自転車のトラブルの疫病神の代表は異音です。ギシギシさま、カラカラさま、カチャカチャさま、キュルキュルさまなどのステキな神々がおられます。
ぼくはこれらの騒々しい神々にはだいたい祟られました。というか、ほんのたまにしか無音さまのご霊験には預かりません。
で、2023年秋冬は常連選手のギシギシさまのターンです。こちらがMTBのフロントホイールにご降臨なさいました。
直前にこのフレームを買って、先代のクロモリマウンテンからパーツをごっそり載せ替えて、最初の自走トレイル走で異音に気付きました。萎える。
原因の特定と補修を行います。
自転車の異音の原因
自転車の異音は非常に厄介な問題です。だいたい金属などの硬い物質が干渉する人工的な音がしますから、人間の感覚には不快でストレスフルです。
そして、異音の発生源がなかなか分からない。プロの自転車屋さんすら特定には苦戦します。そもそもチャリ屋さんはチャリ屋さんであって、ミュージシャンや調律師でないし。
異音の特定の仕方です。
- マイク録音
- ABテスト
- 総当たり
実際問題、耳だけで異音を特定するのはほぼ不可能です。自転車には疑わしい箇所が多すぎる。全員が容疑者だ。
おまけに音は反響します。「ハンドルの軋みかと思ったら、サドルのボルトの緩みだった」とかは日常茶飯事です。
が、今回の異音は直前の全パーツ載せ替えとその前のライド動画撮影のデータから事前にほぼ絞り込まれます。
載せ替え前のNAGIの撮影データにも載せ替え後のこのDARTMOORのデータにもステムにマウントしたGoProにギシギシ音がしっかり記録されました。
発生条件です。
- ホイール回転あり
- ペダリングなし
- ブレーキングなし
- チェーン駆動なし
- 変速なし
- ハンドル荷重なし
- サドル荷重なし
これで鳴ります。つまり、犯人はどちらかのホイールです。ただし、新車の後輪はサブバイクのダージャンのもので、先代のクロモリMTBのお下がりではありません。
結局、消去法でフロントホイールが黒となりました。
と、こんな風に手間暇を掛けないと、正確な異音の発生源に辿り着けません。自転車さんも素人DIYも同じです。
ホイールのコンディション
このフロントホイールは前々からグレーでした。
- 使用年数4年
- トレイルライド150回くらい
- ゲレンデ走10回くらい
- 走行距離5000km
- 雨天走行あり
- 洗車あり
- 屋外駐輪
先代MTBの最後の雄姿です。長野遠征は雨で締め括られました。ぼくが雨男だあ?
この後、この自転車はぼくと同じく6時間ほど電車にごとごと揺られますが。
実のところ、お揃いの後輪もさきに異音様に祟られましたが、フレームのエンド幅の変更(148mm→135mm)のためにお蔵入りとなりました。
ということで、フロントホイールが何らかの支障を来すのは経年と用途から不自然ではありません。むしろ、ほぼノーメンテでここまで持ったな・・・
ハブのベアリング
フロントホイールはリアホイールのようにチェーンやギアと絡まないので、容疑者はわりと限定的です。
代表的な異音の原因です。
- スポークやニップルの緩みや折れ
- ディスクブレーキローターのボルトの緩み
- リムの割れ
- ハブのトラブル
ニップルやボルトは使用と経年で確実に緩みます。チューブのバルブのワッシャの緩みとかもありますね。あれで「異音だ!どっか壊れた!」と大騒ぎするのは初心者の登竜門です。
スポークやリムの破損は目視で分かります。めぼしいところは見当たりません。
ハブの状態は一目では分かりません。外から見えるのは蓋と側だけですし。
しかしながら、一触りで異常が分かりました。エンドキャップとシャフトが非常にカラカラ良く回ります。グリスや潤滑剤の手応えがしません。はい、こいつが犯人です!
シールドベアリングの開封
十中八九、異音の原因はハブのベアリングのグリス切れです。回転中のギシギシ系の異音の症状はそれと一致します。
ホイールハブのエンドキャップを外しましょう。ちなみにハブのモデルはYuniperの110x15mmというものです。
ニッチな商品のネックは情報量の少なさです。まあ、取っ掛かりや固定ボルトなしのキャップはだいたいぶっこ抜き方式です。
このハブのベアリングはシールドベアリングタイプです。もはや、ベアリングの球を直にインストールするカップアンドコーンは絶滅危惧種です。
カップアンドコーンの最後の巨匠だったシマノもついにシールドベアリング派に宗旨替えしました。こんな風にベアリング球を一個一個戻す作業もすでに過去の遺物です。
ところで、シールドベアリングはメーカーの健全なる推奨では使い捨てです。シールのパッキンを変形なしで着脱するのが手作業では不可能ですから。
カッターや縫い針を使っても、シールを無傷で取り外せません。
メーカーの健全なる交換方法はベアリングの打ち換えです。ただし、これにはベアリングプーラーという専用工具が必要です。うちにはないわー。
結果、多少のダメージを覚悟して、シールをカッターでぺろっと外します。
この時点で中身の色味が何か変です。赤茶色のグリス?!
ハブサビ除去
ぼくの直感が室内作業を避けよとささやきまして、即座にやばいホイールが屋外へ運び出されました。
ベアリングにパーツクリーナーをぶしゅぶしゅします。
濃厚なココアがリテーナーの裏からどくどく湧いて来ました。そら、ギシギシ鳴るわ。
しかし、ディスクローター側のシールドベアリングはこんな劣悪なコンディションではありません。出て来るのは黒い油汚れだけです。右側だけが異常でした。
ここからの洗浄作業です。
- パーツクリーナー5回
- 熱湯3回
- チェーンディグリーザー2回
- ラスペネ2回
- 洗濯石鹸3回
- ひたすらブラシ
錆の元はベアリングです。幾つかの鋼球の表面がややガリガリでした。打ち替えが妥当でしょう。
グリス入れ
ともあれ、新しいシールドベアリングと専用工具の調達は大変です。応急処置でその場を凌ぎましょう。グリス入れですね。
自戒と気休めに芋グリスをべとべとに入れて、シールをし直しました。フッ素タイプのハブグリス? もうないよ!
グリスがしっかり入ると、回転の手応えがカラカラでなくなり、もちっとした粘り気が出ます。これが正常な状態です。
ただし、やっぱり、手作業ではパッキンの縁が無傷では済みません。まあ、打ち替え以外は応急処置ですから。
これでフロントホイールの異音は無事に消えました。音が消えなかったら、この記事と動画は没でした。つまり、発生源の特定が最も大事で厄介です。