最近の健康志向、フィットネスブームの高まりでこれまで日の目を見なかったものがにわかに脚光を浴びます。
ロードバイクはその一つでしょう。一昔前には『ロードレーサー』と呼ばれて、おっさんくさいものとみなされました。
美化的表現では『紳士のたしなみ』や『成熟した大人のあそび』です。ジャンル的には釣り、ゴルフ、登山に近しくなります。
通俗的には『おっさんのスポーツ』で『中年の趣味』です。そして、日本ではメジャーな分野ではありません。自転車の本場は欧米です。
しかし、2010年前後から日本に空前のロードバイクブームが来て、このおっさんくさい自転車がスタイリッシュなフィットネスマシーンに早変わりしました。
また、週刊少年チャンピオンに連載中の自転車漫画の『弱虫ペダル』は旧来の自転車好き、ロードレースファンと対極にある若い女子を呼び込みました。
現代の日本ではスポーツ自転車=ロードバイクです。ブームのピークはさすがに過ぎましたが、この源流的な競技用自転車が根強い人気を継続します。
ロードバイクってどんなもの?
ロードバイクは基本的に競技用機材です。プロのロードレースがあり、プロのロード選手がいます。本質はスポーツ用品です。勝利のためのマシーンだ。
ルールからの逆算で生まれる
レースにはルールがあります。このルールから機材のデザインやレイアウトが決まります。これがプロの高級モデルから一般向けの入門モデルまで影響します。
自転車競技のルールを決めるのがUCIという世界中の自転車競技を統括する団体です。ここがロードレースの自転車の形を実質的に決めます。
- ホイールの大きさ:700c
- 車輪の数:2個
- フレームの形:ダブルトライアングル
- 重量:6.8kg以下
などです。こまかいところでは靴下の長さとかもあります。大昔にはレース競技者のサポートが禁止だったり、変速機が禁止だったりしました。
選手やチームはこれらのルールを守らないと、レースに出場できません。レースに出ない機材はただの高価な置物です。
プロ用も入門者用も競技用機材
ロードレースのルール内の最高の自転車がトッププロのロードバイクです。このデザインやトレンドは上から下に流れます。
サッカーのスパイクシューズ、3万円の天然皮の高級モデルも3000円の安い合皮の練習用も専用のスポーツ用品です。スニーカーやランニングシューズではない。
同じく入門用のロードバイクもママチャリやシティサイクルみたいな生活用品ではありません。セミスポーツバイクのクロスバイク、ルック車ともちがう。
ロードバイク=ロードレース用の自転車です。趣味のサイクリングに使うにしても、運動不足の解消に使うにしても、街乗りに使うにしても、その本質を見逃さない。
この基本ポイントを押さえないで、あれこれおすすめされても、まったくぜんぜん混乱します。
とくにネットの情報では自転車の種類と用途の区別があいまいです。『ラケット』はなにを意味します? テニス、バドミントン、卓球?
ロードバイク=ロードレースの自転車です。
ロードバイクの選び方
一時期の熱狂的なブームと情報のかたより(ネットの普及と個人の情報発信とロードブームが重なった)のせいでスポーツ自転車=ロードバイクのイメージが広まります。
しかし、スポーツ自転車はロードバイクばかりではありません。マウンテンバイク、BMX、競輪などはプロスポーツです。
非スポーツ系の高級嗜好品、趣味の自転車としてミニベロや折り畳み自転車は人気です。
走れて使えるクロスバイク、旅行に行けるツーリングバイク、オフロードとオンロードで遊べるグラベルバイクなどなど。
ロードバイクは自転車のなかの一部門に過ぎません。前述のように本来はロードレース用のマシーンです。
ロード=道路=近代的な舗装路
で、このロードレースの『ロード』は英語では”ROAD”で、日本語では『道路』です。狭義には『近代的な舗装路』を指します。
石畳の舗装路や砂利の舗装路は”ROAD”ではありません。石畳の道は自転車業界では”Pave”で、砂利の道は”Gravel”です。
石畳の舗装は国内ではほとんど見られませんが、ヨーロッパではローマ時代のものがあちこちに残ります。
日本の道路の舗装は世界的にきれいです。アスファルトコーティングがすみずみに行き渡ります。その点、国内はロード向きの土地柄ではあります。
無数のコンビニと自販機と自転車屋とモバイルネットワーク網がこれを助けます。逆に広大なアドベンチャーやツーリングは難題です。
ロード風ルック車はまだましです。マウンテンバイク風ルック車はしゃれになりません。生活用品で崖を下れない・・・
ロードバイク購入の予算
ものには相場があります。主要なブランドやメーカーのロードバイクの下限は10万円です。
ロードバイク風のフィットネス自転車、ロードバイクっぽい実用系グッズ、『ロードバイク』の商品名や説明文で飾られるネット商材などは無限にあります。
しかし、ロードバイクはスポーツ用品で、競技用機材で、専用品で、勝利のためのマシーンです。
別記事の最新のおすすめロードバイク2020にあるようなメーカーものの入門用ロードバイクはおおむね10万円です。
ノーブランド、新興メーカー、訳あり品、セール品、処分品、中古、試乗車諸々はこれより3-5割まで安くなります。
でも、プレーンな相場は10万円です。卵10個が200円みたいなものです。特売で99円にはなりますが、50円にはなりません。
相場より割安のものには訳があります。通期で5万円のロードバイクはロードバイクではありません。ロードバイク風自転車やロードバイクみたいな自転車です。
通年で50円/10個の卵はなんか怪しく見えませんか?
