自転車のホイールの組み立て、手組はサイクリストのたしなみです。手組できない自転車乗りは一人前ではありません。半人前のペーペーです。
・・・という旧世紀の常識は現代ではすっかり老害的な懐古主義になりました。21世紀には既成の完組ホイールがメーカー物からコピー品までじゃぶじゃぶに出回ります。

あと、ネットでセミオーダーするサービスすら無数にあります。わざわざ自分で工具と部品を揃えて、しこしこDIY手組するのは非生産的です。費用と手間が膨大だ。
しかし、実用の面ではそうですが、道楽の面ではあれです、プライスレスです。「タイパやコスパがなんぼのもんじゃい!」と啖呵を切れるのが一端の趣味人です。
スポークを使い回しするとき
ということで、今日のホイールです。ぴっちぴちの白いKOREのリムが神戸より入荷しました。まさに旬です。いや、10年ものの未使用新古品ですが。

YuniperハブとPillerスポークとDTニップルはお下がりです。とくにストレートプルのスポークは国内ではなかなか流通しません。
- 群馬のサイクルショップタキザワ
- 名古屋のCircles
これらは手組愛好家の駆け込み寺的なショップですが、ストプルの在庫はありません。Jベンドが99%です。
ストプル無限ループ
現実的な入手先は海外通販、フリマ、AliExpressです。中華系の高評価ストアは下手な国内販売店より安心安全ですが、配送がおおむね10日コースです。
結果、いらちな関西人は使い回しと寄せ集めに走ります。この黒いPillerのストレートプルは3ループ目くらいです。
1ループ目がこのときだったかな?

これは前後28Hです。さきに逝った後輪分28本と数日前にバラした前輪分4本を足して、32本を揃えました。おかげで長さが微妙に違います。
そもそも、このスポークはこのリム、STANS CREST ZTR MK3用です。そのERDに合わせて、DT SWISSのスポーク計算表で長さを出して、中華通販に発注しました。
で、もちろん、今回のKORE DUROXのリムのERDはCRESTのそれと異なります。あと、ハブも32Hです。
リム=枠とハブ=軸が変われば、適正なスポークの長さも変わります。

KOREのリムのERDは実測600mmでした。なぜか本体や製品ぺージに数値の記載がない・・・
CRESTのERDは605mmです。

つまり、単純にSTANS CRESTの方がKORE DUROXよりロープロです。ロープロでローサイド、マジでぺなぺなの超軽量リムです。おかげで耐久度がアルミリムでは最低だ。
で、5mmは誤差や塩梅の範囲ではありません。確実にたすきに短し、おびに長し現象が容易に起こります。
CRESTからDUROXの移植ではスポークが余ります。ニップルからネジが飛び出る。

リムテープの命がゼロです。まあ、これは大げさな例ですが。
ちなみに適正なスポークの長さはニップルの尻からマイナス1mm前後です。これが理想的だ。

HOZANスポークカッター
大は小を兼ねるの発想で長いスポークは短いスポークになります。そう、カットでね。
ただし、やみくものばっつんは次のねじ切りの工程で詰みます。スポークのカットは専用工具の出番です。

左はHOZANのスポークカッター、右はParktoolのケーブルカッターです。普及率は1対10くらいでしょうか。どちらも5000円クラスの上物です。
より一般的なニッパーやはさみや爪切りではスポークを切れません。刃が負けます。
それから、ケーブルカッターではスポークを切れますが、スポークカッターではケーブルを切れません。これは構造の違いによります。
スポークカッターはダブルピボットです。二つの刃は別軸で動いて、交差しません。
ケーブルカッターはシングルピボットです。二つの刃は同軸で動いて、交差します。
ワイヤー線、ケーブルアウターのゴムの被膜はある程度の伸縮性を持ちます。ニッパーやスポークカッターでは切断が寸止め風になります。
他方、スポークは固い棒です。破断が一定を越えると、ばつんと最後まで断裂します。まさに爪切りです。
実例です。スポークカッターでスポークをカットします。

