ぼくは酒を飲みませんが、酒屋勤めの経験からビール、ワイン、日本酒、焼酎、ウィスキーには一定の知識を持ちます。
- ビール=重い、足早い、利益低い
- ワイン=軽い、長持ち、利益高い
- 日本酒=売れぬ
- 焼酎=芋とか麦とか
- ウィスキー=ブームでめちゃくちゃ高騰
と、お酒は飲むものでなく、売るものです。もしくは、料理の調味料だ。年間のアルコールの消費量はせいぜいコップ1杯です。
他方、カフェインの消費量はヘビーユーザーの域です。毎日の食事に作業に休憩にコーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶が不可欠です。
コーヒー自家焙煎のすすめ
ぼくの飲み物ヒストリーの中で10年間の紅茶ブームのあとにこの数年のコーヒーブームが到来しました。理由はおもに茶葉の高騰です。
毎度の凝り性が重篤化し、インスタント→スーパーの豆→おしゃれカフェのロースト豆の流れを経て、自家焙煎に到達しました。理由はコストと手軽さです。
自分で煎って挽いて淹れたコーヒーは格安で格別です。スタバやドトールやコメダやタリーズや星野やコンビニなどのしょぼい豆汁に余裕で勝てます。
もちろん、これらの市販のコーヒーは特に悪いものではありません。しかし、おのれの個性や好みを反映できる自家焙煎のレギュラーコーヒーには及ばない。
ぼくの中のコーヒーの理想形は『がぶがぶ飲めるフランス風のカフェオレないし甘すぎないコーヒー牛乳のぜいたく版』です。これをチェーン店に求めるのは酷だ。
そもそも、スタバのようなおしゃれカフェのコーヒー代はスタイリッシュな雰囲気代を多分に含みます。極論、コーヒーは場所代のおまけです。
コーヒー豆の自家焙煎のやり方と必要な道具
焼く・茹でる・煮るなどはポピュラーな調理法です。揚げる・蒸す・燻すは中級者向けです。蒸し器や天ぷらなべはすでに自宅キッチンの標準装備ではありません。
では、焙る・煎るは上級者向けでしょうか? 字体は難しく見えますが、やり方はシンプルです。ただし、直火が必須です。
火
自家焙煎の最低限の条件は火、炎、ファイヤーです。オール電化のキッチンは焙る・煎るには不向きです。
また、電動のコーヒー専用ロースターは2万円~です。安い道具ではない。そして、通販の1万円以下のものはロースター風のおもちゃです。
このしょぼいおもちゃで中途半端な焙煎ごっこをするならば、なべ用のガスコンロ+ざるを買いましょう。
ぼくはたまにキャンプ用のソロバーナーと小さなざるで屋外焙煎をします。ザ・スタイリッシュゆる野点です。
ご飯界では『高い炊飯器で炊いた最高級コシヒカリ < ガスで炊いた安いコメ』というのは公然の事実です。火は命。
もっとも、煎り立てのコーヒー豆の抽出液はおいしくありません。ガスのせいで焦げの風味が勝ちます。飲み頃は焙煎から3日~10日です。
コーヒー豆
コーヒーの原料はコーヒー豆です。実=果でなく、豆=種です。
コーヒーの実、果肉は甘酸っぱいサクランボのような味ですが、一粒にわずかな量しか付かないので、市場には流通しません。
一方のコーヒーの豆はマメのような味です。下図の左の緑のものです。
見た目のままに青臭さと生臭さの塊です。これは食用には適しませんが、欧米ではダイエットサプリとして利用されます。愛称はグリーンコーヒーです。
前にブログのネタ用にこれを淹れてみました。
コーヒー豆に多く含まれ、脂肪燃焼を助けるポリフェノールの一種のクロロゲン酸は加熱で失われます。つまり、この青臭い豆茶の方がダイエットには有効です。まずいけど。
この非加熱の生豆、厳密には乾燥豆は喫茶店やカフェやデパートの店頭には滅多にありません。売り場にあるのはおなじみの焙煎後の茶色いコーヒー豆です。
まあ、ロースト豆を買って挽いて飲むのも一般的にはかなりのコーヒー通です。コーヒーミルが要りますし。
コーヒーの生豆の主な購入先は通販です。アマゾンや楽天で「コーヒー生豆」と入力すると、世界各国のブランド豆を拝めます。
生豆の最小ロットはkg単位ですが、初心者には小口の店長おすすめセット系がおすすめです。最初からでかい袋を買わない。
