自転車に特別な感情や熱意を持たないふつうの一般人はチャリンコをどこで買うか?
ずばり、サイクルベースあさひやイオンバイクのような有名大型店、近所の小さな自転車屋さん、ネット通販、そして、ホームセンターの自転車コーナーです。
このような量販店のノーブランドのママチャリやシティサイクルは非常に安価です。変速付きの完成車が10000-15000円、シンプルな変速なしのシングルスピードは10000円を切ります。
こんなのは出てきません。
学生の自転車通勤用のベストセラーモデルはブリヂストンアルベルトです。スポーツバイクにハマる以前のぼくの愛機もこれです。
価格はたしか50000円でした。イオンバイクでルイガノのクロスバイクとこいつとで迷って、店員さんの助言でアルベルトにしました。
このときにクロスバイクをチョイスしたら、もう少し早く自転車乗りになれたのに!
正直、5万のアルベルトの乗り心地は1万の安いママチャリと変わりません。価格分の感動はとくになかった。頑丈は頑丈だったけど・・・
ロードバイクやマウンテンバイクみたいなスポーツ自転車とママチャリやシティサイクルみたいな実用自転車の価格差は分かります。競技用品と生活用品の差だ。
しかし、同じタイプの実用系自転車のこの数倍の価格差はなんでしょう。ブランド? 品質? 性能? アフターケア?
ホームセンターの自転車の安さの秘密
はじめに自転車・・・でなく、売り場のホームセンターに注目しましょう。ホムセンは日用雑貨、住宅関連などを取り扱う総合販売店です。
100店舗越えの大手はコメリ、カインズ、コーナン、DCM、ナフコ、ジュンテンドー、ケーヨーなどです。また、エリアごとにローカルなチェーン店があります。
大阪ではコーナン、DCM、ロイヤルホームセンターはよくあります。コメリやケーヨーはレアです。
そして、イオンバイク、ドンキサイクル、サイクル工房みたいな自転車部門を持つ総合小売店は少なくありません。
PB大好きイオンにはMOMENTUMてオリジナルバイクがありますし。
ホームセンターの価格設定が安め
そもそもホームセンターの商品の価格設定が自転車専門店やスポーツ店より全般的に安価です。安さを重視するなら、まっさきにホムセンを訪れます。
敷居の低さも第一候補の一因です。イオンバイクやあさひはファミリー向けですが、一応に自転車専門店です。チャリ知識皆無の一般人にはアウェーだ。店員のプレッシャーはゼロではない。
イオンバイクはさほどじゃありませんが、サイクルベースあさひの接客はまあまあタイトです。店員がマンマーク気味に来ます。
おそらくあさひでは客への声掛けがマニュアルにある。イオンバイクにはない。
他方、ホームセンターの自転車コーナーはほぼストレスフリーです。チャリを舐めるように吟味しても、怒られませんし、気後れしません。店員もついぞ来ない。
おかげでロードタイプの自転車の構成をじっくり観察できます。54900円はホムセン自転車コーナーではハイエンドですよ。NESTOはホダカ自転車のレーベルですね。
ホームセンターの接客は基本的にそうです。向こうから「なにかお探しですか?」とは来ない、食品売り場でも、おもちゃ売り場でも、自転車売り場でも。
スポーツ用品× 生活用品〇
そんなホームセンターの安い自転車は『生活用品』に属します。日頃の足です。つっかけやサンダルのようなものだ。
一方の専門店のロードバイクやマウンテンバイクはスポーツ用品です。ハイエンドな高級品は競技用機材だ。
クロスバイクは実用グッズと健康グッズを兼ねます。しかし、競技用機材、勝利のためのマシーンのレベルには達しません。
これでレースに出ようとする人はいません。争うための自転車、勝つためのバイクではない。そもそもクロスバイクのレースがない。もちろん、プロもいない。
こういうてきとうな外車のブランドロゴ付きのポップなカラーのルック車はファッション性を持ち合わせます。これが20000円ちょいです。
ここからブランド、カラー、ファッション性を取り除いて、色気を完全に除外して、機能を極限に絞れば、さらなるコストダウンを図れます。
