「軽さは正義」
自転車にハマると、車体の重量に過敏になります。とくにロードバイク乗りは『軽量化熱』を発症します。あいにくワクチンは未完成です。
「100g=1万円」
カーボンが高級品だった2010年代前半にはこんなキャッチコピーが流行りました。現在では100g=3000円でしょうか?
重量は単純明快なカタログスペックです。タイヤの転がり抵抗とかエアロダイナミクスより身近な数値です。
仮にタイムが縮まらなくとも、上りが楽にならなくとも、乗り心地の実感が伴わなくとも、軽量化には一種の達成感があります。
ダイエットが美容界では永遠の人気ジャンルであるように軽量化は自転車界の永遠の人気ジャンルです。
女子がサプリや減量マシーンを買うように自転車乗りは超軽量部品やカーボンパーツを買います。
結果、1本4000円のチューブなどがスナック菓子のようにカートインされます。
ぼくはピュアなロード乗りではありませんから、軽量化には拘りませんが、自転車遊びの一環でこのジャンルに多少の資金を投じます。
自転車の軽量化の意味合い、メリットやデメリット、効果的なパーツ交換、コストパフォーマンスなどを以下で解説します。
あと、ここでは乗り手の体重やフィジカルには言及しません。
「痩せろ」
「鍛えろ」
グッバイ、脳筋。
ロードバイクの軽量化の意味
アマチュアのロードバイク > プロのロードバイク
これはロードバイクのアンビバレントな常識です。公式の試合やプロのレースには有名な6.8kgルールがあります。
『レースに出場する車両は6.8kg以上であること』
この一文のためにプロは軽量なロードバイクに重りを入れて、レースに臨みます。時代錯誤ですね。
ちなみにギネス記録の世界一軽いロードは2.7kgです。これは一台限定の企画ものですが、市販完成車の5.0kgは普通にあります。
ということで、プロや競技者は最軽量のロードバイクをレースで使えません。「軽量化は意味ない」という理由の一つでしょう。
もっとも、競技団体の不条理なルールは伝統的なものです。
- サポートダメ
- 変速機ダメ
このようなものが過去にありましたし、現代でも『すね毛ぼーぼーダメ』が暗黙の了解です。意味不明ですね。
無論、ホビーレーサーはこのルールには束縛されません。STRAVAのKOMや自己ベスト更新を狙うローディは軽量化に熱心です。
軽量化のメリット
自転車の軽量化のメリットは自転車が軽くなることです。当たり前? 実際、軽量化はダイエットです。明快な数値の増減こそが最大のメリットです。
パーツを測りに乗っけて、
「重っ!」
「軽っ!」
「当たり!」
「ハズレや・・・」
このように一喜一憂しましょう。そして、自分より軽いバイク乗りには賞賛を、重いバイク乗りには軽蔑を与えましょう。
機材イキり? 重量マウント? 悪趣味だあ? その通りですね。で、あなたの自転車は何kgですか? え、7.0kgですか?! へえ~、ほお~。
こんなことで勝った負けたと言えるのが趣味の世界の特権です。ある種、軽量化は軽量化というゲームです。自作PCのベンチマークみたいなものだ。
つぎのメリットがタイムの短縮や乗り心地の変化です。とくにヒルクライムでは重量はパフォーマンスに直結します。
スポーツバイクの中ではヘビー級の下り系MTBとライト級の上り系ロードバイクを併用すると、その差を存分に痛感できます。
ことさらにホイールとタイヤの重さは最重要です。つまり、足回りの軽量化がハイパフォーマンスになります。
同じ理屈で漕ぎ出しのスタートの加速性能が向上します。ただし、低ギアで鬼漕ぎできるフラットバーや電動アシストには負けますが。
軽量化のデメリット
ものの耐久度は質量と形状と素材で決まります。必然的に重い自転車は頑丈で、軽い自転車は脆弱です。
これは以前の愛機のKONA HONZOのフレームと中華カーボンフォークです。見た目の通りにソリッドでマッシブです。
重量は700gくらいで、クリアランスは4インチくらいです。40mmタイヤが細く見えます。敵と戦えます。
こちらは標準的な軽量タイプのロードフレームとカーボンフォークです。見た目の通りに華奢です。
