MTBやアドベンチャーバイクではフロントディレイラーは過去の産物になりましたが、ロードバイクやクロスバイクではまだまだ主要な部位です。
- MTB=フロントシングル
- ロード=フロントダブル
- クロスバイク=フロントトリプル
このようにフロントの変速数で大まかなジャンル分けが成立します。
最近のフロント変速事情
下の写真のフレームはフロントシングル設計ですが、マウンテンバイク用ではなく、折り畳み自転車用です。
基礎設計にフロント変速が入りません。ここにメカがごてごて付属すると、変形時や携帯時に嵩張るし、重くなります。フロント変速のメリットがデメリットを上回る。
そして、このフロントディレイラーというのはなかなかのトラブルメーカーです。
マウンテンバイク乗りは数年前からこのパーツとは無縁です。つまり、フロント変速がもたらすトラブルとも無縁だ。
他方、レースシーンのロードバイクにはシビアな変速操作が必須です。フロント変速機のデメリットがメリットを上回る。
クロスバイクのフロントトリプルは慣習的なものです。機能的なものではありません。むしろ、3×8=24速の機能性は全車種中で最悪です。ギア比の被りは増えるし、重量はかさむし、見た目はやぼったくなるし。
ロードバイク乗りとクロスバイク乗りはもうしばらくフロント変速と付き合わねばなりません。
フロントディレイラーの調整 準備編
標準的なロードバイクのフロントディレイラーはロードタイプですが、標準的なクロスバイクのフロントディレイラーはMTBタイプです。なぜならクロスバイクが大昔のロードとMTBの雑種だから。
また、スポーツバイクが多彩化して、変速機も多モデル化します。MTB、MTB DH、ロード、アーバン用、実用系、電動用、シクロ用、グラベル用などなど。『グラベルロード』にはロード系も良く使われますが、CX系やフロントシングル系も良く使われます。
このような事情から車種より個別のパーツのチェックが重要になります。
型番チェックとマニュアル目通し
調整方法の工程はグレードの上位下位、バージョンの差異、年代の新旧で微妙に異なります。ゆえに最初の作業はパーツの商品名と型番のチェックです。
メジャーな自転車変速機のメーカーは世界に三社しかありません。SHIMANO、SRAM、CAMPAGNOLOです。型番を調べたら、それぞれのメーカーの公式ページに行って、マニュアルを見ましょう。
ここではシマノのフロントディレイラーを取り扱いますから、シマノのディーラーマニュアルのページを開きます。が、この公式の説明や図解は初心者には親切ではありません。たまに間違いや説明不足があるし・・・
フロント変速調整の工具
フロント変速調整に必須の工具はアーレンキーです。シフトワイヤーの新調にはワイヤーカッターも必要ですね。
しかし、行程にワイヤー交換が入ると、シフトレバー側の説明が加わって、説明文が冗長になります。ここでは変速調整のみの解説をします。ならば、工具はこうなります。
- アーレンキー
- ドライバー
- 軍手
フロントディレイラーの調整 作業編
では、作業編に移りましょう。今回のフロントディレイラーはShimano 105 FD-R7000とClaris RD-3000 Bです。
R7000系はR9100系、R8000系と同じくシマノ11速第二世代にあたります。第一世代の5800系105と共にロードコンポのベストセラーです。国内ロードブームの影の立役者でしょう。
基本的に同世代のマニュアルの手順は共通します。R7000系の調整はR8000系やR9100系とほぼ同じですが、旧世代の5800系とは異なります。5800系とR7000系は同じ『105シリーズ』であっても、似て非なるものです。
例えば、旧式のリアディレイラー調整ネジの頭はおなじみの+ですが、現行のものは六角ですね。
フロントディレイラーの仕組み
自転車の外装変速機は脱線機です。ディレイラーの綴りは”derailleur”です。打消しの”de”に線路の”rail”と~するものの”eur”で”derailleur”です。フランス語系の単語です。
名は体を表しまして、ディレイラーの移動範囲は線路のように限定的です。上限と下限がある。これが『ストローク』です。12速脱線機はこの範囲の中で11回脱線し、3速脱線機は2回脱線します。この路線本数が『インデックス』です。
ストロークを制限して、インデックスを合わせる・・・これが自転車の外装変速の調整の基本です。上の図ではスプロケの高さ(フリーボディの長さ)がストローク、ギアの厚さが1インデックスです。
そして、外装変速機の構造ではディレイラーが動いても、チェーンが回らないと、脱線が発生しません。ディレイラー=切り替え機、チェーン=電車ですから。ゆえに乗り手は常にペダルを回しながら変速操作を行います。
シフトケーブルを緩める
ディレイラーの自然な状態は無線のときです。
このメカには余計なストレスが掛かりません。内蔵バネの力でフロントディレイラーは縮こまって、フレームに近いローギアの上に移動します。
逆に無線のリアディレイラーはフレームから遠いトップギアに移動します。
いずれの場合にもディレイラーは初期状態では小さいギアの上に落ち着き、ワイヤーで引っ張られると、大きいギアの方向へ移動します。これが変速の仕組みです。
で、ワイヤーの張力が掛かると、ディレイラーの初期位置と本来の可動範囲がぼやけてしまいます。ですから、ワイヤーを緩めて、ストレスを失くし、メカを自然な状態に戻すのが最初の作業です。
ただし、完全に取り外してしまうと、再取り付けに苦労します。特にエンド部分を必要以上に短くカットすると、たるみを取るときに苦労しますね。
プレートをアウターリングと平行にする
フロントディレイラーには平たい部分があります。プレートです。羽、ケージ、ガイドとも言われます。リアディレイラーのプーリーの板の部分と対を成します。
