BBは自転車の心臓で重心で中心です。非常に重要なパーツですが、自転車乗り以外にはその名を全く知られません。
また、一般人が単体のBBを見ても、その用途を推し量れません。
さらに歴戦の自転車乗りさえも新旧のBB、自転車メーカー各社の独自BB、MTB系、ロード系、BMX系、電動アシスト系のBBの波に容易く翻弄されます。
この無闇に多彩なBB生態系の中からスタンダードなねじ切りの中空タイプのBBの取り付けを解説します。
BBとは?
自転車乗りはBBと普通名詞のように気軽に口にしますが、これは正式な名称ではありません。ある自転車パーツの略称です。
正しい品名は”Bottom Bracket”です。読みは『ボトムブラケット』で、和訳は『底の支え』です。
しばしば出て来る『ボトムブランケット』は『底の毛布』となって、ふかふかの良い寝床になります・・・と、意味が何となく通じてしまい、誤表記が絶えません。
自転車固有のパーツ
このボトムブラケット、BBは自転車の専用パーツです。ほかの乗り物や機械には搭載されません。逆に自転車にはこの固有な部品が不可欠です。
この段階で少し用途が見えますね。BBはその名の通りに自転車の本体=フレームの底に取り付いて、この部分を補強します。まさに縁の下の力持ちだ。
ペダルが花形であれば、BBは黒子です。いや、黒子より世間的には無名ですが。
ちなみにこの地味なボトムブラケットの取り付け部分の名称は『BBハンガー』や”BB shell”です。自転車乗りの「シェル幅」はこのBB取り付け部の幅のことです。
そして、BBハンガーも68/73mm、DH83mm、89.5/92mm、BSA、ITA、PF、TF、41mm径、42mm径、46mm径、金属、カーボン、コンポジットetcetc…と非常に多彩です。
深みにハマりたければ、一覧を覗いてみてください。→BBの森
下調べ7割、作業3割
BBは単独で機能しません。フレームのBBハンガーとクランクの三位一体でその真価を発揮します。
つまり、この三つの仕様を合わせないと、100%の走行性能を引き出しませんし、一つの小さな手違いで詰みます。
- 型番の見間違い
- オプション設定失敗
- 一部欠品
- 説明文誤表記
- 販売店が取り寄せ品をミスる
通販ストアも自転車屋も複雑なBBの生態系を完全には把握できません。100%の正解は現物合わせのみです。
つまり、BBの交換や取り付けの勝敗は下調べでほぼ決まります。作業は意外に簡単です、長期放置のママチャリの固着したBBとか古いコッタードクランクとかでなければ。
とにかく下調べ >>> 作業です。まあ、amazon.co.jpで買って間違っても、返品できますけどね。→amazon返品のやり方
BB取り付け作業編
DIYでBBのメンテナンスをすると、おおむねスクエアテーパーか中空タイプと対峙します。
- スクエアBB=一般車、クロスバイク、ルック車、折り畳み
- 中空タイプ=スポーツバイク全般
BBの種類で自転車の用途がおおまかに分かります。一般車=スクエア、スポーツバイク=中空です。
例外的に競輪やピストバイクは古典的なスクエアタイプを採用します。これは公営競技の規則やそのオマージュ的なスタイルに寄ります。
現行の自転車のBBの大半はスクエアタイプか中空タイプです。この二つの取り付け作業を覚えれば、9割の車体に対応できますし、なし崩し的にあとの1割をどうにかやっつけられます。
根強いねじ切りBB
最近のスポーツ自転車のフレームは高剛性&超軽量なカーボン製です。コアユーザーとお金持ち向けの高級品だったカーボンフレームが徐々に陳腐化・大衆化して、現実的な価格まで値下がりしました。
その結果、スポーツバイクのBBは従来のねじ切り式から圧入式へ移行します。カーボンフレームのBBハンガーはつるペタです。何故ならカーボンにはねじ山を切れないから。
カーボンフレームにねじを切るならば、BBハンガーに金属プレートを埋め込んで、そこをぐりぐりと削ります。ロードバイクのコルナゴのBBはこのタイプです。
うちのカーボンフレームの折り畳み自転車も同型です。
この形式の長所は整備性の良さと高剛性です。明らかにBB周りがマッチョでしょう。短所は重さと製造コストの上昇です。ちなみにぼくは圧入BB推奨派です。
逆にCANNONDALEはアルミフレームに独自の圧入式BB30シリーズを採用します。BMXは伝統的に圧入ライクです。EURO BBのみが例外的にねじ切りですね。
で、スポーツ自転車のフレーム素材のスタンダードが金属からカーボンになって、BBのスタンダードもねじ切り式から圧入式になりました。
しかし、より安価なクロスバイク、ママチャリ、安価なアルミフレームのMTBやロードバイク、フルオーダーのチタンやクロモリなどは全般的にねじ切りタイプです。
パーソナルデバイスのメインがスマホになっても、ガラケーはしぶとく生き残りました。ねじ切りBBはそのような存在です。
実際問題、ぼくは長期保管のレトロなクロモリフレームを入手して、そのBBハンガーはねじ切りタイプでした。
はい、きれいなBSAのBBハンガーですね。ぼろいママチャリやジャンクなクロスバイクとぜんぜん違います。撮影して、記事にする気が起きる。
クランク軸がどこに付くか?
