こちらはうちのマウンテンバイクのフロントホイールです。

中華カーボンリムと台湾ハブYuniperの手組です。絶滅規格の26インチホイールは手組でしかほぼ誕生しません。
で、このハブが二年前にゴリゴリ祭りを巻き起こしました。下の画像の日付は2023年11月です。

シールドベアリングのパッキンの下からココア色の錆汁がじゅるじゅるに沸き出しました。このときにはクリーニングとグリスの注入で応急処置をしました。
そこから足掛け二年でゴリゴリが再発しました。今回は本格手術です。ホイールメンテナンスの最難関、シールドベアリング交換を行います。
ハブのベアリング事情
自転車ホイールのハブのベアリングはおもに2種類です。
- カップアンドコーン
- シールドベアリング
ペダル軸には薄型のニードルベアリングとかトリック系のノーベアリングペダルとかもありますが、ホイール軸はたいていこの2種類です。
落日のカップアンドコーンの嘘
シマノのホイールは長らくカップアンドコーンでしたが、この2年くらいでシールドベアリングに宗旨替えしました。昨今の新作ハブはシールドベアリングタイプです。
つまり、この古式の鋼球再配置は過去のものとなりました。

カップアンドコーンの利点はメンテのしやすさ、調整の自在度、耐久性です・・・とは定番のコピーですが、個人的にメンテのしやすさはうそ、大げさ、まぎらわしいJAROです。
- 軸のエンドキャップを外すためのハブレンチ2個
- シャフト外すためのぶっといアーレンキー
- 鋼球戻しというクソゲー風作業
レンチとアーレンキーのサイズが意外とマイナーです。汎用レンチはハブのエンドキャップの狭いスリットにはまらない。しかも、2個。
アーレンキーは10mmや12mmですが、これも家庭用工具セットにはなかなかありません。
そして、ベアリング鋼球の再配置は箸で豆つまむゲームくらいの難易度です。
「グリスでべとべとの鋼球がハブの中に落ちたー! 出てこねー!」はカップアンドコーンあるあるです。あと、球数が分からなくなるとかも。
正味、シールドベアリング交換の方がぜんぜん楽です。なので、カップアンドコーンのメンテのしやすさは嘘、調整の自由度、耐久度はほんとです。
シールドベアリング
シールドベアリングはメンテフリーです。が、実のところ、これは正確ではありません。メンテフリーは△、メンテNGが〇です。
基本的にこのパーツは1セットで単体の最小構成です。これを以下のようにバラすのは非推奨です。

左上からパッキン、パッキン、鋼球、リテーナー、外枠、内枠です。が、これらの単体の流通はありません。
シールドベアリングの最小はこれです。ある種、パッケージ品だ。

パッキンのところの型番でオーダーします。これは6803 2RSです。6903や6901と同じく自転車ホイールではよく使われます。
これのパッキンをカッターでこじ開けて、砂利や錆を除去して、グリスやオイルを入れるのはシールドベアリングの製品の特性的にはNGです。
ソニータイマー発動したプレステの裏蓋外して分解するようなもの・・・え、ドリキャス派ですか? にしても、分解作業はメーカー非推奨です。保証対象外の刑を食らいます。
で、シールドベアリングの交換の方がカップアンドコーンの調整より圧倒的に楽です。工具はだいたいベアリングプーラーセットで済みます。
しかし、これはパッケージ品です。グリスの量とか球押しの塩梅で性能や機能を手前の都合で調整するのは製品の特性や用途には含まれません。イレギュラー。
そして、シールドベアリングの鋼球はカップアンドコーンの鋼球より小粒です。結果、個々のボールやレースの耐久度は劣ります。てか、樹脂のリテーナーがけっこうジャムる。
ベアリング交換の下準備と作業
今回のホイールのハブはシールドベアリングです。簡易なパッキン剥がしとグリス注入でお茶を濁さず、まるっと交換します。
下準備です。
- シールドベアリングの型番のチェック
- 個数のチェック
- 新品ベアリングの調達
型番はパッキンにあります。6803 2RSです。個数は個体に寄りますが、だいたいフロントは2個、リアは4個です。
ベアリングの実物は電気屋やホームセンターにはありません。モノタロウやアマゾンにはあります。で、2個入りがたまたまヤフオクで見つかりました。

