シカゴのSRAM、ヴィツェンツァのカンパニョーロ、そして、サカイのシマノが世界三大自転車パーツ企業です。
この3社の共通点は変速機を作って、市販のフレームを作らないことです。上のSHIMANOロゴのロードは展示用の試作機です。
車体の設計、製造、販売は自転車メーカー=GIANTやTREKのお仕事です。
最近のシマノさん
シマノ製品は自転車パーツの業界標準です。チャリ通号の内装3段NEXUSからロードレースの11s Dura Aceまで世界の自転車乗りの足元を支えます。
が、オフロードやオールロードのシーンでは最後発のSRAMに足元をすくわれて、イニシアチブをうばわれます。12速、BOOST、フロントシングル、いずれがSRAM発のトレンドです。
一方、ロードバイクではライバルたちを寄せ付けません。SRAMの電動無線変速eTap、カンパニョーロの12sにぴくりともせず、4年毎のマイペースなアップデートをつづけます。
そして、アナログパーツの伸び代の頭打ち感を補うようにハイテク機材の開発をいそぎます。電動アシストユニットSTEPS、純正パワーメーター、アクションカメラなどなど。
時代のながれとともにアナログな金属加工屋さんからハイテクなフィットネス屋さんへ進化できるか? 今後のシマノの動向がたのしみです。
ロードのコンポのグレード
シマノは総合自転車パーツ屋さんです。オンロード、オフロード、実用車、電動、内装の変速機をカンペキに取り揃えます。カンパニョーロやSRAMのようなジャンルのかたよりがない。
そして、ロードバイクのコンポーネントは得意中の得意です。『コンポーネント』は自転車パーツ全般を指しますが、通称の『コンポ』は変速機&回転駆動系パーツの通常名詞みたいなものです。
以下のグレードが公式のチャートでロード用に振り分けられます。
- DURA ACE(デュラエース/デュラ)R9200系
- ULTEGRA (アルテグラ/アルテ)R8100系
- 105(イチマルゴ/ワンオーファイブ)R7000系
- TIAGRA(ティアグラ)R4700系
- SORA(ソラ) R3000系
- CLARIS(クラリス) R2000系
- TOURNEY(ターニー) A070
- SHIMANO A050
太字ピンクが12速コンポです。オレンジのTIAGRA 10速、SORA 9速、CLARIS 8速です。下の二つはともに7速コンポです。()内は読み方、愛称です。
型番の”R”はROADのイニシャルです。じゃあ、CLARIS以上が正規グレードで、TOURNEYとSHIMANO A050は廉価用の補完シリーズのようなものです。
自転車競技用機材てゆう観点では11速コンポの105以上が推奨グレードになります。2021年にデュラエースとアルテグラ、2018年に105がモデルチェンジしました。
オレンジのグレードは入門用ロード、フラットバーロード、アーバンコミューター、ロード系クロスバイクなどに活躍します。
シマノのレバーはSTI
ロードバイクのシンボルアイテムはドロップハンドルです。レバーは一本でブレーキ機能と変速シフト機能を兼ね備えます。
これの開発元はシマノです。もともと別々だったブレーキレバーとシフトレバーを一個にぎゅっとまとめました。
MTBはラピッドファイア、ロードはデュアルコントロールレバーです。このブレーキシフター一体型設計思想の総称がシマノ・トータル・インテグレーション、”STI”です。
で、ロード用のSTIレバーの操作方法です。
手前の小レバーがシフトレバーです。奥の大レバーがブレーキレバーです・・・が、ブレーキレバーがシフトの機構を兼ねます。手前に引く=ブレーキ、内側に倒す=シフトです。
シマノのレバーは業界標準で広く普及しますが、客観的にこのシステムは合理性を欠きます。一個の端末に別々の二つの機能を付けます?
カンパのデュアルレバーはエルゴパワー、SRAMのはダブルタップです。操作の明快さではこの両者のレバーがSTIに勝ります。
でも、シマノは業界標準ですし、長寿命ですし、高性能ですし、良コスパですし、日本メーカーです。少々の機能性の欠点は多大なPROSのまえにうすれます。
グレードのちがいはどこに出る?
