“BB”と書いて、『ボトムブラケット』と読む・・・これは自転車好きの、自転車パーツ好きの習性です。
現物です。
自転車の車体のフレームの底の囲み=ボトムブラケットです。つづりはBottom bracketで、略称がBBです。自転車界専用のギョーカイ用語です。
これのメンテに手を染めるかいなかでチャリダーの今後の運命が決まります。BBはパンドラの箱のようなものです。
BBの種類
BBはジャングルです、沼です、迷宮です。世界中の自転車パーツ屋と自転車ブランド屋が腕によりをかけて、さまざまな独自規格を打ち出します。
2018年現在の注目はアメリカのSRAMのdubです。未曽有の28.99mmシャフトをひっさげて、BB戦国時代になぐりこみます。
て、個別の列挙は不毛です。ここでは大まかな種類をあげましょう。
ねじ切り式コッタレスBB
ねじ切り式BBはスタンダードなボトムブラケットです。別名がコッタレスです。カーボンフレーム以前のスチール、アルミ、チタンみたいな金属の車体がおおむねこれです。
カーボンフレームは一定のスポーツバイクにのみ使われます。目安は15万以上です。おのずと10万円以下の自転車は金属フレームになり、このねじ切りBBになります。
例外的にBMXのBBは後述の圧入式です。また、スポーツバイクの圧入BBの始祖に位置するCannondaleはアルミフレームにすらじまんのBB30(a)を採用します。
カーボンフレームは一昔前より安くなりましたが、普及は一握りの熱心なスポーツバイクユーザーに限られます。主流はアルミです。
で、ママチャリ、クロスバイク、ミニベロ、競輪、非カーボンのMTBやロードのBBはねじ切りタイプです。最大勢力は四角軸のスクエアテーパーですね。
そんなわけで大多数のDIYラーがこのスクエアテーパーからBB交換を始めます。まさにボトムブラケット道のデビュー戦です。
まれに八軸のオクタリンク、十軸のISISとかがクランクアームの裏から出てきます。これらは過渡期のスポーツタイプで、より後発のBBに押されて、歴史のかなたに消えました。
逆に古風なスクエアタイプは汎用性の高さのために現代まで生き残ります。もう数十年は安泰でしょう。この世にママチャリがあるかぎり、スクエアテーパーは滅びません。
ねじ切り中空
スポーツ用途の金属フレームのロードバイクやMTBのBBはねじ切りの中空タイプのBBです。
BB本体は左右のカップです。フレームからはでぼっとみだした部分にシールドベアリングが内蔵されます。この結果、軸はクランクの付属品になります。
代表はシマノのホローテックIIです。最初のBB交換からこれをおがめる人は果報者です。
圧入式BB
現行の本格競技用自転車はカーボンファイバー製です。炭素繊維のシートをちょきちょきぺたぺたして、窯でこんがり焼き上げます。
つまり、カーボンパーツの実態は薄い生地の層です。超固いクロワッサンかミルフィーユのようなものです。熱と圧が弱点です。
ためにカーボンパーツにはねじ溝を入れられません。そこから繊維の剥離が始まってしまいます。結果、BBシェルはつるぺたです。
必然的にBBのカップの嵌め代もつるぺたになります。したのものの銀色の部分がそうです。ねじみぞ、でこぼこ、返しの類がぜんぜんありません。
装着方式はねじ込みでなく、圧入=プレスフィットとなります。これを自力でのほほんとこなせれば、自転車DIY界で頭角をあらわせます。
初級編・スクエアBB交換
実働率の高さとレポートの多さからスクエアテーパータイプがBB交換の初級編になります。
ところで、サイクルベースあさひのBB交換の工賃は3900-5200円です。中古のクロスバイクや安いママチャリにこの出費はビミョーなところです。
手順を覚えてしまえば、身近な自転車のBBをこまめにメンテ・交換できます。スクエアタイプの着脱はローリスト、ハイリターンな技術です。むやみにやりたくなるのがたまにきずです、ははは。
クランクを外す
BB外しの手始めはクランク外しです。スクエアタイプのBB軸の両端には六角の固定ボルトが付きます。こいつの役目はクランクの圧入と脱落防止です。
工具はM8サイズの六角レンチです。携帯工具のなかのいちばんぶっといやつです。クランク周りの六角ボルトはたいていこのサイズです。
このあとでチェーンをリングから外しましょう。そのままの状態でクランクがはずれると、チェーンが自身のテンションでびょーんと暴れます。きけんです。
で、つぎに専用工具のコッタレスクランクリムーバーを用意します。
スクエア、オクタ、ISISなどはコッタレスクランクに属します。これをremoveするのがコッタレスクランクリムーバー、いや、リムーヴァーです。
うえの写真のように一つの中空ねじのなかにもう一つの貫通ねじがあります。左側のねじをクランクにねじこんで、右側のねじをねじこんだねじにねじこみます。
一段階目です。クランクの穴の側面にはぐるっとねじ溝が走ります。リムーバーの一つ目のねじはここにぴたっと収まります。
二段階目です。モンキーレンチや六角で貫通ねじを中空ねじにねじこみます。すると、クランクがシャフトからせりあがってきて外れます。ジャッキみたいなものです。
反対側のクランクも同様です。
BBカップを外す
さて、ようやくBBがおめみえしました。これはGIANTのクロスバイクのデフォルトのスクエアBBです。
カップのふちにとっかかりのみぞみぞ=セレーションが見えます。これが20個です。スタンダードなカートリッジ式のBBカップです。
で、これにはこの工具が対応します。カートリッジ式BBツールです。
これをカップのみぞにはめて、レンチなどで回します。車体の左側のBBカップからはじめましょう。
問題は右カップです。現行の一般的な自転車のねじきりBBの右カップ(進行方向右手、ギア側、ドライブ側)は逆ねじです。
