と同じく一定の姿勢を長くとり続けるのは疲労のもとです。遠乗り、長乗りで疲れても、5mm、1cmとサドルを下げれば、疲労度をやわらげられますし、気分を変えられます。
体感的の差は、
クイッククランプ=シュークリップ、ストラップ
ドロッパー=ビンディングペダル
です。手間のかかり方がぜんぜん段違いです。
短所は重さです。ドロッパーは500gのヘビー級ポストです。リモートレバーとケーブル込みの重さは軽量シートポストの約3倍です。
個人的にはドロッパーは必須アイテムですが、この重量増は人を選びます。g単位の軽量化にこだわる人には向きません。
26インチ? 275? 29er?
「26? 275? 29?」
この三択もやや古風なものになります。答えは『タイヤによる』です。旧来のオフロードタイヤは2.0-2.5前後でした。ここへ2.5-3.0のワイド化の波が訪れます。プラス系、セミファットタイヤです。
タイヤの比較イメージです。
26インチ、275インチのセミファットが1サイズ上のスタンダードと同じサイズ感になります。さらに大きいファットバイクタイヤは4インチ、5インチで、もとのホイールサイズはおおむね26インチです。
26 x 3インチのセミファットは275 x 2.3と同等の大きさになります。ちがいはホイールとタイヤの比率です。タイヤが太く大きくなれば、空気のボリュームが増えます。
空気ボリュームのアップはクッション性アップ、乗り心地アップ、快適性アップにつながります。路面からのがたがたが明らかに減ります。
275は小回り、クイックネスに優れます。また、サイズ的にホイールもタイヤも同クラスの29erより軽く仕上がりますから、瞬間的な加速はそんなに不利じゃありません。
26インチは剛性の観点からコアユーザーにはしばしば重宝されます。でも、トレンド的には完全にアナクロです。
はじめてのオフロードバイクはおのずとAM、ENDURO、TRAIL系になります。これの主流が275と29です。26インチホイールがこの系統の完成車にはバンドルしません。
トリック練習に使うとか、お古を貰えるとか、特別の理由を持たなければ、275か29erを選びましょう。
で、業界では275がしばらく支配的でしたが、大口径の29erが盛り返しました。BOOSTが火付け役です。
BOOSTでホイールがパワーアップ
BOOSTはオフロードの重要なキーワードのひとつです。アメリカの自転車パーツ総合ブランドのSRAM社がこれを提起して、2015年以降のオフロード界をまたたくまに席巻します。
ようはフロントフォークのエンド幅とフレームのエンド幅のワイド化、はたまた、ホイールハブのワイド化のことです。シャフトが従来のものより太く長くなります。
上がリア用の太さ12mm、幅148mmの棒です。下がフロント用の15mm、110mmの棒です。ホイールの真ん中に突っ込んで、フレームとフォークにがちっと固定します。
旧来のものはフロント12-100や15-100、リア12-142です。よりハードなDHやFRのバイク、激太ファットバイクはこの限りじゃありません。
BOOSTのフロントとNO BOOSTのホイールの簡易な比較イメージです。縦四角形がリム、横四角形がハブ、色付き三角形のところにスポークが張ります。
シンプルな発想です。横幅(ハブのフランジ幅)が広がれば、三角形の底辺が広がって、安定感が増します。
この影響で29erサイズさえがレースレベルの強烈なライドに耐えます。XCの世界王者のニノ・シューターはBOOSTホイールの登場後に275から29erに乗り換えて、勝利を重ねます。
そして、この人は欧州のでっかいメンズのなかでは小柄な173cm、68kgのスイス人です。中肉中背、日本人平均みたいな体格です。
その小柄な巨人が275を捨てて、29erのBOOSTバイクを選びます。275のクイックネス < 29er BOOSTの走破性とスピードです。泣き所の剛性はワイドフランジで解消されました。
もちろん、これは魔法の万能アイテムじゃありません。しかし、まぎれもなく29er BOOSTは現代の最強ホイールの一角です。
29er=700c
あと、29erのホイールサイズはロードバイクの700C系とおんなじです。CXタイヤや25cタイヤでオールロード化、クロスバイク化できちゃいます。邪道だけど。
はい、7kg台が射程圏に入ります。さらにMTBフレームの安定度、BOOSTハブの剛性、カーボンリムの軽さで加速がえげつないことになります。あくまで邪道ですけど。
ぼくの経験ではこのホイールのC22のリムには700x25cから29 x 3.0まで入ります。フレームとフォークのクリアランスがOKであれば、タイヤ次第でオンロード、オールロード、オフロードの切り替えが可能です。
正統派のアカデミックな人はこういうミックスちゃんぽんには眉をひそめましょう。でも、スポーツバイクは安い買い物じゃありません。遊びつくし、いじりつし、味わいつくすのがホビーライダーの真骨頂です。
275を選ぶなら、プラス系のセミファットタイヤにしましょう。BOOSTの剛性と太いタイヤのエアボリュームのおいしいところを総取りできます。
ですから、全体の骨子は『ホイールをかちっと組んで、タイヤでキャラクターを変えて、用途を振り分けてみよう』てところでしょう、おそらく。
硬いのを柔らかくするのは可ですが、柔らかいのを硬くするのは不可です。剛は柔を兼ねる、それがBOOST化とセミファットの思想です・・・て、ぼくのしろうと目にはそう思えます。
実のところ、これよりさらに広い太い110×20、150×12のハブは昔からあります。さらにSUPER BOOST 157みたいなのを一部のブランドがします。
しかし、これはトレンドではありません。実際、ぼくの候補には入らなかった。BOOSTがトレンドです。
初心者におすすめのMTB
初心者は絶壁を超速で下るとか、ビルの上からジャンプするとか、ヘアピンカーブをノンブレーキで曲がるとかしません。専用機材のDH、FR系バイクは候補から外れます。
おのずとAM、ENDURO、Trail系ジャンルのバイクが残ります。これらは各ブランドの売れ筋主力商品です。焼肉屋の上カルビ、定食屋のAランチのようなものです。
ポイントはBOOST、29er、ドロッパーです。あと、お金持ちはeBIKEをお買い求めください。