自転車の座面、サドルは非常に重要なパーツです。人体と車体の接触面が最大になるからです。
おかげで自転車の悩みの大部分がここに集中します。尻の痛みや痔はサイクリストの職業病です。
この悩みを解決できるのはリカンベントばかりです。
サドルの基本
個人の好みで少々の誤差はありますが、サドルの角度の基準は水平です。
ここからケツの形、サドルの柔さ、アレやナニの大きさや有無で上下と前後を微調整します。
もっとも、自転車のジャンルでサドルの役目は異なります。ダートジャンプやBMXのサドルはお飾りですね。でも、公式のレースでサドルなしは整備不良で規定違反です。
反対にロードレース、サイクリング、ツーリングではサドルが尻の友となります。
1度のズレは致命的
一般的な感覚では1度のズレは誤差の範囲です。しかし、サドルではそれが確実な違和感をもたらします。
縦20cmのサドルで計算をしてみましょう。
- 座面20cm x 3.14 = 62.8cm
- 62.8 / 360 = 0.17444=1.74mm
1度のズレで1.74mmのギャップが出ます。しかも、前下がり=後ろ上がりです。水平の前後の最大ギャップは0mmですが、1度ズレた前後の最大ギャップは3.5mmです。
個人的な経験では事前の予想のはなし半分の調整がベターになります。「サドルの角度を変えるぞ! ウオー!」てやると、下げすぎるか上げすぎます。
結局、サドルも鞍も座るもの、いすの一種です。いすの座面はだいたい水平です。これを基準にヤグラのボルトを1/4回転や半回転ずつゆるめ・しめしつつ、微調整します。
「ウオー! サドルの前をどーん!」
そんな力技は厳禁です。
サドルの高さの合わせ方
さて、本題はサドルの高さの合わせ方です。調整の方法はざっくりとアナログ版とデジタル版に二分します。そして、ジャンルでベストなポジションはちがいます。
かかとを付けて、ひざを伸ばしきる
ロードバイク、ランドナー、ピスト、トラックバイク、軽量クロスバイクみたいなスピード型・前傾姿勢のバイクのサドルポジションは全般的に高めです。
もっとも手軽な調整方法はカカトぺったん、ヒザぴーん方式です。ペダルを最下段にセットして、かかとを付けます。
このとき、骨盤をむりにずらすとか、関節をがくがく外すとかのズルをしない。自然な状態でサドルにまたがって、ペダルにかかとをつけます。
この状態でひざがまっすぐになるところまでサドルを調整します。
念のために左右でやりましょう。左右の足の長さはびみょうにちがいます、足のサイズと同じく。几帳面な人は左右でクランクアームのサイズを変えるとかします。
げんにぼくの左足は右足より長めです。1cm前後のギャップはあります。ひざのところに後天的な支障があります。おそらく過去の怪我のせいです。
ひざの皿とペダル軸を垂直に
つぎは前後調整です。
クランクを水平にして、ひざの皿とペダル軸を垂直にします。5円玉をつりさげる手法が伝統的です。姿見やスマホや同居人を駆使しましょう。
ぼくは上からの目視でてきとうに合わせます。てか、フラットペダルでは柔軟なポジショニングが可能です。
一方、ビンディングペダルは同一姿勢・長時間をライダーに強います。へんなポジションで出かけると、びみょうな違和感にえんえん悩まされます x 10時間。
ことさらにタイトなロードバイクでは小さなストレスが命取りです。最悪、股ずれ、がさがさ、ぶつぶつ、化膿です。
ランニングであれ、ウォーキングであれ、耐久系の小ノイズはじわじわ来ます。靴の中の砂粒一個、靴下のヨレ、パンツのひもの締めすぎetcetc…
中長距離の単独走ではアドレナリンがどばっーて出ません。サイクリングは理性的で内省的なものです。細かいストレスはずっと心身をむしばみます。
あてにならないサドル係数
以上がアナログ版の調整方法です。フィーリングを重視する人はそちらを採用しましょう。データ派・数値派には以下のデジタル版が参考になります。
