2026年1月現在、ロードバイクの足回りを劇的に、かつ最も安価に変える手段はホイールの買い替えではありません。チューブの交換です。

かつて「決戦用」として崇められ、取り扱いに細心の注意を要した軽量チューブは、今や「常用」の時代に入りました。
特に日本のパナレーサーが市場に投入した、ある「紫色の革命」が、TPUチューブをマニアのおもちゃから信頼できる機材へと押し上げました。
もはや、重たくてかさばる黒いゴム(ブチルチューブ)を使い続ける理由は、練習用か惰性以外に見当たりません。
| ブランド / 製品名 | 素材 | 重量 (公称) | バルブ仕様 | 価格 (2026/1時点) | 特徴・市場動向 |
|---|---|---|---|---|---|
| Panaracer PURPLE LITE | TPU | 36g (700×23-32C) | 金属製シャフト | 定価: 1,980円 (税込) | ・リムブレーキ対応(耐熱性確保) ・ポンプヘッド相性問題を解決 ・国内安定供給済み |
| Magene EXAR | TPU | – | – | 定価: 1,430円 (税込・改定後) | ・2025年8月に値下げ実施 ・ブチル代替の「常用TPU」ポジション |
| RideNow (一般モデル) | TPU | – | 樹脂製 (根元補強など改良中) | 実売: 800〜1,200円 (Amazon/AliExpress) | ・圧倒的安価 ・初期不良(スローパンク)リスクあり ・水没テスト推奨 |
| Schwalbe Aerothan | 独自素材 (TPU系) | – | 樹脂 / クリックバルブ | 実売: 約4,000円前後 | ・突き刺しパンクに強い ・価格は高止まり |
| Vittoria Latex | ラテックス | – | – | – | ・転がり抵抗と乗り心地はTPUより優位 ・リムブレーキ運用の無難な選択肢 |
| 一般TPU全般 (36g級) | TPU | 36g前後 | – | – | ・転がり抵抗はラテックスとほぼ同等 ・ラテックスよりエア保持力が高い |
TPUチューブのコモディティ化と「紫の革命」
ここ数年、ロードバイク界隈で最もホットな話題の一つがTPU(熱可塑性ポリウレタン)チューブでした。
従来のブチルゴムに比べて圧倒的に軽く、コンパクト。しかし、2024年頃までは「扱いづらいキワモノ」という評価でした。
初期のTPU製品には致命的な弱点がありました。樹脂製のバルブです。

軽量化を追求するあまり、バルブシャフトまでプラスチックでした。これが悲劇を生みます。
シャフトが携帯ポンプの熱で変形する、コアが抜ける、根元がポッキリ折れる。出先でのパンク修理中にバルブを折って絶望したサイクリストは数知れません。
しかし、2024年末に登場したPanaracer(パナレーサー)の「PURPLE LITE」がこの状況を変えました。
パナレーサーが変えた常識
パナレーサーの答えはシンプルでした。
「バルブを金属にしろ」
PURPLE LITEのバルブシャフトは金属です。
これで以下の問題が物理的に解決されました。
- ポンプヘッドの着脱でバルブが折れる恐怖からの解放
- ねじ込み式携帯ポンプ(LEZYNE等)に対応する利便性
- リムブレーキの摩擦に耐えうる耐熱性の公式保証
特にねじ込み式ポンプへの適応は現場のサイクリストには神機能です。樹脂バルブがねじ込みで折れる。バルブコアが着脱ですっぽ抜ける。この恐怖が消えました。
価格は定価1,980円(税込)です。パイオニアのTubolitoの4000円の半額です。
発売当初には品薄でしたが、2026年現在ではAmazonやショップで普通に買えます。十分に「常用」の範囲内です。
価格破壊のMagene、ガチャのRideNow
パナレーサーが信頼性を確立する一方で、中華系ブランドによる価格破壊も完了しました。特に注目すべきはMagene(マージーン)のEXARシリーズです。
2025年8月、MageneはEXARチューブの定価を1,650円から1,430円へと改定しました。パナレーサーより500円以上のお値打ち価格です。しかも、品質が安定します。
Megeneの登場で「練習からレースまでこれ一本」というユーザーが急増しました。TPUがブチルの上位モデル(ContinentalのSupersonicやPanaracerのR’AIR)に価格帯まで降りてきた。まさに祭りです。
一方、AliexpressやAmazonのマーケットプレイスで幅を利かせるRideNowは実売800円〜1,200円という平成のような価格です。
ただし、こちらの品質は中華大陸レギュレーションです。水没テストが必須です。これを怠ると、後のスローパンクに泣きます。
「3本のうちの1本は外れだが、トータルはまあとんとん」と割り切れる玄人向けです。
ラテックス vs TPU 最終決戦
「で、結局ラテックスとどっちが良いの?」
古くからの軽量化マニアはこの問いに悩みます。
2026年の最新データに基づき、両者の実力を冷徹に比較します。
1. 純粋な速さと乗り心地:ラテックスの辛勝
Bicycle Rolling Resistanceなどのラボテストデータでは36g級の最新TPUチューブの転がり抵抗は、ラテックスチューブに対して0.5W〜1.0Wほど劣ります。
また、乗り心地の「しなやかさ」も天然ゴム由来のラテックスには独特のシルキーな感触に譲ります。
「1秒でも速くする」「路面の微振動を極限まで消す」というピュアレーサーにはSOYOなどのラテックスチューブは依然として最適解です。