究極、5万円の『ロードバイク』は本質ではなく、そのような商品名です。自転車をぜんぜん知らない人は形と値段とタイトルしか見ず、「ポチ!」ってしてしまいますから。
ゆえにロードバイク=ロードレース用のスポーツ機材の予算は10万円~です。
「ママチャリじゃないちょっとスポーティな安い自転車欲しいな~」という人はロードバイク風の自転車=ルック車を買いましょう。
こちらの予算は2-4万円です。スポーツ用機材ではありません。割高な価格設定のポップな実用品、はたまたネット通販用の商材です。
年齢、身長、性別からモデルを逆算する
ロードバイクやマウンテンバイクの本場は欧米です。サイズやデザインの基準は欧米人です。出発点がアジア人向けではありません。
そんなわけで車体もウェアもアクセサリーも日本人には大きめ、長めです。ただし、シューズとメットは縦長だ。自転車の靴選びはアジア系の幅広足の人には大変です。
アジアの経済の拡大でスポーツバイク市場が欧米の外に拡大して、オプションモデルがふつうになります。
アジア向けのウェアのオプションモデルはだいたい『アジアンフィット』ですね。日本向けモデルも少なくありません。
アジア人向けの女子モデルはながらく不遇でしたが、2010年以降に大手が専用レーベルを立ち上げます。
GIANT LIVは有名です。このGIANT箕面店の右の建物は女性向けモデルの棟です。LIVの文字が見えますね。
ほかにアメリカのSpecializedなどが女子レーベルに力を入れます。既存の男子のユーザーが頭打ちですから。
逆に国内のマウンテンバイク乗りは海外の女子選手の機材セッティングを参考にしたりします。欧米の女子ライダーはふつうに170cmの65kgとかです。体格が一緒だ。
初心者向けメーカー
世界にはたくさんの自転車メーカー、スポーツバイクブランド、ロードバイクレーベルがあります。
また、たくさんの企業が長い年月のあいだに浮き沈みします。ブランドの消失、買収、復活は日常茶飯事です。
ついでに自転車の製造現場がアジア圏に移ってしまいました。工場は中国、台湾に集中します。
最早、製造国のシールではもののよしあしは分かりません。『本社アメリカ、設計ドイツ、製造チャイナ』みたいなものはすでに一般的です。
では、なにが『初心者向け』の指標になるか?
- 買いやすさ
- 公式ページの情報量
- 価格
そんなところです。
「フランス製の特殊製法の希少なラグジュアリーロードバイク」みたいなものは心をくすぐりますが、完全な初心者にはこういうものは鬼門です。
希少なものの購入情報は絶対的に少なくなりますし、少数の購入者や熱狂的な信者の大きな声で容易にかたよってしまいます。
やはり、売れ筋、定番路線がはじめてのロードバイクにはおすすめです。
- GIANT
- MERIDA
- ビアンキ
- TREK
ここらのブランドはツールドフランスの常連ですし、日本国内にコンセプトストアがありますし、大きなスポーツ用品店や一般自転車屋に実物があります。
日本ブランド、日本規格では
- アンカー(ブリヂストン)
- ルイガノ(あさひ)
- コーダーブルーム(ホダカ)
などです。ただし、国内版ルイガノは2018年頃からカジュアル路線になりました。ロードバイクやマウンテンバイクは終売ないし縮小のようです。
初心者へおすすめするロードバイク
ここまでロードバイクの本質や初心者がよく誤解するポイントをじっくり説明しました。いよいよ具体的なおすすめモデルを紹介して行きましょう。
選出対象は上述の狭義の『ロードバイク』です。さらにロードバイクのなかのスタンダードな、オーソドックスな、保守的なものを選びします。
全体の商品画像をこちらで使用できますから、おもにアマゾンの商品リンクから紹介します。
自転車通勤、ダイエット、イベントなどの大まかな用途、軽量、長距離タイプ、安定性などの細かいニーズを自問自答しつつ検討ください。
わざわざロードバイクから選ぶ?
