自転車タイヤは魔の森です。8インチの手のひらサイズの小さなわっかからフラフープみたいな36インチの超大口径まで多岐にわたります。
サイズの表記、記述、単位がばらばらです。自転車の母国の栄光と覇権を競って、フランスとイギリスがそれぞれに規格を決めます。インチ法vsメーター法の宿命の対決です。
さらにアメリカでマウンテンバイクが誕生して、自転車のタイヤの表記がごっちゃごちゃのぐちゃぐちゃになります。
実質の統一単位のETRTOの普及で一時の混乱はおさまりますが、2010年以降に怒涛のタイヤとホイール幅の大変革時代が始まります。
そして、タイヤのシステムの変容です。チューブレスとチューブレスイージーの違いはなんでしょう? 即応できるのはかなりの通です。
タイヤから分かる自転車シーン
極論、タイヤはチャリを、ジャンルを、シーンを、スタイルを、トレンドを表します。幅やサイズやシステムから乗り手の傾向や性格が浮かび上がります。
ここではぼくの独断と偏見でタイヤ別のライダー診断表をリストアップします。
自転車タイヤサイズ占いロード編
現在の国内の自転車トレンドは高速軽量タイプの自転車、ロードレーサー、ロードバイクです。2010年ごろがブームのピークです。
ヒットの原因は完全に弱虫ペダルです。この漫画とアニメの影響で若い人や女子がこのクラシカルなスポーツ自転車にむらがりました。
23Cクリンチャー
このブームの時期のロード系タイヤのトレンドが700x23cクリンチャーです。
23c=23mmです。半円のタイヤとアタッチメント式のチューブで空気圧を維持します。これがクリンチャー方式です。
これより以前のロードレーサーのタイヤシステムはチューブラーです。タイヤはまんまるで、チューブは埋め込み式です。ホイールには糊でぺたっと貼り付けます。
土台のホイールリムの形状が非常にシンプルです。このリムの軽さのおかげで回転システム全体の重量がずっと軽くなります。が、糊の扱いやパンク修理が異常にわずらわしくなります。
で、手軽なアタッチメントチューブ式のクリンチャーが出てきて、伝統のチューブラーを一瞬で過去のものにしました。
この23cクリンチャーのピークが~2015年です。国内のロードのトレンドとタイヤのトレンドがみごとに一致します。ために23cクリンチャーの愛好家は多数派でした。
が、2015年以降に主要なホイールがワイドリムに置き換わって、タイヤのスタンダードが+2mmの25cになりました。
そして、どとうのチューブレス、ディスクブレーキの攻勢です。現在の23cクリンチャーは一世代前のちょい懐かしいサイズです。
傾向はややコンサバ、年代はアラフォー、チューブラーやチューブレスに興味を持ちつつ、「特に不満はない」と現状維持をキープします。
25Cクリンチャー
2015年以降のロードバイクのタイヤは25cに置き換わりました。23c派の懐疑的な意見や旧ユーザーの嘆き節はメーカーの規格変更の鶴の一声にかき消されました。
このパラダイムシフトで23cタイヤがマイナー落ちします。このご時世に23cタイヤを選ぶのは『あえて』や『コダワリ』のチョイスになります。
大方の理由は軽さです。25Cより23Cのが軽量だ! 23cが自分には正解だ! が、より軽量なチューブラーには22mや19mmがふつうにあります。
25cクリンチャーのユーザーはザ・ふつうの人です。
28C
25Cはこの数年ですでに普及して、陳腐化します。トレンドの旬はすでに過ぎました。新しいものが次に控えます。それが28Cタイヤです。
最新のエアロロードの足元がこの次世代の28mmタイヤです。ホイールのリムはC19にワイド化します。
そして、ここにチューブレス、ディスクブレーキが掛け合わさると、リムブレーキのホイールの時代がセピア色にそまります。
28mmタイヤに乗ってから、22mmや23mmタイヤに乗ると、「ほっそ!」とがくぜんとします。
そして、これが普及して陳腐化すれば、つぎの次世代の30Cタイヤがおめみえします。
自転車パーツに普遍性はありません。存在するのはマクロなトレンドとミクロなインプレばかりです。
チューブラー
チューブラータイヤは伝統と格式のタイヤシステムです。まんまるなチューブ入りタイヤを糊でリムにぺたっとくっつけます。
プレ・クリンチャー時代のレーサータイヤはおおむねこの形式でした。そして、ホイールはメーカーのパッケージ商品の完組でなく、おおらかな手組です。
大昔の自転車愛好家はホイールをいちから組んで、リムに糊で貼って、予備タイヤを携帯して、スマホなし、サイコンなしで何百キロと走りました。
これが往時のふつうの市民レーサースタイルです。
が、手軽なクリンチャーとスマホの台頭でこの『ふつう』がくろうとはだしのマニアックなスタイルになりました。
「わたしのホイールは手組のチューブラーです」
これでチャリ仲間から一目を集められます。実際、チューブラーの使用率はロードレーサーユーザーの10%前後です。
この伝統のシステムを使いこなす人は真のつわもの、ベテラン、競輪畑、こだわり派、本格派、本格派かぶれです。
はたまた、メンテのすべてを人任せ、ショップ任せにできるブルジョワジーがチューブラーを選択します。リッチな貴族は雑用にかまけません。
自転車タイヤサイズ診断オールロード編
世界的にはピュアなロードバイクやMTBは頭打ちです。業界の稼ぎ頭はオールロードとE-bikeです。
32C
32Cはある自転車シーンのスタンダードです。CX、シクロクロスです。この競技のタイヤ幅のレギュレーションは33mm以内です。
で、主要なCXタイヤは-1mmの32mmです。本格レースではチューブラーモデルが主流ですが、チューブレスの波が来ます。リムセメントが有害だからなあ。
