ロングアーチのキャリパーブレーキを枕頭ナット化する シマノR451もオフセットブレーキシューも使わないテクトロとPROMAXのニコイチ改造

この記事のタイトルを読んで、「そうか!」とうなずける方は相当な自転車パーツマニアでしょう。大方は『枕頭ナット』の読みで小首をかしげます。

実物はこれです。

枕頭ナット
枕頭ナット

そう、ロードバイクとかクロスバイクのキャリパーブレーキのボルトを固定する筒状のナットのことです。

大抵の人は『ロードバイクとかクロスバイクのキャリパーブレーキのボルトを固定する筒状の細長いナット』で覚えます。正式名称の『枕頭ナット』では通じません。シマノの左クランクのキャップ外す工具と同じく。

あと、ナットの頭が土台に沈むから、『沈』頭ナットの印象がぐいぐい来ますが、『沈』頭でなく『枕』頭です。

で、この枕頭ナットとロングアーチキャリパーをニコイチにして、TK 800Aをロードフレームに取り付けます。はい、意味が不明ですね。

ブレーキの種類

自転車ブレーキの主な系統は二つです。

  • リムを挟むリムブレーキ
  • ハブを挟むハブブレーキ

ディスクブレーキは後者の系統です。パッドはハブに付属するディスクブレーキローターを挟みます。

マウンテンバイクの油圧ディスクブレーキ
マウンテンバイクの油圧ディスクブレーキ

ママチャリや軽快車のローラーブレーキやバンドブレーキもこちらに系統に属します。ブレーキの末端はホイールの中心軸=ハブにコンタクトします。

他方、一世代前のロードバイクのキャリパーブレーキ、クロスバイクやミニベロのVブレーキ、その前身のカンチブレーキなどはリムブレーキ系です。

ICAN試走
ICAN試走

ブレーキパッドはホイール外縁=リムにコンタクトします。

さて、これで何が起きるか? 

650Cは何インチ?

こちらはうちの街乗りフラットバーロードです。

650cロード
650cロード

中古フレームの塗装をホルツの剥離液で落として、軽く磨きました。手磨きでぴっかぴかのポリッシュ仕上げはむりだった・・・

で、後から別途で中古ホイールを買って、振れ取り、センター出し、クリーニングをして、こちらに取り付けました。

フレームが小さめですから、違和感はありませんが、このホイールは通常のロード用700Cより小径な650Cです。

700c=29er=ETRTO 622

650c=26er=ETRTO 571

ギャップは51mmです。MTB用26インチが ETRTO 559ですから、700Cより26系統に近くなります。実際、559チューブの一部は571と兼用です。

直径が5cm減、半径が2.5cm減の変化は如実に現れます。乗り心地がコンパクトになり、足付きが非常に良くなる。個人的には700Cのサイズ感よりこっちの方がしっくりきます。

メインのマウンテンバイクも29でなく、26です。「小さめを選べ」はぼくの中では金言ですね。

SCOTT VOLTAGE 26 inch
SCOTT VOLTAGE 26 inch

ちなみにMTBやグラベルのホイールサイズの650は650Bで、ETRTO 584です。650A > 650B > 650Cです。アルファベットの順でサイズは小さくなります。もちろん、タイヤの互換性はありません。

ホイールのサイズでブレーキ面が変わる

ディスクブレーキのブレーキ面はハブに付属するローターです。ホイールサイズが変わっても、ローターの大きさが変わらなければ、ブレーキのポイントは変わりません。

このためホイールの使い回しやサイズ変更が比較的に簡単です。前輪29インチ、後輪27.5インチの『マレット(前後異径)』は最近のMTBのトレンドです。

一方、キャリパーブレーキやVブレーキのブレーキ面はホイールリムです。極論、ディスクローターの役目をリムが兼ねます。文字通りに身を削って止める。

リム挟む
リム挟む

一昔前の「カーボンホイールが下り坂で溶けた!」という悲劇はここから生じます。ブレーキは運動エネルギーを熱エネルギーに変えることです。熱はどこに伝わるか? リムです。

リムはブレーキの作用点ですから、その大きさが変わると、その位置が同様にずれます。650Cホイールのブレーキ面は700Cホイールより内側に入ります。ギャップは? はい、2.55cmです。

