自転車タイヤのシステムはチューブラー、クリンチャー、チューブレス、ノーパンクの四種類です。
最古参はノーパンクタイヤ、最新鋭はチューブレスタイヤです。この二つのシステムの構成にはチューブが含まれません。
チューブレスはタイヤだけで、チューブレスレディはタイヤとシーラントで気密性を保ちます。MTBやオールロードではこれが標準的です。
もう一つの非チューブ系システムのノーパンクタイヤは新しいものではありません。空気入りチューブの発明以前には自転車のタイヤはゴムの塊や木の輪っかでした。
ちなみに空気入りチューブを発明したのはトムソンさん、後年に再発見したのがダンロップさん、自動車に応用したのがミシュラン兄弟です。
有チューブ系のチューブラータイヤとクリンチャータイヤにはこの世紀の発明品が内蔵されます。ただし、チューブラーのチューブはタイヤのゴムの中に完全に縫い込まれて、表から見えません。
ベテランさんは縫い目をほどいて、チューブを引っ張り出して、穴をふさいで、また縫い直すという針仕事でタイヤを復活させます。
ライトユーザーはシーラントで応急処置します。
お金持ちはタイヤをさっさと交換します。
チューブの王道クリンチャー
で、最後がクリンチャーです。これこそが有チューブ系タイヤシステムの王道中の王道です。
一昔前には自動車やオートバイに使われましたが、今日では軽車両にしか使われません。その中の最大多数派が自転車です。
ママチャリ、軽快車、クロスバイク、ロードバイク、折り畳み自転車等々の足元は基本的にこのクリンチャーです。
長所は扱いやすさ、修理のしやすさです。短所は重さ、性能の低さ、そして、パンクのしやすさです。
ことさらにスポーツバイクのチューブは頻繁にパンクします。また、軽量チューブの初期不良や設計ミスは日常茶飯事です。クリンチャーシステムの構造的欠陥ですね。
ママチャリのチューブ交換の値段の秘密
しかしなら、全部の自転車がノーパンクタイヤやチューブレスタイヤ並みにパンクしなくなると、街の自転車屋さんの経営が急激に悪化します。自転車のパンク修理とタイヤ交換は貴重な収入源ですから。
こちらは島忠ホームズの自転車コーナーの工賃表です。ホームセンターや量販店の中では良心的な価格設定です。
この表には面白い傾向があります。前輪のパンク修理代は同じです、700円。しかし、後輪のタイヤ交換とチューブ交換は別々です。後輪は前輪の倍額です。
この訳は実用系一般自転車の構造にあります。
スタンド、荷台の支柱、泥除けの支柱、チェーンカバー、ローラーブレーキなどなどが密集します。メンテナンス性が皆無で、タイヤとチューブへのアプローチが非常に大変です。値段はこれを反映します。
このような事情から一般自転車のチューブ交換やタイヤ交換を自分でやるのはおすすめではありません。自転車弄りを趣味にするぼくさえが楽しめない。前輪のタイヤ交換が限度です。
つまり、後輪の交換の工賃の内訳は冗談抜きで『チューブ交換代500円+固定金具外し代1000円』です。
ロードやクロスのチューブ交換は簡単
一方、スポーツバイクのタイヤとチューブの交換は簡単です。ロードバイクやMTBはスポーツ用品です。現場や出先でのメンテナンスやカスタマイズは競技の一部です。
とくにタイヤは走行性能に直結しますから、足回りの整備性は死活問題です。
実のところ、ママチャリのフレームの素顔はシンプルです。整備性を損ねるのはカゴ、荷台、スタンド、泥除けなどの実用系パーツの固定部分です。ある種、この整備性の著しい欠如は素人のいたずら防止策です。
で、一般的なロードバイクやクロスバイクはクリンチャーですから、日常的にパンクします。ゆえにチューブ交換や修理の機会はほかの車種やタイヤシステムより多く起こります。道端で車体をひっくり返してごそごそ作業する人は週末のサイクリングロードの風物詩です。
とくに細い軽いロードバイクのタイヤとチューブは恒久的なパンクリスクを抱えます。予備チューブ、携帯空気入れはロングライドには必須です。修理しないと自走で帰れませんから。
外を走る自転車はアウトドアの一環です。アウトドアの基本は自力救済です。家に帰るまでが遠足だ。自力で帰還できないと、他人に迷惑をかけてしまいますし、白い目で見られます。とくに身内は趣味の遠出の失策には冷淡です。自分のケツを自分で拭けんのかい、と。
チューブの交換は自転車乗りの必修科目です。
屋外でする実践的なチューブ交換の方法
上述のようにスポーツバイクは競技用機材であり、メンテナンス、カスタマイズ、チューンアップなどはレースに含まれます。ゆえに個々の機材の整備性が優秀です。素人が工具なしで一定の作業をこなせます。
しかし、自宅でじっくり腰を据えてやるのと出先で緊急に行うのは別物です。ホームでは有利なアドバンテージが働きます。PCも工具も電気も水道もある。
