日本人はネット上には個人を晒したがりません。この傾向は先進国中では異例です。そのため国内では実名のFacebookが不人気で、匿名のTwitterが活況です。
奥ゆかしい性質、島国の引っ込み思案、国民的な自己評価の低さ、世界一の心配性・・・それらが複合的に絡み合って、独特の匿名文化を織り成します。
「YouTubeでこの匿名文化がどんな意味を持つか?」
「顔出しのありなしで人気や収益に差は出るか?」
「なんで素人が顔出しで始めたか?」
このようなYouTube初心者向けの疑問に私の実地と推測を交えて回答します。
日本と海外の顔出しの感覚の差
日本人は個人を主張せず、組織に帰属します。これは東アジア系の基本文化です。『近代的な個人』がそもそも欧米の産物ですし。
日本では住所の書き方は都道府県から始まります。
大阪府大阪市本町1-2-3‐4 大阪太郎
個人名が最後になります。県という大組織の中の市という中組織の中の町という小組織の中の何々という個人という考えが日本式書法です。
英語圏の住所の書き方はこうではありません。
TARO OSAKA 1-2-3-4 Honmachi OSAKA JAPAN
と、名前が冒頭に来ます。意識のスタート地点が自分です。日本式とは発想が真逆です。
実名公開や顔出しはあいさつと一緒
欧米では個人を主張して、はっきり要求を言わないと、日常生活に支障をきたします。 このような文化ではネットへの顔出しや本名の公開はあいさつのようなものです。
片や日本ではそこまで個人を主張せずとも普段の生活には困りません。各々が意を汲んで、助け舟を差し伸べます。
このような文化ではネットへの顔出しや本名の公開は高位の儀礼となります。決して気軽なあいさつではありません。
結局、『漠然とした不安』と『恥』が躊躇の理由です。この二つが一般的な日本人の心の片隅に巣食います。
顔出しありで普通、顔出しなしで1ペナ
日本人はそんな背景から顔出しを極端に嫌います。またこれを利己的に曲解して、顔出しという儀礼に過大な特典を見出そうとします。
「顔出しをすればすぐに人気者になれるかも・・・」
「顔出しすればもっと稼げるかも・・・」
でも、世界的には顔出しや本名の公開はあいさつのようなものです。それは特別な魔法ではありません。
つまり、顔出しありは通常スタート、顔出しなしは1ペナルティスタートです。でも、1ペナがせいぜいです。顔出しの有無に絶大な差異はありません。
顔出しの有無でYouTubeチャンネルの成長に決定的なアドバンテージが付くなら、だれもデュラハンにはなりませんよ。
顔出しなしの明らかな利点は『顔面の特徴を指摘されないこと』でしょうか。日本人は自身の容姿を過小評価、他者の意見を過大評価しますから。
『身バレを防げる』というのも自己防衛の一種です。神経質な人は声出しすら拒否します。これはもう『ネットに個人情報出したら負け』の域です。
そんな完全匿名主義者はゆっくり実況、漫画動画、ペット動画、ASMRを検討するか、動画の裏方に徹しましょう。何よりブログがおすすめです。
顔出しYouTuberあるある
無名の個人が顔出しや実名で活動を始めると、一つの変化に気付きます。ネットと現実が容易に繋がる。
以下ではチャンネル開設から現在までに私が実際に経験した顔出しYouTuberのあるあるを幾つか紹介しましょう。
イベントでは有名人
うちのメインチャンネルは趣味系の専門チャンネルです。テーマは自転車です。国内の自転車の世界、『輪界』は狭いところです。
この狭いジャンルの催し事ではチャンネル登録者数千人の零細YouTuberがタレントのようにちやほやされます。
実際、私は大きなスポーツバイクイベントにプライベートで出かけて、会場でたびたび呼び止められました。
それ以降、近所や出先や道路や山上やで自転車乗りの皆さんからありがたい声援を頂きます。
また視聴者らしき自転車乗りとのすれ違いは日常茶飯事です。週末に都心部へぷらっと出かけると、ファンらしき人と良くニアミスします。
プレゼントが届く
