ツァラトストラはかたりました、「神は死んだ」と。
サイスポ2018年一月号はぶちあげました、「リムブレーキは死んでいない」と。
スポーツバイクメーカーはこう暗示します、「はーい、はいはい、リムブレーキをBANしまーす♡ 今日からディスクブレーキを買うてや♡」と。
迫りくるキャリパーブレーキ包囲網
ロードのディスクブレーキ化は2015年ごろからです。トップレースでの試用が容認されますが、某選手の『ディスクローター危険がアブナイ!』主張で再凍結されます。
その後、選手の怪我はローターによらず、チェーンリングによる、はい論破!されて、トップレースでのディスクブレーキが再開されます。
この再凍結の時期がキャリパーブレーキ派の最後の希望でした。しかし、市場はその希望的観測をスルーして、ホビーユーズからディスク化を進めます。
で、2018-2019シーズンに有力自転車ブランドのフラッグシップがあれよあれよとディスクブレーキ化します。
気を吐くのはColnago C64ばかりです。
DB、エアロ、チューブレス、インテグラル
実際問題、ディスクブレーキ化はロードバイクシステムのトレンドの一部分にすぎません。単体のDB化はそんな重要ではない。
最近のロードバイクは4つの要素からなります。ディスクブレーキ、エアロダイナミクス、チューブレスタイヤ、インテグラルデザインです。
エンデュランス型ロードではエアロダイナミクスがコンフォートコンセプトやショックスシステムになります。ドロハンにリアショックが付きます。
旧来のロードレーサーはリムブレーキ、軽量フレーム、クリンチャータイヤ、汎用デザインです。
システムの構成要素がぜんぜん別物です。Windows XPとWindows 10くらいのちがい、はたまた、パソコンOSとスマホOSくらいのギャップがあります。
DB <<< インテグラルデザイン
このシステム大規模アップデのもっとも重要ポイントはインテグラルデザインです。ハンドル回りが独自専用設計になって、なかばブラックボックス化します。
ふつうの一般DIY愛好者は気軽にいじれません。小売店もメーカーの講習を受けないと、経験や直感では対応できない。
ひもの結び方、いとの通し方、配線、これは非常にテクニカルなものです。インテグラルのケーブル取り回しはてきとう団子結びでは片付きません。
内装ケーブルさえが小売店をなやませます。しろうとは半年に一度で済みますが、店はときに一日に二、三個を内装化を強いられます。悪態のひとつも口に出ましょう。
他方、メーカーは理想の設計を大胆に実現できますし、自社PBや傘下レーベルの製品をパッケージの一部に組み込めます。抱き合わせと囲い込みがはかどります、ははは。
その点、「Specializedのバイク!」とか「TREKのバイク!」とか「GIANTのバイク!」とかのアイデンティティははっきりします。
じゃあ、コンセプトストア持ちのブランドがますます元気です。
究極的にはお気に入りのハンドル、お気に入りのステムみたいなものがなくなります。3Tユーザーはインテグラルにどう対応しましょう?
「社外品を使うと、ケーブルをきれいに内装できないし、本来の空力性能を発揮できません!」て現実を突きつけられると、フォーマルなコアユーザーは抵抗できません。
モンハンの「装備をシリーズで統一しないと、スキル効果を得られない!」みたいなもんです。
で、なぜか伝統的に各ブランドのオリジナルレーベルのパーツはびみょうのレッテルを貼られます。
TREKのボントレガーやSpecializedのROVALとかはあれですが、ピナレロのMOSTやColnagoのArtemisとかはなんかびみょうです。ハイブランドの純正レーベルだのに。
イノベーションを常としオフロードやアーバン系を手掛けるアメリカ御三家、台湾の二強メーカー、手堅いドイツ系はのきなみインテグラルに傾きます。
ロード系のイタリア御三家がこのトレンドにはすこし乗り遅れます。ピナレロは奮闘しますが、そのほかはイマイチです。
Colnagoファンはシンプルなエアロ設計のCONCEPTすら許せなかったし。
フランス勢でいきおいを見せるのはハイエンドロード屋のLOOKやTIMEでありません。総合自転車屋のLapierreです。オフロードとEbikeがカギを握ります。
つまり、「DBかキャリパーブレーキか」の単純な比較は的外れで、すでに古臭いレベルです。
どちらのバイクシステムをチョイスするか? 業界のトレンドに乗るか? おのれのインプレに従うか? 過去を見るか、未来を見るか?
Windows XPは名作でした。でも、だれがいまからXPをCDでインストして、Internet Explorerでネットサーフィンして、別ページを新しいウィンドウで開きましょう?
