自転車パーツの世界には裏技的なものがあります。もちろん、公式は認めません。先人たち(変人たち?)の知恵と工夫の産物です。
- シマニョーロの大回し
- シマグラ
- マグラフルードをカンパDBに
- チェーンにオリーブオイル
- エンドキャップの代わりに一升瓶の栓
パーツのちゃんぽん、クロスオーバー、ミックス系の技が多めに入ります。オリーブオイルはCERAMICSPEED社のレポートだぞ!
今回のSL-A050のフリクション化もそんなメジャーな裏技ネタの一部です。
幻惑のSL-A050
SL-A050はシマノの商品です。釣り具の方ではありません、自転車の方です。詳しい人は型番でジャンルを特定できます。
SL=Shifting Lever=シフター
です。ドロップハンドル用のブレーキレバー兼シフトレバーのSTIレバーの型番の頭は”ST”になります。こっちは何の略だろう?
マウンテンバイクのシフターはブレーキ一体型じゃありません。その型番はSLから始まります。下の右端がSLXの12速シフターです。”SHIFTING LEVER”て箱にありますね。
SL-A050は本体です。
7速用のシフターです。安い軽快車やシティサイクルのおともです。古参のアイテムだ。スポーツバイクにはもう使われません。
つまり、これを備えるこのドロップハンドルのチャリはスポーツ自転車ではありません。ぞくにルック車ですね。アマゾンで17980円でした。
最廉価のメーカー物のクロスバイクにすら8速以上の変速機が付きます。基本は3×8の24段ですね。リア7速の自転車は安物かヴィンテージです。
実際、このSL-A050は~1000円です。しかし、これがおもしろい可能性を秘めます。
インデックスとフリクション
さきに変速機のはなしをしましょう。自転車の変速機には二種類のタイプがあります。ロード用とMTB用? いえ、インデックスとフリクションです。
現行の変速機の主流はインデックス式です。シフトレバーがカチカチする。電動は例外ですが。
インデックス式シフターはディレイラーを一律でしか動かせません。1から2や4から5で変速はきちっと決まります。1.4とか4と3分の1とかの中間層がない。
10速のシフターには10段階のインデックスしかありませんし、8速には8段、12速には12段のインデックスしかありません。
またインデックスの量はメーカーやモデルで異なります。シマノやSRAMの11速シフターでカンパニョーロの11速ディレイラーはきちんと動かない。
逆の例です。CANPAGNOLO ATHENAの最終モデルの11速ディレイラーとCAMPAGNOLO POTENZAの第一世代のシフターの互換性はあります。
POTENZAはATHENAの後継モデルです。その第一世代と直前のATHENA最終モデルには互換性がある。でも、POTENZA第二世代とATHENA最終モデルには互換がない。
また、冒頭のシマニョーロの大回しみたいなHACKがあります。イコールプーリーやシフトメイトみたいな闇商品もある。
とにかくインデックスシフターは固定の範囲でメカを動かします。楽器的にはピアノです。1オクターブには12個の物理キーしかない。
で、フリクション式のシフターです。バーエンドコントローラー=バーコンやサムシフターがこっちのタイプです。
フリクション式には一律の動きがありません。上限と下限だけはあります。中間層は無限です。ギアチェンジはあんばいですね。
楽器的にはバイオリンやギターです。弦を押さえる位置で音程が無限に生じます。シャープのシャープやフラットのフラットみたいなことが可能だ。
ある意味、変速は感覚頼みでルーズです。インデックスの機械的な正確さはありません。反面、融通が利きます。
歴史的にはフリクションが先輩で、インデックスが後輩です。
フリクション可のメリット
現行のインデックスをわざわざ旧式のフリクションにするメリットは何でしょう? 理由のひとつは好奇心です。しかし、そればかりではない。
フリクション化したSL-A050はなんと9速になります。さらにちょっとした改造で10速になる。究極的には11速、12速にすらなりえます。
この変速数バージョンアップを織り込んで、キワモノ的なフリクション化を強行します。
改造の手順
では、実際の作業に移りましょう。手始めに車体からSL-A050をもぎ取ります。単品価格は~1000円です。
SISシールをはがす
カッターなどで”SIS”のシールをはがします。
このシールの糊はマイルドです。ぺろっと剥がれます。
ねじを外す
シールの下にはプラスのねじがあります。
これがパーツ全体をまとめる大黒柱的なねじです。締め付けはそんなに強くありません。
ケーブルを外す
上のプラスねじを外せば、各個のパーツを個別にばらせます。が、インナーケーブルがあると、最初のカバーが外れません。
さきにすいっと抜きましょう。タイコはここにあります。
レバーを分割する
ハンドルに固定する金属部分はカバーを兼ねます。これを外すと、レバーの中身をおがめます。
レバーは黒い部分と白い部分からなります。これは手でふつうに外れます。ねじや返しはありません。
で、やっぱし、白い部分はただのカバーです。黒い部分にメイン機構があります。
黒パーツのねじは逆ねじ
この作業の最大の山場がここです。黒パーツのねじ方向だ。このねじは逆ねじです。右回りで緩みます。
右回りで緩みます。
そして、黒いプレートの下には小さな鋼球があります。落とさないように!
インデックスプレートを裏返す
インデックス変速機構の本体が現れました。
下から溝入のプレート、時計の針みたいなプレート、二個の鋼球の順に並びます。画像ではベアリングボールが一個しか見えませんね。さっきの裏ブタの下にありました。
一番下のプレートの溝は右に7、左に7です。つまり、これがカチカチの手応えの正体、シフトレバーの動く幅、すなわちインデックス量です。
フリクション化するにはこの溝入プレートを裏返します。裏面はつるつるです。
で、上みたいにベアリングと針プレートをそのままセットします。ベアリングは1mmくらいしかありません。まじでどっかに落とさないように!
溝がありませんから、鋼球はプレートの上を自由に動きます。変速の手応えはカチカチからヌルヌルになります。フリクション化完了!
作業はこれだけです。非常にかんたんでしょう? しかも、この時点で変速の幅が広がって、9速カセットの域までカバーします。
猛者はストッパーを削って、むりやり11速にするそうな・・・ぼくはもう少し穏当な方法で10速化します。
逆ねじの締め付け調整
プレートを裏返してフリクション化した後に残りのパーツを組みつけました。
並びや位置に変化はありません。注意点は黒いプレートの溝を鋼球に合わせることくらいです。
最後は締め付け調整です。さっきの逆ねじは左で締まりますが、この硬さでレバーの固定力が決まります。
このねじの締め付けが足りないと、ギアチェンジのときにシフトレバーがワイヤーのテンションに負けて動いてしまいます。
ぼくは何回か締め直して、いい具合を見つけました。手探りでやってください。
レバー加工
さて、この時点で7速インデックスは9速フリクションになります。もちろん、7速や8速をカバーします。だって、変速機の動作幅は自分次第ですから。
10速に可動域を広げるにはもう一工夫します。レバーのこの部分をカットする。
この改造でレバーの引き始めの位置がさらに広がります。スタート地点を物理的にずらして、10速の可動域を確保します。
ここまでするともう後戻りできません。シマノ本社には足を向けて眠れません。
11速カセットで試験
ぼくはこのSL-A050改+11速カセットで運用します。
先人たちのレポートのようにレバー加工での最大可動域は10段のようです。ローギアにはチェーンがぎりぎり乗りません。
1-10速は安定です。