ピストバイク=ノーブレーキの自転車、
この連想ゲームはまちがいじゃありませんが、なおさらに正解じゃありません。
ピスト=Pisteです。フランス語で『競技コース』の意味です。イタリア語ではPista、英語ではTrackです。
ピストバイク=トラックバイク=フィックスドバイク
専用の競技トラックを走るバイクはブレーキを装備しません。競技場には赤信号、危険なブーブー、のろのろおばはん、ふらふらおっさん、予測不能のこども、不意の野良猫などが介入しませんから。
停止=競技ないし走行終了です。自然減速で十分に停まれます。逆にずぎゃーんと急ブレーキすれば、事故を起こしかねません。
そして、ギアが固定です。ギア、コグ、歯です。ギアはハブにがっちりくっつきます。ゆえの固定ギア、Fixed Gearです。
激動のピストバイク
本来のピストバイク、トラックバイク、Fixed bikeは競技コース専用の自転車です。もっともフォーマルなのは競輪の車両です。
競輪は公営競技、ギャンブルです。そこらへんの自転車のレースや大会より規定は厳密です。八百長や不正があれば、競技の存在が根幹から崩れ去ります。
車体の規定も厳密です。固定ギア、ノンブレーキ、クロモリフレーム、クイルステムが厳守です。ある種、自転車界のガラパゴス的な純粋培養です。
たしかに競輪の競技内容ではトレンドの油圧ブレーキや電動コンポは不要です。主役は競輪の選手、その心技体です。競技内容は完成形の終着駅でもう進化しませんし。
で、この競技用バイクをカルチャーとして定着させたのが海の向こうの方々です。アメリカの都市部の職業自転車乗りが仕事の相棒にしまして、注目を集めて、若者の人気を博します。
で、逆輸入の形で日本に来てばーんと流行ったのが2000年台後半でした。これはプレ弱虫ペダル時代のことで、現在のロードバイクブームの以前の自転車ブームの山場です。
でも、ノンブレーキの自転車を日本の狭苦しいはんざつな都市部の交通状況で使うのはなにかとNGです。
とどめに古参のアカデミックな自転車乗りのヘイトをたっぷり貰って、エクスターミネートされました。
それでも、販売側の規制は2013年まで野放しにされました。ブレーキなし自転車の販売規制はせいぜいこの数年です。
本来の野性味を失ってすこし丸くなりましたが、公道を走れるようになったのが現在のブレーキありのピストです。
もはやノンブレーキピストが走れるところは閉鎖コース、専用トラック、私有地だけです。競輪場の解放デーなどが数少ないチャンスです。
安心安全オンブレーキピスト
公道の走行には前後のブレーキが必須です。前だけ、後ろだけはアウトです。教科書的には『10km前後の徐行で3メートル以内に停まれるブレーキ』です。
おそらくノーメンテの普段使いのママチャリや軽快車の半分はこれに抵触します。経年のママチャリのバンドブレーキやミニベロの安キャリパーはぜんぜん停まりませんから。
そんなブレーキはただのポリ避けのお守りです。実際、おまわりさんはブレーキの有無を見ますが、効きまでチェックしません。
とにかくピストであれ、ママチャリであれ、ロードバイクであれ、自転車には前後のブレーキが必須です。種類は不問です。
で、ピュアなピストバイクはノンブレーキです。そもそもフレームにブレーキの取り付け台座やダボ穴がありません。
ぼくの解決策はL字金具です。ドロヨケの穴に金具を固定して、そこにキャリパーブレーキをくっつけます。
取り付け台座の方式は不問です。金具、溶接、接着パテ、なにがしかの方法でブレーキを固定しましょう。
さいわいフロントフォークはVブレーキ用です。Vブレーキやカンチブレーキをぽん付けできます。
正直、Vブレーキはがっつん効きますから、バンドブレーキやキャリパーブレーキx2くらいの制動力はあります。
でも、交通ルール的には前後の二系統のブレーキが必要です。極論、フロント100、リア0もだめです。ブレーキ的にはOKですが、ルール的にはNGです。