無味乾燥な生活用品、走れて曲がれて止まれる人力の二輪車の下限、それがホームセンターの1万のチャリの実態です。
ノーブランド
スポーツバイク、本格自転車の世界はわりにコンサバでアカデミックでミーハーです。ブランド、歴史、レース実績、知名度、そういう無形のものが絶大な価値を持ちます。
これの延長に『日本ブランド』や『日本規格』や『日本人向け』や『国内メーカー』や『安心安全』みたいなものもあります。日本製神話、国産至上主義は根強く残ります。
でも、無根拠な思い込みはオカルトやマインドコントロールとどっこいです。吟味と比較の現代ではあさはかなショッピングは軽蔑の対象です。
現実問題、100万オーバーの競技用自転車もホームセンターの1万の自転車もアジアンメイドの既製の量産品です。日本の自転車の量産技術は完全に廃れました。
ですから、上述のブリヂストンアルベルトは高機能な『日本の自転車』ではありますが、『日本製の自転車』ではありません。
ほんとの日本製の自転車は5万にはなりません。10万、20万です。理由はかんたんです。自転車の大量生産技術がもうないから。
また、ブリヂストンの自動車タイヤは国産です。しかし、ブリジストンサイクルの製品はことごとく外注です。
タイヤやチューブはmade in Taiwanです。台湾のCSTが有力な候補です。ここはママチャリのサクラタイヤの製造元です。
ゴム製品はブリジストンの得意分野じゃないか? なんで自社製、国産にしない?
これはアパレル、デジタル家電、食品の事情に通じます。国内の一般生活用品の製造業は前世紀末に壊滅しました。
モノづくりの生き残りは業務用、自動車、パーツばかりです。日本製自転車はとうの昔に終了しました、ちーん。
ところで、自分の日頃の足のために5万のアルベルトを買う人はいません。ぼくは例外です。
若い人や学生さんはおなじ金を出すなら、アルベルトみたいなやぼったいものを買わず、クロスバイクや小径車を買います。
5万のやぼったい『日本の自転車』を買うのは中高生のじじばばです。孫への入学祝いや誕生祝いですね。
年配の方々の思考にはクロスバイク、ミニベロとかのアイディアはついぞ浮かびません。自転車=生活用品です。旧世紀の固定観念はたやすく覆らない。
- 自転車=生活用品
- 日本のもの=世界一
- 有名ブランド=ブリヂストン
はい、アルベルトが来ざるを得ません。
低機能、低性能
1万のチャリは広義の意味の自転車の下限に位置します。チャリンコピラミッドの最下層です。特徴は『走って曲がって止まる』ことです。
しかし、自転車は圧倒的に効率的なノリモノです。1万のママチャリで50kmや100kmを走れちゃいます。
広義の自転車のなかでは最下級ですが、1万円の生活用品のなかでは最上級です。
反面、機能と性能はぽんこつです。『走って曲がって止まる』以上のことをしようとすると、とたんに行き詰ります。
これはスポーツ的な用途に限りません。1万の実用自転車は『なおす』とか『いじる』とかにすら不向きです。
例えば、ロードバイクやMTBのホイールはフレームからかんたんに外れます。スポーツ用品や競技用機材にはメンテナンスやカスタマイズが付き物です。整備性は機能のひとつ、値段の一部です。
一方のママチャリのホイールは不可侵なる存在です。とくにリアホイールの着脱は荒行です。
これは平凡なママチャリのリアホイールの様子です。
六角ナット、荷台のステー、泥除けのステー、スタンドのステー、バンドブレーキがホイールのハブのシャフトにゴテゴテとまとわりつきます。アンチ機能美。パンク修理、タイヤ交換がたいへんです。
実際、ファミリー向けの自転車屋やホームセンターの自転車コーナーの工賃はこれを反映します。フロントのタイヤチューブ交換は1000-1500円ですが、リアは1500-2000円です。
こんなふうにホームセンターのママチャリは機能性を徹底的にこそぎ落とされて、1万の値段を実現します。
高耐久?
