自転車のパーツ交換のだいごみはホイールのアップグレードです。そのさきにはタイヤの変化があって、タイヤの変化のさきにはジャンルの転換があります。
一般常識でぎりぎりの予算が10万円でしょう。このボーダーラインを超えると、しばしば世間の厳しい批判や身内の無理解に直面します。
チャリ人「このホイールは10万円です」
パンピー「たっか!」
チャリ人「このホイールは30万でして」
パンピー「あほか」
この常識的な10万円のぎりぎりのところに3つの黒いハイエンドアルミホイールが君臨します。ロードバイクホイール界の黒い三連星、ミレ、ナイト、エグザリットです。
特別の証、黒一色のアルミリム
ディスクロードの登場で従来の常識が怪しくなりますが、ロードバイクのブレーキはキャリパーブレーキで、ホイールのサイドの加工はリムブレーキ用です。
リムサイドの表面にたくさんの溝があります。この加工のおかげでフラットなつるぺたの平面より表面積が大きくなります。ブ
他方、ブレーキなしバイクのホイールのリムはつるぺたです。下のものは固定ギア用のトラックホイールのリムです。加工がありませんし、そもそも土台がありません。
ブレーキの加工はリムの作成工程のなかの最終仕上げです。曲げ、切り、汚れ取り、溶接、研磨、塗装、ブレーキフェイス加工の順です。
この通常の完成形からさらなる工程を経たものが黒いリムです。上記のような台無しのどぶ漬け塗装じゃありません。ブレーキフェイスにベストな特別仕様のブラック化です。
この余計な一手間が特別のあかしでもあり、割高プライスの秘密でもあります。げに+1工程はコスト増の要因です。
- 曲げ→切り→洗い→溶接→塗装→ブレーキ面加工→完成!
- 曲げ→切り→洗い→溶接→塗装→ブレーキ面加工→ブレーキ面塗装→完成!
機械がやっても、職人がやっても、余分なコストがかかります。最終的にこれが正味2万円の価格差になります。
プラズマ電解酸化皮膜=からっと揚がったフライの衣
これらのハイエンドアルミの黒リムの最重要のキーワードはプラズマ電解酸化皮膜処理です。ふつうのアルミの陽極皮膜処理=アルマイトより高度な表面処理です。
ちなみに陰極の電解処理がぞくに『メッキ』です。
対象の金属をプラズマで酸化させるとプラズマ酸化、通電で酸化させると陽極酸化になります。アルミ、チタン、マグネシウムなどが対象です。
うーん、ニュアンス的には『サラダ油で揚げるかラードで揚げるかでトンカツの食感や風味が変わる』みたいなもんですかね。店の味は家の油では出ない。
プラズマでアルミを処理すると表面のコーティングを素のアルミの約十倍の強度に出来ます。まさにカラっと揚がったフライの衣です。
仕上げ後の色は白か黒になります。じゃあ、リムのような工業製品にはもってこいです。かりにこれがビビッドピンクとかライムグリーンとかになっちゃうと、高級上質感が台なしになります。
単純計算で0.1mmのプラズマ皮膜でふつアルミの1mmの耐久力、1mmで1cmです。リアルなバリアだア!
元祖黒リム ExalithのKsyrium Pro
マビックのキャリパー用ホイールのグレードは無印、ELITE、PROの順で出世します。”SL”と”Exalith”が末尾に続けば、おプライスは倍々ゲームに跳ね上がります。
これは無印のコスカボUSTです。
SLはSuper Lightの略です。スーパライト、そのまんまの『超軽量』て意味です。自転車パーツのSLはだいたいこのSuper Lightです。ちなみにSRはSuper Rigid=超硬いです。
一方のExalithは一般単語でなく、マビックの造語、同社の商標です。前項のブレーキ面の黒い塗装及び加工形状の呼び名です。読み方は『エグザリット』です。
バリアとヤスリで効果倍増、価格大倍増
エグザリットのもう一つのキモがリム本体のフェイシングの工夫です。ヤスリみたいな細かいパターンを入れて、表面積と摩擦力をさらにアップします。
しかも、エグザの作業工程が、
フランスの自社工場でブレーキフェイス加工→国外工場でプラズマ処理→自社工場で最終仕上げ
これらの手間コストや輸送コストがマシマシになって、値段が段違いに跳ね上がります。
この大がかりな二つのテマヒマで得られるものが黒一色のマットな見た目とブレーキ力です。Exalithのブレーキの効きはとくに有名です。
「パッドが消しゴムのように削れる!」
実際問題、ヤスリのパターンを入れた超硬いコーティングの金属物体はもうただのヤスリです。むしろ、削れるから止まります。
で、リム側がぜんぜん削れないなら、必然的にパッド側がもりもり削れます。等価交換です。エグザリムのブレーキの消耗の早さのわけと専用シュー推奨はここにあります。
のちの2013年にExalthはExalit2にアップデします。これが現行のExalithです。ヤスリ度がすこしマイルドになりました、ははは。
次期Exalith3のうわさは聞こえませんが、名作リムOpen PROにExalithモデルが追加されて、手組ファンをザワザワさせます。続報が注目です。