ところで、ピストバイクの基本の止まり方はブレーキレバーを引くことでなくて、『バックを踏む』ことです。
固定ギアのホイールは走行中にはずっとまわり続けます。ハブ、チェーン、クランク、ペダルは常に連動します。
こんなふうに緑矢印方向に踏ん張れば、クランクの回転を和らげられます。
左右の足でこれをやって、速度を徐々に落とします。これが『バックを踏む』です。
感覚的には踏むというより身体でクランクパワーを緩和するです。足腰の間接をスプリングかストッパーみたいに使います。
レバーブレーキみたいに急激に止まれません。減速です。電車の減速に似ます。停止位置を逆算して減速を始めます。
おのずとブレーキより論理的でテクニカルな乗り方になります。
ピュアピストではこれが唯一のブレーキングです。よりトリッキーなスキッドて方法はありますが、初心者にはハードです。
ビンディングペダルやトゥークリップで足をペダルに固定しないなら、最後の手段に飛び降りダイレクトブレーキを使えます。
ピスト乗りは停止位置を逆算して走ります。フリーギアみたいにぼんやりとは走れません、事故るから。
上りは苦手、下りはもっと苦手
ピストないしシングルスピードの苦手科目は山登りです。勾配の強弱でギア数を変えられません。激坂でも1速、ゆる坂でも1速です。
フロントリングを小さくするか、リアのコグを大きくすれば、ギアを軽くできます。が、ギアを軽くすれば、平地で踏み切っちゃいます。
ぼくは平坦な街乗りメインで47x16Tにしました。
ギア比はほぼ3です。平地で気持ちよく回せる重さです。街中の坂はだいたいOKです。歩道橋のスロープはちとハードです。
じゃあ、長いとうげはどうでしょう? ヒルクライムは?
はい、実践です。とうげ=箕面でっしゃろ! てシンプルな思いつきで箕面方面に爆走します。
勝尾寺ヒルクライムの箕面駅側ルートです。距離7km、勾配4%、高度250mてとこです。
はなから立ち漕ぎでえっちらおっちら上ります。目標は足付きなしの勝尾寺到着です。速度を保って、心拍数を抑えます。ひいひいふう、ひいひいふうの呼吸リズムです。
勝尾寺ヒルクライムすると、たいがい一匹二匹の猿を見かけます。が、今日の箕面は平和の山です。猿っ子ひとりいません。
代わりに帰りの自動車がぶいぶい来ます。観光地のとうげに土曜の午後に行くのは失敗だあ!
序盤は上りです。そこからすこし平坦になって、箕面の滝のとこに出ます。走れますけど写メのために降りちゃいました。
ここからしばらくフラットです。ちょろっとシッティングで走れます。が、じきに終盤ののぼりが来ます。立ち漕ぎの復活です。妊婦なみの呼吸法でしのぎます。ひいひいふう、ひいひいふう。
はぁ~、ゴールや~。
Tシャツ、ジーパン、サンダルでアホみたいに汗だくになりました。おかげで上り区間では足付きなしでしたね。意外と上れました。
まあ、問題は上りより下りです。ピストのクランクは常に回り続けます。下り坂では余裕で乗り手の支配を脱して、超高速回転します。
最初のくだりがこうです。
チャリにまたがって数メートルしか下らない内に危険な気配を感じます。バックを踏むの減速が下りの加速を緩和しきれません。一秒ごとに加速します。
上りや平坦ではぜんぜん使わなかったブレーキレバーを緊急作動させて、降りて押して歩きました。この角度と距離はむりゲーですわ。左カーブの死角が恐怖です。
こんな下りはよゆうです。バック踏み踏みで完全に減速して、等速でゆるゆる降りられます。でも、もうこの写真の位置から減速・停車を意識しはじめます。
そして、ふもとの西田橋までは5kmです。モモ裏とヒザの強化トレーニングです。上りより心身ともにハードです。足付きは計5回になりました。
とにかくピストバイクのヒルクライムの上りはひいひい、下りはヒョエー! です。トレーニングには絶好です。正味、ただの修行です。爽快感はない!
フロントリングを小さくするか、リアギアを大きくすれば、ギアを軽めにできます。上りの立ち漕ぎ、下りのバックがもっと楽になります。