安物はじきに壊れます。高物も不滅ではありません。ものの寿命は用途や使い手の性格によります。
ずぼらなO型のぼくがノーメンテでホームセンターのママチャリをチャリ通で使うと、ほぼ1年ごとになんらかのトラブルに見舞われます。タイヤ、チューブ、ケーブル、チェーンなど。
これらは消耗系のパーツです。で、自転車ピラミッドの最下層の1万のチャリの消耗系パーツは必然的に消耗系パーツピラミッドの最下層になります。小物は100円均一レベルです。
これが野ざらし雨ざらしのノーメンテで乗り回されます。扱いがブラックだ。壊れないほうがへんでしょう。
対照的に自転車の本体のフレームとホイールはやぼったい鉄のかたまりです。これは日常的な使用ではそうそうぶっ壊れません。そもそもそんなやわいものは量販店の売り場に並ばない。
1000円のサンダルを長持ちさせようと思えば、過酷な使用や荒い扱いを避けなければなりません。1万の自転車をノーメンテで荒く使って耐久性に文句を言うのはお笑い草です。
じゃあ、2~3万の自転車は?
1万円の自転車の実態はそんなところです。じゃあ、もう少し高い2~3万の自転車はどうでしょう?
この価格帯は有名ブランド系の5万のシティサイクルとノーブランドの1万のチャリの中間帯です。代表例は新興形の自転車屋のサイマのやつとかです。
国内の実用自転車にはBAAておまもりがあります。Bicycle Association (Japan) Approved、自転車協会認証の略称です。
このBAAに通すと、BAAのおすみつきをもらえます。で、検査費用や手間賃が売値に上乗せされます。
しかし、これは安全安心を確約するものじゃありません。ほんとにただのおまもりです。防犯登録が盗難を防止するものではないように。
実際問題、BAAはノーブランドの非BAAの自転車の売値を高くするくらいの意味しか持ち合わせません。
BAAの自転車にも不具合やリコールはふつうに起きます。だって、もとがノーブランドの中華性の安い実用系自転車だから。ほんとの安全安心を2~3万で買えますかいな。
「日本の自転車」という売り文句が「BAA印の自転車」にすりかわった、それだけです。が、庶民はまたも簡単にころっとだまされます。
では、ユーザーはどう自転車の安全性を確保しましょう。これはシンプルです。しょうもないシールやキャッチコピーにだまされず、現物をしっかりチェックします。
「ちゃんとした売り物に不良品があるか! そんなアホなことはない!」
はて、いつから店の売り場に不良品がないというファンタジーが生まれました? ブランド物の自転車、自動車、白物家電、ハイテク家電のリコールさえが日常茶飯事です。
つまり、大事なことはBAAシールとか、店員のビジネストークとか、通販のキャッチコピーとかではありません。
大事なことはフレームの溶接とかネジの質とかボルトの締め付けとか備品の状態とかです。これは現物の自転車にしかない。
BAAシールで永遠の完全な安全性が確保されれば、そんな幸福なことはありません。防犯登録シールで自転車盗難が完全になくなれば、こんなめでたいことはありません。
BAAシール付きの2~3万の自転車の機能や性能は1万の安チャリとどっこいです。機能、性能、品質はそんなに変わりません。BAAの検査代とシール代が何千円だあ?
BAAシール付きのネジの緩んだ売れ残りの微妙な自転車は売り場に五万とありますよ。
でも、大半の人々はシールを見ても、売り物の細部やパーツのコンディションを見ない。
値段とシールで「いちばん安い1万やつより2万のシール付きのやつのほうが高品質で安全だろう」て勘違いしちゃいます。
でも、自転車は1万円の上乗せでそんなに良くなりません。売値のいくらかはシール代と検査代ですし。あとの数千円でパーツを劇的にバージョンアップするのはむりだ。
つまり、BAA自転車の実態はおまもり付きの1万の自転車です。
安心安全を求めるなら、自転車売り場の自転車をセルフチェックしましょう、見て、揺らして、持ち上げて、叩いて、押してと。
とにかくシールだけで決めない。キャベツを選ぶくらいにはきちっと選別しましょう。そして、定期チェックですね。
結局、大半の人々が安全安心を求めながら、ふだんの空気入れすらまともにしないから。
まあ、普段使い+ちょっとサイクリングにはこういうチャリが十二分です。