高級タイヤYksion Pro込みで11万
海外ストアのマビックはお買い得です。しかし、最大手のWiggle=CRCにはマビックが並ばなくなりました、ホールからウェアやアクセサリまで。
名前 | 重さ | タイヤ種 | タイヤ幅 | リム素材 | 価格 | 備考 |
Ksyrium PRO Exalith | 1475g | CL | 25-32 | アルミ | 1149ユーロ | 最安Exalithモデル |
これが最安のExalithモデルのホイールです。無印Ksyrium PROは約8万円、これが10万円、Exalith SLが12万円です。エグザ代2万、SL代2万です。うまい設定です~。
カンパニョーロシャマルミレ
元祖黒リムの登場から数年後にイタリアの人気自転車総合メーカーのカンパニョーロがShamal Ultraに特別版を加えます。それがShamal Milleです。
リム面のプラズマ電解酸化皮膜処理はエグザと同一です。これは別にマビックの専売特許じゃありません。汎用の塗装技術のひとつです。
シャマルミレの登場は2014年です。エグザリットから3年の空白は多分にコスト調整でしょうね。POEの加工設備ができたか、工場が見つかったか、販売量のめどが立ったか。
名前 | 重さ | タイヤ種 | タイヤ幅 | リム素材 | 価格 | 備考 |
Shamal Mille | 1459g | CL | 25-32 | アルミ | USBハブ |
重さは通常版のシャマルより重くなります。ハブはUSBです。やっぱり、ノーマル版との差額はざっと2万円です。
Ksyrium PRO Exalithとの約1万の差はタイヤとチューブの有無です。16gの重量差は決定的な違いには至りません。同クラスです。
そもそもこのクラスのアルミハイエンドホイールは安定的に横並びです。製品的には完成形だ。定番のロングセラーです。
劇的に軽量化するとか、走り心地が変わるとか、そんなことはもうありません。素材、形状、構成は煮詰まりました。
ワイドリム化は進化より変化に近いアップデートですし。
フルクラムレーシングゼロナイト
カンパニョーロの姉妹会社、ホイール専門ブランドのフルクラムはお姉さんの動きに順じます。姉が黒リムを出せば、妹も同等品を出します。
カンパのShamalのフルクラム版が人気ホイールのRacing Zeroです。この二つが10万以内のハイエンドアルミホイールのベスト1、2を争います。
グレードやクオリティはイーブンです。げんに前段の動画ではシャマルとレーゼロがちゃんぽんです。一部のパーツには互換性があります。
このひとつ屋根の下の仲良し双子姉妹の違いは性能差でなく、性格差です。タイプが違う。
カンパのホイール=マイルド万能型優等生、フルクラムのホイール=レーシー専門型特待生てなところです。
- カンパ=軽い、回る、マイルド、疲れにくい、反応遅め、COOOL!
- フルク=軽い、回る、レーシー、疲れやすい、反応速め、COOOL!
名前 | 重さ | タイヤ種 | タイヤ幅 | リム素材 | 価格 | 備考 |
Racing Zero Nite | 1506g | CL | 25-32 | アルミ | USBハブ |
レーゼロナイトは黒リム三連星のなかで唯一の1500g台です。脂肪より筋肉のがマッシブです。げんに3本のなかでは最強の剛性です。レーシングの名はかざりじゃない。
で、やっぱし、実売価格は10万円前後で推移します。むしろ、シャマルミレとの微妙な価格差はなぞです。
時期とストアでどっちかのホイールがみょうに割安or割高だ、てことはしばしばあります。在庫調整、為替変動のタイミング、メーカーの推し、いろいろな要因がからみます。
まとめ
以上が黒リム三連星のレポートです。決定的な性能差はありません。アルミホイールベスト1、2、3です。かっこいい、速い、黒いの三拍子を兼ね備えます。
これ以上はカーボンの領域になりますし、10万のカーボンはエントリークラスです。アルミのハイエンドか、カーボンのエントリーかはつねに悩ましいところです。
大方は安定と信頼と使い勝手を重視して、アルミハイエンドをチョイスします。キャリパーブレーキのクリンチャーホイールではそれがベターな選択でしょう。
名前 | 重さ | タイヤ種 | タイヤ幅 | リム素材 | 価格 | 備考 |
Ksyrium PRO Exalith | 1475g | CL | 25-32 | アルミ | 10万 | ふつう タイヤ付き |
Shamal Mille | 1459g | CL | 25-32 | アルミ | 10万 | やわめ USB |
Racing Zero Nite | 1506g | CL | 25-32 | アルミ | 10万 | かため USB |
身内や知人内で気軽に貸し借りできる人は別ブランドを買うと、いろんなホイールを楽しめますねー。
「ゾンダ貸すからレーゼロナイト貸して」
みたいなのはちょっと不公平ですけど。