日本では競輪と競馬は密接な関係にあります。いずれが公営競技で、伝統と格式の世界です。ルールや文化や風土が相通じます。
競馬の投票券は馬券ですが、競輪の投票券は『車券』です。言い得て妙です。
で、この方式で乗り手が自転車で転倒することが『落車』と称されます。競輪界では公式用語です。
これがスポーツバイクとロードバイクブームの影響で広く一般名詞化します。落車しない自転車乗りはまれです。
ちなみにマウンテンバイクのすってんころりん、ずしゃー、ごろごろは日常茶飯事です。とくにイレギュラーなものではありません。
ロードバイクの落車の場面
ロードバイクやクロスバイクの転倒、落車は想定外の一大事です。速度が大で、装備が紙です。リアルに1年に数回は死亡事故が起きます。
ぺらぺらのタイツ一枚で原付の速度を出して、アスファルトにすっ転ぶと、無傷ではすみません。
第三者の視点では『平坦な舗装路でそんなにポテポテすっ転ぶ』ことは奇異に見えます。落車経験は同情を誘わず、軽蔑と失笑を買います、「あほやなぁ」と。
しかし、スポーツバイクの実態は世間の想像よりリスキーです。しかも、大半のサイクリストはメットを被っても、プロテクターを付けない。
ダウンヒル、下り坂
国内のロード乗りの傾向はながらく登高降低です。一にヒルクラ、二にヒルクラ、たまにZwift、五にヒルクラです。きついことはよいことだ!
山の国のお国柄、日本人の気質、速度域の安全さなどがヒルクラ至上主義の背景にあります。
ヒルクライムレースやイベントはありますが、ダウンヒルレースはついぞありません。
『開催地の所轄の警察署や自治体が圏内の事故件数の増加を嫌う』という公的な都合もまことしやかにささやかれます。
そんなさまざまな事情からロード乗りの下りのテクニックは全く上達しません。
ヒルクラの回数=ダウンヒルの回数ですが、技量が回数に比例しない。経験値が振り分けられない。
ショップや雑誌の講習な案内などもおそまつなものです。「ゆっくり安全に下りましょう、ぱぴ!」で終わります。
カーブ
ロードレーサーは直進安定性に優れます。ゆえに簡単に曲がらない。こまかいカーブ、きついカーブが苦手です。
ロードレーサーは乗り手の体重移動とタイヤのグリップでシュプールを描くようにゆるやかに曲がります。
で、なにかの拍子でタイヤが本来のラインからずれると、車体が一気にぐらつきます。ここからの立て直しが非常にたいへんです。ドリフトは無理です。
そして、うまくコーナーリングできないと、ガードレールで減速しきれず、しゅくしゅくとコースアウトします。
集団走行
隊列、トレイン、集団走行は心理的に体力的に絶大なサポートです。先頭は風よけ、後方は車よけです。行軍の一番槍としんがりは名誉なものです。
趣味の自転車は長丁場のアウトドアです。どこかで集中力が切れて、なかだるみが起こります。そんな正念場では愚痴を言える相手さえがありがたいものです。
しかし、ロードバイクの集団走行は軍隊の隊列や陣形のごとくテクニカルなものです。個人の感覚では成立しない。暗黙のルール、決まりごとが多く存在します。
一人の一糸のみだれ、連係ミスが大きなトラブルのもととなります。
具体的には手信号のまちがい、入れ替わりタイミングのあやまり、車幅の誤認識、はすり、よそみ、つかれなどなどです。
また、昭和生まれの運動経験者は旧態依然のスポ根を重んじます。弱音を吐かない。けつを割らない。風邪でフラフラですが出勤します!
