自転車タイヤは3種類です。チューブラー、クリンチャー、チューブレス。これはタイヤxチューブxホイールリムの自転車足回りシステムの大別です。
で、このシステムの主役のタイヤの部位がこうです。
で、上記の部位の形状でもう一つの分類が派生します。オンロード系のつるぺたの細タイヤ、実用系のノーマルなふつタイヤ、オフロード系のデコボコなごつタイヤです。
つるぺたタイヤのフォーマルな名称はスリックタイヤで、でこぼこタイヤはブロックタイヤです。中間がセミスリックタイヤです。
ここではロード系のつるぺたスリックタイヤに焦点を当てましょう。
スリックタイヤ
オンロードのレーサータイプの自転車のタイヤはスリックタイヤです。みぞなし、ひげなし、ブロックパターンなしのつるぺたです。
これはシュワルベワンのチューブラータイヤです。
爬虫類のうろこみたいなひし形のパターンが入りますが、このくらいのミゾミゾはスリックの範疇です。装飾の要素が大だ。が、機能はゼロではありません。
タイヤのミゾの意味
車両のタイヤの排水用のミゾは専門用語でサイピングて称されます。このサイピングなしのタイヤがスリックタイヤです。F1カーのつるぺたタイヤが代表格です。
モータースポーツのスリックタイヤは熱で溶けて、地面と密着しながら、グリップを稼ぎます。ゆえのつるぺたフェイスです。
一方の自転車のスリックタイヤはひとえに重量節約のたまものです。ブロックタイヤのブロックはかさみます。ごついブロックタイヤはさらにかさみます。
MTBのトッププロはわざわざ一回の決勝戦のためにブロックタイヤのブロックをすこし切り取って軽量化&フラットセクションの抵抗減を試みるてゆう作業を惜しみません。
で、このブロックをこそぎ落として、つるぺた、うすぺら、ほっそほそにすれば、タイヤを軽くできます。スリックタイヤの最軽量クラスは150g前後です。
軽さと薄さはもろさとよわさの裏返しです。こういう超軽量タイプは長距離や継続使用には不向きです。タイム狙い、イベントレースが活躍の場です。
スリックタイヤは雨に弱くない?
自転車のスリックタイヤのまことしやなかなうわさばなしに『雨で滑る』説があります。これはモータースポーツのスリックタイヤからの輸入品でしょう。
で、『自転車のスリックタイヤは雨で滑るか?』て疑問の答えはYESです。げんみつには『ロード系のタイヤが滑る』です。
自転車のスリックタイヤ=ロード軽タイヤ=細軽薄タイヤです。軽い細い薄いゴムのわっかは雨や砂でたやすく滑ります。スケート靴みたいなものです。
シクロクロスやオールロード系の真セミスリックタイヤはそこそこグリップします。ウェット、マッドサンドはライドの条件に含まれます。で、太さと重さが増す。30mm~、300g~です。
前段のSchwalbe ONE HTみたいなロード系のなんちゃってセミスリックはそうではありません。本質は細軽薄タイヤです。得意コースはドライな舗装路です。ウェット、マッド、サンドは苦手だ
しかしながら、装飾パターンの影響はゼロではありません。ロード系のスリックよりグリップしますし、水を掃けます。が、オールロードの真セミスリには及ばない。幅と重さと空気圧がちがうから。
ロード系スリック < ロード系疑似セミスリ < オールロード系真セミスリ < オフロードスリック < ブロックタイヤ < スパイクタイヤ
てところです。タイヤパターンだけでグリップは決まりません。幅と重さと空気圧が決め手です。そして、タイヤのグレードとメーカーですね。
雨の日のスリックタイヤのてろてろ感は異常です。
空力的にはみぞが正解
で、このことから「自転車タイヤのみぞは無意味だ」てのが定説化します。しかし、最近の研究で「このみぞはエアロ的には良好だ」てレポートがちらほら上がります。
とくにショルダー部分の文様のエアロ性能が熱視線を浴びます。
これはゴルフボールの表面のでこぼこ装飾に通じます。完全つるぺたボールよりでこぼこのディンプルボールのほうが安定してよく飛びます。つまり、空気抵抗が小です。