XPでもWindows 10でも出来る書類は変わりません。しかし、XPを入れる人はもういない。
- ブラウン管、ビデオテープ、RCA、アナログ放送のテレビ視聴システム
- 液晶ディスプレー、HDD、HDMI、地デジのテレビ視聴システム
さあ、どっちだ?
完成形?キャリパーロード
キャリパーロードはながらくレーサーのスタメンを張りました。現役時代の後半には剛性だー、軽量化だー、いや、バランスだーみたいな右往左往をしました。
で、進化と変化の伸びしろを失って、ジリ貧に至り、この期にようやく新しいシステムへアップデートします。
結果的に現行のキャリパーロードはキャリパーロードのひとつの終着点、完成形になりました。
しかし、この完成系のシステムはCONSだらけです。新システムに慣れ親しんで、旧システムを振り返ると、そのほほえましい欠点を認識できます。
ブレーキでリムが削れる
キャリパーブレーキやVブレーキはホイールのリムを挟んで回転を止めます。ゆえのリムブレーキです。
リムにはそのために補強と加工がほどこされます。ぞくにブレーキフェイスです。
素材のアルミがむき出しになります。ポリッシュな風合いがクラシカル感を演出します。
カーボンホイールのブレーキフェイスはカーボン色です。
これは初期型の古いカーボンチューブラーです。後期のスレッド処理やコーティング処理の痕跡は見当たりません。つるぺたです。
ドライコンディションのブレーキ力がすでにぽんこつですけど、ウェットコンディションの制動力はぎりぎりアウトです。まあ、みごとに止まりません、ははは。
そして、長い下りでは摩擦熱でリムの変形や破損が起こりえます。使いどころが非常に限られる。
下りで熱変形を心配しながらおそるおそるブレーキングする・・・うーん、なんか本末転倒です。
アルミリムはこの点を克服します。アルミ合金はブレーキの摩擦熱では変形しません。しかし、しっかり摩耗します。
ディスクブレーキはホイールのハブのローターを挟んで止めます。リムは削れません。カーボンリムの熱変形問題が根本的に起きない。
最新式のフックレスリムは軽量で頑丈です。
ここから振り返ると、『リムを挟んで削って止める』てシステムにほいって太鼓判を押せません。もやもやがのこる。
実際、うちの初代ミニベロのホイールはVブレーキとディスクブレーキ兼用のリムでした。リムは最後までずっとぴかぴかです。
ブレーキで削れるのはローターです。これはスチール製です。
こっちのが合理的です。
やっぱり効かないキャリパーブレーキ
キャリパーブレーキは効きません。制動力はブレーキシステムのなかでは下位にしずみます。
リムブレーキ内のパワーさえがVブレーキ > ダイレクトマウント > キャリパーです。デュラもREDもRecordもTEKTROの安いVブレーキに及ばない。
「ロードのブレーキは速度コントローラー。強い制動力は必要なし!」てまことしやかな都市伝説がちまたに横行し、カルトな人気をあつめます。
しかし、スポーツバイク、自転車全般で完全に速度をゼロにするシーンはレアケースです。街乗り、オフロード、etcetc…
完全に停止するのはトライアルバイクの高難度セクションくらいでしょう。そのほかはだいたい速度コントロールです。
で、Vブレーキやディスクブレーキで速度コントロールできない? いや、そんなことはありません。
フロントは急制動、リアはスピードコントロール、オフロードのブレーキの使い方の基本です。
キャリパーブレーキのセオリーをVブレーキやディスクブレーキに持ち込もうとすると、とんちんかんな発想におちいってしまいます。
おまけにケーブルの取り回し、インナーとアウターの相性、パッドとリムの組み合わせでブレーキ力がころころ変わります。これは機械式ワイヤー引きのネックですね。
で、通り雨が降ろうなら、制動力は激落ちくんです。ブレーキの名前がすたる。「『完成形』の『最高性能』でこの程度だあ?」てのが率直な感想です。
シュータッチ
ホイールのリムはつねに一定のまんまるではありません。荷重や加速で変形します。細身のノーテンションのリムはぷにょんぷにょんです。
で、ひんじゃくなホイールは走行中に縦や横にゆがみます。とくにリアホイールです。
リムブレーキのフロントはこんなふうに左右対称です。スポークレイアウトが均一です。回転システムの理想形だ。
うらはらにリアホイールは左右非対称です。フリーボディが右側にあります。スポークレイアウトがアシンメトリックです。
左右対称のリアは両切りハブのトラックホイールばかりです。そのほかのリアは左右非対称です。
