フリーボディが変われば、スプロケも変わり、工具も変わる・・・この言葉を頭に入れて、先に進みましょう。
スプロケ交換の前にフリーボディ講座
一般的な自転車の後輪にはギアを付ける土台があります。これがフリーボディです。
空回り機構兼ソケットですね。ここに複数のギアユニット=スプロケットが収まります。略称はスプロケです。カセット、ギア、コグ、ギザギザとも称されます。オートバイのこれも同名です。
自転車のスプロケの枚数は1~13枚です。土台のフリーボディの形状や横幅で対応ギアが変わります。一枚目の写真はSRAM XDタイプ、二枚目はSHIMANO HGタイプの11速用です。
自転車業界の最新フリー事情
自転車変速機三大メーカーのシマノ、SRAM、カンパニョーロは別々のフリーボディ形状を採用します。
- SRAM XD,XDR
- SHIMANO HG,HG+
- CAMPAGNOLO
数年前までSRAMのロードタイプのカセットはSHIMANO HGタイプと互換でしたが、この数年でライバルと決別して、自前のXD路線を突き進みます。MTBは無印XD、ロードはXDRです。後者の方がやや幅広です。未来の13速、14速時代への萌芽が見えます。
で、メーカーごとにフリーボディの形状が異なりますから、スプロケットの互換性はありません。ゆえに自転車乗りはホイールを別途で買う時にはここに注意します。
しぶとく残るボスフリー
また、古いボスフリーという規格があります。スポーツバイクではほぼ使われませんが、6-7速のママチャリや軽快車、安いロードバイク風の自転車では現役です。
Amazonの通販の安い『クロスバイク』や『マウンテンバイク』や『ロードバイク』のカセットはこのタイプです。空転するフリー部分がカセット側に付属します。
6速はほぼこれですが、7速はボスフリーとHGのダブルスタンダードです。つまり、自転車パーツの歴史ではこの7速の時期にフリーボディの規格が切り替わりました。
そして、2020-2021シーズンにHGからHG+へロード規格が切り替わり、HGユーザーの雲行きが徐々に怪しくなります。世はまさにフリーボディの激動時代です。
工具も多彩
旧式のボスフリーは安価で頑丈ですが、超ヘビー級です。そして、これをホイールから取り外すには専用の『ボスフリー抜き』が必要です。HGカセットに使う『ロックリングツール』ではこれを外せません。
台紙にはfor SHIMANOとあり、シールにはカンパ用とあります。さて、これはどっちのロックリングツールだ?! いや、これの正体はロックリングツール兼カンパニョーロのスクエアタイプのBBカップ工具です。なんじゃそら。
自転車整備の初心者が主に相対するのはボスフリーとSHIMANO HGタイプでしょう。シマノの新型HG+は12速用ですし、SRAM XD系統は本格スポーツバイクにしか使われません。カンパニョーロフリーはコアなカンパファン用ですね。
あ、3速の内装ギアのスプロケは一枚です。これを交換する機会はそれほどありません。むしろ、変速機入りの内装ハブやシフターの調子が先におかしくなります。
このようにフリーボディとカセットの説明だけで一項目が出来てしまいます。以下では標準的なシマノHGタイプのスプロケットの交換を画像付きで解説します。
初心者向けのスプロケットの交換方法
自転車好きにはシマノカセットで通じるSHIMANO HGのフリーボディがこちらです。
これは24年前のXTRハブのハブセットです。正式名称はSHIMANO HYPERGLIDEです。前世紀末からこの2020年代までバリバリの現役規格です。
最新のシマノ12速変速はこの正統後継のHYPERGLIDE PLUSに切り替わります。MTB用の12速カセットはすでに切り替わりました。未だに姿を表さないロード用12速もこの路線を辿ります。
とはいえ、自転車変速のボリュームゾーンの7-11速の旧式のHGタイプの牙城はまだまだ崩れません。売れ筋ナンバーワンの手ごろなクロスバイクのギアがこの範囲に留まりますから。フロント3×リア8がクロスバイクの王道です。
最近ではHG向けの12速商品も充実します。ライバルのSRAM社やサードパーティが安価なHG用12速カセットを販売します。
で、この2020年5月に本家のSHIMANOがデオーレ12速を発表しましたが、HG用の12速カセットはなかった!