自家焙煎に慣れて、好みの豆を見つけてから、大口のやつとかを買いましょう。ぼくはスプレモやマンデリンを5kg買いして、半年から十か月で使い切ります。
ざる的なもの
『コーヒー豆の自家焙煎』という文章は何か上級のテクニカルなものに見えますが、その実態はポップコーンやポン菓子の作り方と一緒です。豆を火で焙る、それだけ。
むしろ、手元で豆の煎り具合を見ながら調理できますから、キャンプでの飯炊きや天ぷらとかより簡単にできます。
手軽に見えるフライパンやオーブンレンジの焙煎は逆にハードモードです。火を均等に入れるのが至難だ。直火とざるがシンプルでベストですね。
注意点は豆の量と火加減です。大量の生豆を一気に焙煎しようとすると、重みで疲れますし、均一に火を当てられません。結果、ムラムラの豆が出来ます。
ぼくは片手でざるを振れるように一人前のチャーハンくらいの容量を目安にします。200~400gです。500g以上の豆をうまく煎るのは職人技です。
自宅のキッチンのガスコンロで初めてやるなら、少なめ・中火・じっくりを心がけましょう。焙煎デビューで大量のムラムラ豆や焦げ焦げ豆を作ると、一発で挫折しかねません。
一ハゼ、二ハゼ、三はない
コーヒー豆の自家焙煎の重要なキーワードが『ハゼ』です。ハゼ=爆ぜです。川釣りの人気魚やリア充とは無関係です。
コーヒー豆はかなりの量の油分を含みます。一説ではコーヒーの飲み過ぎで眠れないのはカフェインでなく、油分のせいだという都市伝説さえあります。
実際、ロースト後のコーヒー豆はてかてかに黒光りします。
焙煎の加熱で水分が跳んで、油が高温になると、豆がぱちぱちと音を立てます。これがハゼです。
火入れ後の数分で最初に散発的に起こるものが一ハゼ、その後の数分で二回目に起こるのが二ハゼです。このハゼからの時間でローストの深さの目安が決まります。
ちなみに二ハゼから延々煎り続けても、三ハゼには突入しません。一ハゼ→二ハゼ→小火騒ぎです。
二ハゼの段階で豆の膨張は完了します。あとはローストの強さ(色)の調整です。ぼくは主にカフェオレで飲むので、フレンチローストくらいに仕上げます。
豆を火から下ろしたら、一気に冷まします。ざるをぶん回すか、うちわでぱたぱたするか、別の器に移しましょう。
豆を洗うのはOK
コーヒー豆は100%の輸入品です。南米やアジアの現地で加工されて、船便でえっちらおっちら日本に運ばれます。
通販のコーヒー豆は基本的にこの出荷状態で販売されます。販売店で洗浄や選別や掃除はとくに行われません。
さらに後述のチャフが運搬の途中で剥がれ落ちて、袋の中ではらはら舞います。透明のビニル袋詰めのコーヒー豆の見た目はおいしそうに見えない・・・
ということで、日本人の感覚的に水洗いエモーションが発生します。これはありです。焙煎の前に豆をさっと水洗いすると、余計なチャフや汚れを落とせます。
注意点は焙煎の直前に洗うことです。洗い置きはだめです。豆が過剰な水分を含んでしまいます。
焙煎前にざるやネットで1回分の生豆を水洗いするのはぜんぜんありです。表面の水分はすぐに跳びます。焙煎時間にはほぼ影響しません。
自家焙煎コーヒーのコスト
ご存知のように喫茶店やカフェのコーヒーはうん百円の高級品です。真の庶民のコーヒーは100円の缶コーヒーやコンビニコーヒーです。
でも、コーヒーの原価はそんなに高くありません。で、自家焙煎コーヒーはほぼ原価です。
ぼくの実例で一杯のコストを計算しましょう。
- コロンビアスプレモ5kg 送料込み 4500円
- 1日3杯×180日=540杯
- 4500÷540=8.3円
- コーヒーフィルター1枚 3円
- 水 1円
- 砂糖 小さじ2杯 1.6円
- ガス代 1円
1杯のコストはせいぜい15円です。豆のグレードを上げて、価格を倍にしても、30円以下に抑えられます。
100円/1日でおいしいレギュラーコーヒーを飲めるのは庶民にはありがたいものです。
で、このほぼ原価の美味な豆汁を慣習化してしまうと、100円の缶コーヒーやコンビニコーヒー、インスタントコーヒー、喫茶店のロースト豆にはもう魅力を感じません。
ぼくは麦茶なみに持参します。え、レギュラーコーヒーを遠足に持参しちゃいけないというルールがありますか?