自分から「きつい! しんどい! ヘルプミー!」と申告するのはスポ根の伝統的にNGです。
で、グループライドの遠出の帰路に疲労と油断から落車が起こります。で、これは大事になって、車体の破損や乗り手の負傷につながります。
初心者グループはレベル不足、ミックスグループはレベルのばらつき、ベテラングループはがんばりすぎで、トラブルの発生率や危険度はそんなに変わりません。
また、ダメージへの耐性はチャリ歴にかかわりません。むしろ、良く乗るフォーマルな人はぺらぺらウェアのガリガリ体型で、一般人より防御力に欠けます。
客観的な意見ではロードバイクの速度域ではプロテクターが推奨です。しかし、プロがそれをしないので、アマも積極的には取り入れません。
安全や合理性より作法や様式美が勝ちます。それが素人の趣味というものです。
敷石、溝、車止め
ロードバイクは平坦な中長距離の路面には抜群の強さを発揮します。逆にデコボコ、短距離には向きません。
現実的な条件では郊外が有利で都心が不利です。市街地は歩道の段差や路面の劣化で意外にデコボコします。ロードの細タイヤとドロハンにはややアウェーです。
そして、忘れたころにやってくるのが人工的な障害物です。敷石、溝、車止めですね。
コンビニに寄ろうと思って、低速に落として、サイコンやスマホに気を取られて、小さな車止めに気付かず、乗り上げ→落車→骨折みたいなパターンはけっこうあります。
ロードの硬いビンディングではバランスを崩した後に超速で反応しても、転倒までにシューズをリリースできません。
この場合、咄嗟に受け身を取ることに切り替えれば、大ダメージを避けられますが、焦ってシューズを外そうとしてして、無防備な状態でカウンターを食らいます。
で、肩や首から落ちて、鎖骨をぽきっとやります。
落車でケガする3大部位
ロードバイクのスタイルでは落車で負傷するポイントは一定のパターンにおちつきます。よく起こるケガの部位をさらっと見ましょう。
手
フォーマルなロード乗りの足元はビンディングペダルで固められます。ロードバイク用の3点固定のクリートはがちがちです。
オフロードみたいにとっさのビンディング外し→足つきターン!みたいな離れ業で急場をしのげません。足つきの動作が一連の流れに含まれない。接地はイレギュラーだ。
万が一、クリートの外しが間に合っても、高サドルのせいで足が地面につかない! ピンチ!
で、反射的に自由な手が出ます。で、指や手首を怪我します。
ぼくの経験では急ブレーキの前のめりの落車の際に左手を路面について、掌底をずるむけにしつつ、手首をねんざしました。
ひじ
ひじは落車の負傷の常連選手です。単純に身体のいちばん大外にあって、まっさきに地面と接します。
で、アスファルトのざらざらで皮と肉がもみじおろしになります、いやなガリガリくんです。落車や転倒でひじをガリガリしないケースはレアです。
しかし、自転車のメットの必須化義務化をもろ手で歓迎するイシキタカイ系の自転車乗りもそのほかのプロテクタ、肘ガードや膝ガードには消極的です。頭守って膝守らず。
理由は以下のようなものです。
「プロ選手が使わないから」
「プロテクタはロードぽくないから」
「肘ガードや膝ガードはださいから」
まあ、合理でなく、ミーハーです。でも、PRG世代は防具でテンションをくすぐられません?
ここまで本格的なものでなくても、長ズボン、長袖はガリガリくん対策には効果的です。
鎖骨
ジャックナイフ系の前転でんぐり返りをやらかすと、地面やハンドルでしばしば肩口をやられます。
で、むき出しのでっぱった鎖骨がぽきっと行きます。なんでここには肉がない?!
まっさきに直撃しそうな顔面や鼻は意外と大けがをまぬがれます。やっぱり、人はとっさに顔をそむけますし、じまんの高級メット!が安全安心を守ります。
さらに自転車はバランスを崩して転倒します。完全なド正面のまんまえには転びません。一本背負いのように左右のどちらかに投げ出されます。で、あげくに肩BAN!です。
よくポキポキ行くのは大外の肩骨や腕骨でなく、内側の鎖骨です。じかの打撃で折れますし、間接的な衝撃で折れます。
はたして、これが鎖骨の機能です。使い捨ての緩衝材。高級メットはぱかっと砕けて衝撃を逃がします。鎖骨はぽきっと折れて衝撃を散らします。
つまり、鎖骨はディレイラーハンガーです。
骨折の治療期間、個人的経験から
骨折の治療期間はだいたい1-3か月です。骨がくっついても、痛みは後を引きます。完全復活は半年前後ですね。
実のところ、この春先にぼくはこっそり骨折をしました。右足の薬指です。原因は路傍の三角コーンです。これの角に薬指をピンポイントでぶつけました。
一週間は安静です。まあ、軽い気持ちで球けりに行って、ひどい目にあいましたが、ははは。で、一か月で軽い運動はOKです。
骨が完全にくっつくのは2か月~です。痛みや違和感はもうすこし続きます。恐怖心が完全に消えるのは3カ月~ですね。ちなみに治療法は完全放置です。
この間、球けりやランニングの踏み込みでは痛みが出ましたが、サイクリングのペダリングではそれは出なかった。やはり、局所的な負荷がマイルドです。
ロードレースの選手が落車負傷してもわりとレースを続けられるのはこのためです。負荷と強度が圧倒的にマイルドです。ほかの競技ではこう行きません。
つまり、自転車はリハビリにはうってつけです。