スプロケ交換に使う工具
シマノカセット(HG)の交換には専用の工具が必要です。一つ目は上述のロックリングツールです。
同じものが三つに見えますか? いえいえ、全部が別物です。左がボスフリー抜き、真ん中がシマノタイプのロックリングツール、右がカンパニョーロBBカップ工具兼ロックリングツールです。
なにが違うか? はい、先端の溝(スプライン)の数は一緒です。10個。でも、高さや幅が微妙に違います。これで用途が異なります・・・厳密には。自転車専用工具の闇です。
実際問題、スプラインの掛かりを工夫すればそこそこ使い回せますが、初心者は素直に専用の工具を使いましょう。ここでは真ん中のシマノロックリングツールが正解です。
もう一つの工具がスプロケ外し、スプロケットリムーバーです。外すときにしか使いません。
チェーンの切れ端がくっついた棒状の工具です。後述のようにこれは空回り防止のストッパーです。
専用工具はこの二つです。ここに大き目のモンキーレンチが加われば、スプロケット交換への道が開けます。
スプロケットを外す
スプロケ着脱の工具は特殊ですが、作業は簡単です。注意点は手の怪我と服の汚れだ。ギアの歯は凶器、古いスプロケは汚物です。軍手と紙切れを用意しましょう。
作業用ホイールはうちのMTB用26インチです。
上記のHG用12sギアをロード用11sボディにむりやり取り付けてあります。スペーサーを入れ忘れたので、これをセットするためにスプロケ交換をします。
スプロケの近影です。中央の12本の溝入りの部分が固定用のロックリングです。
SHIMANO HG、SRAM XD、カンパニョーロのロックリングの溝数は12で一致しますが、ボスフリーのロックリングは12、カニ目、フック式と多彩です。
そして、ボスフリーのここは右回しで緩む逆ねじです。あ、カンパニョーロも逆ねじだったか。シマノHG、SRAM XDは右回りで締まる正ねじです。
最初にロックリングツールをスプロケットの中央の蓋=ロックリングにかぽっと嵌めます。
そして、モンキーレンチの顎を適当に開いて、ツールの六角部分にセットします。ちなみにモンキーレンチの正しい回転方向は『下あごの方へ』です。
さて、これが普通のネジであれば、ロックリングは左回しで緩みます。しかし、スプロケのこの部位にはフリー機構があります。おかげで足を止めてもペダル逆回ししても、バックできません。
外すときにだけ使うスプロケリムーバー
ここで役立つのがスプロケ外しツールです。
これでカセットとロックリングの供回りを防ぎます。つまり、この奇妙な道具はストッパーです。ちなみに手やペンチでこのギザギザを抑えるのはむりです。指が切れるか、ギアの歯が欠けます。
この作業の正しいスタイルはこうなります。
ホイールを膝で固定して、カセットをストッパーで固定し、モンキーレンチを正面から見て左方向に回します。あ、モンキーレンチの方向が逆だった。
ロックリングが正常な状態であれば、最初の抵抗のあとでするする緩みます。
はい、シンプルな蓋ですね。これはギアとは別個のパーツです。ただ、SRAM XDタイプのリングはスプロケと一体構造ですが。
スプロケが外れない=スプロケ齧り
HGカセットの機構はまちまちです。この12速用は上二枚が一枚ずつ、下十枚が一体型です。
こっちのロード用のカセットはもっとバラバラになります。
ところで、HGタイプのスプロケットの固定具はこのロックリングのみですが、しばしばカセットはフリーボディから抜けなくなります。SHIMANO HGタイプの構造的欠陥のスプロケ齧りの仕業です。