で、何が起こるか? はい、キャリパーブレーキのアームの長さが足りません。

650cに短し、700cに長し
650cに短し、700cに長し

このフラットバーはぼく的にはひさびさの旧ロード系です。お下がりのパーツはクロスバイク系、MTB系ばかりです。Vブレーキはごろごろありましたが、キャリパーブレーキはゼロでした。

で、長いキャリパーを探して、このPROMAXの前後セットをポチりました。説明文には『ミニベロから取り外しました』とありました。

小径の自転車のキャリパーブレーキにはロング系がわりと採用されます。柔軟なホイールサイズに対応するためです。

で、それを見越して、これを買って、現物合わせをしたら、上の通りのミスマッチを食らいました。パッドがリムのブレーキサイドに届きません。アームが1cmくらい足りない! 

型番はPROPMAX RC482です。結果的にこれはミドルアーチでした。ロードの650c化には少し足りない。

そんなときにはこれです。オフセットブレーキシュー!

しかし、お値段が3000円ほどです。ブレーキ本体の購入価格とどっこいです。

ジャンクホイール6000円、ジャンクフレーム7000円、ブレーキ3000円、パッド3000円はなんかビミョーだ・・・

理想のロングアーチを求めて

ロードバイクのホイールのサイズ変更=ホイールリムのブレーキ面のギャップ変更=キャリパーブレーキのアームの長さ変更

MTBではイージーなダウンサイズが偽ランドナー風のキャリパーロードでは一苦労です。ただ、この650Cのサイズ感は非常に良好です。そして、予算がもうない。

はたして、ジャンク箱や棚を漁って、これを見つけました。

YSB 軽快車用ブレーキ
YSB 軽快車用ブレーキ

シマノデュラエースやSRAM REDの対極に位置する最下方キャリパーブレーキ、YSBの安いやつです。このご時世にお値段はだいたい1000円です。

YSBは吉川製作所という日本の企業の製品です。このブレーキとパッドがとみに有名で、その他の商品は不明です。

このYSBの安いブレーキは安いママチャリや安いシティサイクルに使われます。七割はこれです。そして、こいつは正真正銘のロングアーチキャリパーです。

枕頭ナットじゃないロングアーチ

ここでようやく冒頭の枕頭ナットが再登場します。このYSBのキャリパーはロングアーチですが、枕頭ナットタイプではありません。

正確には自転車本体のブレーキの取り付け部分が枕頭ナットタイプではない。

ママチャリの前輪のブレーキの取り付け部
ママチャリの前輪のブレーキの取り付け部

フォーク側にナットを埋め込む隙間がありません。固定は普通の六角ナットです。

また、間にフォークの形に添わせて、こういう凸凹ワッシャを嚙まします。

ワッシャ
ワッシャ

そして、後述の理由からこのシルバーのロングアーチ、TEKTRO TK 800Aが必要です。YSBのやつは互換なしでした。

てことで、身内のチャリからこの800Aをこっそり外して、やっすいYSBのやつをこっそり付けて、ただでパーツを入手しました。

正味、効きはそんなに変わりません。ただ、YSBのブレーキのボルトの構造が今回の枕頭ニコイチカスタムに合わない。

真にレアな枕頭ナット用ボルト

さて、本日にニコイチ修理の材料が揃いました。TK 800AとPROMAX RC482です。

ロングアーチとミドルアーチ
ロングアーチとミドルアーチ

アーチ、アームの長さが一目瞭然です。左がロング、右がミドルです。ギャップは2cmほどです。

ちなみに700C用のシマノの主力ブレーキはほぼショートリーチです。キャリパーブレーキ=旧世代ロードバイク=700C=ショートですから。

それより小さい26インチの主力はVブレーキです。あと、これをサイズアップするときにはVブレーキのロングアームタイプを使います。え、禁断のド根性ブレーキする? まあ、自己責任で。