フォークの重量は375gです。クリアランスは30mmくらいです。敵と戦えません。
また、極端に軽いバイクは安定感を欠きます。通常サイズの自転車から小径の折り畳みやミニベロに乗り替えると、ハンドルにクイックさに面食らいます。
6kg以下の超軽量ロードは軽い転倒一発でぽしゃりかねません。すぼらなO型には不向きなノリモノです。
実際問題、ぼくは1年の常用でカーボンフレームをジャンクにしてしまいました。MTB系フレームの要領でラフに扱ったのが間違いだったか・・・
と、現代はカーボンパーツを気軽に取り扱える時代です。カーボンに一昔前の圧倒的な存在感はありません。高級アルミフレームの方がレアだ。
格安品の入手経路も多彩です。
- 小売店の型落ち
- 海外通販の特価セール
- ヤフオクやメルカリの美品
- amazonの中華カーボン
- Canyonとか
ロードのディスクブレーキ化、12速化で数年前のハイエンドリムブレーキモデルがちょいレトロになりました。これは狙い目です。
逆に最新規格、ブランド、トレンド、軽量化などを一から十までコンプしようとすると、無駄な出費を求められます。
チューブに何千円もかけるなら、最新式のフックレスチューブレスや旧式のチューブラーを使いましょう。
効果的な軽量化
自転車の性能はタイヤで決まります。こだわり派はタイヤからの逆算で車体のコンセプトを企画します。現代はタイヤ至上主義の時代です。
MTBでは異径サイズが入り乱れます。ぼくは自分のフィジカル・・・主に足の短さを考慮して、旧式の26インチホイールを使います。
ロードバイクのホイールサイズは700cの一択です。女子モデルの一部は650cですが。MTBより厳選やセッティングは楽です。
基本的に幅広のディープリムは重く、幅狭のローリムは軽くなります。トレンドはワイド化、ディープ化、チューブレス化です。
マビックのコスミックカーボンなどはその典型ですね。
が、これらの要素は単純な軽量化には不利です。
超軽量のフックレスチューブレスは超軽量ですが、既存のロード乗りにはまだ浸透しません。
タイヤとチューブ
タイヤシステムの全体をアップデートできないなら、既存のパーツを軽量のものに替えましょう。
- タイヤ
- チューブ
- リム
- スポーク
- ハブ
この順番で軽量化の効果が大きくなります。回転体の外 > 内ですね。遠心力のおかげです。
以下はロードバイクの最軽量クリンチャータイヤの候補です。
- パナレーサージラー
- ブリヂストン R1S
- VELOFLEX RECORD
これらはおおむね140~160gです。
耐パンク性能や耐久性はお察しのレベルです。超軽量タイヤに軽さ以外のものを求めるのが間違いです。お値段は5000円~。
クリンチャーシステムにはインナーチューブが必要です。
- Tubolito ポリウレタン
- Continental Super Sonic Race ブチル
- SOYO ラテックス
Tubolitoは高すぎです。ラテックス系はポリウレタン系の登場で最軽量から脱落しました。中途半端。
そして、どちらもリムブレーキ用かカーボンリムには非推奨です。世界最軽量のTubolito Sはディスクブレーキ用です。
おすすめはブチル製のコンチのスパソニです。パッケージのコピーの通りに重さは50gです。価格もセット2500~3000円です。
旧式のチューブラーor最新のフックレス
クリンチャータイヤの利点は気軽さと整備性だけです。軽量化を突きつめる人はこの中途半端なシステムにはぐずぐず甘んじません。
タイヤとチューブを軽くしても、リムの重量に足を引っ張られます。リムの重さはクリンチャーシステムのボトムネックです。
カンパニョーロゾンダはロードバイク界の超ベストセラーです。鉄下駄卒業にゾンダ、練習用にゾンダとたこ焼き器並みに普及します。
この大ヒットクリンチャーホイールのリム重量が約460gです。軽くも重くもなし。
一方、こちらはMicheのピスト用のチューブラーリムです。
実測重量が390gです。ゾンダのリムより軽量で割安です。中級のカーボンクリンチャーに匹敵します。