コーヒー豆の自家焙煎のデメリット
自分で煎って、挽いて、煎れるコーヒーは格安で格別です。豆の種類やローストの深さでテイストを変えられるのも妙です。自家焙煎サイコー!
しかし、物事には表と裏があります。自家焙煎コーヒーの裏、闇、デメリットは深煎りのフレンチローストよりややビターです。
コーヒーの粉の出涸らし処理
自家焙煎ならびにレギュラーコーヒーの最大のウィークポイントがコーヒーの粉=出涸らしの処理です。
出涸らしの処理の手間は緑茶、紅茶、かつおぶしなどに共通します。とくにコーヒー豆の細かい粒々は三角コーナーの隙間をすり抜け、流しの網に容易く詰まります。
シェアハウスやゲストハウスに行くと、しばしば「コーヒー豆を流しに捨てないでください!」という注意書きに出くわします。
紙フィルターのドリップの出涸らしの処分はまだ簡単です。フィルターと一緒にゴミ箱へぽいできます。
片や布で濾すネルドリップの出涸らしの処分とフィルターの洗浄はコーヒーマニアの悩みの種です。味を取るか、手間を取るか。
ぼくは屋外でたまに野点しますから、携帯性と廃棄の手間を考慮して、紙フィルターを採用します。外で遊んでコーヒーを飲んで帰って来た後に汚い布をいちいち洗えない。
チャフが舞う
チャフは一般には謎の単語でしょう。英語で”chaff”です。これは『から、かす、ごみ、くず』を意味します。
市販のコーヒー生豆は真の意味での無加工品ではありません。洗って、干したものです。この段階で豆の外側の銀皮(シルバースキン)は除去されます。
が、コーヒー豆の独特な形状のせいで真ん中の割れ目のところにこの皮が残ります。これがコーヒー豆のチャフです。
チャフは一粒では些細なものですが、5kgではこうなります。
焙煎の過熱で豆が膨らむと、この割れ目がくぱあと開いて、最後のチャフが燃えます。が、燃えカスはコンロに散らばりますし、しぶとい半焼けの皮は宙にひらひら漂います。
万が一、コンロ回りや換気扇がぬるぬるのべとべとであれば、このチャフがそこら中に纏わりついて、後片付けが大変になります。
いやいや、「コーヒーを煎るたびに掃除すれば、きれいなキッチンを保てますけど?」とか軽々しく言わない。飲むと忘れるねん。
ちなみにこのチャフは非常に苦い部位で、濁りや雑味の原因です。栗の渋皮のようなものでしょう。
煙と匂い
前段の夢の三ハゼの末路は小火騒ぎの汚名でした。理由は煙と匂いです。焙煎ではこの二つが多少なりとも生じます。火焙りですし。
で、コーヒー豆の火焙りの刑はそのまんま喫茶店の匂いです。コーヒー好きにはこのフレーバーは大歓迎でしょう。しかし、世には一定数のコーヒー嫌いや嗅覚過敏さんがいます。
マンションや集合住宅でコーヒー豆を定期的に焙煎するなら、近隣の住民に配慮しましょう。とくに共用部へ煙を排気しないように。
また、焙煎後にはコーヒーの匂いが室内に2~3時間ほど残りますし、自身から喫茶店の匂いが漂います。
コーヒー豆の自家焙煎のまとめ
自家焙煎のコーヒー豆は格安で格別です。好みの一杯を手軽に安く淹れられます。単純なコスパは缶コーヒーやインスタントコーヒーを軽くしのぎます。15円/1杯だ。
必要なものは火、豆、ざるです。焼き飯の分量を目安にして、片手で無理なく振れる量から始めましょう。最初が肝心です。
三ハゼは存在しません。
自家焙煎のデメリットはコーヒーの粉の出涸らし、チャフ、煙と匂いです。とくに三番目の煙と匂い対策は効果範囲と影響力から優先事項です。
カフェでロースト豆を買ってきて、ミルでごりごり引いても、なにか不思議な心の落ち着きを得られます。
京都伏見の藤森神社の湧き水を汲んで、自家焙煎のマンデリンをごりごり挽いて、鴨川のほとりでカフェオレをごくごく飲む、とかは最高です。これはその至福の一杯。