重要なのはボルトです。

キャリパーブレーキボルト
キャリパーブレーキボルト

左がママチャリの取り外し品、右がミニベロの取り外し品です。つまり、このミニベロのフォークは枕頭ナットタイプです。

仮に左の長いボルトのキャリパーを枕頭ナットのフォークに取り付けると、ねじの先が穴からちょこんとはみ出ます。ナットは途中で止まる。

枕頭ナット寸止め
枕頭ナット寸止め

六角ナットを使えば、普通に固定できます。しかし、フォークのソケット側の余白は埋まりません。若干の不安は残る。

解決策はボルトの交換です。

キャリパーブレーキの分解とパーツ取り

キャリパーブレーキの構造はシンプルです。分解は容易です。ボルトを交換するため、ややジャンキーなTEKTROのキャリパーの動きを改善するためにバラしましょう。

最優先事項はイモネジを緩めることです。

脱落防止のイモネジ
脱落防止のイモネジ

だいたいアームの裏側にこのちっこいネジがあります。これはボルトの脱落防止ピンです。これを緩めずに、本体のボルトを外そうとすると、ネジ山を潰してしまいます。

絶対にイモネジを緩めてから、ボルトやナットにアプローチしましょう。

分解の手順はほぼ一緒です。

  1. イモネジを緩める
  2. 裏のナットを外す
  3. バネを外す
  4. アームをずらす
  5. ボルトを外す

あ、ついでにパッドをはぎ取りました。あきらかに新品のやつの方がよさげだ。

ボルト
ボルト

最重要パーツのキャリパーブレーキのボルトです。じつに自転車界的変態的スモールパーツですね。

マイナースモールパーツ
マイナースモールパーツ

まず、ヘッドが平頭のヘックスソケット。そして、ネジ部分の末端(左端)はM6です。が、右側のヘッドの根元はそれより少し太くなります。つまり、ブレーキ本体のネジ穴はM6ではない。

ナット側の呼び名は『枕頭ナット』と判明しましたが、この変てこボルトの名前は謎です。オフセットヘキサフラットボルト?

小売りはネットにはほぼない。ホームセンターにもおそらくない。そもそも用途がこれ以外にあるか?

ところで、さっきのYSBのブレーキのボルトはこれではありません。こちらの両端はともにM6ナット止め用のネジネジです。ネジの固定部分が全く隠れない。

M6ストレートぽい
M6ストレートぽい

ボルト、ナット、鉄板の超シンプル構造です。安さの理由が分かります。特殊規格、専用商品、独自パーツは割高です。上の変態ネジは一本数百円だ? ありえる。とにかく100円ではない。

とにかく、このせいでこのYSBはロングアーチですが、幸か不幸か今回のニコイチ修理、変態魔改造カスタムの材料から脱落しました。

ガタは正常

組み立てはバラシの逆です。ポイントはアームのボルトをがちがちに固定しないことです。少々のガタを残すのが正しい組み方です。

ガタ残してイモネジでストッパー
ガタ残してイモネジでストッパー

基本的にキャリパーブレーキの可動部分にはベアリングがありません。樹脂のブッシュみたいなものだけがあります。

これをがちがちに固定すると、アームの動きを殺してしまいます。ハブやヘッドパーツの玉押しのオーバートルクと一緒です。ええあんばいが肝心。ちょいガタ、ややゆるが正解でっせ。

で、ガタはボルトの緩みに繋がりますが、このイモネジこそがそれを防止します。実質、脱落防止ピンです。

メインボルトをやや緩く止めて、このイモネジとバネ留のナットをかっちり留める、これが組み立てのコツです。

では、車体に取り付けましょう。

ロングアーチ枕頭ナットカスタム
ロングアーチ枕頭ナットカスタム

真のロングアーチはさすがです。多少の余地を残して、650Cのブレーキ面に余裕で届きました。MTB 26インチもおそらくカバーします。でも、逆に700Cが詰まるか?

このキャリパーブレーキニコイチ改造の過程でパッド交換、アームの汚れのクリーニング、バネの反らしを並行しました。おかげでブレーキの動きと効きはばっちりです。まあ、フロントですし。

キャリパーブレーキのニコイチカスタムのまとめ

  • リムブレーキ用ホイールのサイズ変更はブレーキ位置のずれを伴う
  • 650Cにはロングアーチキャリパー必須
  • TEKTRO 800Aは枕頭ナット用でない
  • YSBの固定ボルトは互換なし
  • 枕頭ナット用ボルトの名前は依然として不明
  • バラすときにイモネジ緩めろ
  • 組むときにボルト締めるな

ぱっと見、シマノ R451はミドルアーチぽいです。これとオフセットシューで650C対応するのが模範解答でしょうか。はたまた、TEKTRO 800AかYSBをド根性止めでお安く済ませるか。