105のコンポセットの実売価格は5万円、DURA ACEは15万円です。機能面はイーブンパーです。おなじ11速のスポーツ用品です。10万の差はなんでしょう?
いちばんのちがいはグレードです。格付け、ブランド、そうゆう無定形のものです。105にはステータスがありませんが、DURA ACEにはそれがあります。付加価値、プレミアム、ブランドです。
これはホイールのラインナップでなおさらにあからさまです。コンポとおなじグレード名を持つのはDURA ACEホイールのみです。
人気者のアルテグラホイールは当のシマノの手で”ULTEGRA”の看板を外されて、”WH-RS500″て無味乾燥なものに生まれ変わりました。2017年アルテホイールの悲劇です。
最高グレードの証、JAPAN
さらにULTEGRA以下のパーツは海外工場製です。マレーシアに釣り具と自転車パーツの大きな工場があります。
他方、ロードバイクの最高峰DURA ACEとMTBの最高峰XTRは国内工場で製造されます。Made in Japan! まさに別格です。
このテッカテカ感に堺の金属加工屋の職人スピリッツが現れます。工業品から工芸品のオーラさえがほんのりと漂います。
国内の製造業は完璧にすたれました。ゆえに高品質な日本製の価値はますます上がります。そして、国内のロード乗りは非常に保守的でアカデミックです。デュラとローディまさに蜜月の関係です。
グレード別の重量
ブランドや製造国は自転車の性能には影響をおよぼしませんが、第三の要素は絶大な効力を発揮します。重量です。
ハイグレード品はより高精度で軽量です。もっとも高いデュラエースがもっとも軽いコンポです。パーツの素材もアルミオンリーから、チタン、カーボンのハイブリッドにバージョンアップします。
で、これらの硬い軽い素材を精密に加工しようとすると、余分な手間と労力を求められます。必然的に値段が二倍三倍にふくれあがります。
具体的なグレード別のセット重量をシマノの公式のチャートから参照しましょう。コンポの内容は一般的なキャリパーブレーキ、フロントダブル、機械式とします。
ただし、げんみつな実測重量はチェーンリングの歯数、スプロケットの歯数、チェーン長、ケーブル長、個体差で左右します。
また、公式サイトにTIAGRA以下のグレードの重量記載が見当たりません。11速同士のグレードの比較となります、あしからず。
クランクは53-39Tのリング付き、カセットは11-25T、フロントメカはダウンスイングのFタイプ、リアメカはショートゲージのSSタイプ、BBは圧入タイプ、レバーとブレーキは前後ペアです。
グレード名 | クランク 53-39T | カセット 11-25T | フロントメカ F | リアメカSS | レバー | ブレーキ | PFBB | チェーン | 合計 | 実売価格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
DURA ACE R9100 | 626g | 175g | 70g | 158g | 365g | 326g | 54g | 247g | 2021g | 150000 |
ULTEGRA R8000 | 690g | 232g | 92g | 200g | 440g | 360g | 69g | 257g | 2340g | 80000 |
105 R7000 | 757g | 269g | 95g | 225g | 500g | 379g | 69g | 257g | 2551g | 60000 |
105とアルテグラの重量差は200g、価格差は2万円です。100g/1万円は超高級のブランド牛の霜降り肉並みです。
アルテグラとデュラエースの重量差は300g、価格差は8万円です。100g/27000円は超高級ブランド牛の希少部位並みです。自転車パーツのシャトーブリアンや~!
絶大な価格差は前述のブランドや素材や製造国のたまものです。
性能差はどこに出る?
