自転車の特徴のひとつがギア、変速の多さです。ママチャリは1速、通学軽快車は内装3速です。6速のシティバイクは世間的にはもう超高性能なスーパーマシーンです。
これが入門用のクロスバイクでは一気に3×8=24段変速になります。ロードバイクの変速数は2×11の22Sや2×12の24Sです。ランボルギーニより多段じゃないか!
リカンベントみたいな特殊な車体にはフロント、ミドル、リアの三枚ギア構造のものが存在します。2x2x10の40弾速とかです。歯車の魔物、ギアモンスターです。
ギアの多さ=高性能?
スポーツバイクの変速数の多さは初心者の目には魅力的に映ります。ギアの多さは高性能の証拠です。
しかし、これは門外漢の早とちりです。変速数の多さは走行の一助にこそなれ、本質ではありません。30速の自転車は3速のチャリの10倍の性能ではない。
むしろ、ギアの過剰な段数は利便性を悪化させ、トラブルの原因になります。現実の使い勝手では3×8は1×8や1×6に劣ります。フロント変速が非常に煩雑だ。
そして、3×8=24や2×11=22の数式さえが厳密には正しくありません。この多段ギアのからくりをひもときます。
多段変速の仕組みと利点
自転車の外装の多段変速機構はアナログなものです。
複数のギアをホイールに取り付けて、メカの動作でチェーンを意図的に脱輪させて、別の歯車にガチャッと乗せ換えるというシンプルな仕組みです。
変速数はギアユニットの歯の枚数で決まります。11速は11枚、シングルスピードは1枚ぽっきりです。
シングルギアはシンプルさの極みです。トラブルの少なさと耐久性は多段変速の比ではない。
でも、物理的にギアチェンジできませんから、一定のギア比でしか自転車を漕げません。上り坂が弱点です。
この点、多段変速の自転車は臨機応変です。乗り手の体力や脚力、路面の傾斜や速度に合わせて、適切なギアで走れます。
仮にギアを20Tから40Tにシフトチェンジすれば、2分の1の軽さでえっちらおっちら登れます。ペダルひとこぎの進みは半分になりますけど。
逆にこんなゆるい下りや追い風の平地ではギアを重くして、ペダルひとこぎの進みを大きくできます。
変速のタブー
変速機は便利なものですが、常に一定の制約や縛りを受けます。とくに外装変速機はトラブルの塊です。パーツが剥き出しで、外に張り出しますしね。
2xや3xのフロント多段の自転車のNG行為がたすき掛けです。これは前後ギアを内-外or外-内の組み合わせにすることです。
このパターンではチェーンラインがたすきみたいに斜めになります。
常識的に歯車と歯車をつなぐ連結部品が斜めになるのは良好な状態ではありません。シンプルに掛かりが浅くなる。
理想はまっすぐです。前後ギアが平行になって、チェーンがぴーんと張ります。
綱引きを思い浮かべてください。斜めに引くのと、真っすぐに引くの、どちらが効率的でしょうか? はい、真っすぐに引く方が明らかに効率的です。
つまり、たすき掛けはパワー伝達の点で不利です。さらにチェーン落ちの確率が倍増します。非推奨は納得です。
このために前後ギアの内-外、外-内のギアが非推奨となります。問答無用で有効的な変速数が-2です。
現実に販売店やメーカーは「たすき掛けを止めましょうね! フロントのまんなかのギアを使いましょうね!」と唱えます。
しかし、お客さんは右から左へ聞き流すか、そんなに深刻な構造的欠陥と思わず、たすき掛けをやって、チェーンを落としてしまいます。
クロスバイクのギア比の重複
「フロント3枚、リア8枚で24段変速だ!」
ライトユーザーには夢のような段数です。仮に律儀にたすき掛けの組み合わせを差し引いても、22速の圧倒的変速数を手中に納められます。
たしかに総当たりの純粋な変速のパターン数はフロントギアxリアギアの枚数です。しかし、ギア比は部分的に重複します。完全に一致せずとも、誤差の範囲で吸収されます。
大人気クロスバイクのGIANT ESCAPE R3のギアを見てみましょう。
- フロントは3枚、ギアの歯数は28-38-48
- リアは8枚、歯数は11-13-15-18-21-24-28-32
たすき掛けが28-11、48-32です。これは問答無用でアウトです。のこりの22パターンのギア比を総ざらいしましょう。
計算式はリアの歯数/フロントの歯数です。小数点以下4桁は四捨五入です。
- 48/11=4.36
- 48/13=3.69
- 48/15=3.20
- 48/18=2.67
- 48/21=2.28
- 48/24=2.00
- 48/28=1.71
48/32=1.50たすき掛け
- 38/11=3.45
- 38/13=2.92
- 38/15=2.53
- 38/18=2.11
- 38/21=1.81
- 38/24=1.58
- 38/28=1.36
- 38/32=1.19
28/11=2.56たすき掛け- 28/13=2.15
- 28/15=1.87
- 28/18=1.56
- 28/21=1.33
- 28/24=1.17
- 28/28=1.00
- 28/32=0.88
色付きが実質の同ギア比です。で、結局、たすき掛けも近似のギア比に吸収されます。
結果的に正味の変速数は16か17速になります。
こんなふうにきっちり数値を出して比較すると、フロントのインナーギアの28のしょっぱさに気づきます。ミドルギアの38と被りまくり!
48の絶妙なかぶりのなさは優秀に見えますが、一個はたすき掛けでつぶれますし、クロスバイクの48/11は超ヘビーです。
となると、気軽にフル活用できるミドルの38Tギアが名実ともに主役になります。
「38/13の一個下のギア比は38/15でなく48/18だ! フロント一段上げ、リア二段下げ!」
はい、むりゲーです。
ロードバイクのギア比の重複
ついでにロードの11×22のギア比を出してみましょう。手持ちの2X11のセットを参考にします。
- 53/11=4.81
- 53/12=4.42
- 53/13=4.01
- 53/14=3.79
- 53/15=3.53
- 53/17=3.12
- 53/19=2.79
- 53/21=2.52
- 53/23=2.30
- 53/25=2.12
53/28=1.89
39/11=3.55- 39/12=3.25
- 39/13=3.00
- 39/14=2.79
- 39/15=2.60
- 39/17=2.29
- 39/19=2.05
- 39/21=1.86
- 39/23=1.70
- 39/25=1.56
- 39/28=1.39
やっぱり、正味のギア数は16速前後になります。そして、ホビーライダーはこんな複雑な早見表をいちいち暗記しません。