こんなふうにペダリングの力でカセットの取り付け部分がフリーボディにじわっと食い込みます。この齧りが深くなると、スプロケがすんなり抜けなくなる。ロックリングを外してもカセットを抜けないときにはこれを疑いましょう。
SRAM XDや新型HG+はこのスプロケ齧りを克服しました。ボスフリーもこの問題と無縁です。
スプロケット取り付け
取り付けは取り外しより簡単です。チェーンの切れ端付きの棒=スプロケット外しが不要ですから。
8、9、10速用のスペーサーを入れます。
MTB10速用ボディは8、9、10、11速兼用です。で、この12速カセットはMTB11速ボディにジャストフィットします。が、この黄色いフリーボディはロード用11速です。MTB用よりソケット部分が幅広です。スペーサーを入れないと、カセットをしっかり固定できません。
ちなみにロード10速用ボディはロード11速用カセットに対応しません。ボディ自体の長さは一緒ですが、カセットの嵌め込み部分が11速用より1.85mmだけ短いからです。反対に11速用に10速カセットや9速カセットはOKです。ややこしい。
ですから、10速のロードのホイールを11速にアップグレードしようと11速スプロケと変速機を買っても、ぽん付けで11速化できません。10速専用ホイールのボディのソケットに11速カセットは物理的に入らないから。兼用か専用かは要注意項目です。
さらに近日に迫るシマノのロード12速化でフリーボディとカセットがHG+に進化すると、現行の大多数の無印HGユーザーは同じ壁にぶち当たります。これは機材の変容の過渡期の風物詩ですね。
スプロケの取り付け作業に戻りましょう。チェックポイントはフリーボディの溝=スプラインの幅です。一か所だけが他より細身です。
カセットのギアの嵌め込み部分です。
あとは簡単なパズルです。
が、一部のギアやスペーサーにはこの細身の部分がありません。全部のスプラインが同一の幅です。さっきの1速用の厚歯ギアなどがまさにそうです。
スプロケをフリーボディに戻して、ロックリングを固定します。ツールとレンチをセットして、右回しで締めます。
適正トルクは30~50Nmです。が、ここには計測器具を当てられません。『緩まないようにきちんと締めるけど締め付け過ぎない』が現実的な適正トルクです。
振り出しに戻りました。
スプロケ交換の時期
スプロケットの交換や着脱の主な理由は以下のようなものです。
- ハイグレード化
- 軽量化
- 変速数アップ
- 交換修理
- 掃除
- メンテ
- ブログ記事やYouTube動画作成
今回の作業は簡単なメンテナンス及び記事用のデモンストレーションです。なぜか過去記事にこのスタンダードな整備ネタがなかった。
で、このスプロケットも有限な物体ですから、経年劣化や摩耗で消耗します。典型例は歯のチビりや欠けです。
まあ、大きいギアの歯の一つや二つがぱきっと欠けても、変速性能はそんなに落ちません。小さいギアの歯欠けはやや深刻ですけど。
あとは上のフリーのスプロケ齧り、歯飛びなどです。歯飛びは使用頻度の高いギアでしばしば起こりますね。上から1、2、3段あたりです。
10速以上のカセットの歯の厚みは7-9速のそれより細身で華奢です。必然的に耐久度が下がって、摩耗が早くなります。これはチェーンと同じ宿命です。
歯飛びが起こり始めると、チェーンの掛かりが悪くなって、進みも変速も乗り心地も劇的に下がります。要交換ですね。
自転車DIYが普及したか、Amazonにはスプロケ工具セット!があります。BIKE HANDは安くて良い工具メーカーですよ。シマノ純正がやや割高ですからね。
どうせあれこれ弄ってしまう未来を悟った人は最初から一式セットを買いましょう。個別購入よりお得ですよ。