シマノハブ マイクロスプライン12速フリーボディの分解と清掃

シマノハブのメンテナンス=ベアリングボールとの格闘

ベアリング入れすぎ
ベアリング入れすぎ

シマノがカップアンドコーンからの脱却を図るこの2023年末にこんな作業は古参の思い出になりかねません。幸い今回の主役はこれではない。

本日のメインキャストはこちら、Shimano Micro Splineフリーボディです!

シマノマイクロスプライン
シマノマイクロスプライン

メジャーメーカーのマイナー規格マイクロスプライン

ロードバイク乗りやミニベロおじさんには謎の仕様でしょう。これはシマノのHG+の後継で、MTBカテゴリーの12速用MSフリーボディです。

MSは”Micro Spline”の略称で、読みは『まいくろすぷらいん』です。名前の通りの細い溝が売りです。これでシマノHGの致命的欠陥のフリーボディの齧りが緩和されます。

スプロケ齧り
スプロケ齧り

ちなみにHGは”HYPERGLIDE”の略で、読みは『はいぱーぐらいど』ですが、この名称を口にするものはこの世にいません。通称は『シマノフリー』か『シマノ/SRAMフリー』です。

「カプレオフリーを無視するな!」という方は小径車マニアの方でしょう。あれもMSくらいのマイナー規格です。

シマノハブ 12速MSフリーの分解と洗浄

マウンテンバイクの仕様と規格の現状はこうです。

SRAM XD > Shimano HG >>> Shimano MS

2015年以降にSRAMが覇権を取りました。これは近年の自転車界の最大のサプライズです。今に例えて言えば、マイクロシフトがシマノからロードコンポのシェアを奪うようなものですか。

MTB完成車の変速はたいていSRAM基準です。里山やゲレンデのSRAM対Shimanoの比率も5:1くらいです。

その少数派のシマノユーザーは現行のMSより旧式のHGを好みます。実際、シマノコンポの最高傑作は9速XTRや10速SAINTでしょう。

ということで、このMSハブのメンテの日本語情報は非常に貴重です。

スナップリングを外し

シマノフリーとシマノMSフリーの外し方は全く異なります。最初に使うのは14mmのぶっといアーレンキーではなく、ほっそいスナップリングプライヤーです。

ピン外し
ピン外し

フリーの周りの黒いカバーとシルバーの爪が見えますね? 後者がスナップリングです。この爪を工具の先ですぼめながら、カッターなどで黒いカバーと一緒にぱかっと外します。

スナップリングとカバー
スナップリングとカバー

シルバーのスナップリングはソケットの開放部分より一回り大きい『返し』です。この爪を抑えて小さくしないと、ハブから外せません。

12mmスパナでエンドキャップを外す

次はエンドキャップの着脱です。これは普通にすぽっと外れます。シマノのお触れは「シャフトでこじって外すな」ということです。えー!

じゃ、12mmの板スパナを切り込みにはめて、ぐぐっと引っ張ります。まあまあの硬さです。

12mmスパナで引き抜く
12mmスパナで引き抜く

フリーを引っこ抜く

で、最後にフリーを引っこ抜きます。キャップよりさらにまあまあの硬さです。

フリー引っこ抜き
フリー引っこ抜き

と、ここで同時に内側のスプリングが高確率で飛び出します。スモールパーツの行方不明に注意しましょう。

このフリーの裏側に注意書きがあります。「注油すんな」と「分解すんな」という文字が見えます。

スモールパーツの一式です。

Shimano Micro Splineスモールパーツ
Shimano Micro Splineスモールパーツ

右上から時計回りにシマノの公式名称を引用します。

  • アウター
  • スプリング
  • コイルスプリング
  • スライダー
  • スペーサー
  • アウター防水カバー付きスナップリング

グリスやオイルは最小限にしか塗布されません。とくにフリーボディ本体への注油やグリスは厳禁です。

懐かしい鋼球戻し作業はMSフリーでは無用の長物です。ベアリングはフルシールドではありませんが、蓋+レースのセミシールドタイプです。

スモールパーツの小さなポイント

スモールパーツの取り付けの小さなポイントを紹介します。

  • スペーサーの位置
  • コイルスプリングの爪
  • スライダーの上下の向き

剣山みたいなスペーサーの正しい位置はここです。フリーのギアの下のちょっとした黒い土台に刃先を置く。しかし、なんじゃ、このパーツ?

スペーサー

コイルスプリングの正しい位置はここです。鍵側の先端をフリー側の溝にひっかけます。

コイルスプリング
コイルスプリング

コイルスプリングの上に置くスライダーの正しい向きはこうです。最初、ぼくは逆向きで入れてしまいました。

スライダー
スライダー

そして、これらを正しく取り付けて、アウターを嵌め、スナップリングを戻しても、遊びを完全に消せません。

フリーの若干のカタカタ感は仕様です。出荷時からそうでした。遊びがないと、逆に音が出るそうな。

とにかく変態的な特殊パーツが多すぎる・・・そして、スモールパーツの取り付け方法はシンプルですが、カップアンドコーンに付き物の鋼球戻しがなく、あの無駄なやりがいはもうありません。

結果的に前時代的のおおらかなアバウトさが減って、現代的な工業製品感が増えました。「しろうとは弄んな」というシマノの方針が透けて見えます。

塩梅やさじ加減の余地がありません。古参ユーザーは涙目でしょう。チェーンのアンプルピンの圧入もさじ加減系ですから、かっちり系のクイックリンクに切り替わりました。

でも、あれも何か不評ですが。ユーザーの介入(作業のムラ)を省くための設計や仕様がことごとくビミョーになるというのが最近のシマノのテンプレです。

シマノ信者でないぼくがこの3つをコンプしたのはB4C的七大不思議の一つです。

シマノの油圧ディスクブレーキ用のイージージョイントホース
シマノの油圧ディスクブレーキ用のイージージョイントホース

真のシマノ通はここにフライトデッキとアクションカメラをリストアップしましょう。いや、その二つは黒歴史レベルだー。

で、これをあえて使うかと聞かれると、「SRAM XDか旧シマノフリーを使うわ」となります。あきらかなメリットがハブの静かさと齧りの少なさくらいですし、マジで。

うーん、ぼくが気付かない利点が何かあるのか? ほかの人に聞いても、だいたい同じような返事しか貰えません、「HGの方が良かった、9速時代の方が良かった」と。

メンテフリーで使える期間が長くなるような気がせんでもないというのが希望的観測です。

次代のShimano RIPという新規格はこのMSとHGの互換性をカバーする設計のようです。ハブの型番ではTC600、TC500、QC400、QC300がこれです。

何か月後かにShimano RIPハブの実物が手元にありそうな気がせんでもない気がします。

Shimano マイクロスプラインハブのまとめ

  • メンテナンス性 4 良い
  • 重量 3 鉄ボディは重い
  • 互換性 1 ない
  • 価格 3 ふつう
  • 機能 3 静かで齧りはまし
  • 回転 3 ふつう
  • 総合 2.5

シマノのMTB12速コンポの不人気さはこのMicro Splineの仕業のようにすら思えます。正直、SRAM XDの劣化版だ。

シマノのブレーキはSRAM=AVID系より好評ですけどねえ・・・まあ、ぶっちぎりの一番人気はプレミアムグリスですが。