- ホローテックII
- GXP、dub
- スーパートルク、ウルトラトルク
これらは自転車変速三大メーカーのBBの名称です。シマノのホローテックIIの知名度が抜きん出ますが、いずれも中空BBです。
そもそも中空式とカートリッジ式の違いは何でしょう? クランクの軸がBBに付くか、クランクアームに付くかです。
スクエアテーパーBBにはクランクの軸が付属します。つまり、非中空=カートリッジタイプです。
中空BBにはこの軸がありません。BBの中は空っぽです。軸はクランクアーム側に付属したり、完全にバラけたりします。
メーカーやモデルで商品名、アームのソケットの形状、ことさらに軸の太さは多種多彩ですが、基本構造は同じです。BBにクランク軸は付属しません。
そんな訳でBBの取り付け手順は部分的に共通します。実際、今回のSRAM dubとシマノホローテックIIの工程はほぼ同じです。
BBハンガーを掃除する
フレームのBBハンガーは砂利、泥水、グリス、オイル、錆び、金属かす等の粉と液の吹き溜まりです。靴底並みに汚れます。
新品のときを除くと、交換時にしか掃除できません。ウエスやワイプオールで入念に拭き掃除しましょう。金属フレームには呉556やパーツクリーナーもOKです。
ちなみにこのフレームは新古品ですから、汚れはほとんどありませんが、ねじ山の表面にうっすら錆びが出ます。理想はタッピングとフェイシングですね。しかし、研磨工具がない。せいぜい拭いてきれいにします。
カーボンフレームのBBハンガーはつるペタですから、掃除は断然に楽です。ねじ山にしつこい汚れが残りませんから。ただし、スプレー系のクリーナーはあんまりよろしくありません。
グリスを塗る
このフレームはクロモリ製です。そして、BBカップはスチール製です。どちらも鉄系素材です。酸化=錆びはほかのフレーム素材より早く顕著に進行します。
水は表面を伝って、隙間に潜り込みます。そして、閉所の水気は半永久的に残ります。防塵防水、トルクの向上、錆びの防止にグリスは不可欠です。
BBカップの方にも塗ります。多めが正解です。余分なグリスはねじ込みの時にむにゅっとはみ出てきますから。
右BBカップのねじ方向
ねじ切りBBの第一関門が車体の右側のBBカップのねじ方向です。一般的なBSA/JISタイプの右カップのねじは逆ねじです。右回しで緩んで、左回しで締まる。
これを知らずに取り外そうとすると、堅いママチャリやクロスバイクのBBカップをさらに締め付けて、ソケットを潰してしまいます。これは要注意事項です。
例外的にイタリアの自転車ブランドが一部に採用するITAのねじ切りBBのねじ方向は一般的な正ねじです。右回しで締まって、左回しで緩む。
この事情のためにBSA/JISのねじ切りBBには左右の記載があります。Rが右、Lが左です。右カップは左のハンガーのねじ山には入りませんし、その逆も然りです。
左側のBBカップは一律に正ねじです。
手で嵌める
ところで、上記の写真のように最初からBB工具でカップを取り付けるのはおすすめではありません。
ねじがまっすぐに入らないと、ねじ山は割と簡単に潰れます。とくに入り口の取っ掛かりの部分の山が潰れて消えると、そのねじはもう入りません。
取り付けの手順の最初から工具を使うと、過剰な力を掛けられます。結果、ねじのずれに気付かず、ぐりぐりねじ込んで、ねじ山を潰してしまいかねません。
現にぼくも以前にリアディレイラーハンガーのねじ山やクランクのペダル穴のねじ山を潰してしまいました。
ペダル、リアディレイラー、ねじ切りBBカップを取り付けるときには手で締められるところまで締めてから工具を使いましょう。
筒状のものを左カップに付けて、同様にハンガーへ取り付けます。
締め付けのトルク指定はありますが、DIYでは測定が現実的ではありません。こんな大きい家庭用のトルク測定器があります?