最後に注釈を入れましょう。上述のように『ロードバイク』は非常に限定的です。たかだか自転車の一部門に過ぎません。
その世界は窮屈で限定的です。決まり事、暗黙の了解、ルール、マナーが多くあります。自転車シーンのなかではフォーマルでアカデミックだ。
この狭義の窮屈な『ロードバイク』に拘らないなら、マウンテンバイク、グラベル、ランドナー、ミニベロ、折り畳み、BMX、E-bikeなどの自転車全般を視野に入れましょう。
極論、ロードバイクはスポーツ自転車の入門には向きません。前傾姿勢はスタイリッシュに見えますが、目と首と肩に異常な負担を及ぼします。
あと、ものすごくシンプルな強い根本的な理由があります。ロードバイク用のサドルが一般人には硬すぎる。
初心者の第一の挫折ポイントがこれです。ベテランもこれに悩みます。快適さや実用性や利便性は二の次です。なぜならそもそもが競技用機材だから。
自転車のたのしさとロードバイクのたのしさは別物です。初心者が自転車のたのしさを手軽に味わうなら、5万円のクロスバイクを買いましょう。
GIANT TCR
GIANTは台湾の自転車メーカーです。製造、設計、流通、販売、アフターケアまで自前でこなせます。
上記の事情でこれは業界ではレアケースです。大半の自転車ブランドが製造から手を引いて、設計やデザインやコンセプトに専念しますから。
そのGIANTのロードバイクがTCRです。
コスパ、性能、実績、品質の三拍子がそろいます。難点はブランド力の低さと被りやすさです。
MERIDA SCULTURA
GIANTに次ぐ台湾の大手自転車メーカーがMERIDAです。SCULTURAは同社のスタンダードなロードレーサーです。
MERIDAブランドのスポーツバイクは日本では新興グループに入ります。2015年以降に国内代理店が変わったか、方針が変わったか、露出があきらかに増えました。
実力は業界では折り紙つきです。アメリカの名門自転車ブランドのスペシャライズドや日本のアンカーの自転車はメリダ製です。
特徴はGIANTのロードと共通します。コスパ、性能、実績、品質はトップクラスですが、アジアブランドの宿命でステータスは高くない。
ただし、メリダはGIANTほどには被りませんし、日本人トップレーサーの新城幸也はメリダのロードに乗ります。
Bianchi Via Nirone
ビアンキはイタリアの自転車ブランドです。鞄屋さんではありません。
アイコンカラーのおしゃれな空色『チェレステ』と『100年以上の歴史』と『イタリア』いう三本の矢を活かして、アパレル分野にビジネスを広げます。
しかし、本業は自転車屋さんです。おしゃれなイメージとうらはらに現存の大手自転車ブランドでは最古参の老舗で名門です。
その空色のバイクはロードレースやマウンテンバイクXCのトップレースで活躍します。そして、女子の人気を一身に集めます。
いちばん人気は入門グレードのヴィアニローネのチェレステカラーです。女子向けのXS~Mサイズは毎年のように売り切れます。
逆にLサイズのマットブラックなどは売れ残って、セールによく掛かります。
コスパは台湾二強に劣りますが、おしゃれさ、ブランド、ヒステリー、知名度は群を抜きます。チェレステとイタリア国旗がはずるい組み合わせです。
ANCHOR RS
ブリヂストンは世界屈指のタイヤメーカーです。自動車タイヤのシェアは世界一です。略称はBSです。
このBS印の自転車は国内ではおなじみです。通勤通学用の軽快車のアルベルトはロングセラーの人気モデルです。5万円の価格設定は実用系では最高クラスです。
もちろん、ブリヂストンサイクルの製品は台湾製・中国製です。BSはゴムメーカーですが、自転車メーカーではありません。
さらに意外なことがあります。BSの自転車タイヤさえが外注品です。Made in Taiwanの記載がパッケージにきちっとあります。
- ブリヂストンの自動車タイヤ=国産
- ブリヂストンの自転車=中国、台湾
- ブリヂストンの自転車タイヤ=台湾
一つ目と二つ目は分かりますが、三つ目は腑に落ちません。自転車部門=外注という方針でしょうか?