送料込み580円でした。もちろん、回転はぬるぬるです。
古いベアリングを外す
さて、ここからは作業の本番です。このぬるぬるの6803を圧入します・・・が、その前に古いベアリングを取り外します・・・が、さらにその前にアクスルシャフトを抜きます。
ここの取り外し方はハブのメーカーやモデルに寄ります。

シールドベアリング、スルーアクスルタイプのシャフトはほぼ圧入式です。カップアンドコーンのようにハブレンチを掛けるスリットやアーレンキーを嵌める六角は見当たりません。
ぼくの経験では
- ハブを床にばんばん叩きつける
- ゴムハンマーでアクスルをばんばん叩く
- ホイール側に体重乗っけてアクスルをせり出させる
のようなやつが有効です。しかし、しばしばハブやホイールに少々のダメージが入ります。あと、たまにシャフトに返しがある。
おまけにこのYuniper Nitroハブのマニュアルはネット上では見つかりません。マイナーアイテムの宿命です。
それから、ベアリングの着脱の専用工具は基本的にベアリングのためのものであって、アクスルシャフトのものではありません。結果、ここは手探りになります。
安全策は圧入の逆転です。

手前のドライブ側のボルトを締めて、奥の反ドライブ側にアクスルシャフトを押し出せるようにてきとうな工具をセットしました。
手前のナットの下の筒はシャフトに直に接触しますが、反対側の工具(ソーガイド)は接触しません。つまり、奥側がフリーになります。これでシャフトは奥に抜ける・・・と思う。
で、もののみごとに抜けました。

同じ方法でハブに残ったベアリングを取り外しました。

シンプルな構造と複雑な加工が良く分かります。値段の大半はCNC削り出しのコストでしょう。
古いベアリングは盛大にカラカラ、ゴリゴリします。とくに片方はピンマイクが余裕でゴリゴリ音を拾うくらいのゴリゴリです。

パッキンの中は錆と砂と油の三重奏でした。これの再利用はもう無理です。
新品ベアリング圧入
さて、取り付けは取り外しより気楽です。なぜ? シャフトの構造が明らかだから。取り外しの反対の手順で取り付けを行えば、そうそう事故りません。
たとえば、暑さで朦朧として体重で圧入しようとかしなければ。

あちゃー! 斜め圧入は典型的な失敗です。スターファングルナット、プレスフィットBBなどでこの失敗は常に起こりえます。
それから、新品ベアリングをゴムハンでぶっ叩くのはベアリング警察24時にしょっぴかれます。やさしく押しこむのが正解です。
ずぼらをせずに自作工具をセットしましょう。水平圧入大正義。

左からナット、筒、古ベアリング、古ベアリング、新ベアリングです。水平が良く分かります。力はそんなに要りません。
むしろ、ぐいぐいやるような手応えは新品のシールドベアリングにはよろしくない。
アクスルの左右の出代をチェックします。OK牧場ですね。

車体に取り付けて、ころころさせます。

はい、転がりの滑らかさが復活しました。これでもう2年ぐらい使えますね。ただ、リムが黄信号ですが。
ベアリング交換まとめ
- シールドベアリングは基本的に使い捨て
- 交換推奨、開封禁物
- 型番注意
- 専用工具なしでまあまあ行ける
- メンテはカップアンドコーンの球戻しより楽
- 水平に優しく圧入すること
amazonに新手のベアリングプーラーが出現しました。
メーカー物は2万円くらいですが、こいつは4000円です。ジェネリック系工具でしょう。これより安い2000円のやつマジでおもちゃみたいですが、これはちゃんと工具だ。