スポークは正面から入ります。爪切りです。
ケーブルカッターでスポークをカットします。

ご覧のようにスポークが横になります。ハサミです。
さて、これで何が変わるか?
切断面
スポークカッターでスポークを切った時のスポークの切断面です。

断面は山形、△になります。
ケーブルカッターの断面はこうです。

はい、こっちの方がきれいに見えます。専用工具の意義が!
しかしながら、ケーブルカッターの刃は交差するので、断面のふちが部分的に巻き込まれて、多少の変形がランダムに発生します。2回に1回くらい。
とくに変形が外側方向に起こると、断面の面積と形が変わります。結果、ねじ切り機のダイスやニップルが詰まってしまいます。
実際、このカットスポークはねじ切り器に入っていきません。あきらかに断面の変形、カット精度のせいです。
これはハサミで爪切りすると、なんか微妙な違和感を感じるのにそっくりです。
スポークカッターではこの断面の変形が微小です。ゼロでないのがたまに瑕ですが。20本に1本くらいの外れが出る。
解決策はやすり掛けですね。

アナログ・・・
HOZANスポークネジ切り器
単にスポークを切って、長さを合わせても、そのままではホイール組に使えません。なぜならカットでネジ山が短くなったから。
今回の作業では32本のストプルをぱつぱつ3mmカットしました。当然、ネジ山の部分が短くなります。
スポークにネジ山を切るには専用工具が不可欠です。

自転車マニアの証、HOZANスポークネジ切り器です。1万円オーバーの高級品です。最新のC702は2万円オーバーの貴族向けです。
ぼくは自転車てるてるにこれを買いに行って、「お兄さん、自転車さん?」と言われました。そう、もはや業務用です。
これよりごりごりの業務用はKOWAのスポークマシーンというのがあります。10万円オーバーの大統領専用機です。
これを入手する? いや、スポーク1000本を余裕で買えます。というか、ホイールを3セットくらい調達できてしまう。てか、チャリを買えるし。
それはさすがに変態だ。個人はHOZANでしこしこやりしましょう。これで元を取るのも大変ですが。
ねじ切りの注意点
HOZANのスポークネジ切り器(正式名称)の使い方は簡単です。スポークを固定して、レバーをぐるぐるさせて、適度な長さのネジ山を入れます。
細かい注意点は以下です。
- ちゃんと固定する
- 断面をきれいにする
- 油を差す
- ネジ山を深めにする
たまにスポークがレバーと友回りして、ねじ切りが永久に続きます。固定の甘さが原因です。丸スポーク、バテッドスポークをやるときには固定をしっかりする。
スポークの断面が変形すると、ダイスの食いつきが悪くなります。ゆえにケーブルカッターでのカットは非推奨です。やすり掛けしまくる? ド根性スポークですね。
反面、スポークカッターの断面は山形になりますが、ダイスにはおおむね普通に入ります。この△は外側への変形ではないから。
事実、ぼくは途中でバリ取りを止めて、ぽいぽい突っ込んで、ぐるぐるしました。いや、32本もバリ取りできんし。
実際には後輪分の32本がプラスされて、総本数は64本です。1本/2分で128分です。秋の夜長が短くなり、KOWAのマシーンが恋しくなる。
油を差す、注油はそのまんまです。30本くらいでちょぴちょぴやりましょう。あと、金属くずを適時にふき取る。
最後はネジ山の深さです。ぱっと見では下のスポークのネジ山は適正に見えます。

が、赤い線のネジ山は不十分です。山の深さが足りない。緑の線の部分が正解です。山の鋭角がきちんと立ちます。
ダイスの回りの大きいナットでネジ山の深さを調整できます。

14番=2mmスポークのためのナットの適当な位置はここでした。多少の個体差やダイスの消耗はあれど、ここはだいたいこのくらいでしょう。
これを無茶苦茶に締めこんでしまうと、ネジ山が深くなりすぎ、ニップルがゆるくなりすぎ、その前にスポークが入らなくなります。
無論、エアロスポークやバテッドスポークは途中から細くなったり、平べったくなったりします。ストレートの丸スポークの汎用性には勝てない。
上のエアロスポークの画像のネジ山はぎりぎりのつめつめです。当然、平たい部分にネジ加工はむりです。
HOZANスポークカッターとネジ切り器のまとめ
- カッターとねじ切り器で2万円は飛ぶ
- スポークカットの作業の目安は1本/2分
- 加工精度はまあまあ
- 作業効率はビミョー
- ネジ山気持ち深めに
足掛け三日でクールな手組ホイールが仕上がりました。