で、リムがどっちかに傾くと、ブレーキに干渉します。「シュ・・・シュ・・・」て耳障りな音が出ます。ぞくに『シュータッチ』です。
これはリムブレーキの共通の弱点です。パッドのあたり調整が必須です。
他方、ハブ軸はリムみたいには大きく変形(変形はゼロではない)しません。ディスクローターのクリアランスは一定です。
もっとも、ドロップエンド型、ロードエンド型のクイックリリース止めではホイール自体がしばしばずれます。
ドロップエンドとクイックリリース
スポーツバイクをいじると、メンテ性のよさに感心します。ママチャリの整備性が極悪ですから。
がっちがちのいやがらせレベルです。一見さんのいたずら防止策の一環です。定期的に店に持ってきてね! てメッセージのうらがえしです。
ロードバイクやクロスバイクのホイールの固定はじつにシンプルです。ストッパーはクイックリリースです。
これでホイールとフレームを挟んで固定します。またまた『挟む』が出てきました、ははは。
クイックリリースのシャフトはホイールの受け軸ではありません。ガイドに過ぎない。クイックのシャフトに補強の役目はない。
すなわち、クイックリリースはでっかいクリップのようなものです。フレームやフォークを支えるのはひとえにエンドキャップのちいさな出っ張りです。
まんなかのちょぼのとこですね。
で、この掛かりはせいぜい2-3mmです。ちょっとやそっとでずれます。たとえば、クリックレバーの掛け方や締め方ひとつでずれが出ます。
つまり、ホイールは自動的にセンタリングされません。オーノー!
一方のディスクブレーキホイールの固定方式のスルーアクスルは完全なシャフトです。10-20mmのじょうぶなシャフトがホイールハブをしっかり支えます。
ハブのエンドはツライチです。銀のところが末端です。さきっちょのちょぼがない。
フォークやフレームの受けは完全な穴です。
フレームの左右のステーを一本の堅い棒で疑似的に補強します。剛性が格段に跳ね上がります。
ドロップエンド+クリックリリース=棒二本
スルーアクスルエンド+アクスルシャフト=棒三本
線と面、二又と三角形です。言葉通りに次元がちがいます。
そして、ホイールは自動的にセンタリングします。合理的ですね。
これを思えば、ドロップエンドとクイックリリースのぐにゃぐにゃさに苦笑を禁じられません。ちょっとやそっとですぐにぐらつく固定ってww
そして、クイックリリースの正しい取り扱い方はあやふやです。けっこうなベテランさんがむちゃくちゃな取り付け方をするとかします、レバー起こさずに締めるとか。
で、ここで旧来のロードファンは剛性過多を持ち出して、スルーアクスルをなきものにしようとたくらみます。
現代のバイクトレンドではタイヤでそれを調整します。そのために25c以上のワイドタイヤが主流です。
ワイドタイヤとリムはチューブレスに有利です。チューブレスは転がり抵抗、快適性、エアロ、パンクに有利ですし、ディスクブレーキ、カーボンリムと高相性です。
逆にキャリパーブレーキのカーボンリムのチューブレスはやや不安です。気密性を保つリムに圧と熱を与えるてのが腑に落ちない。カーボンの弱点ばっかしじゃないか!
以上を踏まえて、一般的な『完成形』の23cクリンチャーのリムブレーキの軽量ロードレーサーを見返しますと、無数のツッコミを入れずにおれません。
個人的にいちばんの欠陥は『ホイールがレバーの締め付けでたやすくずれる』ところです。
つまり、旧式のドロップエンドとクイックリリースがおやくごめんです。ナット止めのがましだ。
キャリパー for Ever…
安価なVブレーキはクロスバイクや小径車にしぶとく生き残りますが、キャリパーブレーキはかくじつに終焉に向かいます、そう、カンチブレーキのように。
キャリパーの未来はエアロやエンデュランスに立場を食われる『軽量のロードレーサー』にしかありません。
で、旧来の軽量レーサーがイマドキトレンドではもうニッチな特化型マシーンです。チョイスが『あえて』になります。
オールラウンダーの栄誉は新システムのエアロディスクロードに奪われます。メーカーとブランドがそう仕掛けますし。
て、もちろん、こんな意見は個人の主観です。ぼくは一台目からディスクブレーキのミニベロを買いました。リムブレーキのスポーツバイクに特別な思い入れはない。
それゆえにフラットに、怜悧に、やや無慈悲に分析できます。旧来のロードファンは心痛で平常心を欠きましょうし。
かつて栄華を極めたMTB用フロントディレイラーの末路はこうなりました。
あーーー!!!
なにはともあれ、おつかれさまでした。アディオス、キャリパー…と、クイックさん…