うちの徒歩圏内にたまたま視聴者さんがいて、ときどき差し入れをくれます、工具とか散水ホースとか。
私はお返しにオリジナルグッズのシールとバッジをその人にプレゼントしました。あと、普通にその辺ですれ違います。
この例ではネット=現実=近所です。ディスプレイの中は決して別の世界ではありません。
顔出しは売名のため
私はこれを良しとして、顔出しで始めました。でも、本質的には出たがりや目立ちたがりではありません。割と消極的な人間です。
何でそんな者が急に人前に出たか? それはブログやSNSで長らく隠密的に活動して、多少のマンネリと一抹の虚しさを感じたからです。
しかも私のように特定の組織に属さない人種は顔か名前を売って、対外的な発信力や影響力を高めないと、将来的に食いはぐれてしまいます。
つまり、私の中でYouTubeチャンネルの運営は趣味と実益とセルフブランディングを兼ねます。これには顔出しの方が明らかに好都合です。
『顔出ししない=無敵』ではない
ただ、一般的な会社員にはこの恩恵は薄味でしょう。勤め人には組織への遠慮、近所の評判、身内の理解、建前と本音等々の様々な縛りがあります。
日本人は特に潔癖症です。本アカ、趣味アカ、サブアカ、裏アカときっちり分けて、各々でキャラクターを演じたがります。それぞれの混同をひどく嫌う。非常に潔癖です。
しかし、そんなふうに顔や名前を秘匿し、キャラクターを分散しても、一定のリソースやマンパワーがあれば、個人情報の特定は可能です。
私の例を挙げましょう。私は顔出しありでYouTuberをしますが、実名や住所を不特定多数には公開しません。でも、前述の近所のファンの方にはバレバレです。
またプレゼント企画の商品配送の際には普通に実名と住所を伝票に書き込みます。きっちり法人を設立すれば、屋号と事務所で代用できますが、私はまだその域には届きません。
つまり、特定のファンには私の個人情報は筒抜けです。彼らがその気になれば、ネット上にそれをばら撒けます。まあ、うちの善良なる方々はそんなことをしませんが。
結局、ネット=現実です。ネットでの活動は直接的、間接的に現実へ波及します。嫌がらせや身バレや個人情報流出のリスクはゼロにはなり得ません。
顔出しのありなしに過剰な期待や極度の不安を抱くのは間違いです。
匿名活動のための手法
身バレ回避、いたずら防止、家族の無理解、自分の容姿に自信を持てない・・・様々な理由から顔出しなしの隠密活動を始めるとしましょう。
幾つかの方法があります。
- モザイク処理
- 動画に顔面を出さない
- 仮面、仮装
- Vtuber
- ラジオ動画
3、4、5の手法はチャンネルの特色や配信者のキャラクター性をサポートしますが、1、2は単なるペナルティです。モザイクを掛けること、顔を出さないこと、この二つは特徴にはなりません。
モザイクや映像加工は大変
動画のモザイク処理には編集とエンコードの編集の場面で相当な労力が掛かります。
アダルトの現場が好例です。国内のアダルトコンテンツの局部にはモザイクが掛かりますね? 制作会社にはそのためのチームや担当者が存在します。
このモザイク処理係がきちんと仕事をしないと、会社はコンテンツを市場に配信できません。 無修正動画の販売や配布は憲法175条の『わいせつ物頒布等の罪』に問われます。
片や個人のYouTuberがモザイクで隠すのは自分の顔面です。一般人の素顔は18禁コンテンツでしょうか? モザイクの有無は当人のルールだけの問題です。
この環境では不注意や手抜きが容易に起こり得ます。モザイク処理や映像加工での隠密作戦はおそすめではない。
定番のデュラハン動画
で、定番の手法は1の『動画に顔面を出さない』になります。私はこれ『デュラハン動画』と呼びます。
首から上のカットはモザイク処理より簡単です。撮影の段階でコントロールできますし、編集で画面外に飛ばせます。
特定のジャンルでは顔出しが難しくなります。
料理、イラスト、おもちゃ、手芸、工芸、ASMRはこの構図だけで成立します。この代表は包丁動画の『圧倒的不審者の極み』などです。
