自転車タイヤのサイズは混沌です。単位や表記が一様ではありません。さらに2000年以降のオンロードとオフロードのボーダーレス化が混乱を助長します。
小径車のタイヤもカオスです。16インチ=ブロンプトン、17インチ=モールトン、18インチ=BIRDY、20インチ=406と451が混在、24インチ=TERN ECLIPSEやGIANT MR4・・・
そんな世にも奇妙な自転車のタイヤサイズをおさらいしましょう。
WO、HE、BE、ETRTO
自転車タイヤの主なサイズ表記はWO、HE、ETRTOです。それから、古代のBEがあります。これは古い実用車専門のタイヤ規格です。
このタイプは自転車屋の店頭にはもうありません。骨董品のレベルです。
欧州発のWO
WOは欧州サイズ表記です。英式と仏式の二種類の表記法が混在します。イギリス=インチ、ヤード、マイル、フランス=センチメートル、メートル、キロメートルです。
自転車イベントの『センチュリーライド』は100kmではありません。100マイルです。メートル法では160kmになります。勘違いすると、ペース配分に泣きます。
ちなみに日本の自転車の発展はフランスの由来です。
昔々、スポーツバイクが欧州から日本にやって来ました。英国系のはレーサー系、仏国系のはランドナー系です。
当時の日本の道路事情は英国の『ターマック』より仏国の『グラベル』に近いものでした。で、環境に適したフランス系のランドヌールが人気を博しました。
これが日本の第一次自転車ブームです。この名残で本場欧州で衰退した650Aや650Bホイールが国内ではガラパゴス的に生き残りました。
また、後年に650BホイールはMTBジャンルで27.5ホイールとして復活します。
で、『650B』のような表記方法はWO式のフランス式です。ほかに650Aや650Cがあります。3桁の数値は共通しますが、ABCはそれぞれ独立のサイズです。互換性はありません。
650Bのアメリカ式のサイズ表記が2010年以降の”27.5″です。ナナハン、ニーナナゴ、トウェーニーセブン・ドットファイブなどと称されます。
HE≠MTB
HE=アメリカ=MTBの公式はすでに正しくありません。最近のオフロードのホイールはチューブレス化しました。
これは最新の”bead hook-less rim”です。
HEはHooked Edgeの略です。Hook、フック、ホックです。ブラではホック、カーテンではフックです。
ホイールではタイヤのふちをひっかけるリムの返しのことです。このフックがないのが上のHooke Lessリムです。当然のごとくHEではない。
このようにタイヤの急激な進化と自転車ジャンルのボーダーレス化の影響でWOやHEのサイズ表記はほぼ形骸化します。
安定のETRTO
混沌のタイヤ界の救世主がETRTO、エトルト表記です。実質的な業界標準です。
で、29×3.0の表記法はアメリカ式ですが、ホイールとタイヤのタイプはHEでなく、チューブレスのHOOKレスです。
小数点を使わず英国式に『29 3』とならないのはタイヤの用途がオフロード系だからです。商品名はWTB RANGER 3.0です。ストアのジャンルは29+です。700C用には分類されません。
で、29er=ETRTO 622のビード径は700Cと同じです。つまり、ロードバイクやクロスバイクの主流サイズと同じものです。
旧式のHE米式の26インチはETRTO 559になります。WO英式の26インチはWO仏式の650C=ETRTO 571です。26 1 1/8=650C 28C=ETRTO 28-571です。
・・・はい、頭がぐちゃぐちゃになります。
このことから旧来の26 1 1/8や700C 23、650C 25、26X2.0 29X3.0などの表記は商品名やカテゴリーです。実際のサイズの判断にはもう役立ちません。
サイズはETRTO一択です。
ワンモアETRTO
ETRTOは欧州タイヤリム技術協会の略称です。「自転車、自動車、単車、乗り物全般のホイールとタイヤのサイズを統一するぜ!」というアメイジングな組織です。
ETRTOのサイズ表記はメートル法です。上記のETRTO 72-622は『72mm幅の622mm内側直径のタイヤ及びホイール』です。
この仕組みを知れば、間違いを減らせます。
- 700C C17=Not ETRTO
- 26 1.5=Not ETRTO
- 20 1 3/8=Not ETRTO
- 23 622=The ETRTO!
ストアやネットの商品の名前、カテゴリ分けはたいていNot ETRTOです。こんなふうにです。
W/O 20 1 1/8=英式WOサイズ表記です。で、この由来からこのタイヤはロードタイプの20インチ小径タイヤであることが知れます。ETRTOは28-451です。
一方のこれはインチ表記です。
オフロードタイプ? が、これは本格競技系じゃありません。旧来のMTB式に近いものです。つまり、オーソドックスなHE系の表記です。ETRTOは40-406です。
451と406のギャップは45=4.5cmです。互換性はありません。451タイヤは406リムにがばがば、406タイヤは451リムにぎゅうぎゅうです。
商品名のサイズ表記=スタイル・商品名に惑わされず、しっかりETRTO=実際の寸法をチェックしましょう。
『タイヤモデル名 ETRTO』でグーグル検索すれば、公式サイトか自転車サイトでスペックを確認できます。
もちろん、混在ジャンルのオーナーさんはホイールのチェックを事前にしましょう。リムありきのタイヤですから。
ことさらにミニベロ乗りのカスタム派はもろに直面します。ホイールをインチアップしようなら、406-451問題に悩まされます。
タイヤの互換はありませんし、チューブの互換もありません。そして、はじめての交換でビードの固さに苦戦すると、「サイズ間違えた!?」という疑心暗鬼にさいなまれます。
では、最終テストです。この20 x 1 1/8の表記は何式ですか?
答えはWOの英式です。でも、これなロード系タイヤでなく、BMX系タイヤです。
タイヤの世界は深淵です。