パスカルは云いました。
「人間は考える葦である」
B4Cはこう申します。
「インプレは散文詩である」
インプレについてのインプレ
インプレ・・・これはImpression、インプレッションの略称です。直訳は『印象』。広義には『ふんいき』や『使用感』や『フィーリング』を含みます。
インプレ、レビューの隆盛はネット、ブログ、SNS、通販の隆盛とかさなります。
最大手のamazonは通販サイトでありながら、インプレ・レビューコンテンツの性質を多分に持ちます。
現代ではレビューなしのプレーンな商品は売れませんし、星なしの飲食店はガラガラのかんこどりです。
インプレ=散文詩
で、あまたのパーツやアクセサリやウェアがもりもりにあふれかえる自転車界ではインプレやレビューが大人気です。釣り、登山、ゴルフみたいなジャンルも同様です。
が、これらを鵜呑みにするのは危険です。インプレはばくぜんとしたそれっぽい印象です。本質があいまいです。文学的。
市井の個人のインプレには主観と好みが入りますし、専門家や業界人のそれにはお金が絡みます。
専門誌、大手、批評家のインプレやレビューがあてにならないことは公然の事実です。ゲーム世代の頭にぱっと思い浮かぶのは『ファミ通クロスレビュー』です。
自転車インプレはチャリ愛好家の年齢層に合わせて、より『それっぽく』なります。『インプレ文学』と内外からヤユされます。『Fateは文学!』と同レベルです。
しかし、インプレの実態はよりまんぜんとした散文詩のようなものです。ニュアンスと修辞技法と自転車専門用語から成る韻を踏まない厨二ぽい自由な創作です。
自転車インプレ文学の文体
自転車インプレには真に文学的なエッセンスはありませんが、読み物的な価値があり、需要があります。
で、文学には文体や傾向や主義があります。
このテキトーなぼくのブログにさえ『B4C的文体』があります。一人称は基本的に『ぼく』で、文末はノーマル丁寧語の『ですます系』です。顔文字、絵文字を使わない。
この文体や傾向がばらばらだと、ヴィジョンがぼやけます。読み手が書き手をイメージできない。これはインプレ文学にはじつに不利益です。ファンが増えません。
王道アカデミック
インプレの王道はメーカーオフィシャル、大手メディア系、ベテランの自転車評論家や業界人の文体です。
チャリインプレ文学のアカデミック派、古典派、世界文学全集派、岩波文庫派というところです。
これらの大手老舗系のインプレやレビューの文章はスマートでアカデミックです。ばくぜんとしたそれっぽいふんいきの文章を成型加工するテンプレート技術があります。
凡例です。
「シルクのような乗り心地」
「ブラッシュアップ」
「しなやかな」
「ウィップ感」
ばくぜんとした上質感ワードがならびます。セミ厨二風のレトリック。とくに「シルクのような~」はもはや枕詞です。
実際、自転車のチューブラータイヤの芯材に絹を使うモデルはあります。一般的にはコットンです。が、「コットンのような乗り心地~」は季語ではない。ノット・プレミアム!
自転車タイヤの基本テイストはザ・ブチルゴム味です。シルクもコットンもゴムフレーバーの前には掻き消えます。てか、シルクに乗る? 絨毯か。
絶対究極ウルトラ万能ワードが『数十パーセントアップ!』です。比較対象は旧モデルや下位モデルです。
もちろん、この『数十パーセントアップ!』は当社比です。数値的な意味はありません。文学的表現ないしキャッチコピーです。
チャリダーの全般は無条件に『しなやか』というワードを無条件で好みます。神さま、仏さま、しなやかさまです。
- しなやかなフレーム
- しなやかなホイール
- しなやかなタイヤ
- しなやかな筋肉
- しなやかな精神
- しなやかな文体
イッツ・万能フレーズ!
「旧モデルから各部を着実にブラッシュアップして、BB周りの剛性を数十パーセントアップしながら、しなやかなフレーム設計でシルクのような乗り心地を実現する」
はい、立派なポエムです。
リーマン業務報告系
現在の日本の自転車トレンドはロードレーサーです。メインユーザーは20-50代の男性です。年齢層は高めです。
彼らの文章作成の基礎が業務報告や日誌です。個々のインプレレビューも業務報告風になります。センスがサラリーマン川柳だ。
内容はだいたい以下の通りです。
「どこそこへ行きました」
「なになにを買いました」
「平日にローラーを回しました」
「休みがありません」
「仕事が忙しすぎて~」
「嫁さんのおゆるしが出ず~」
「お小遣いが~」
一種のエレジー、挽歌です。高年層、退職層ではここに「親の介護が~」とか「病気が~」とかが加わります。せつなさに胸がふたがります。
恐い嫁、嫌な上司、安い給料がサラリーマン川柳の3大テンプレです。
逆に優しい嫁、ホワイトな会社、高い給料のポエムは全く共感を呼びません。サラリーマン川柳は一種の自虐文学ですから。
俗悪口語体感傷型
王道派のこまっしゃくれたアカデミックさは人を選びます。
「おれはあの高尚なふんいき、気取った空気、すかしたスマートさに馴染めないぜ! HEYHEY!」
という人は少なくない。
で、アンチテーゼ、カウンターカルチャー的に俗悪なあらっぽい文体をあえて使う人たちがいます。気持ち悪さ、オタクぽさをあえてPRする露悪趣味もここに入ります。
「このホイールはゴミ!」
「あの店はクソ!」
「神モデル、キタコレ!」
「クソはえー!」
「〇ね!」
「ルック車wwww」
表現が直接的で誇大的で口語的です。で、『クソ』と『神』がやたらと頻発します。そして、『クソ』に善悪の両方の意味を持たせるのはゆとり世代以降の傾向です。
この系統のカキモノはしばしばおのれの誇張気味の文体に呑まれて、感情の吐露に終始し、しばしば荒れはて、ある日に自己嫌悪でふと幕を下ろします。
あと、この系統は金になりません。
識者事情通日和見主義
SNS系媒体でよくみられるのが識者、事情通、元自転車業界人を匂わせる洗練された日和見主義的な文体ないし書き手です。
このような人はブログみたいに表立った活動をしませんが、ややひねくれたくろうとぽい色眼鏡とイシキタカイ系のコメントで賛同者や信者を増やします。
しかし、発言が能動的でリアクション型、よくもわるくも洗練されたものですから、ダイナミックな魅力や愛嬌、いきいきとした精彩を欠きます。インパクト不足。
揚げ足を取られないことがインテリジェンスだと無邪気に信じる人はえてしてこのようなドライな諦観的文体に捕らわれます。
ネットメディア個人発信系
なにがしかのネットメディア、SNSのたぐいの業界人、経験者、関係者は一定の情報発信のノウハウを持ちます。
また、メディア系と自転車の親和性がフレンドリーです。ちまたで人気の自転車ブログの上位はこの系統の人々です。そして、顔出しOKだ。コラボがはかどります。
文体はセミオフィシャル、マイルドアカデミックというところです。疑問や不満を呈しこそすれ、悪しざまにはいわないし、悪態をつかない。
個人がインプレ文学で人気作家を目指すなら、このメディア個人系を参考にしましょう。
王道はビジネスライクの狭き門、リーマン系の日誌は需要なし、俗悪系は嫌われます。