スポーツバイクは専用パーツの集合体です。自転車の草創期から英仏がさまざまな規格を争いますし、主要メーカーや有力ブランドがいろんな新規格を投入します。
タイヤのチューブの口金さえが英式、米式、仏式の3種類に分かれます。
他業界の視点では異常事態でしょう。しかし、バルブの規格はかわいいものです。たったの3種しかない。競輪のチューブラーの特殊英式を加えても、片手に収まります。
専用品だらけの自転車整備
ホイール、ヘッドパーツ、そして、規格の大迷宮のボトムブラケットはこんなもんじゃありません。ことにBBは刻一刻と変化するパーツ界のふしぎのダンジョンです、まじで。
で、スポーツバイクのどこかのなにかをちょろっといじろうとすると、未知のパーツ、なぞのソケットにやすやすとぶちあたります。
キリがありません。
対照的におなじみの汎用工具は自転車いじりにはとんと無力です。プラスドライバー、マイナスドライバーの出番がぜんぜんない。ボルト類は99%で六角ネジです。
一般的な整備の常識が自転車には通用しません。機械いじりや日曜大工を趣味にする自称有能メカニックさんがここで自信をくだかれ、挫折をあじわいます。
「何度となくゲーム機や家電の分解清掃をこなしたこのおれがこんな小さな金具1個に屈した?! はひー!」
ぼくもこの「はひー!」を叫びました。チャリはプレステのようにはばらけません、ははは。
そんなカオスな自転車メンテナンスの世界でしぶとくがんばる専用品以外の工具や日用品を特集しましょう。
自転車整備にぎり使える工具類
スポーツバイクのパーツはおおむね専用品です。が、この専用品のなかにはピュア専用品、プチ専用品、なんちゃって専用品があります。
上記のスクエアテーパーやオクタリンククランク用のリムーバーは完全専用工具です。代用は不可です。
一方、圧入系の作業はフランクです。ごり押しでシンプルにがんがんやれば、わりとすぱっと着脱できます。思い切りがだいじです。
ゴムハンマー
アルミやスチールのパーツは気楽です。ラフにタフに扱っても、そうそう破壊できません。かすり傷どまりです。
カーボンはもうすこし神経質です。圧、熱、打がカーボンパーツの破綻の主因です。ぼくは圧入作業にはかなづちを使わず、VESSELのゴムハンマーを使います。
金属工具でポイントを外して、カーボンフレームを打ってしまうと、かんたんに表面を剥離できます。
で、カーボンパーツは繊維のシートの重なりですから、破綻部分からささくれが起こりえます。
それから、中空系クランクのシャフトをすこっとたたき出すor叩き込むときに使えます。グリスが砂をかむと、のりみたいにへばりつきますから。
あと、金属ハンマーはノイジーです。自宅作業には向きません。
長ねじ
自転車パーツの多くは筒、チューブ、パイプの形状を持ちます。ハンドルバー、シートポスト、フォーク、フレーム、いずれがチューブのかたまりです。
やはり、圧入系作業のときに長ねじが役立ちます。
ワッシャやナットを組み合わせれば、たいていの圧入部位に対応できます。ハンマー圧入よりマイルドで高精度です。自作工具のメインキャストです。
塩ビパイプ
フォークコラムの下玉押しの圧入に活躍するのが塩ビパイプです。
専用工具は1万円ですが、こいつは数百円です。
スクエアBBのカップ外しもOKでした。内径がくしくもぴったりです。
レンチや六角の柄にかければ、補助レバーにできます。これは別のアルミパイプですが。
ペダル、BB、リングはよく固着します。レンチや六角の単機が太刀打ちできなくても、パイプと合体すれば、一気にパワーアップします。六角の柄は手に食い込む。
紙やすり
紙やすり、サンドペーパーは補修や仕上げに有効です。常道はパンク修理のチューブの表面のあらしです。
ここをしっかりやすって表面をざらざらつかせないと、ゴムパッチをうまく貼れません。近日のやり直しが確定します。
こういうカーボンの表面のかるいクラックの応急処置に紙やすりが有用です。
表面をならして、段差をなくして、さらなる剥離の侵攻を予防します。フレームをがりがりけずるのは心苦しいものですけど。
実際のカーボンホイールの剥離の修理のあとです。
背に腹です。神経質な人は接着剤とコーティング剤でスレを消します。ぼくは特に手を付けません。オフロード用は否応なく痛みますから。
細かい目のものは意図的にカットしたカーボンパーツの断面の処理に活躍します。カーボンフォークのコラムをカットして、400番台で水とぎしました。
きれいにきもちよく仕上がります。
はたまた、金属のBBシェルやフォークのレース受けのフェイシングに。
デジタルノギス
自転車乗りはカスタマイズにこだわりだすと、新しいパーツを計りにのっけて、わあきゃあと一喜一憂します。
が、パーツの数グラムの差はささいなものです。より重要なのはサイズです。1gの差は致命傷になりませんが、1mmのギャップは完全にアウトです。
圧入パーツ、シートポストの最低許容範囲は±0.1mm以下です。0.2mmはもう別物です。
そして、ネットの商品ページのサイズの未記載、誤記入、別表記は茶飯事ですし、発送ミス、梱包まちがい、欠品、終売もふつうです。
そんなわけでデジタル計よりデジタルノギスがDIY派には必須です。
やはり、ヘッドパーツとBBがなきどころです。
ステム
ステムはへたな工具より工具です。ステムバーガーはフォークコラムのカットのソーガイドを完璧にはたします。
このごっついCNCステムはほんとにいろいろ活躍します。ベアリングの圧入に。
サンドペーパーと合体すれば、高精度の平やすりにはやがわりします。ちょうどぼくの手に収まるベストな大きさです。
本職はこれです。ごつい見た目が魅力的です。
ステムは工具でした。
とりあえず、ゴムハンとノギスはじゃまになりません。BBやヘッドセットの圧入作業を予定するなら、両方をそろえましょう。