プレートの役目はストローク外への脱線=チェーン落ちの防止です。ロードやクロスなどのノーマルリングにはナローワイドリングのような脱落防止機構がありません。そして、リングが非常に巨大です。チェーン落ちが他の車種より頻繁に起こります。
まず、このプレートの外側の前方の下部をアウターリングの歯の先から1-3mmのところにセットします。
次にこのプレートの前方の部分をアウターリングと平行に合わせます。小さい二つのボルトの”L”の方で調整します。これは”LOW”の頭文字です
プレートの前部分がリングと平行になると、後部分は1mmほど内側に入ります。これをメカの奥のサポートボルトでリング側に寄せます。
バンドタイプの下準備
バンドタイプのディレーラーではこの前にクランプの調整が入ります。クロスバイクや古いロード・MTBのフロントは主にこのタイプです。
これはGIANT ESCAPE RXとSHIMANO Claris FD-3000 Bの組み合わせです。
バンドタイプは便利ですが、たまにズレます。
さらに厄介な問題がコンバーターインサートです。このTiagraのフロントディレイラーのアウターリンクにはその機構があります。
この小さなピンの向きでワイヤーの支点がほんの少し移動します。結果、引き代?が変化して、変速性能に若干の差が出ます。
正しい配線のためには『ケーブル固定位置測定工具』が必要です。
画像の型番は旧ULTEGRA 6800系列です。ほかのシリーズとの互換性があります。このペラペラのツールは変速機のパッケージの付属品です。
が、中古品や完成車取り外し品にはこのツールが付属しません。実際、ぼくが買った新古品のセットの中にはこれがなかった。
バンドタイプのフロントディレイラーを新しく買って交換するときにはこの測定ツールの有無に注意しましょう。ぼくはインサートピンをいちいち入れなおして、変速の調子を見て、手探りで設定しました。
インナーとアウター調整
旧型のロードやクロスバイクのフロントディレイラーはインナーから調整を始めます。逆にR7000、R8000、R9100はアウターからやります。新顔のグラベルコンポのGRXもトップ側からです。
ここではより一般的なクラリスを例にして、シマノの販売店用ディーラーマニュアル通りにインナーから始めましょう。
最初にフロント変速のシフターをカチカチ操作して、レバーをローの状態に戻し、アジャスタを根元まで締めます。
次にリアの変速を大きいギアへ入れます。これが最も軽い『インナーロー』です。
ここからフロントディレイラーの”L”のロー側調整ボルトを回して、内プレートとチェーンの間を0-0.5mmにします。
次はアウター調整です。リア変速をトップにして、フロント変速をアウターに入れます。最も重い『アウタートップ』の組み合わせです。
そして、”H”のボルトを回して、内プレートとチェーンの距離を0-0.5mmにします。
ちなみに”H”は”HIGH”の頭文字です。でも、「ハイギア」とは言わないなあ。
トリム
シマノのドロップハンドル用のデュアルレバーのフロント調整には『トリム設定』が入ります。SRAMやカンパニョーロのフロント変速及びリア変速にはこの項目はありません。
トリムを文章で説明するのは難題ですが、ディレイラーは動くけどもチェーンは脱線しない中間のポイントです。トップ側トリムとロー側トリムがあります。 二階建ての建物の中二階と半地下のようなものでしょうか。
正直、これを過度に気にせずとも、スタンダードな方法で普通に調整できます。ぼくはそこまで神経質にトリム調整しません。一部の機材では少々の音鳴りは仕様です。
前段のスタンダードな方法でインナーのストロークリミットを出してから、トップ側トリムにシフトを入れて、アジャスタでケーブルを張ります。このトップトリムのワイヤーテンション調整のときのフロントのチェーンの位置はアウターです。
- ストロークの上下限をセットするときには調整ボルトを弄る(アーレンキー、プラスドライバー)
- トリムポジションでワイヤーを張るときにはアジャスタを弄る(素手)
トリプルの場合
クロスバイクのようなフロントトリプルの変速調整にはセンターリングの調整が入ります。インナーロー、センターローでやってから、アウタートップで調整します。
ロードのフロントトリプル、MTBのフロントトリプルは今や希少種です。3×12=36速は可能ですが、実用的ではありません。ネタ用です。市販のオプションはせいぜい3×10ですね。
フロントディレイラー調整のまとめ
ストロークをボルトで制限して、インデックスをアジャスタで調整する、これが基本です。
ディレイラーはワイヤーのストレスから解放されると、最も小さいギアの上に落ち着きます。
商品名と型番をチェックして、メーカーの製品ページのPDFマニュアルを見ましょう。車種に惑わされないように。
バンドタイプと直付けタイプで手順が変わります。
旧型のワイヤー配線には測定工具が必要です。新品には付属しますが、中古品には付属しません。変速機の交換時には注意しましょう。
インナー調整時にはリアをローに、アウター調整時にはトップにします。
トリムの概念は初心者泣かせです。多少の音鳴りは仕様です。
初歩的なミスは以下の通りです。
- シフトレバーをローにしなかった
- アジャスタの締め忘れ
- エンドキャップがズレてる
- ワイヤーが正しいルートを通ってない
- ワイヤーの固定が甘い
- ワイヤー張り過ぎ
- 固定ボルト締め過ぎてワイヤーぐちゃぐちゃ
- アウター、インナー、トップ、ローの区別があいまい
トリムのせいでシマノのマニュアルがやや難解で冗長になります。この点、SRAMとカンパニョーロの方がシンプルです。
とにかくディレイラー調整の基本はストロークをボルトで制限して、インデックスをアジャスタで設定することです。”derailleur”の綴りより簡単でしょう?