片や屋外の作業は完全なアウェーです。出先の緊急メンテで100点の完成度にするのは無理です。気持ちは焦るし、天気は安定しないし、スマホの電波は切れる。90点がせいぜいです。
アウェーで痛い思いをする前に外出先でチューブ交換の予習をして、屋外作業の勝手を掴みましょう。
ということで、実践に近い環境を求めて、近所の河川敷の遊歩道にやって来ました。こちらはサイクリングロードではありませんが、対岸はなにわ自転車道です。
と、ここでパンクをしたとして、チューブ交換の作業に移ります。
自転車をセットする
まず、他の人の通行の邪魔にならないように自転車を道端や適当なスペースに移動します。
このとき、人目は相当なプレッシャーになります。精神的な負担を軽くするなら、木陰や物陰に移動しましょう。ただ、ディレイラーの調整のような細かい作業は暗いところでは難しくなります。
次にタイヤをチェックして、パンクした方をフレームから外します。車体をひっくり返すか、横倒しにします。
このとき、路面がアスファルトやコンクリートだと、ハンドルやレバーやサドルが傷つきます。愛車を労わるならば、タオルや布を敷くか、このような草地を探しましょう。
ホイールを外す
クイックリリース、ボルトナット、スルーアクスル・・・いずれも自転車のホイールの車軸の固定方式及び固定金具の名称です。
- クイックリリース=旧型ロードバイク、クロスバイク
- ボルトナット=ママチャリ、軽快車、ルック車、BMXなど
- スルーアクスル=MTBやオールロード、新型ロード
これらはフレームのエンド形状とホイールのハブ形状で決まります。それぞれに長所と短所がある。
工具なしで簡単に取り外せるのがクイックリリースです。略称はQR。整備性は優秀ですが、固定力は貧弱です。
今回の自転車のホイールの固定方式はこのQRタイプですが、これは初期の仕様ではありません。
正直、このストレートドロップエンドとクイックリリースの組み合わせは微妙です。ホイールの固定力が明らかに足りない。ぼくは固定力を犠牲にして軽量化を優先しましたが、推奨は初期のボルトナット式です。
クイックリリースのレバーを起こします。
レバーの裏に”OPEN”の文字が見えます。これがQRの解放状態です。QRを回すときには常にレバーをこの状態にします。とくに固定するときにレバーを倒したままで締め付けると、適正なトルクを掛けられません。
シャフトの反対側のキャップを抑えつつ、起こしたレバーを左回しで緩めます。
このときの注意点はクイックレバーを完全に緩め切らないことです。反対側のキャップが外れると、高確率で内側の小さなタケノコバネがどこかに飛んでいきます。
多段ギアの自転車のホイールを外す際には変速をトップ=小さいギアにシフトチェンジして、チェーンを緩めましょう。
それから、タイヤがパッドに当たって外れないなら、ブレーキの解放が必要です。クロスバイクのVブレーキとロードバイクのキャリパーブレーキでは手順が違います。
この自転車のブレーキは標準的なキャリパーブレーキです。これはクローズの状態です。
オープン。
これでクリアランスを確保できないなら、ブレーキケーブルを緩めるか、タイヤの空気を抜いてしまいます。ちなみにホイールを直に挟まないディスクブレーキにはこの工程はありません。
以上のチェックポイントを経て、ホイールを外します。
この自転車にはリアディレイラーがありません。後輪の取り外しが非常に簡単です。
空気を抜いて、タイヤを外す
車体からホイールを取り外したら、タイヤの空気を抜きます。正確にはチューブの空気ですね。
上のようにしっかり抑えて、タイヤをぺったんこにします。チューブに余分な空気があると、タイヤのビードがリムの真ん中のくぼみに落ちませんから。
タイヤの全周を捏ねるようにして、タイヤの縁をリムの縁から引きはがします。
ここからタイヤを取り外しますが、素手でやれる猛者は素手で、やれない一般人はタイヤレバーを使いましょう。
MTBの太いタイヤやママチャリの標準的なタイヤはそこそこ外れますが、ロードバイクの細いタイヤやミニベロの小径タイヤはなかなか外れません。表面積が足りず、掴みどころがない。
そこで一つ目の工具の出番です、タイヤレバー。 下記のように二本以上のセットで使います。
拳一つ分くらいの距離を空けて、タイヤレバーの爪をタイヤとリムの間に引っ掛けて、左右を同時に外へ倒します。
はい、タイヤがリムの外側に出ました。つまり、これもあれも梃子の原理です。
これを取っ掛かりにしてタイヤを剥くか、レバーを添わせて片側のビードの全周を外します。
タイヤの片側を完全に取り外したら、もう一方の側には行かず、さきにチューブを引きずり出します。
