自転車タイヤの空気チューブの口金=バルブは3つです。英式、米式、仏式。それぞれが自転車の母国を自称します。
おかげで車体やパーツのサイズ表記はばらばらです。インチとセンチのダブルスタンダード。靴のサイズ表記と同じくUKのインチとUSAのインチは微妙に違しますし。
ママチャリは英国系
ママチャリやシティサイクル、身近な実用系・生活系自転車のタイヤの空気チューブの口金は英式バルブです。
英式=英国式=イングリッシュ式です。で、英国はインチ派です。つまり、ママチャリやシティサイクルは英国系自転車の流れを汲みます。
実質的にこの英式バルブはママチャリや軽快車の専用品です。ほかの自転車、ほかの分野では使われない。
ロードバイクやマウンテンバイクなどのスポーツ自転車のバルブは仏式です。詳しい人はこの小さな部位を見れば、自転車の用途を判別できます。
米式バルブはより汎用の規格です。自動車やオートバイに使われます。マウンテンバイクのサスペンションの空気注入口も米式です。
このような事情から英式バルブは工業品のなかではまあまあ特異な部品です。さらに独特な仏式は自転車専用のニッチ規格です。
英式バルブの象徴、虫ゴム
英式バルブに不可欠のパーツが虫ゴムです。空気バルブの核、バルブコアを覆う薄いチューブ状のゴムです。
芋虫みたいな形状にあやかって、虫ゴムと呼ばれる・・・ではありません。整備畑の業界用語でバルブコアの通称が『虫』です。バルコアゴム=虫ゴムです。
ママチャリの空気抜けの大半は虫ゴムの劣化
さて、この虫ゴム、見た目の通りにふつうのぺなぺなの安っぽいゴムです。ホームセンターに行けば、数百円で業務用の長いやつを買えます。使い切れませんが。
そんなときには100円ショップの自転車コーナーを覗きましょう。小口の英式バルブセットがあります。売り場の定番商品です。
で、定番商品=消耗品です。定期的な交換が理想的です。寿命はひいきめに一年です。でも、平均的なママチャリユーザーは定期メンテをぜんぜんしません。
空気入れすらしない。空気圧のチェックすらしない。不調には無視を決め込み、だましだまし走り続けます。
で、ほんとにいよいよやばくなると、自転車屋に駆け込んで、修理費用やパーツの交換代金、工賃の高さにぎょっとする。
おそらく虫ゴムを定期的に交換する人は自転車利用者の1%未満でしょう。単純な構造も一般人にはブラックボックスです。
虫ゴムは切れるし破れる
虫ゴムはチープなゴム製です。これが金具に挟まれて、けっこうなストレスを受けます。結果、切れる・破れるは日常茶飯事です。
このゴムは空気の弁の役目を果たします。コアの栓です。タイヤのなかのチューブが新品であっても、この弁が万全でないと、空気が漏れます。
- チューブ〇 虫ゴム〇
- チューブ〇 虫ゴム×
- チューブ× 虫ゴム〇
- チューブ× 虫ゴム×
上記の1以外の組み合わせはことごとくNGです。3と4ではタイヤが膨らみません。これらはチューブのパンクですから。
問題は2のパターンです。チューブが〇で虫ゴムが×の組み合わせ、これに空気入れでシュコシュコすると、ふつうに空気を入れられます。
ただし、空気入れのノズルをバルブから外すと、「しゅー!」と壮大なエア抜けをかまされます。
空気入れのノズルは逆流防止弁の機能を持ちます。でも、本来、それは虫ゴムの役目です。
ぼくの個人的な感覚ではチューブの寿命より虫ゴムの寿命の方が短命です。で、上記の2のパターンのパンクがあちこちで多発します。
かりにチューブが空気抜けやパンクの原因であっても、ママチャリや軽快車のチューブの修理や交換は大変です。
リアホイールの周りは金具地獄だ!
虫ゴムの交換はかんたんです。初心者はさきにチューブへ着手せず、こちらを最初にチェックしましょう。
虫ゴムのチェックと交換→チューブのチェックと交換
この流れがセオリーです。
虫ゴムの交換の仕方
虫ゴムの交換はじつにかんたんです。工具が不要、腕力は不要、技術は不要です。補修パーツは100円です。自転車整備の超入門編です。
キャップとナットを外す
最初にキャップを外します。これは別に栓や弁ではありません。ただのカバーです。これの有無は空気の気密性には影響しません。役目はコアの保護と見た目です。
つぎにバルブナットを外します。ふつうに左に回して緩める。
このナットはバルブコアのストッパーです。チューブの空気圧で内側から飛び出そうとするコアを押さえつけます。
ゆえにチューブのなかにたくさんの空気があると、バルブコアが「ばしゅっ!」っと一気に飛び出します。失くさないように注意しましょう。
バルブコアを抜く
で、バルブコアを引き抜きます。これはねじ止めではありません。手力ですぽっと抜けます。
まれに虫ゴムが劣化するとか、パンク防止剤が固着するとかして、この部分が固くなります。でも、このコアは基本的に手力でかんたんに抜けます。
虫ゴムチェック
ようやく虫ゴムがおめみえしました。裂け目、切れ目、傷、穴は交換の信号です。
めずらしくこの虫ゴムは無傷です。しかし、ブログの記事のために交換の実験台にしましょう。
ゴムの下には小さな穴があります。これが空気口です。
この英式バルブコアの本体には逆流防止の機能がありません。シンプルな中空の金棒です。
新しい虫ゴムのつけ方はこうです。力任せにぐいぐいねじ込む。
ゴムを指先でつまんでくりくり回すとうまくねじ込めます。
以下はダメな例です。バルブの穴は塞がりましたが、ゴムの掛かりが足りません。コアの根元の段差の意味を考えましょう。
これはあきらかにズレ防止の返しではありませんか? じゃあ、根本までしっかりねじ込みます。
空気と水の違いはあれど、これはホースのようなものです。
チューブの台座に取り付ける
新しい虫ゴムをしっかり取り付けたら、バルブコアをチューブの台座に戻します。こんなふうにスリットとでっぱりを合わせます。
で、ナットを締めなおす。
最後に空気を入れます。空気圧メーター付きの空気入れがありますか? ある? なら、3barから4barにしましょう。ママチャリタイヤの空気圧はそんなところです。
ただし、メーター付きの空気入れはおもにスポーツ自転車用です。ポンプヘッドの口金は仏式か英式だ。上の図では延長ホースと英式ソケットを使いました。
タイヤの空気圧を手応えで判断するなら、くるぶしくらいの硬さを目安にします。弾力ある皮の下にしっかりした骨がある感じ。
このとき、ほかの自転車のタイヤの硬さは役に立ちません。なぜならそこらのママチャリのタイヤの空気圧は乗り手の無関心のせい全般的に低めですから。
虫ゴム要らずのスーパーバルブ
この英式バルブの虫ゴムの壊れやすさは構造的欠陥です。薄い被膜に高圧がぎゅうぎゅう掛かります。劣化は宿命です。
この弱点を根本的に解決するのがスーパーバルブ系の製品群です。虫ゴムいらずの英式バルブです。なんかすんごく景気がよさそう、ははは。
ブリヂストンのものが好評ですね。
2個セット=1台分が500円です。キャッチコピーは『虫ゴムの6倍の長寿命!』です。この一文から虫ゴムの短命さが偲ばれます。
多分、ブリヂストンアルベルトとかのチューブのバルブは最初からこれです。虫ゴムのパンクにたびたび悩まされる人はこれを導入しましょう。
てか、なんでこれが標準装備じゃないの・・・