左回りで締まって、右回りで緩みます。
例外的に一部のイタリアのロードバイクのBBの右カップは正ねじです。これが『ITAタイプ』のねじ切りBBて称されます。ピナレロ、デローザなど。
さらにヴィンテージ車や骨董バイクには過去の絶滅規格がまれに残ります。でも、ふつうの人はそうそう出くわしません。
で、この右カップはカートリッジBB的には標準的な逆ねじです。右回しでぱかっと外れます。
こんなふうにBB本体は右カップごとごっそり抜けます。
カップを完全にとりはずすと、シールドベアリングをうかがえます。ちなみにシールドベアリングのシールはがしは基本的にご法度です。
さらに筒、ベアリング、シャフトまで完全に個別にバラせます。が、はじめての人はここで踏みとどまりましょう。
交換するならフレームのシェルをそうじして新しいものをセットします。メンテするならベアリングやカップやシャフトをふきふきして元にもどします。
そのほかのねじきりBBカップ
BBのカップは20セレーションのものばかりではありません。ママチャリの右カップの形状です。
6みぞの外カップの下に4みぞの固定リングがあって、さらにベアリングがカップアンドコーンです。
こちらは別注のスクエアBBです。カップの外側にみぞがあります。
これの工具は20セレーションBBツールではありません。シマノのホローテックII用の工具がぴったり合います。
こちらはイタリアのMicheのトラック用クランクのAdvancedのBBカップです。セレーションの数が12で、ギャップが小です。カンパニョーロ系です。
このカンパニョーロ用のロックリングツール兼カートリッジBBツールがこのカップには対応します。
スクエアテーパーのカップさえがこんなに多彩です。でも、圧入型のややこしさはこんなものじゃない・・・
で、ふつうのチャリダーさんは
- M8アーレンキー
- コッタレスクランクリムーバー
- モンキーレンチ
- BBツール
この4つをそろえれば、だいたいのスクエアクランクとカートリッジBBを攻略できます。
アーレンとモンキーは家庭用の工具箱にありましょう。コッタレスクランクリムーバーとBBツールの調達がボトムブラケットマスターへの第一歩です。
BBの固着を外すには
屋外駐輪、野ざらし、ノーメンテ、中古、ジャンクの自転車のBBはザ・鬼門です。しばしばほんとのパンドラの箱のように強固な封印がほどこされます。固着ですね。
原因の大半はサビです。呉556をぶっかけて、パイプでテコしましょう。
これで塩ビパイプやアルミパイプが負けるなら、深刻な腐食やフレームの変形がありえます。これらは異次元の一大工事です。ドリル、バーナーの出番だ!
中級編・ねじ切り中空タイプ交換
ねじ切り中空タイプ、ホロー型BBはカートリッジ式BBよりシンプルです。このシステムではシャフトがクランクへ移りますから、BBはカップとベアリング、パッキンやスリーブだけになります。
これは30mm軸用のクランク用のねじ切りフレーム用の中空BBです。ベアリングがフレームのシェルの外にもっこりはみ出します。エクスターナルBBて称されます。
やはり、注意点はねじ方向です。右カップは例のごとく逆ねじです。あと、補強プレート入りのねじ切りタイプのカーボンフレームは締めすぎオーバートルクで割れます。
このカップの大きさがまちまちです。代表格のシマノホローテックIIさえが3サイズに分かれます。現行のものは小ぶり、旧型は大ぶり、その中間があります。
上の無印のものはおそらく大タイプです。右の工具がカップにはまりません。苦肉の策で手締めしました。
上級編・圧入BBの交換
前置きのように圧入BBはカーボンフレーム以降のボトムブラケットです。いいだしっぺはアメリカ御三家のCannondaleのBB30です。て、BMXのBBは昔から圧入ですが。
ねじ切りBBの時代が長く続きましたから、この圧入BBは古参のチャリファンや一部の識者から白い目で見られます。
しかし、フレームのシェルのねじのタッピングとフェイシングが不要です。工程が減って、構造がシンプルになります。
設計的にはこっちが正解でしょう。ヘッドパーツはこの形状ですし。
圧入BB=カーボンフレーム用です。で、カーボンの弱点はなんでしょう? はい、圧と熱ですね。カーボンはオーバートルクで割れ、オーバーヒートで歪みます。
・・・て、この過剰な刷り込みが圧入BBの着脱をハードに見せます。
で、プロに頼もうという浅はかな発想が出てきます。しかし、作業の系統はおんなじです。物理攻撃。特別な魔法はありません。
自転車屋の大将さえが圧入するときにはぎゅっと押し込んで、取り外すときにはゴムハンマーでたたきだします。
ぼくは一台目のカーボンフレームから意を決して、プラスチックハンマーでバシバシ叩き込みました。自分でやるとよく理解できます。BB周りはそんなにやわじゃありません。
むしろ、叩き込みの方が安全です。カーボンの弾力で余分な力が逃げます。致命的なオーバートルクが発生しない。これをたたいてぶっ壊せる人はそうとうなカイリキーさんです。
カップの取り出しもハンマー一本でOKです。樹脂のタイヤレバーをカップの内側に当てて、ばしばし叩くと、スコーンと外せます。
かんたんです。これのシンプルさになれると、旧来のねじ切りBBに首をかしげざるを得ません。逆ねじ、タッピング、フェイシング・・・逆ねじ??!!
おまけ・スクエアテーパーの軸長
スクエアテーパー、オクタリンク、ISISなどのカートリッジBBはシャフト一体型です。これには横幅があります。
BBの中筒の表にmmでサイズの表記があります。クロスバイクのものは長め115mm、ピスト競輪系が短め103mm前後です。
サイズを間違うと、やはり手こずります。