このようなジャンルでは配信者の個性は大きな要素になりません。クオリティやアイディアが命です。あと、手のきれいさだ。
画面内の情報量が少なくなると、人間の目線は個々の要素に集中します。指毛、腕毛、腕の太さ、手の傷や皺、肌の色、爪の長さ、服装、装飾品等々へのコメントは必然的に増えます。
仮面YouTuberの光と影
ある意味、仮面は素顔より個性的です。有名なスーパーヒーローはたいてい仮面を被ります。仮面ライダー、赤影、月光仮面、バットマン、アイアンマン、スパイダーマンetc…
仮面は素顔を隠しつつキャラクター性を上乗せできる格好のアイテムです。その延長に仮装があります。
いいえ、これは仮装でありません。一般的なサイクリングの正装です。山道のハイカーには二度見されますが。
と、このように仮面や仮装は個人を秘匿しつつ、キャラクターのビジュアル性を大いに助けます。普通の市民を神秘的な存在に高めてくれる。
しかしながら、過度の神秘性はいかがわしさや怪しさを誘って、外部に不安や軋轢をもたらします。実際、このサイクリングスタイルにはハイカーさんはぎょっとする。
おまけに自宅のようなホーム空間や山中のような不人気な場所では仮面YouTuberは自由に振る舞えますが、それ以外の場所では行動を制限されます。何より無駄に目立つ。
上記のスタイルのサイクリストは山中では模範者ですが、街中では不審者です。警察に通報されます。
身近なところに良い例があります。うちと同じ自転車ジャンルに一人の仮面自転車YouTuberがいます。その人は基本的に仮面で活動します、屋外ロケから自宅のライブまで。
ご想像の通りに仮面を被ってスポーツするのは大変です。シンプルに呼吸がつらい。声がこもる。飲食が不可だ。
そして、仮面YouTuberが有名になれば有名になるほど、視聴者の関心はその素顔や正体に集まります。アンチや荒らしが本気になれば、個人情報の特定は一瞬です。
Vtuberは高コスト
Vtuberの長所と短所も仮面YouTuberと被ります。最終的に素顔や正体への言及を避けられません。
またアニメキャラクターの導入には相応の資金と労力が掛かります。フリー素材は没個性的でキャラクター演出の助けになりません。専用のオリジナルデザインは金食い虫です。
さらに折からのVtuberブームの影響で安易なキャラクター導入が増え過ぎました。Vtuberには特別な集客能力はもうありません。
しかもアニメ絵は数年で古くなります。絵柄の流行り廃りは実人物の劣化の比ではない。
ラジオ動画は穴
最後がラジオ動画です。これは割りと穴場です。動画は過剰供給ですが、優秀な音声コンテンツは不足気味です。
無論、だらだらしたお喋りや安っぽい主張では人気は集まりません。一つのテーマを圧倒的に詳しく語れる知識や平凡なことをおもしろくできる話術が必須です。
私はそれに近い動画を何本かアップしました。大半がカメラ固定の無演出の30分オーバーのトークだけの動画です。内容は主に自転車界の動向についてです。
再生数、評価、コメント、業界内の反響、いずれが好感触です。多分にこの長尺のトーク動画に画がなくても、エンゲージメントは同じくらいに落ち着きます。
- 詳しく語れる
- おもしろく喋れる
こんな人にはラジオ動画がおすすめです。
顔出し配信のまとめ
顔出しをするか否かで悩むのはほとんど日本人だけです。海外では顔出しが普通です。それはあいさつのようなものでしかない。
またいくら素顔を必死に隠しても、自分のミスや他人の悪意で個人情報はバレます。結局、ネットは現実に繋がります。
Vtuberとモザイク処理は高コスト、低リターンです。演出やキャラ付けに拘らないなら、首から上をカットしましょう。
仮面は諸刃の剣です。スポーツやアウトドア系とは明らかにミスマッチです。神秘性の裏返しは不審者です。アンチや荒らしは仮面の下の素顔を暴こうとします。
優良な音声コンテンツは不足気味です。ラジオ動画はおもしろい人や詳しい人には狙い目です。