シングルスピード、変速なしの自転車の総称です。ママチャリ、シティサイクル、一般車はのきなみこれです。
一方、スポーツバイクのシングルスピードはやや特殊な車体になります。BMX、トライアルバイク、トラックバイク、競輪などです。
BMXやトライアルバイクの主体は技や曲芸やトリックです。トラックバイクや競輪は室内やサーキットしか走りません。変速機の重要性がうすくなります。
一世をふうびしたピストバイク
昨今のロードブームの前、2000年代前半に固定ギアのシングルスピードの自転車がぶわっとはやりました。ぞくにピストバイクです。
ブームの発祥はサンフランシスコやカルフォルニアですが、源流は日本の競輪です。これが北米で独自の文化を形成して、逆輸入の形で日本に上陸しました。
しかし、フォーマルなノンブレーキの固定バイク及び軽車両全般は日本の道路交通法に抵触します。公道では走れません。私有地、サーキット、室内などはOKです。競輪場の開放デーなどが現実的です。
で、ノンブレーキピストは街中から駆逐されまして、固定ギアバイクのブームははかなく終わりました。いまや販売自体が禁止事項です。
しかしながら、メッセンジャー文化やアーバンスタイルは現代まで生き続けます。クロームのバッグやシューズは人気です。
フリーギアのシングルスピード
ファッション感覚の固定ギアのバイクはほぼ全滅しました。ピストははやりではありません。これに乗り続けるのは根っからの固定好き、こだわり屋さん、かわりものです。
むしろ、よりマイルドなフリーギアのシングルスピードのスポーツバイクのが人気です。
見た目はブレーキ付きのピストとおんなじです。変速付きの自転車みたいにゴテゴテしません。ちがいはギアです。
これは固定ギアです。
鉄の歯です。これを金具で固定します。ギア、ホイール、チェーン、クランクは完全に連動します。ために逆回転でバックが可能です。
『バックを踏む』は固定ギアバイクのテクニックの基本です。ノーブレーキでは唯一の減速手段になります。スキッドはこれの派生技です。
一方のフリーギア、フリーホイールは空回りします。
この歯車の内側に空回りの機構が内蔵されます。逆回転ではバックが不可能です。走行中に足を止めても、減速できません。
つまり、フリーギアのバイクにはブレーキ装置が不可欠です。車体から飛び降りれば止められますけど、ははは。
固定ギアのかっこよさのひとつはノンブレーキのバイクをテクニックでコントロールできることです。ブレーキ付きはスタイリッシュじゃない。
で、ノンブレーキで完璧に乗りこなせても、交通法と世間の目のためにブレーキの装着を余儀なくされます。見た目がフォーマルなピストじゃなくなる。クールじゃない。
おしゃれ、スタイルてものは一種の見栄やがまんや反骨です。多少の便利さや安全性を犠牲にしても、流儀をつらぬくのがクールです。
で、ブレーキレバーはそんなロックな気骨の持ち主には堕落でしかありません。常識と権力に屈したか!
「おもんなー。じゃあ、もう、フリーギアで構わへんかー。はー、おもんなー」
ピスト乗りの正直なところでしょう。
実際問題、フリーギアは固定ギアより楽ですし、変速付きはシングルスピードより楽ですし、E-bikeは人力より楽ですし、原付は自転車より楽です。
でも、ノンブレーキのスタイルや固定ギアのダイレクト感は唯一無二のプライスレスです。ノンブレーキはもうダメですが、固定のだいごみは必見ですよ。
メリットとデメリット
固定であれ、フリーであれ、シングルスピードはロングライドには向きません。最大限に力を発揮できるのは平地と街中です。
ママチャリでむりなく行けるところが得意です。シングルスピードのスポーツバイクはそこをより速く駆け抜けます。10km前後のチャリ通や街乗りには最高の一台です。
坂が苦手
苦手なシーンはアップダウンです。1速のギアですべてに対応しなければなりません。こんなゲキ坂は文字通りの壁になります。
平地で助走をつければそこそこ登れます。足を付くか、スタンディングで停止してしまうと、もうぜんぜん登れません。膝が壊れます。
同じ理屈で停車からの発進がすこしもたつきます。都心部のストップアンドゴーが得意ではありません。
見た目すっきり
外装の変速機は意外とかさばります。シフトレバー、ケーブル、ディレイラーが余分に加わります。さらに多段のスプロケットは分厚く大きくなります。
これがシングルスピードではすっきりします。
おのずと重量は軽くなります。ギア、レバー、ケーブル、ディレイラーで500gです。フロントも外せば、さらに400gから軽量化できます。
昔日のピストはさらにノンブレーキです。手元のレバーさえがありません。シンプルさにこだわれば、バーテープすら廃せます。ロックンロールです。
安い
ハイグレードの外装変速や多段カセットは高価です。ケーブルさえが数千円です。変速数はつぎつぎアップし、電動化、サイコン、パワーメーター・・・出費がばくだいです。
シングルスピードはそんな変速機のアップグレードから完全に解放されます。ギアとチェーンは摩耗しますが、多段のものより圧倒的に安価です。
丈夫
自転車パーツの消耗品の代表格がチェーンです。
左が11速用、右が1速用です。厚みがこんなにちがいます。ギアもこれに相当します。シングルスピード用の駆動部品は『厚歯』です
厚みのちがいは耐久度にあらわれます。11速チェーンの寿命は3000-5000kmです。乗る人は半年くらいで使い切っちゃいます。
他方の厚歯はそうそうくたびれません。さびようが、けずれようが、しぶとく生き残ります。
トラブルフリー
ドライブのトラブルは変速時に起こります。そもそも変速しない(できない)シングルスピードはこれを大幅に減らせます。
代表的シングルスピードのママチャリのドライブの不具合はチェーンのたるみから起こります。これさえ定期的にメンテすれば、ほぼトラブルを回避できます。
でも、一般のママチャリストはそれすらしません。空気入れが半年に一回だからなあ。
おすすめシングルスピード
シングルスピードにはふたつのタイプがあります。固定とフリー。たいていのスポーツバイクのシングルスピードは兼用です。
ちがいはリアホイールのギアばかりです。これの交換で固定⇔フリーのモードチェンジを気軽にできます。
ドロハンタイプのおすすめはFUJI FEATHERです。シングルスピードのベストセラーです。
フラットバータイプのおすすめはKONA UNITです。これはディスクブレーキのオフロードタイプです。街乗り+トリックとかに最適です。
多段バイクをシングル化するには?
多段バイクのシングルスピード化は意外と簡単です。シフターを外してしまえば、実質的に1速にできます。メカはテンショナー&チェーンガイド代わりです。
しかし、この方法では見た目のすっきり感は出ません。
そんなときにはキットを使いましょう。テンショナーとギアセットです。
キットなしでやろうとすると、えらい苦労をさせられます。チェーンをぴったりに合わせるのがたいへんです。