BB工具
BBは自転車の独自パーツです。必然的にBB工具も特殊な専用工具となり、さらにカートリッジ式と中空タイプ、メーカー、モデルで細分化します。
これはスタンダードなスクエアテーパーBB用の工具セットです。BBカップ外しとクランク外しの二つですね。
しかし、カートリッジ式のBBカップはこのパターンばかりでありません。カニ目タイプやフックタイプなどがあります。このママチャリはロックリング+カップの二段構えです。
中空タイプのカップも一様ではありません。カップのサイズで工具の大きさが変わります。
代表的なシマノホローテックIIのカップは中空BBの中では細身で小径です。工具がSRAM dubのBBカップや30mm径のBBカップには合わない。
考慮の末にテーブルバイスでカップを掴んで増し締めしました。
自転車屋さんには内緒にしましょう。
グリスを塗る場所
BBのどこにグリスを塗るか? カップのねじ山と圧入部位は必須ですが、そのほかのおすすめのグリスアップは以下の通りです。
- ベアリングとクランク軸の接触部分
- クランク軸に錆び防止でうっすら
- 筒の嵌め込み部分
たまにクランク軸にグリスをべちょ付けする人がいます。でも、その部分は基本的にほかのパーツと接触しません。というか、取り付けの時にベアリングで削がれてしまいます。うっすら塗るor塗らないのが正解です。
余分なケミカルは汚れのもとでしかありません。グリスアップでなく、グリスダウンです。
ぼくはメンテナンスと称する自転車弄りを定期的にしますから、グリスを少なめにしか使いません。自転車趣味を始めたころに強烈なやつに出会いましてね・・・
ぐ、グロ画像! オーバーグリスですよ! トラウマです。
ねじ切り中空BBの取り付けは以上です。
- 下調べ >>>> 作業
- 右カップ逆ねじ
- 工具は微妙に違う
- グリス盛りすぎ禁止
これらのポイントを抑えて、楽しく自転車整備に励みましょう。あと、クランクの取り付け方法や工具はメーカー、モデル、年式でまたまた違います。下調べを欠かさない。
MTBクランクとロードクランクの違い
今回のサンプルはMTB用のSRAM SX dubのBBとクランクです。
「このクランクはクロスバイクやロードには付かないのか?」
長年の自転車趣味でクランクやBBが余ると、こういうイレギュラーな発想が生まれます。
ねじ切りBBやクランクの記載には68/73mmというものがあります。これは68mmと73mmのコンパチブルという意味です。
スタンダードなMTBフレームのBSAハンガーは73mm、ロードバイクやクロスバイクは68mmですね。
フレームのハンガーがワイドになると、対応クランクの軸幅もワイドになります。つまり、MTB系クランクはロード系クランクより横長です。
で、大は小を兼ねますから、78mm用のMTB系クランクは68mmシェル幅のフレームに入ります。5mmの遊びはスペーサーで埋まる。
逆に68mm用のロード系クランクは73mmシェル幅のフレームには入りません。軸の長さが5mm足りない。ソケット部分がアームにしっかり入らない。
スクエアテーパーなどのカートリッジ式ではこの問題がBB側に発生します。
はい、軸幅が微妙に違いますね。上段はフロント3段のクロスバイクの純正品、中段はシングル用の短いタイプ、下段は軽量な中華チタンスクエアです。
軸の長さも違いますが、両端のテーパー部分の長さも違います。クロスバイクのソケット部分が他の二つより明らかに狭い。このように変速数やクランクのソケット部分の厚みで最適なBBが変わります。
クランクやBBを自力で交換するときには入念な下調べを心がけましょう。あと、車体のアップグレードのために工具を買うならオールインワンセットを買ってください。