古いカーボンチューブラーはさらに軽量です。古いレイノルズのカーボンチューブラーリムです。
このリム高で330gはファンタスティックです。反面、リム幅は20mmしかありません。乗り心地はレーシーでスパルタンです。
旧式のチューブラーや最新のフックレスには300g以下のリムが普通にありますが、クリンチャーにはめったにありません。
タイヤシステムの違いで100gの差が出ます。これをクリンチャーシステムの中で補完しようとすると、チューブ1本4000円の罠にはまります。
旧式のキャリパーブレーキのロードバイクを安く軽量化するなら、型落ちのチューブラーをヤフオクやメルカリで探しましょう。
また、メーカーやブランドを問わないなら、中華系手組のセット1kg以下のものを格安で簡単に入手できます。
とにかくクリンチャーシステムの中で極端な軽量化を成し遂げようとするのは無駄な努力です。
「クリンチャー縛りで軽量化する!」というドMな縛りプレイの愛好家はこの限りではありません。
それから、クリンチャーの超軽量タイヤも超軽量チューブも耐パンク性の観点では最弱です。ぼくは上り以外にはおすすめしない。
スポークやハブの軽量化は走行性能には大きな影響を与えませんが、体重測定には効きます。
EXTRALITEとかDT SWISS 180とかTUNEとかの欧州ブランド物の超軽量ハブは衝撃の価格です。台湾系が良コスパですね。
このようにパーツ交換の優先順位は足回りの外側 > 内側です。
フロントシングル化
足回り以外で簡単に軽量化できるものがあります。フロント変速です。これは上り特化型では不可欠なものではありません。
コンポーネントをハイグレードなものにしようとすると、またまた余計なコストを搾り取られます。庶民の予算は無限大ではない。
金を掛けないなら、知恵を絞りましょう。MTBではギアの多段化とワイドレシオ化でフロント変速は廃れました。
国内のロード乗りは他のジャンルのエッセンスを取り入れることに消極的ですが、フロントシングルは非常に合理的です。
「フロントリングは二枚以上であること」
こんな規定はUCIのルールブックにはありません。そもそも6.8kg以下の軽量化が公式から外れます。
フロント変速を排除すれば、ケーブル、ディレイラー、チェーンリングを一掃できます。コンポのグレードアップより効果的で安上がりです。
注意点はギア比です。ルートと脚力に合わせて、リングとスプロケをセッティングしないと、要所で詰みます。
はい、詰みました。
フラットバー化
ドロップハンドルはロードバイクのシンボルですが、重量的には落第生です。シンプルに形状が複雑で、質量が嵩む。
複雑な形状のものを良い素材で軽く作る=コストが掛かる、です。メーカー物の軽量カーボンハンドルはファンタジックな価格です。
ところで、上りではドロップハンドルの特性は活きません。下ハンを握ってヒルクライムする人はいない。
立ち漕ぎにはフラットバーかライザーバーの方が明らかに有利です。
カーボンフラットバー+バーテープがハンドル回りの最軽量セットです。カーボンブレーキレバーなどを使えば、鬼のように軽く出来ます。
「そんなものはロードじゃない!」
そうですか? で、あなたのドロハンのそいつは何kgです? え、6kg? 惜しい!
ロードバイクの軽量化まとめ
ロードバイクの軽量化は一種の熱病です。特効薬は『実際に軽量化すること』です。
メリットは上り坂、漕ぎだし、自分より重いバイクの乗り手にドヤれることです。
デメリットは乗り心地の悪化、パンク耐性の低下、そして、金銭感覚の崩壊です。4000円のチューブを測りでチェックするのは末期症状です。
お金持ちはギネス記録の2.7kgを目指してください。庶民はタイヤから着手してください。
クリンチャーシステムでは軽量化を突き詰められません。チューブレスかチューブラーへの移行が超軽量級への近道です。
旧式のロードバイクのテンプレから一歩踏み出せば、アホみたいな予算を掛けずとも、5~6kg台の超軽量号を組み立てられます。
結論・軽量化はロマン!