「マラソンはたいくつだ」
これはぼくの意見ではありません。スポーツ嫌いの厭味でしょうか? いや、これは経験者の生の声です。
ちなみにぼくは断続的にジョギングをしますし、フルマラソン、ハーフマラソンを経験します。ハーフのタイムは90分強です。
個人的に一時間以上のジョギングはたいくつです。ゆえに日頃の実走は10km前後です。走るときには週五で部活並みに走りますし、走らないときにはふつうにサボります。
で、冒頭のキャッチコピーです。これはぼくの言葉ではありません。よりコアな経験者の言葉です。マラソンのトッププレイヤーがしばしばぼやきます。
「マラソンはたいくつだ」
ぼくの知り合いに某強豪校の陸上部のキャプテンを務めて、箱根駅伝に出た人がいます。その人もしばしばこのようなことをこぼします。
「長距離はじみでたいくつやで。短距離の方があきらかに持てるしなあ・・・」
これは共通の感覚のようです。上級者さえが一抹のたいくつさを禁じ得ず、短距離やそのほかのスポーツの人気をうらやむ。
さて、本題です。自転車のマラソンにあたるロードバイクはたいくつでしょうか? 答えはYESです。ロードバイクはたいくつです。
ロードバイクはたいくつだ?!
ぼくは国内の自転車トレンドをスルーして、アンチロードバイク的な立場を取ります。ぼくの自転車趣味の入りはミニベロですし、2020年1月のマイブームはストリートです。
ウィリーの練習? いや、これはマニュアルの練習です。え、ちがいが分からない? それで自転車好きとおっしゃいます? ほぉ~、へぇ~。
まあ、積極的にアンテナを張らない人はウィリーとマニュアルの違いを理解できません。国内の自転車情報はロードに偏ります。主要メディアがそれしか発信しないから。
で、そんなぼくがタイトルみたいな文句を述べますと、『アンチの厭味』とか『知識マウント』とか『ポジショントーク』とか言われます。
サガンさんはかく語りき
しかしながら、これはぼくの意見ではありません。長距離ランナーの感覚からの連想的推測です。
そして、このような発言がこれを裏付けます。
「ロードレースはたいくつだ」
はて、こんな不謹慎なことを言うのはどこの馬の骨でしょう? 門外漢か、自転車嫌いか、あまのじゃくなMTBerか。
こちらの発言はスロバキア出身のペーター・サガンさんの発言です。前人未到の世界選手権三連覇を果たしたロードレース界のトップスターです。
ただし、これはロードレース観戦の感想です。
「おれはレースの最後の5kmしか見ないよ。それ以外はたいくつだ。最初から見ようなら、途中で眠っちまうぜ」
ロードレース全否定です、ははは。サガンさんはロックスター気質ですから、発言をオブラートに包みません。でも、ロードレースファンの気持ちはどんなものでしょう?