そんなBSサイクルのスポーツ自転車レーベルがアンカーです。設計、デザインはブリヂストン、製造はメリダ及びメリダ系のファクトリーです。
アンカーのロードバイクのよさは日本人向けの親切設計です。アジアンフィットよりさらに日本人向けのジオメトリ=自転車の各部の寸法を採用します。
海外のトップレースの実績は振るいません。欧州の主要レースにアンカーのバイクは見当たりません。
プロ選手はチームに属します。機材はチームに配給されます。日本人トップレーサーさえがアンカーには乗りません。
日本国内ではアンカーのブランドとステータスはそこそこです。デザインは非常に無難です。良くも悪くも日本企業風でまじめだ。
ルイガノのロードバイク
“LOUIS GARNEAU”はカナダの自転車アパレルメーカです。大阪の代理店のAKIコーポレーションがこの看板を借りて、『ルイガノ』の自転車を売り出しました。
キャッチーな名前、日本人向け設計、おしゃれな雰囲気、おもとめやすさからこれが大ヒットしました。
ホームセンター、量販店、ネット通販のスポーツバイクの中では非常に良心的な存在でした。
数年前にこのルイガノの販売権がサイクルベースあさひに移りました。そして、去年から路線がよりカジュアルになって、ロードやMTBがカタログから消えました。
ルイガノ公式ページを見ると、方向性の一大転換を目の当たりにできます。~2017のカタログには本格的なものやユニークなものがありますが、2018~のカタログには皆無です。
そんなわけでルイガノロード=旧モデルの型落ちとなります。どこかで新車の在庫を見つければ、割引交渉できましょう。
ちなみにカナダ本家のLOUIS GARNEAUはスポーツバイク部門レーベルの”GARNEAU”を展開します。こちらはバリバリのスポーツバイクです。
GARNEAUレーベルの自転車の代理店もサイクルベースあさひです。実店舗はファミリー向けですから、本格的なGARNEAUの展示車は多くありませんが。
KHODAA BLOOM FARNA
コーダーブルームは日本のホダカの自転車レーベルです。”Khodaa”は”HODAKA”のアナグラムです。
ホダカはGIANTグループの一員でしたから、おそらく現行のKhodaaもGIANTないしGIANT系のファクトリーで作られます。
展開はほとんど国内のみです。設計、デザイン、コスパ、品質は〇、ステータス、ブランド力、実績は△です。海外トップレースの出場経験がない。
日本発のよしみで共通点がアンカーと似通いますが、コーダーには『同価格帯で最軽量クラス』という強力な武器があります。
自転車乗りはこの『軽さ』で訴えられると、てきめんに弱くなります。軽量信仰、軽量神話の教徒は国内のロードバイク界の多数派勢力です。
このコーダーブルームのつよみはクロスバイク、ミニベロみたいなセミスポーツ自転車に共通します。
反面、その信条が必ずしも通用しないマウンテンバイクは得意ではありません。気休めにハードテイル二種のみがリストに載ります。
売れ筋はFARNAシリーズです。超軽量、日本人向け設計、手ごろな価格、モダンデザインのコーダーの看板です。
もっとも、同じコンセプトを持つクロスバイクのRAILシリーズが軽く10kgを切ります。無印のRAIL 700が9.4kg、軽量タイプの700 SLが8.7kgです。
お値段はそれぞれ6万円、8万円です。85000円のFARNA 700 Clarisモデルより軽量で割安です。
はじめての自転車を楽しもう!
ロードバイクの本質を知って、ブームやトレンドに捕らわれず、フラットな目線で視野を広げて、用途や目的をしっかり自覚できれば、自転車をより楽しく活用できます。
ロードバイク、マウンテンバイク、クロスバイク、ミニベロ、折り畳み自転車、ツーリングバイク、グラベルバイクランドナー、Ebike、ママチャリ、あなたが本当に望む一台はどれでしょう?