商慣習、奇妙なルール、独自の風土はどんな組織、どんな業界にもあります。
一例が休日です。美容業界の休みは月曜日ですし、質屋業界のやすみは七、十七、二十七て『しち』の日です。
酒屋や米屋は10kg、20kgの荷物を無料で得意先に運びます。運送業者的には狂気の沙汰でしょう。
世にもふしぎな自転車業界
国内の自転車業界、チャリ界はぞくに『輪界』と称されます。このニュアンスからすでに香ばしさが漂いますが、その内情は予想を裏切りません。
一般人的観点からこの業界の特殊な事情をピックアップします。
店頭訪問、対面販売
国内の自転車小売店の第一原則的なものが店頭訪問、対面販売です。チャリ屋は基本的に地元密着型のビジネスです。商圏=近所、客=知人です。
しかし、買い物のスタイルが実店舗型からネット通販型に移行して、この自転車業界の鉄の掟が根本から揺らぎます。
シマノの商品の割引は横一線
世界の自転車関連産業の覇者は堺国のシマノです。
オフロードではSRAMの台頭を許しますが、ロードバイク、セミスポーツバイク、日用自転車では絶対の牙城をきずきあげます。
堺はまさに城下町です。まあ、ゴルフとスキーは黒歴史ですが。
で、日本の自転車市場は北から南までシマノの支配下です。自転車屋はシマノ製品なしで商売できません。
その結果、シマノコンポの価格は完全に横一線です。割引率の標準値は20%です。18%や22%みたいな数値はあっても、30%や40%のセールはありえません。
シマノ製のコンポーネントの大部分は店の在庫品でなく、メーカー取り寄せ品です。価格競争の原理ははたらきません。ある種のなれあいです。
2022モデルは2021年に出る
有力人気自転車ブランドのロードバイクやマウンテンバイクは1年ごとにモデルチェンジします。
『人気モデルを抜き打ち発表して、ライバルの新型をメディアからロンダリングする』みたいな冷徹な手法はたまに見られます。
で、ぜんぜんの初心者はこの年度モデルの命名法則に首をかしげます。2021年の新型の年式が2022モデルですって? はあ? 誤植ですか?
いいえ、これは誤植ではありません。命名法則の習慣です。2021年の新型は2021モデルではなく、2022モデルです。
近所のチャリ屋の大将はこわもて
「あなたの街の自転車さんのお店の人の似顔絵を描いてください」
この要求から一般人がキャンパスにえがく自転車屋さんのお店の人はさわやかイケメンのおにーさんでなく、こわもてのおやっさんです。
最近のスポーツバイクショップや大手量販店のスタッフは八方美人のフレンドリータイプですが、近所の個人経営の大将は高確率で不愛想な仏頂面のおやじです。
これはぼくの個人的な感覚でなく、一種の定理のようです。統計学的に全国的に近所の自転車屋の大将はこわもてである。
みんな知り合い
うちの地元の服部緑地で自転車フリマのシクロジャンブルが春秋にあります。
出店者のほとんどは業界の人です。一般人の売り子はレアです。
ぼくは前に一度だけ売り手に回りました。両隣は自転車屋さんです。その証拠にシマノを「シマノさん」とさん付けします。
で、この両隣の人にちょくちょく同業者らしい人が挨拶に来て、「ひさしぶりやな~」「どない」「元気でっか」「ぼちぼちでんな」的なやりとりをします。