チューブドクリンチャーは手軽ですが、低圧には向きません。泥んこ競争のシクロではちょっと不利です。
で、このタイヤを使うのはシクロクロス畑の人かその関係者です。会場やレースが限定されます。ふるつわもの、本気勢、くろうと、業界人のふんいきがします。
ちなみにぼくはこれをクロスバイク、グラベル的に使います。ぜんぜんつわものではありません。CXタイヤはこういうグラベルに絶好です。
40Cチューブレス
40cタイヤはホットなゾーンです。旧来のサイズ分類ではアーバン、街乗り、耐久系のタイヤがこれです。ワイヤービードのごっついやつです。やややぼったいジャンルです。
が、タイヤシステムがチューブレスになると、用途とジャンルが豹変します。40Cのチューブレスタイヤは自転車業界的には新機軸のものです。
オールロード、グラベル、アドベンチャーバイクの足元がこれです。このパナレーサーのグラベルキングSKはチューブレスです。
チューブドの40Cはやぼったい地味子さんですが、チューブレスの40Cはトレンディーなイマドキくんです。低圧にできますから、ラフにだーっと遊べます。
こういうところはぜんぜんよゆうです。
遊べて使えるタイヤです。ロードバイクに乗り飽きた人、オフロード系の息抜き、ほかのアウトドアジャンルからの移行者など、自由人、遊び人、欲張り屋、道楽者がここに来ます。
自転車タイヤサイズ占いオフロード編
オフロードバイクは自転車機材の最先端です。車体が、パーツが、規格が異常な速度で進化&変化します。ゲッターか。
ロードバイクのタイヤは23cから25cで大騒ぎになりました。オフロードはそれどころではありません。
草創期以来の王道26インチが2010年代初頭に29インチになり、折半的な27.5インチの時代があって、BOOSTベースの29インチが再浮上します。
さらに太いファットタイヤが現れ、フロント変速機がなくなり、シートポストはリモコンで可変し、ハンドル幅が80cmになり、電子制御のサスペンションや無線メカがぞくぞく出てきます。
そして、海のむこうではバッテリー付きのモンスターが爆発的に普及します。
ちなみに”26 x 1/3″みたいなインチ+分数表記が英式で、”26 x 2.0″みたいなインチ+小数点が米式です。由来がちがいますし、リム形状がちがいますし、用途がちがいます。
ざっくりと英式は実用車、米式はスポーツ車です。ママチャリタイヤはインチ+分数の英式です。
26インチ
26インチタイヤはオフロードバイクの開闢からながらく王座を守りました。
で、2010年前後に当のMTBの生みの親の一人のゲイリー・フィッシャーさんが29インチの車体を世に問います。
「オー! ゲイリー、それはなんのジョークだ! HAHAHA!!」
そうゆう声から数年で世のMTBは29er化しました。ちなみにこのホイールサイズはロードの700Cとおんなじです。
が、29erが小柄なライダーや女子にはやっぱでかすぎるぜ! て、ことで26インチの巻き返しはついぞ起こらず、中間の27.5インチ=650Bがトレンドになりました。
で、そこにファット系の太いタイヤが遊びのジャンルから本流へ移入して、ホイールのハブの拡大=BOOST化があって、29erが再浮上します。
27.5は消えずに、27.5+に進化しました。さらに前29、後ろ27.5のマレットスタイルが流行ります。
そんなわけで26インチは完全に歴史のかなたに遠ざかります。現在の26インチはファットタイヤのベースかダージャンくらいです。
これに乗り続けるのはねっからのベテランライダーかトリック系のテクニカルライダーばかりです。
これに乗り続けるのはねっからのベテランライダーかトリック系のテクニカルライダーばかりです。
そもそも26インチのリムとタイヤの新商品がほとんど出ません。いまや完全なレトロです。
27.5インチ
2015年前後のオフロードのトレンドが27.5インチです。フランス表記では650Bです。650Cより一回り小ぶりなホイール径です。ETRTOは584です。
このサイズはまちがいなく一世をふうびしましたが、2015年以降のどとうのBOOST化、29er化の大波をひっかぶって、ちょい懐かし規格におしやられました。
2、3年前まで27.5か29かの二択は悩みの種でした。旧規格との互換性を考慮して、142mmの27.5を選んでしまった人は結果的にざんねんな形になってしまいました。
現在ではBOOSTの29erがスタンダードです。日本人にはでかいが。
27.5+
27.5+はノーマル27.5の発展型です。タイヤサイズが2.5-3.0インチクラスになって、全体の外径がノーマル29erに近づきます。
日本人向けのオールラウンダーですが、29erには少し劣ります。質実剛健派のあなたに。
29er
現代の29インチは二回目のトレンドです。一回目の29インチは鳴り物入りの登場でしたが、二回目の29インチは理詰めです。
2018-2019でオフロードのフラッグシップはのきなみ29erになりました。26や27.5の最後の砦だったDH系バイクさえが直近のシーズンで29er化しました。
タイヤは最強クラスにでっかくなります。足つきが悪くなりますが、ドロッパーポストがそれを解決します。
低圧の29+タイヤは軽いサスペンションみたいな動きをします。で、本来のサスペンションの動きをショート化して軽量化できるとか、そのままで走破性を上げられるとかします。
29erのタイヤ使いは時代の申し子です。トレンド大好きミーハーさんです。新しいことは良いことだ!
でかさが手に余る? 日本人に合わない?
「XCの世界王者のニノ・シューターは172cm、68kgの欧米の運動選手的には小柄な体系ですよ。そんな彼が275から29に乗り換えましたが、なにか?」
というのが決めの口上です。