サガンさんの問題発言はロードレース観戦の率直な感想です。さすがのスターも「ロードに乗るのはたいくつだ」とはおっしゃいません。自分の職業を否定できない。
しかし、邪険な憶測をすれば、「ロードはたいくつだ」を実技まで拡大解釈できます。
サガンさんはロードレースのほかにマウンテンバイクのクロスカントリーで華々しい経歴を持ちます。2008年の欧州・世界Jrチャンピオンですし。
実際、リオ五輪ではロードレースを蹴って、スロバキア代表でクロカンに出場しました。結果的にメカトラで下位に沈みましたが。
で、そんなサガンさんはこうおっしゃいます。
「トレイルサイコー! ジャンプサイコー!」
多分にこの自転車界のスターはMTBやオフロードに競技的なおもしろさの軍配を挙げましょう。
で、ぼくもこれに同意します。庶民はロックスターのように発言しません。大物の意見に便乗するのだけが庶民の取柄です。
ロードバイクのたいくつさの原因
このように程度の差はあれ、自転車経験者はロードバイクのたいくつさを意識的・無意識的に感じます。
また、ほかの自転車ジャンルをかじって、そのおもしろさを知れば、相対的にその感覚を強くします。
もっとも、一部の人々はより盲目的な信仰に回帰して、客観的視点をいよいよ喪失し、痛いロード信者になり果てますが。
さて、このロードバイクのたいくつさの具体的な理由はなんでしょう? 答えはかんたんです。動作が単調に過ぎる。
これはマラソンやジョギングのたいくつさに通じます。ランナーは一定のペースを守りつつ、同じモーションを延々と繰り返します。
オンロードではイレギュラーな事件はそうそう起こりません。1パターンの単調な動作がひたすらに続きます。
ロードバイクも同様です。ロード乗りは一定のペースをキープしつつ、クランクをくるくる回します。
ロードバイクの動作の比率です。
走る:曲がる:止まる=8:1:1
ロードバイクにはテクニックはぜんぜん不要です。本質はマラソンだ。結果は走り込みの量でほぼ決まります。
おまけに最近ではハイテク機材が普及しまして、適切なデータが可視化されます。自分の感覚に頼らず、ディスプレーの指示に従えば、ベターな走りを実現できる。
つまり、ロードバイクには頭もテクニックも不要です。そして、操作が単調です。しかも、競技時間が長時間です。
単調なことを長々やる=ザ・たいくつです。
マウンテンバイクのトレイル走行の動作の割合です。
走る:曲がる:止まる=3:3:3
走る、曲がる、止まるのいずれが重要です。どれかが欠けても、満足なライドは成立しません。ちなみにあとの1割は『こける』です。
まれに山で道を間違うと、『担ぐ』や『滑り落ちる』や『投げる』を余儀なくされます。
オフロードの一本のライドは比較的に短時間で終わります。操作はロードのように単調ではありません。たいくつの余地はそんなにない。
トリック系のBMXなどはこうですか。
跳ぶ:回る:走る=5:4:1
ダートジャンプはこんな感じでしょう。
走る:跳ぶ:曲がる=4:3:3
トラックはこうです。
走る:曲がる:止まる=9:1:0
しかし、トラック競技は基本的に短距離系です。ロードのような単調さの無間地獄には陥りません。
競技時間当たりのすることの少なさがロードバイクのつまらなさの最大の原因でしょう。
実際問題、『実走はOKだけど、室内でトレーナーをするのはNGだ!』という人は少なくない。何故なら動作がたいくつだから。
ぼくも外ではそこそこジョギングできますが、ジムのマシーンでは走れません。状況の変わらなさに飽きてしまう。
ロードバイクのおもしろさ
このようにロードバイクの乗り手の挙動はおもしろいものではありません。なんで単調な長時間作業がおもしろくなります? 我々は機械じゃない。
おもしろさのレベルでは自動車の運転とイーブンパーです。ドライブのおもしろさは行き先や目的を含みます。単純な運転はたいくつです。
ロードバイクのおもしろさも同様です。行き先、グルメ、チャリ仲間、インスタ映えなどなどが多分に含まれます。が、これはサイクリングのおもしろさです。
ヒルクライムの達成感、人力で遠方まで辿り着くよろこび、ライバルとの駆け引きみたいなところはロードバイクのおもしろさの本質ではありません。
山登りの達成感を味わうなら徒歩で存分に味わえます。つまり、代替が可能です。それはロードバイクの特有の本質的なおもしろさではありません。
スピード? ロードのスピード域は自転車の中では上位ですが、乗り物の中では下位です。上り坂では電動アシストのママチャリに負けますし。
究極、子供をロードに乗せて、感想を聞きましょう。少年少女はそれにおもしろさを見い出せるか? 多分、むりです。
そもそも我々は学校のマラソン大会をヒャッハー!と歓迎しましたか? 無論、ぼくはサボりました、ははは。
ロードバイクは自転車のマラソンです。本質は長距離持久系競技です。おもしろくないのはあたりまえです。
ですから、自転車乗りは「ロードバイクつまんねー」とかの発言や文章を見ても、目くじらを立てない。「マラソン大会だるいわー」と同じですから。