股下x0.86~
自転車のサイズ選びのキーポイントは股下です。自転車とコンタクトする部分が手から足までですから。
この図から正味の身長はサイズ選びにはそんなに重要じゃありません。ごらんのとおりに頭部はサイズに関与しません。股下、胴長、リーチの3点が決め手です。
股下、英語ではinseamです。計測方法は以下の通りです。
- 壁際にニュートラルに立つ
- 足を自然に閉じる
- またの付け根に本やものさしを当てる
この股下の数値に一定の係数を掛けます。サドル係数。これはまちまちで、0.86-0.89まであります。初心者は低くなり、上級者は高くなります。
ぼくの73cmの股下に初心者用の0.86をかけてみましょう。
73×0.86=62.78cmです。これがクランク軸=BB芯からサドルの座面までの距離になります。
上級者向けは73×0.89=64.97cmになります。2cmの差は大です。親指一本分です。
デジタル的尺度の弱点はサドルのしなりやクッション、パッドの厚みを度外視することです。本革サドルやTIOGAスパイダーはわりとしなります。
さて、係数にばらつきがある時点で係数の存在意味がありません。パーツやジャンルが細分化する現代の自転車界では逆に混乱のもとです。
ぼくはアナログ版をおすすめします。フィーリングを重視してストレスを減らすのがベストポジションへの近道です。
クロスバイクのサドル高
ロード寄りのクロスバイクのサドル高をロード並みに上げるのは考えものです。サドルを高くすると、前傾をきつくできます。スピーディにはなりましょう。
しかし、クロスバイクのハンドルはライザーバーかフラットバーです。グリップのポジションがドロハンより限定的です。長距離がだるくなりますし、視野が狭くなります。
過剰なハイサドルはクロスバイクの最大の持ち味の気軽さをそこねます。ちょい高 < ちょい低が合理的です。
ママチャリのサドル高
ママチャリや一般車、ちょい乗り機のサドル高のジャスティスはどっしりべったりです。町中のごみごみした道路状況では高速より低速がたいせつです。
なによりの重要ポイントは足つきです。
ママチャリや一般車の車体重量は15kg-20kgです。バレリーナのようなつま先立ちでは車体を支えきれません。お買い物帰りはなおさらです。
最近のママチャリのデザインは小径ホイール、縦長、低重心になります。低速域での安定性が根本にあります。
MTBのサドル高
オフロードバイクのサドル高は一筋縄じゃありません。シーンや用途でベストのポジションは変わります。
自走や平地のセクション、サイクルロードではちょいハイポジが有利です。
きつい上り・下りの場面ではべた付けが基本です。下りで腰を引けないと、でんぐり返りしちゃいます。
きつい傾斜に挑むときには腰をリアホイールの上ぐらいまで下げます。そして、尻を落とす。低重心。そのためにはサドルがじゃまです。
あと、立ちこぎやダンシングのときにもサドルは蛇足です。BMXやトライアルバイクみたいなトリック系自転車のサドルはほぼおまけです。
一昔前のMTBライダーはセクションや地形でいちいちサドル高を上げ下げしました。が、ドロッパーシートポストの登場でサドルの微調整は過去のものになりました。
これが事務椅子みたいに上下に自在に可変します。そのとき、その状況のベターなサドル高をワンタッチでゲットできます。
最後は費用と重量と強度の兼ね合いです。でも、べんりさがだいたい勝ります。オールロードやアーバンバイクへの普及は時間の問題です。
サドル高のまとめ
自転車のサドルの高さは車種や状況に寄ります。高いサドルはペダリングを助けますが、安定性を欠きます。低いサドルは足つきを良くし、重心を低くしますが、ペダリングの効率性を損ねます。
日本人を含む東南アジア人の股下は長くありません。胴長短足の身の程を知りましょう。欧米人の真似をして、過剰な落差を出すのはコスプレでしかない。