2. 運用ストレス(エア抜け):TPUの圧勝
ラテックス最大の欠点は「エア保持能力の低さ」です。一晩で1bar以上抜けます。確実に抜けます。
他方、TPUはブチルチューブと同等かそれ以上に空気を保持します。「週末しか乗らない」「ズボラに管理する」という層にはこの差は決定的です。
3. リムブレーキでの安全性:引き分け(条件付き)
パナレーサーのPURPLE LITEはリムブレーキ対応を公式に謳い、耐熱性を約束します。
しかし、専門メディアの実走テストでは、真夏の急勾配ダウンヒルといった極端な高温環境下において、TPUの熱変形のリスクはゼロではないと指摘されます。
まあ、100%の熱変形耐性というのはこの世にはありえませんが。
現場のリアル:修理を諦め、交換しろ
TPUチューブユーザーの多くがこういいます。「パンク修理は幻想である」と。
各社からTPU専用のパッチキットが販売されますが、路上での修理成功率は低空飛行です。難易度がブチルのゴムノリ修理の比ではない。
接着剤がうまく固まらない。パッチが剥がれる。そもそも修理の理想形の完成イメージが良く分からない。
試しにぼくも室内でネットを見ながら修理にチャレンジしましたが、パッチの接着に苦戦しました。

TPUチューブは「使い捨て」です。ぜいたくだ? 4000円で買った初期組も泣く泣く使い捨てにしましたが?
TPUの最大のメリットは携帯性です。折りたたんだTPUチューブはマッチ箱程度です。サドルバッグの容量を圧迫していた予備チューブが、ツールケースの隙間にすっぽり収まります。

選ぶべき軽量チューブ
パターンA:トラブルを金で解決する堅実派
Panaracer PURPLE LITE一択です。
金属バルブの安心感は精神衛生的にプライスレスです。ねじ込み式の携帯ポンプ(LEZYNE等)を愛用するなら、これ以外の選択肢を選べません。
パターンB:コスパ重視、練習からレースまで使い倒したい
Magene EXARがベストバイです。
1500円という価格は高品質なブチルチューブとイーブンです。重量は半分以下、初期不良のリスクもRideNowほど高くありません。
軽量チューブ導入のメリットとデメリット
最後に軽量チューブ(特にTPU)を導入する際の損得勘定を整理します。これは夢のような魔法のアイテムではありません。明確なトレードオフが存在します。
メリット(得られるもの)
- 圧倒的な軽さ: 前後で約100g以上の軽量化
- 加速の鋭さ: 漕ぎ出しや登坂での反応が劇的に向上する
- 携行性の革命: 折りたためばマッチ箱サイズ
- エア保持力: ブチル並みに持つ
デメリット(失うもの・リスク)
- コスト: ブチルチューブより割高
- 修理の困難さ: パッチ修理は現場ではほぼ不可能。使い捨て運用が前提
- 熱への弱さ: リムブレーキでの激しいダウンヒルはやや不安
- 繊細な取り付け: 噛み込みパンクのリスク
誰が何を買うべきか
- ディスクブレーキユーザー全員:
無意味なブチルを捨てて、Panaracer PURPLE LITEかMagene EXARに交換しましょう。1万円以下の投資で、バイクが別物に生まれ変わります。 - リムブレーキで峠を攻めるクライマー:
下りの熱リスクを考慮し、ラテックスか軽量ブチル(Super Sonic)を選びましょう。TPUを使うなら、金属バルブのパナレーサー一択とし、ブレーキのかけすぎに注意する。 - 絶対的な安さを求めるチャレンジャー:
RideNowをAliExpressでまとめ買いし、水没テストを経て選別してください。手間を惜しまなければ、最強のコスパを享受できます。