ZIPPのディープリムホイールはまんまでこぼこディンプル形状ですし。
新幹線のパンタグラフは細かいギザギザの表面を持ちます。これの元ネタはフクロウの風切りばねの構造です。セレーションてゆう細かいギザギザが空気抵抗を減らして、飛翔音を消します。
タイヤとボールとマグヌス効果
数年前にサッカーのフリーキックのぶれ球とか無回転ボールが話題になりました。ケイスケ・ホンダ、クリスチャーノ・ロナウド、ピルロ、ジュニーニョ・ペルナンブカーノなどが有名です。
流体中を移動する回転体の周囲の渦は安定しますが、無回転のそれは不安定です。で、予測不能の変化が起こります。これがかの有名なマグヌス効果のたまものです。
かりにサッカーボールがゴルフボールみたいに細かいディンプル形状であれば、無回転で蹴られても、あんな急激に不規則な変化をしません。空気の渦がでこぼこで分散されます。
で、自転車タイヤやリムはザ・流体中を移動する回転体です。ザ・マグヌス効果の影響をもろに受けます。
で、つるぺたスリックタイヤは無回転ボールやナックルボールに値します。みぞみぞセミスリタイヤはシュンスケ・ナカムーラのカーブボールやダルビッシュのスライダーに通じます。
自転車タイヤ的には不安定より安定、大抵抗より小抵抗がジャスティスです。不安定なつるぺたスリックより安定なセミスリックの方が空力には有利です。
絶妙な後付けくささがただよいますが、最近のケンキュー結果はそうなります。乗り手がそれを体感できるかは定かではありません。
水はけの効果は微小ですが、ゼロではありません。というわけで、エアロ全盛の現代チャリ界ではつるぺたタイヤのターンは終わり、セミスリタイヤの時代が来ました。
そのせいか、ほんとのつるぺたの真スリックタイヤは少なくなりました。最近のハイエンドタイヤの新商品はおおむね装飾入りです。
ちょっと待て! それはほんとにマグヌス効果か?!
てゆうことをぼくのうろおぼえの知識で書きましたが、マグヌス効果を仕事で扱う方からくわしいおたよりをいただきました。Iさま、ありがとうございます。
この浮力、揚力のおかげでカーブボールは空気のながれにひきずられて回転方向に曲がり、縦の順回転のドライブシュートはがくんと落ちますし、逆回転のストレートは上図のようにホップします。
これを参考にしつつ、各項目にダメ出しをしていきましょう。
無回転の物体の気流は不安定。マグヌス効果でゆれる→マグヌス効果は回転体のながれと垂直にはたらく力。無回転のものにマグヌス効果ははたらかない。
自転車タイヤはマグヌス効果を受ける→マグヌス効果はなにもないところに置かれた(気体中、液体中)回転体にはたらく事象。地面に置かれてフレームの影響を受ける自転車のホイールは対象外。
無回転ボールは不規則にナックルする。不安定なマグヌス効果だ。→ナックルの原因はボールのぬいめ
ゴルフボールのディンプルはマグヌス効果に影響する→ディンプルは空気抵抗の軽減には影響するが、マグヌス効果にはじかに影響しない。
だそうです。うーん、マグヌス効果、むずい。マグヌスと乱気流が頭の中でごっちゃになります。
自転車にあてはめてみましょう。
ホイールの回転は進行方向への縦の順回転です。ドライブシュートですね。イメージではマグヌスは下向きにはたらきます。
しかし、ホイールの形状がふくざつで回転体や円柱とは様相を異にしますし、地面が空気の流れにじゃまです。
効果があったとしても、ほかの部分の空気のながれでかき消されそう。でも、一枚物のモリモリディンプルなディスクホイールにはマグヌス増幅効果がありそうな気もします。あ、タイヤじゃねーか。
ホイールの部分でもっともすなおにマグヌスするのはハブですね。
円柱形ですし、空気中に半浮遊しますし、ぐるぐる回転します。マグヌスフレンドリーです。ハブの表面にディンプル付けたら空気抵抗減りそう。
ひとおもいにフルディンプル加工のカーボンフレームとかが出ませんかね~?