最後にもう一方のビードを外します。御覧の通りに手はすでに真っ黒です。いや、日焼けのことではありませんよ。
タイヤとチューブをチェックする
さて、古いチューブの役目はまだ終わりません。パンクの個所と原因の究明に役立ちます。もっとも、小さなピンホールは見えませんし、ママチャリでは虫ゴムの不具合もありえますが。
新しいチューブをセットする前にタイヤをチェックします。
何かの異物・・・鉄片、ガラス、ワイヤーの切れ端、棘、画鋲、釣り針などなどがパンクの原因であれば、その異物は高確率でタイヤに残ります。
ここに新しいチューブを投入しても、すぐに二度目のパンクに見舞われます。チューブ交換の前には目視と触診でタイヤのチェックを欠かさないように。
新しいチューブを入れる
では、新しいチューブをインストールしましょう。
無論、サイズをタイヤに合わせます。ぼくは屋外作業のネガティブな効果を見越して、通常タイプのチューブを携行します。軽量チューブをざっくり交換して、もう一回トラブルと立ち直れない・・・
前述のように屋外はアウェーです。100点の仕上がりはありえない。トラブルメーカーの軽量チューブはサポート役には向きません。ことさらにレバー噛みパンクが不安です。
取り付けの流れは取り外しの逆です。タイヤの回転方向を間違わないようにして、片側の全周をホイールに嵌めます。ちなみに取り付けは取り外しより楽です。
で、タイヤの片側をセットしたら、新しいチューブのバルブをリムの穴に嵌めて、空気を少し入れます。
この一手間でチューブの拠れや捻じれが消え、未来の摩耗パンクの可能性が激減します。
このように拠れたチューブはタイヤの中で均一に膨らみません。部分的にゴムが厚くなったり薄くなったりします。そこが擦れて、穴が空く。摩耗パンクです。空気圧不足やチューブとタイヤのミスマッチでもこれは起こります。
最後にもう一方のタイヤのビードを嵌め込みます。半分くらいを普通にセットしたら、下から揉み上げるようにして、残りの半分をじわじわ嵌め込みます。
レバー噛みパンクの予防のためには素手が理想的です。取り付けは取り外しより簡単ですが、最後の部分は女子や初心者にはハードでしょう。
そういうときにはタイヤレバーが便利です。しかしながら、レバー噛みパンクの危険性が跳ね上がります。
リムの縁にレバーの爪を引っ掛けて、梃子の原理でタイヤのビードを押し上げるという仕組みです。
- 支点=リムの縁
- 力点=手
- 作用点=タイヤの縁
問題は支点と作用点が見えないことです。もし、レバーの爪がチューブを噛んでしまったら? 梃子の原理で力が一点に集中すれば、チューブのゴムは容易く破けます。「修理していたと思っていたら壊していた」という悲惨な結果になりかねません。
レバーの爪を当てるときにはチューブの噛み込みに最新の注意を払いましょう。
最後にチューブの噛み込みをチェックします。タイヤの縁とリムの縁にチューブが挟まっても、空気の内圧でゴムは破けます。これはバーストパンクですね。
空気入れ
ついに最後の工程へ辿り着きました。空気入れです。タイヤの空気圧指定に従って、適正値まで上げます。が、小さい携帯空気入れではポンプアップが苦痛です。
200回くらいで6barまで来ました。空気圧が高くなると、ポンプが重くなります。また、低圧大容量のMTB系タイヤの空気入れも楽ではない。
この頃には不慣れな屋外メンテで気力が尽きて、作業が雑になります。手の汚れでモチベーションが下がる。結果、仕上がりは100点にはなりません。
まあ、致命的な噛み込みをしなければ及第点を上げられます。引き分けは勝利と同等です。アウェーですからね。
ホイールを車体に戻して、試走します。
ブレーキパッドの干渉チェック
今回、走り出してから異変に気付きました。ホイールがブレーキパッドに干渉してスムーズに回りません。
原因はブレーキパッドの干渉でした。
クイックリリースの長所は整備のしやすさ、短所は固定力のむらです。1~2mmのずれは日常的に起こります。
また取り外し時にケーブルを緩めてブレーキをフリーにすると、パッドの位置が初期化されます。要修正ですね。
自転車チューブ交換まとめ
チューブ入りのクリンチャータイヤはパンクと隣り合わせです。タイヤ交換とチューブ交換を習得しないと、気軽に遠出できません。
屋外作業はアウェー戦です。比較的に簡単なスポーツバイクのタイヤとチューブの交換も100点の仕上がりにはなりません。一度実際に外でメンテして、勝手を予習しましょう。
タイヤレバーは非力を補いますが、レバー噛みパンクの可能性は跳ね上がります。
ママチャリの後輪のチューブ交換は素人にも玄人にも鬼門です。家族や知り合いに頼まれても安請け合いしないようにしましょう。多大な労力を割いてもなぜかそんなに感謝されませんし、何回も頼まれますから。