2018年、11速コンポの末弟の105シリーズがR7000にアップデートしました。下位グレードは上位グレードを踏襲します。現行のデュラ、アルテ、105の機能差はほぼありません。
ですから、注目点は機能差でなく、性能差になります。具体的なものは重量、変速のなめらかさ、ブレーキの利き、耐久度などです。
フロントディレイラー
「グレードの性能差はフロント変速とブレーキに出る」てゆうのが愛好家の定説です。逆にレバーとリアディレイラーは「ちがいが分からん」て良くゆわれます。
ロードバイクのフロント変速数は2段です。インナーとアウター。フロント3段のものはやや特殊なバイクになります。
この2段ないし3段のフロントディレイラーの動きは10段や11段のリアディレイラーより大きくなります。レバーの手応えも重くなります。
で、フロントメカの精度や状態がぽんこつであれば、ぎこちなさがよりはっきりと顕在化して、乗り手にダイレクトに伝わります。ガッシャン、ガシャガシャ! 最悪、チェーンが外れます。
リアの少々の違和感は段数の前にまぎれます。ごまかしや代用が効く。フロントはそうでない。どっちかのリングに不具合が出れば、段数が一気に半減します。
で、マウンテンバイク、オールロードバイク、アーバンコミューターなどなどでは1xのフロントシングルが浸透しますけど、ロードレーサーはフロントマルチを維持します。
ほかのジャンルでは急速に立場を失う『フロント変速のなめらかさ』が重要な意味を持ちます。で、この一事のためにハイグレードを使う理由があります。
が、あいにくと電動コンポの登場でこの絶対性が危うくなります。機械式デュラエースと電動式アルテグラの変速のなめらかさを比べると、後者に軍配を上げざるを得ません。
電動コンポのディレイラーはモーターで動きます。近いところから機械で動かす。正確です。レバーはレバーみたいなボタンです。
機械式コンポのディレイラーはワイヤーケーブルで動きます。遠いところから紐で動かす。おおらかです。レバーはレバーです。
感覚的にはアナログ時計とデジタル時計、リモートで動かすラジコンロボと糸で動かす操り人形ぐらいのギャップです。SRAMの電動無線のeTapはまんまラジコンメカですし。
アナログなハイグレードかハイテクなエントリーモデルか、機械式デュラエースが15万、電動アルテグラが13万・・・
「えーい、25万の電動デュラエース、いや、ひとおもいに30万の電動油圧DBデュラにしてやるわー!」
て、庶民はなかなか思い切れません、ははは。
ブレーキ
グレード差でブレーキ性能を語る時代はすでに過去のものです。2015年以降、キャリパー、ミニVブレーキ、ダイレクトマウント、油圧ディスクブレーキてバラエティが急増します。
この期にリムブレーキの新しい規格が登場しようとはだれが夢に見ましょうか?
さらにカーボンホイールの爆発的な普及が事態をさらにややこしくします。
- ブレーキ本体
- ブレーキパッド
- ホイール
この組み合わせの妙、サイテキカイ・セッティングがグレードよりかんじんです。
「ブレーキ本体を105からデュラエースに!」より「ブレーキパッドを付属品から高級品に!」の方が効果的だってことはふつうに起こります。
アルミホイールとカーボンホイール、旧世代のカーボンホイールと最新鋭のカーボンホイール、制動力はぜんぜん別物です。
105、ULTEGRA、DURA ACEのブレーキ付属のブレーキパッドは”R55C4″です。とくに但し書きがなければ、これはアルミリム用のR55C4です。カーボンリム用のR55C4は別物です。
まあ、ディスクブレーキにすれば、このリムブレーキの異常なわずらわしさから脱出できます。当のシマノがこれを整理整頓しようと、DBをごりごり推しますしね。
初心者はどのグレードを買う?
初心者は油圧電動のデュラエースを買いましょう。最高級の最新鋭の機材は乗り手の未熟さを十二分に補いますし、無上のステータス、まんぞく度を与えます。
グレードを重視するなら機械式デュラエース、変速のなめらかさを取るなら電動アルテグラ、ブレーキを極めるならDBアルテグラかDB105です。
大人の事情で英国系の通販ストアがシマノ製品の日本向け出荷を止めてしまいました。アマゾンが最安です。てか、どこの価格もほぼ横並びだ。