自転車専門店の店頭や通販ストアのロードバイクやMTBのカタログ写真を見ると、ふしぎな事実に気づきます。
「あれ、ペダルがない?」
そう、市販のスポーツバイクにはペダルが付属しません。あれはクランクのおまけでなくて、一個の独立した単体のパーツです。
逆にペダル付きの完成車はライトユーザー、初心者、入門用のマイルドな自転車です。
非固定ペダルと固定ペダル
ペダルは2種類に分かれます。非固定系と固定系。非固定はおなじみのフラットペダルです。固定は用途やシーンでさらに細かく枝分かれします。
非固定ペダルのメリットは気軽さ、安全性、靴の選択肢の多さ、行動範囲の広さ、そして、自由です。スケボー。
固定系ペダルのメリットは足元の安定とペダリング効率の向上です。クランク、ペダル、靴、足を疑似的に一体化して、いろんなロスやミスを減らします。スノボー。
フラットペダル
ペダルのいろはの『い』はフラットペダルです。一般人の頭の中の『ペダル』はこれです。ふつうのペダル、ふつペダル、フラペダ、フラペ、フラッペです。
踏み台=プラットフォームが平坦です。ゆえのフラットペダルです。世の自転車の99%がこれを採用します。
フラットペダルのメリットです。
- 気軽
- 安価
- 豊富
- 便利
- 安全
- 軽量
- 頑丈
などなど。専用の高いシューズを用意せずとも、スニーカー、運動靴、革靴、サンダル、つっかけ、靴下、素足で乗れます。
注意点はシャフトの径です。1/2インチと9/16インチがあります。主流は後者です。1/2インチはBMXや一部のビーチクルーザー用です。
トゥクリップ、ストラップ
トゥクリップやストラップは正確にはペダルではありません。後付けのアクセサリです。
これは後述のビンディングシステムの誕生以前のペダルとシューズの固定方式です。このようにシンプルに留め具と紐で靴をプラットフォームに固定します。
クリップとストラップの長所はふつうの靴を履けること、引き足を使えること、器具を安く買えることです。フラットペダル+1000円で固定にできちゃいます。
しかしながら、この古式の用法にはデメリットが満載です。一つ目は着脱の手間です。
- 右シューズをクリップに入れる
- ストラップを締める
- 発進
- 左シューズをクリップに入れる
- ストラップを締める
- 走る
- 停車前の減速中にストラップを緩める
- シューズを外して足を着く
- 4に戻る
停車準備の7の工程が鬼門です。走りながらストラップを緩めて靴をペダルから離します。停止する前にこの動作を終えないと、立ちごけして横倒しになります。
で、日本の都市部の信号の間隔ではひっきりなしにこのストラップの締め緩めの場面が訪れます。
ヴィンテージなおくゆかしいスタイルは魅力的ですが、めんどくささと危うさが一切のメリットを消します。
ビンディングペダル
ビンディングペダルは現代の固定ペダルのスタンダードです。このシステムの誕生が上記のトゥクリップとストラップを過去の遺物にしました。
現実、海外ではこのタイプのものは”Clipless Pedals”と呼ばれます。このCliplessの”Clip”は前段のトゥクリップのことです。
ペダルのビンディングの仕組みはスキーやスノボのビンディングに通じます。ビンディンペダルの開発元のLOOK社はもともとスキー用具のメーカーですし。
シューズとペダルのそれぞれに別個の金具が付属します。シューズ側はクリート、ペダル側はビンディングです。ゆえにシューズとペダルはニコイチです。
これはシューズの金具=クリートです。
シューズは専用品です。ビンディングシューズの靴底には金具と台座の取り付け穴があります。おかげで通気性はばつぐんですが、防寒性はぽんこつです。
このクリートの前後のツメがペダルのソケットにかちゃっとはまります。
縦方向の動きでは金具は外れません。横方向の動きorひねりでツメがずれて、ビンディングから外れます。じつに合理的な仕組みです。
この写真のビンディングペダルはCRANK BROTHERSのCandy3です。オフロード、CX、ツーリング用の人気ペダルです。
この系統のクリートは小型で、靴底のくぼみから出っ張りません。
山を登るクロカン系のMTB、担いで走るシクロクロス、出先でぶらぶらするツーリングには歩行機能は重要な要素です。歩けないと詰む。
デメリットは価格です。シューズとペダルは共に専用品です。10000円、5000円。ママチャリ一台分の出費を覚悟しましょう。
販売店的には売り上げを手軽に上げられる優秀な商材です。ウェアやシューズは稼ぎ頭です。へたなチャリより利益率が上だ。
おかげでスポーツバイク初心者にやたらとビンディングをごり推しする悪質なショップやスタッフが後を絶ちません。
ちなみにクランクブラザーズのクリートとシマノSPDのクリートはそっくりですが、パーツの互換性はありません。
ロードバイク用のビンディング
ロードバイク用のビンディングペダルはより先鋭的な競技用機材です。機能は自転車走行のみに特化します。歩行性能は二の次です。
また、ロードバイク界では軽さが多大なアドバンテージとステータスを持ちます。重い靴はNGです。
クリートの取り付けにはソールの硬さが不可欠です。で、ブーツみたいな硬いゴムを使うと、むやみに重さを増してしまいます。
硬い軽量な素材の代表はカーボンです。カーボン素材の原価は大したものではありませんが、成型と加工のコストが膨大です。結果、手間賃で販売価格が爆発します。
サッカースパイクやランニングシューズのハイエンドモデルはせいぜい2~3万円ですが、ロード用の高級シューズはその倍の5~6万です。高すぎ。
そのカチカチの靴底に金属のクリートがむき出しでくっつきます。降車時の移動能力はペンギンなみです。
そのほかのデメリットは疲れやすさ、汎用性のなさ、がちがちのスポーツ感、ハデハデなデザイン、サイズ展開のとぼしさなどです。
シューズのサイズ展開の少なさはぼくのような幅広甲高さんには深刻です。ベストな幅のビンディングシューズはほんとにありません、マジで。
ロード用の5大ビンディングメーカーはLOOK、TIME、MAVIC、シマノ、スピードプレイです。基本的に互換性はありません。
ちなみにクリートはペダルの付属品です。
最適ペダルは十人十色
競技用機材はパフォーマンスを上げますが、それはなにかの裏返しです。固定の強さは足の自由度の低さにほかなりません。
たしかに固定ペダルは効率を上げます。しかし、ビンディングで足を縛られると、気軽にポジションを変えられません。延々と同じ漕ぎ方しかできまない。
その点、フラットペダルはフリーダムです。究極のマルチポジションだ。臨機応変に踏み場を変えられます。最大の利点は履き物を選ばないことです。
フラットペダルとビンディングペダルの関係性はスケボーとスノボーのそれに似ます。効率性と自由度はほんとに表裏一体です。
ぼくはビンディングでポジションを固定されるのを好みませんし、たびたび寄り道しますから、気軽なフラットペダルを愛用します。
こういうスタイルにはだらだら走る方が『楽ちん』です。気楽さ=疲れにくさです。
速く遠くへ行こうという人にはビンディングでキビキビ走る方が『楽ちん』です。効率の良さ=疲れにくさになります。
楽ちん、疲れにくさの基準さえがこんなふうに十人十色です。くれぐれおのれの用途とスタイルを見失わないようにしましょう。
まあ、こむずかしく考えずに形から入るのはぜんぜんアリです。クリートとビンディングのドッキングSEの「カチャ!」や「カーン!」は漢のロマンです。
みんな合体マシン好きでしょ?
あ! あの音を出すフラットペダルを開発すれば大金持ちになれんか?!