自転車のタイヤは三種類です。チューブラー、クリンチャー、チューブレスです。チューブラーが最古参、チューブレスが最新鋭です。
これらの共通のキーポイントは空気です。自転車に乗ることは、タイヤに乗ることであり、空気に乗ることです。
昔のタイヤはノーパンク
空気入りチューブの発明以前のタイヤはゴムのかたまりです。台車の駒やスケボーの車輪みたいなものです。
で、加硫ゴムの発明以前のタイヤは馬車の車輪みたいな木や金属のわっかです。
草創期のサイクリストはこのソリッドタイヤで石畳やグラベルを走りました。昔の人のおおらかさが知れます。
当然のようにゴムのかたまりや木のわっかはパンクしません。パンクしませんが、摩耗しますし、破損します。
パンク王のクリンチャー
現代の自転車タイヤの大半はチューブ入りのクリンチャーです。使い勝手や価格、そこそこの性能から重宝されます。
でも、長所は短所の裏返しです。パンク発生率はタイヤシステムの中では圧倒的な最多勝です。とくに軽量チューブはちょっとやそっとでパンクする。
クリンチャータイヤシステムのパンクの大半は摩耗パンクとリム打ちパンクです。これはまめな空気圧の管理で解決します。
しかし、一般人やライトユーザーはそんな基本の空気入れをすらまともにしません。致命的に無頓着だ。
で、歩道をばかすか走って、段差に乗り上げて、スネークバイトの餌食になります。
絶対的な普及数と構造的なパンク発生率の高さが相まって、自転車タイヤ=パンクのイメージが付きまといます。
空気は無敵の緩衝材
世間はメンテや整備に時間や手間をかけません。
「パンクをしないようにまめな空気入れを心がける」は夢の外です。「パンクしないタイヤはないか?」です。
パンクしないタイヤ、ノーパンクタイヤ、パンクレスタイヤで、いろんな種類がありますが、共通項は『空気でタイヤを保持しないこと』です。
そもそもなんで自転車のタイヤに空気入りのチューブを入れるか? やろうと思えば、木のわっかやゴムのかたまりで走れちゃいます。
でも、乗り心地は劣悪です。足元は一気にゴリゴリのがたがたになります。
空気は非常に優秀なクッションです。軽量、安全、手軽、身近、圧力で硬くも柔らかくもなり、おまけにタダ! こんなすばらしい緩衝材はめったにありません。
ゆえに木のわっかやゴムのかたまりを完全に過去のものにして、この100年ちょいのタイヤの緩衝材の王座に君臨します。今のところ、空気以上のクッションは存在しない。
パンクのごときトラブルはこの絶大なる長所のまえではささいなことです。しかも、原因の大半は空気入りのチューブにあらず、乗り手の怠慢にあります。
ノーパンクタイヤはこの空気の利点をまるまる放棄して、旧世紀のソリッドなわっかに後戻りします。
固形物は空気に勝てない
- ゴム系
- ウレタン系
- ゲル系
- 新素材系
これらは基本的に固形物です。どうひっくり返っても、緩衝媒体の皇帝の空気さまには勝てません。
利点――と手放しで呼べるかはあやしいところですが――はパンクしないことです。この一事のために乗り心地、軽さ、扱いやすさ、コスパを犠牲にします。
結局、固形物系のタイヤシステムの総合得点は空気入りタイヤにぜんぜん及びません。空気以上の緩衝材が存在しませんから。
また、ソリッドタイヤはパンクしませんが、摩耗しますし、破損します。おまけにタイヤの自重と硬さのせいで人機へのダメージがしんこくです。
具体的にはホイールのスポーク折れの発生率が飛躍的に高くなります。クッションがぽんこつですから。
パンクはしないが、スポークは折れる。リカバリーが余計にたいへんです。本末転倒。
おまけにチューブレスタイヤという新進気鋭のシステムが急速に勢力を広げます。この方式ではパンク防止剤の効果で少々の穴や傷は自動的に治ります。
はい、神秘の白汁です。こいつが傷を毎ターンごとに回復します。最強クッションの空気と絶縁せずに、日常的なパンクを克服します。
スポーツバイクのノーパンクタイヤの未来はここに途絶えました。
かりに固形物タイヤが空気入りタイヤより優秀であれば、自動車やオートバイの足回りをまっさきに席巻しましょう。
でも、現状、これらの乗り物のタイヤはチューブレス方式です。
現在のノーパンタイヤはスポーツバイク的視点ではキワモノの域を出ません。価格もふつうのタイヤの2-3倍になっちゃいますし。
ただ、重さをアシストでカバーできる電動自転車とはそこそこ合いましょう。ふつうのママチャリやシティサイクルにつけると、重い車体をさらに重くしてしまいます。
え、26インチのMTBにつける? ネタでしょう?! がったがたの道がさらにがったがたになります。台車の駒やスケボーの車輪で悪路を走れますか? 無理だ。
乗りっぱなしの置きっぱなしのチャリ通号やレンタサイクルぐらいにしか使い道がありません。